オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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53話「開戦の狼煙」

「オマエどうしてこんなところに!?」

 

「ここに来ればアスタの腕が治る方法があるかもってトゥルーに聞いたからさ。余計な真似だったかー」

 

「そんなことねぇよ。ありがとな!」

 

「……」

 

 早くに再会したキリヤとアスタは互いに笑うとその奥で魔女王が何か察知したのか魔力を灯す。

 三つの水晶玉が創成され、そこに映し出されたのは三つの勢力だった。

 

「〈白夜の魔眼〉にダイヤモンド王国……そんで後は誰だ……?」

 

「あれは……スペード王国の〈七剣総統〉ですね。《四拳》だけじゃなくて《二槍》も来てるなんて……とうとうダイヤモンド王国に対して本気ってことか」

 

「《二槍》……」

 

 戦慄するフィオレナにその名を思い出すキリヤ。

〈七剣総統〉の中でも群を抜いて強いとされる《三》以上の存在、そんな相手が来るとは。

 しかも〈白夜の魔眼〉を見ればサラマンダーの使い手である〈三魔眼(サードアイ)〉のファナまでいる。ダイヤモンド王国の戦力は不明だが明らかに魔女の森では持て余すほどの勢力の数々。

 

 瞬間、サラマンダーの開いた口に炎が灯り、放たれる。

 炎精霊魔法”サラマンダーの吐息”。

 前に見た時よりも格段に威力が上がった一撃は魔女の森の防護を容易く破り、数多の木々を焼き尽くす。

 

『サラマンダー……あんな憎悪しかない(マナ)になっちゃってバーカ』

 

 同じ四大精霊としてウンディーネも思うことがあるのか苛立たしげに言葉を零す。

 と、そこでノエルが一歩魔女王へ向かって踏み出し、

 

「ちょっとそこの女王、アナタの森大変なことになってるわよ。アスタの呪い解けるなら早く解いてちょうだい。今すぐにでも助けに行きたがってるから。治せばきっとこの森の役に立つわ。そいつが動けば私達も動く。戦力が少しでも必要だってなら――女王として最善の選択をしなさい!」

 

 魔女王に対しても物怖じないノエルの言葉。

 受けた魔女王も少し考える素振りを見せるもすぐに、

 

「いいだろう。そのガキの腕を前よりも丈夫にして治してやる」

 

 血液回復魔法”滅呪の血籠り繭”。

 高度な魔法を一瞬で行いアスタの折れた両腕は完治し、アスタは両手に反魔法の剣を携える。

 

「よっしゃァアアアア! 完全復活ッ!!」

 

「良かったなアスタ……」

 

「ボクチャン取り越し苦労ってヤツね~」

 

「イイんだよ。治ればさ」

 

「そこのガキ、オマエも少し私に寄れ」

 

「……?」

 

 アスタがノエル達に喜びで蹴られている中、キリヤは魔女王に手招きされる。

 何事かと思えば魔女王に両手で顔を押さえられると冷たい視線が注がれ、

 

「……やはり貴様エルフの者か。まさかディフォーヌ・フィン・ガルガン以外に生きている者がいたとは」

 

「ディフォーヌ・フィン・ガルガン……? オレ、キリヤスフィール・フィン・ガルガンって言います。元はアルーグって名前らしかったんですけど……」

 

「……なるほど。あの女が盗んだ呪術は貴様に使われたということか」

 

 魔女王が言っていることがいまいち分からず疑問符を浮かべるキリヤ。

 だが魔女王の中では完結しているらしく手を離せば指差し、

 

「腹いせだ。貴様にかけられた呪術も解いてやる」

 

 血液回復魔法”滅呪の血籠り繭”。

 特に怪我をしたわけではないがすぐさまキリヤは魔女王の魔力に包まれ、解放されれば――

 

「せ、先輩大丈夫ですか!?」

 

「……な、何にも変わらない?」

 

『だーりんに何すんのよっ!』

 

 てっきり記憶でも思い出すのかと思えばそうではなく特に身体に変化はないようで。

 困惑するキリヤだが魔女王は淡々と言う。

 

「記憶は恐らくあの女の消滅魔法で消されたのだろう。私が解いたのは魔力の枷、つまり貴様のエルフとしての魔力を封印していた呪いを消したに過ぎん」

 

「で、でも魔力的な変化も何もないんですけど……?」

 

「知らん。そこまで親切にしてやる義理はない」

 

「ですよねー……」

 

 ともあれ何かかけられていた呪いはこれで解けたようだ。

 何だか不穏な魔力も注がれた気がするがそこはキリヤの魔法が吸収してしまい異常はなくなった。

 

「しかと見せてもらおう。オマエ達の実力を……」

 

「おう任せとけ! 腕治してくれてありがとうな!」

 

「アスタ、積もる話はあるが私達はダイヤモンド王国側の応戦をしに行く。マルス……あの魔導戦士とは因縁があるんだ」

 

「わかった死ぬなよ。あと服着ろよゼルのオッサン」

 

 確かに見ればアスタの知り合い――ゼルと呼ばれた男性は何故かパンツ一丁。

 シィナ似の少女ともう一人の女性もついて行くようでこれでダイヤモンド王国側の勢力は決まった。

 

「だったらオレはスペード王国側かな。〈七剣総統〉とは二回戦ってるし」

 

「せ、先輩……本当に《二槍》は次元が違うんです……先輩でもきっと――」

 

「フィオレナ、怖かったら逃げてイイんだぞ。別に恥ずかしいことじゃない。これはオレのワガママで来たところだしオレ自身の責任だからな」

 

「先輩……」

 

 正直《二槍》の実力は分からない。

 ただフィオレナのこの恐れようから察するに今のキリヤ以上だということに違いはないだろう。だがキリヤにとって今襲撃されている魔女の森は手の届く場所だ。

 魔法騎士として、自分の信念として、立ち向かわない理由にはならない。

 だがそんな個人的な意地にフィオレナが付き合う必要もないのだ。だが――

 

「アタシも行きます! アタシ、先輩についていくって決めましたから相手が誰だろうと乗り越えてみせます!」

 

「だったらオレがオマエを絶対守ってやる! 頼りにしてるぜフィオレナ!」

 

「はいっ!」

 

『あのさ、だーりん。あーし今回サラマンダーのところに行ってイイ?』

 

「話したいことがあるんだな。うん、イイぞ。ノエル様が水魔法の使い手だから相性もイイだろ、行ってこいよ」

 

『ありがと大好きっ! 終わったらすぐソッチ行くから! んじゃ、そんなワケでノエっち突然だけどよろしくねっ!』

 

「ノエっちっ!? ま、まあ良いわよ別に」

 

 ノエルも了承してくれたところでアスタがキリヤの前にやってくる。

 そっと拳を差し出してくればキリヤもその拳に合わせ、

 

「頼んだぜキリヤ!」

 

「任せとけ! ソッチこそしくじんなよ!」

 

 こうして別れれば各々の配置に向かって駆け出す――

 

 ◎

 

「さて、ダイヤモンド王国とクローバー王国のテロリスト〈白夜の魔眼〉なる者達がいますが先に潰しておきますか?」

 

 先ほどの炎魔法を狼煙に各々の勢力は進み出し、スペード王国〈七剣総統〉の《四拳》ステイクは隣に絨毯に胡坐をかいて座りながら浮遊する《二槍》――マンダラに問う。

 目を伏せていたマンダラは静かに瞼を開け、

 

「……わざわざこちらから向かう必要はない。三つの方角から攻めていれば互いに交わる。それに――すでに敵は来ているようだ」

 

「そのようですね」

 

 気配を感じ、目を向ければそこから飛び出すのは魔女――ではなくウサギの群れ。

 しかもただのウサギではなく魔法強化を受けているのか通常のウサギではありえないほど筋骨隆々としており、しかもそれぞれが鎧とハンマーを持って武装している。

 その数は数十に達するか。ウサギ達は空中を蹴っては部隊に襲い掛かる。

 

「応戦しろ」

 

 控えていた魔道士に告げれば魔道士達は各種魔法や武器で応戦するもウサギ達が纏っているのはただの鎧ではないようだ。下手な魔法は弾き、物理攻撃ですら傷一つ与えられず、部下達は押されていく一方だった。

 

「……スペード王国の軍人たる者が情けない」

 

 魔女の下僕なのかは不明だが苦戦している事実にステイクは苛立たしげに吐き捨てる。

 拳を握り締めれば迫るウサギ達を拳で弾いて叩き落とし、

 

「獣では僕は倒せないよ」

 

「だったらこれはどうだクソ共が――ッ!!」

 

「っ!」

 

 突如として聞こえた聞き覚えのある少女の声。 

 同時に側面から放たれる投石の数々。殴れば拳が弾かれ、不意討ちによって魔道士達は次々と弾き落とされていく。

 少々体勢を崩すステイツを尻目に《二槍》は軽々しく槍で切り裂き砕いていく。

 チッ、と思わず舌打ちが零れるも一度触れれば性質は分かった。ステイツも拳の力の入れ方を変え、打てば今度は弾かれることなく砕き割る。

 

「小賢しい……やはり小手先に関しては君の方が上手なようだ――フィオレナ」

 

「ふん! 今のは挨拶代わりだ! てめぇらを相手にすんのにまずは邪魔なのを駆除しただけさ!」

 

 樹の枝に立っていたのはやはり〈七剣総統〉の一人《七鞭》フィオレナだった。

 資源確保のためにクローバー王国にある地底帝国の金銀採掘所を手に入れる任を与えられていたがいつの間にか行方不明。クローバー王国の捕虜になったとばかり思っていたが――

 

「僕達に矛を向けるということはスペード王国を裏切り敵に回す……つまりゼネルラ様の想いを踏み躙る気かな?」

 

「ゼネルラ好き好きも大概にしろよ。これ見て分からないか?」

 

 フィオレナは着ているローブを見せつけ、見ればそれはクローバー王国魔法騎士の者。

 それは明らかな裏切り行為であり、ステイクの逆鱗に触れた――

 

「もう言葉は要らないか――」

 

 魔力放出による爆発的な加速。

 瞬時にフィオレナとの距離を詰めれば拳は顔面に向かって振るわれ、裏切り者の顔面を打――

 

「そうはさせねえよ」

 

 フィオレナの顔面の打つはずの拳はその眼前で他の手によって止められていた。

 同時にステイクの顔面を打つ一撃。仰け反り後方へ飛ばされ樹に打ち付けられればステイクに走るのは痛み以上に衝撃だった。

 

(まさか僕の拳を止めるなんて……)

 

 並みの魔道士では今の速度も拳も止められない。

 慌てて見ればフィオレナの前には一人の少年が立っていた。

 黒髪で八重歯が特徴的な少年。その身体は服越しに見ても鍛えられていることが分かり、拳も人を殴り飛ばすのに特化した骨の形状だ。

 

 一目見て分かる。間違いない――好敵手だ。

 この好敵手と戦い殺せば自分はより先に進める。より強さを手に入れられる。

 そうなればゼネルラの強さに近付け、より自分を認めてくれるだろう。

 

「マンダラ、この男は僕が殺ります。あなたはフィオレナでも狩っていてください」

 

「…………」

 

 ステイクの言葉にマンダラは仕方ないと言った様子で立ち上がり、絨毯から下りる。

 気分が高揚して堪らないステイクは身構え、

 

「君の名前を教えてくれ。僕はステイク……ステイク・フィスタだ」

 

「キリヤスフィール・フィン・ガルガン」

 

「良い名だ――さあキリヤスフィール、僕と踊ろう。そして上質な経験値となってくれ」

 

 魔拳昇華魔法”蛇掌拳(ランク1・ダショウケン)”。

 好敵手の出現に不敵に笑みながらステイクはキリヤに向かって飛び出す――

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