オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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54話「進化VS昇華」

「フィオレナ、無理だと思ったらすぐに逃げろ。オレは二対一でも大丈夫だ!!」

 

 ステイクが飛び出したと同時にキリヤもその場から飛び出す。

 拳に蛇の如き装飾が成された篭手が装備されたステイクと同時に拳を放つキリヤ。だが同時に打ったにも関わらずステイクの拳が先にキリヤを打つ。

 

(伸びるのかそれ!)

 

 見れば篭手ごとステイクの拳が伸び、躱すタイミングもずらされたようだ。

 おかげでキリヤの拳は虚しく空を切るも同時にキリヤも魔法を発動する。

 身体進化魔法”戦竜の腕鱗(レベル1・プルガトリトン)”。

 腕に竜の鱗、爪を模した篭手を纏えばステイクはますます嬉々とした表情を浮かべる。

 

「奇しくも僕と同じような魔法か!」

 

「うっせぇ!」

 

 伸びることは分かっている。

 ならば伸びることも含めて躱せば良いだけのことだ。キリヤは鞭の如くしなる拳を躱せば肉薄し、拳を振るうもステイクにいなされる。

 

「残念」

 

「そうかなっ!」

 

 魔力格闘技”獅子戦刃(ライオネルカット)”。

 マナゾーンによって背後から出現した獅子の爪を間一髪躱すステイクだがその隙に今度はキリヤ自身の拳がステイクを打つ。

 一瞬怯むもステイクはすぐさまキリヤに打ち返し、キリヤもまた打ち返す。

 

 身体進化魔法”強化鎧旋(レベル2・ガイガーアップ)”。

 鎧を身に纏ったキリヤの拳が防御越しにステイクの身体を後方へ殴り飛ばす。

 靴裏を引き摺りながら勢いを殺したステイクは手をぷらぷらと動かし、

 

「先ほどよりも威力が上がっている……なるほど。君の魔法は何かしらの方法で進化していき自分を強化していく魔法か……本当に君の魔法と僕の魔法は似ているようだ!!」

 

 魔拳昇華魔法”烈掌拳(ランク2・レッショウケン)”。

 蛇の装飾からさらに炎の紋章が加わり、纏われている篭手の形状が変化する。

 篭手の魔力量が上がり、ステイクは不敵に笑う。

 

「僕の魔拳昇華魔法は相手を殴れば殴るほどに経験値を得て昇華していく。さあ君はどれだけ僕をさらなる高みに連れて行ってくれるんだ?」

 

「昇り過ぎてあの世に行くかもな!!」

 

「それは楽しみだッ!!」

 

 二人の拳がぶつかればその衝撃で地面が砕け、余波で木々を薙ぎ倒す――

 

 ◎

 

「……派手にやっているようだな」

 

「…………」

 

 目の前にいる男に対し、フィオレナは最大級の警戒心を抱いていた。

 灰色の髪を伸ばし、物憂げな双眸。携えられているのは魔槍”ディアボリア”。

 同じ〈七剣総統〉の中でも《七》のフィオレナとはレベルの次元が遥かに違う存在――マンダラ。

 マンダラはフィオレナを一瞥し、

 

「……何故スペード王国を裏切った? 貴様は〈七剣総統〉、立場としても何不自由ないものだと思ったが」

 

「そりゃ戦闘至高の連中にとったらそうだろうけどアタシは違う。友達も欲しかったしお洒落もしたかったし普通の女の子として生活したかったんだ!」

 

 フィオレナの言葉を聞いたマンダラは呆れたような眼差しを向け、

 

「……そんな一時の感情で立場を捨てたのか」

 

「一時の感情だからだよ!!」

 

 生まれた時から軍人になることが定められ、十二歳の頃から親と離されて無理矢理訓練を強いられる。

 当然のように訓練で死人が出て、無理矢理でも実力をつけさせられ、もはや人間とさえも扱われない。結婚相手もより強い人間を生み出すために国が定め、恋愛の自由もない。

 

 やりたいことも夢見ることすら許されない何も自由がない雁字搦めで国のために死ぬなんてずっとフィオレナには御免だった。だからこそ、あの時敵でありながら手を差し伸べてくれたキリヤは命の恩人と言っても過言ではない。

 

 まだ一緒にいる時間は少ないがそれでもキリヤといる時や〈碧の野薔薇〉で団員達といるのは本当に楽しい。したいことや夢見ていたことが出来て、十数年生きてきたスペード王国よりも遥かに満たされていた。

 だからこそ――

 

「アタシは……もうアタシは〈七剣総統〉なんかじゃない! クローバー王国魔法騎士団〈碧の野薔薇〉新入団員フィオレナ・ミライズデオルナだ!」

 

 魔法騎士として、鞭を振るってサキムニ達の力を底上げする。

 スペード王国で学んだ忌むべき指揮能力を奪うためではなく、守るために使う――

 

 ◎

 

 アスタ達は〈白夜の魔眼〉の〈三魔眼(サードアイ)〉ファナと戦闘を繰り広げていた。

 一国の軍事力に匹敵すると云われるサラマンダー相手に撹乱、アスタの反魔法でファナを追い詰め、一度は対話を求むもファナの憎悪がそれを許さず三つ眼が開眼。別属性の魔法とサラマンダーが混ざり巨大化し、窮地に追い詰められていた。

 

 だがノエルの魔法は水、そして今は水の四大精霊ウンディーネが傍にいる。

 起死回生の一撃を放てるのはノエルのみだ。

 

「ノエル――ッ!! オマエは強い!! オマエなら出来る!! 頼んだぞ――ッ!!」

 

「言われなくともやってやるわよーっ!!」

 

 兄や姉達に虐げられ、どれだけ自信を失いかけようともアスタの言葉がノエルを奮い立たせる。

 海底神殿で習得した”海竜の咆哮”、現状のノエルでは一発が限界だが――

 

『あーしも後押ししてあげるから思いっきり撃っちゃえ!!』

 

「ええッ!! もう私は出来損ないじゃないッ!!」

 

 水創成魔法”海竜の咆哮”。

 そしてウンディーネが一体化してさらに魔力で後押しし、”海竜の咆哮”はさらに巨大化し、三つ首の竜と化す。

 水精霊創成魔法”大海竜の轟咆哮”。

 例えサラマンダーが鉱石の防御を繰り出そうとも紙同然に打ち砕き、真正面からサラマンダーに喰らい付く。

 

「やったーっ!!」

 

『このままサラマンダーと話あっから連れてく!! あと頑張ってノエちゃん達!!』

 

 そう。ウンディーネの狙いはここからだった。

 大海竜と化したウンディーネはそのままサラマンダーからファナを引き離し、木々を薙ぎ倒して着地しサラマンダーに覆い被さる。

 水精霊拘束魔法”水精牢(ウンディーナロウ)”。

 拘束すれば思い切り息を吸ってウンディーネは叫ぶ。

 

『何イイように憎しみに侵されてんのよヴァァアアアアアアアアアアアアカ――ッ!!』

 

『ッ!』

 

 攻撃性の(マナ)に特化しているためにサラマンダーの感情は乏しいもの。

 だからと言って良いように操られ、契約者の憎悪に左右されるのはあってはならないことだ。

 暴れるサラマンダーの眼はウンディーネを敵として捉えており、その口に巨大な炎が灯れば――

 

 炎精霊魔法”サラマンダーの吐息”。

 爆発的な火力で拘束していた水すらも蒸発させるもウンディーネは気合いで耐え、拳を握り締める。

 

『イイこと教えてあげる!! あーしやノームが今契約してる男はね!! 歴代契約者の中でも最も欲がないし素直でイイ子だし強いし精霊の扱いも上手い超優良物件間違いなしだからァ!! 一回ソッチの契約切って見に来いやァアアアアアアアアア――ッ!!』

 

 水精霊創成魔法”水精激情愛拳(ウンディーナラブナッコー)”。

 水を蒸発させるほどの火力を持つサラマンダーをさらにその上から巨大な水の拳で殴りつけ、サラマンダーの身体は地面にめり込み、大地が罅割れて爆発する。

 

『……けぷっ爆発し過ぎよマジで』

 

 大規模な爆発の中心地にしたウンディーネだが何とか耐え、手を伸ばして殴り飛ばした地の底で何かを掴む。

 引き上げればその手にはすっかり幼体になって小さくなってしまったサラマンダーが掴まれており、舌をちろちろと動かしていた。

 先ほどまで感じていた邪悪な(マナ)も消えたようで、その反動で小さくなってしまったがあんな邪悪な魔力を抱えているよりかよほどマシだろう。

 

『ホントあーしに感謝しなさいよサラマンダー。昔の誼で助けてあげたんだから……ってあぢぢぢっ! ちょ、ちょっと肩に乗らないでよ! あんたメッチャ熱いんだからね!?』

 

 シャーっと言いながらもどこか悪戯っぽく笑っているように見え、ウンディーネもその額をデコピンしてまた熱がりながらもキリヤの元に戻ることにする――

 

 ◎

 

「もっとだ!! もっと君の実力を見せてくれ!!」

 

 身体進化魔法”剛石の重鎧(レベル5・ディヤモンドラーマー)”。

 魔拳昇華魔法”隼疾掌拳(ランク5・ハヤブサシッショウケン)”。

 二人の戦いは肉弾戦と化しており、打って打たれてを繰り返し互いに進化、昇華を繰り返す。

 

 どれだけ打ち込んでもステイクは嬉々として打ち返し、ノームの鎧を纏っているキリヤは速く鋭くなる相手の拳に徐々に押されていく。

 防御態勢を取るも相手の魔法は殴れば殴るほどに昇華し、強化されていく拳だ。一度防御態勢を取れば一気に形勢は相手に有利なものとなり、キリヤが押され始める。

 

「その程度かキリヤスフィール!!」

 

「ぐ――ッ」

 

 一撃の重さに特化したノームの鎧では現状速くなっている相手の拳には追いつけない。

 そして殴られる度威力が上がっているためにノームの金剛石をもってしても徐々に衝撃を通すようになってきている。このまま殴られ続ければいずればこの防御も破られる。

 だが、キリヤは耐えたことで大気中の(マナ)――魔女の森ともあって非常に濃密な(マナ)を吸収したおかげで条件は満たした。

 

「行くぞノーム、ジブラウスト。オレに力を貸してくれ!」

 

「っ!」

 

 身体進化魔法”剛機絶鋼の重装鎧(レベル12・ディストラクトモンドラーマー)”。

 大きく変化した鎧にステイクも驚くも魔力放出によって爆発的な加速を見せた巨大な拳が眼前に迫り、両腕を交差して防御するもその威力によって遥か彼方まで飛ばされる。

 具足からも魔力放出を行い、加速すれば彼方に飛ばされるステイクに追いつき、さらに拳を握り締めれば装甲が重厚さを増す。

 

 防御態勢のまま後方に飛ばされていたステイクはキリヤの接近に気付くも後方へ突然金剛石の壁が出現したことによって衝撃を受け、バランスを崩し、その隙にキリヤの拳がステイクの右頬から顔面を打つ。

 

「オレのこと経験値っつってたが生憎易々と倒される気もねぇし残念ながらオレがオマエをブッ飛ばす!!」

 

 芯から入った一撃でステイクの身体は錐揉み回転して尚も吹き飛ぶ。

 明らかな手応え。砂煙が舞い上がり、明らかにダメージが入ったのは明白だ。

 だが地に背をつけて大の字で倒れていたステイクは跳ね起き、ぺっと血を少量吐いて口元を拭う。

 

「良い一撃だね。効いたよ」

 

「そんな風には見えないけどな」

 

「いいや、僕に背をつけさせるなんてスペード王国でも片手で足りるぐらいさ。誇りに思って良い。だが僕は君程度に躓けないんだ――ここで負ければ愛する女性に呆れられてしまうからね」

 

「奇遇だな。オレもこんなところで負けられねぇよ。オレが愛してる女を超えるにはこんなモンじゃ足りねえ。それに――負けるのはあの時だけでイイ!!」

 

 己の無力に苛まれるのはサイルに負け、フエゴレオンが重傷を負ったあの時だけで良い。

 再び魔力放出によって飛び出しステイクへ肉薄するキリヤ。

 だが――今度の拳はステイクには届かなかった。

 

「――残念だけどそれはもう僕には通用しないよ」

 

 魔拳昇華魔法”羅刹掌拳(ランク14・ラセツショウケン)”。

 ステイクの一撃は”剛機絶鋼の重装鎧(レベル12・ディストラクトモンドラーマー)”の防御を貫き、その衝撃で今度はキリヤが吹き飛ばされた――

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