オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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55話「気まぐれなる猫との共鳴」

(ぐ、うぅうう……重――ッ!!)

 

 第二の心臓(セカンドブラスト)を解除していたフィオレナの一撃すらも凌いでいたというのにまだ解除していないステイクの拳はそれ以上の威力を持っていた。

 ”剛機絶鋼の重装鎧(レベル12・ディストラクトモンドラーマー)”でも防ぎきれない威力で殴り飛ばされたキリヤは吹き飛ばされながらも魔力放出で体勢を引き戻す。

 

 一方、両拳に鬼の彫刻が成された篭手を纏いながら迫るステイク。

 金剛石の杭で迎撃するもステイクは容易く砕きながら突き進み、拳と拳がぶつかり合えばとうとう鎧が砕かれキリヤの顔面にステイクの拳が迫る。

 

(しまッ――)

 

 猫精霊魔法”気まぐれ回転円盤(カプリスルーレット)”。

 突然キリヤとステイクの間に現れたのは回転するルーレット。それがステイクの拳に砕かれれば鎧が解けたキリヤをいつの間にか抱えていたトゥルーは笑みを浮かべる。

 

「ラッキーだねオニーサン。”パニック”効果だよん」

 

「っ!」

 

 ステイクは拳を放った体勢のまま地面に向かって転落していき、その隙に手近な樹へと着地する。

 着地すればトゥルーはにゃははと笑い、

 

「あっぶなー。”パニック”以外だったら止められてなかったかも」

 

「あ、ありがとな。ぶっちゃけ危なかった」

 

「いーえー。でもボクチャン結構ピンチそうだけどダイジョウブ?」

 

「何とかするさ。今までもガッツで何とかしてきた場面も多いしな。それにオレはオマエを守るって約束したからこんなところじゃ死なねぇよ」

 

 追い詰められた時こそ不敵に笑う。

 正直何の策もないが相手は近距離戦に特化した魔道士。ならば接近戦で片をつけるしかないだろう。

 サキムニは今フィオレナに貸しているために戻すことは出来ない。現状ではステイクに有効打がなくどうするべきか、そう考えていれば――

 

「もうボクチャン難しいカオしても仕方ないって~。ボクチャンは考えるより行動派でしょ?」

 

「お、おう」

 

 いきなり抱きついてきたトゥルーに息を耳に吹きかけられる。

 思わず両肩を震わせてしまい、それを見たトゥルーは楽しそうに笑う。

 

「ボクチャンは素直だね。今の言葉にも嘘を感じないし戦い方だって肉弾戦一本だし。おバカさんだけどそれがイイとこってのは分かってるよ~。でもたまには違う戦い方したってイイんだよ? 勝てなきゃ守れるモノも守れないし」

 

 気まぐれな猫はそう言って楽しそうに笑い続け、離れるとキリヤの魔導書の空白のページに手を触れる。 

 

「搦め手が大得意なワタシが力貸したげる。それにさっきみたいに精霊同士合わせるのにワタシとぴったりな相手はもう帰って来そうだしぃ~」

 

「え?」

 

『サラマンダーのやつどこ行ったのよーっ! もう見失ったしぃ! あ、ただいまだーりんっ!』

 

「おかえり……もしかしてウンディーネのこと?」

 

「うんうん。キャバ嬢(ワタシ)と合わせられるのってギャル(この子)しかいないと思うの」

 

『何の話……ってあぁ! あーしがいないうちに勝手に契約してるし!! って嫌よ! あんたとあーしが相性イイわけないし!!』

 

 帰って来て早々両腕で大きなクロスを作って完全拒否するウンディーネ。

 だが現状これしか打破出来る術はなく、キリヤも頭を下げる。

 

「頼むウンディーネ、オレに力を貸してくれ」

 

『アタマ上げてだーりんっ! だーりんには全然力貸すけどね! あの――』

 

「も~グダグダ言うのナシ! ボクチャンのために頑張ろうね~」

 

『ああもう仕方ないし! やってやるんだから!!』

 

 拳を向ければトゥルーもウンディーネも拳を合わせれば新たな鎧を身に纏う。

 身体進化魔法”水恋猫の軽装鎧(レベル15・ウンディーニャンペネルローペ)”。

 猫の耳を模した兜。蒼を基調にした線の細い軽装の鎧には煌めく派手な装飾が散りばめられ、篭手の掌には何故か肉球。猫の尻尾まであってトゥルーの影響が大きく出ているように見える。

 

「まだ先があったのか!!」

 

 トゥルーの魔法によってステイクは怯んでいたものの回復したのか、キリヤの姿を見て歓喜の声を上げる。

 嬉々として拳を構え突撃してくるステイクに迎え撃とうにも少しキリヤの心の中は騒がしかった。

 

『ちょっとあんたァ! 何この鎧デコってんのよ!』

 

『にゃはは! カワイーでしょ~』

 

『これ戦い用だし! 可愛さなんて必要ないし!』

 

「ちょっと二人共喧嘩はやめて集中してくれ!」

 

 いつもは弄る側のウンディーネが完全に弄ばれているようだがそれどころではない。

 突撃してくる拳をいなし、返しに肘鉄を喰らわせ距離を開けさせれば今度はキリヤが距離を詰める。

 負けじとステイクも拳の連撃をキリヤに浴びせるも――

 

『スロットスタートっ!』

 

 殴ったはずのステイクの拳で奇妙なスロットが始まる。

 コミカルな音と共に三つのスロットが決まれば映し出されるのはウィンクしたトゥルーの表情だった。

 

『カウンター五倍返しだよ!』

 

「ぐッ!?」

 

 いきなりステイクの顔に殴ったような衝撃が生まれ、顔が思い切り仰け反る。

 殴った自らの威力を五倍にして返されればステイクの膝は笑い、一歩下がったところで次はキリヤ自身の拳。

 水魔法を纏った拳でステイクの鳩尾を打てばさらに追撃で水によって創られた拳のラッシュが決まる。

 

「こんなもの――ッ!!」

 

 身体強化魔法が凄まじいのかステイクは尚も起き上がる。

 だが再び『スロットスタート!』とトゥルーの掛け声がし、見ればラッシュが決まった箇所全てにスロットが現れる。

 

『威力二倍!』『威力半減……』『特になしスカン!』『威力七倍!!』『追撃雷属性!』『ボーナスでもう一ラッシュ!!』

 

「ぐ、う、がは……っ!! 何だこの魔法は……ッ!?」

 

 声と共に全ての効果を浴びせられたステイクの身体は飛び、受け身もなく地面に膝をつく。

 その光景にトゥルーも「にゃはは」と笑って心の中でピースする。

 

『猫精霊創成魔法”ニャンニャンスロット”、ボクチャンを攻撃した相手かその攻撃を受けた相手に強制的にスロットで効果を決めるのよん。たまにスカンあっちゃうけど当たりだったら「即死(デス)」もあるから気をつけちゃって~』

 

「そんなもの一撃で決めれば……ッ!!」

 

 全力で拳を振るおうとも今のキリヤは水と猫のしなやかさを兼ね合わせている。

 氣と(マナ)の流れを読み、身体を水にして躱すことも余裕でその顎を殴り飛ばす。そして水の道を創り出し、背からもラッシュを決める。

 

「く、クソォオオオオオオ――ッ!!」

 

 全てのスロットが発動すればそれぞれの効果でステイクは吹き飛んだりデバフをかけられたりと踊らされ、握り締めたキリヤの拳は水の加速と共にステイクの顔面へと叩き込まれる。

 

『ラッキーっ! 威力百倍!!』

 

 トドメの一撃によってステイクの顔は大きく天を見上げた――

 

 ◎

 

 その人は本当に美しい女性だった。

 初めて会ったのは戦場でステイク達新兵の指揮を取っていたのが《一剣》ゼネルラであり、戦場で戦う姿はまさに気高く――神にも等しかった。

 生まれて何一つ良いことがなかったステイクにとってゼネルラとの邂逅はまさに唯一の幸福。そしてその衝動を抑え切れなかったステイクは――

 

『僕と――結婚してください!!』

 

 一度会った、それも指揮官相手に新兵が求婚してしまった。

 普通ならばその場で殺されてもおかしくない。それなのにゼネルラは――

 

『私は強い者にしか興味がありません。もしあなたが私よりも強くなればその求婚を受けましょう』

 

 そう言ってくれたのだ。

 だからステイクは強くなり続けた。鍛練を欠かさず、時には周りを蹴落として強くなり、そして前任者の《四》を殺して《四拳》となった。何もかも一人で突き進んできた。

 

 それでもまだ足りない。

 まだ《三》とさえ渡り合えない状態だ。そんな自分が《一剣》たるゼネルラと共にあれるはずがない。

 強くならなければ。強くならなければ。

 何をしても。何を殺してでも。どんな手を使ってでも。

 今負ければ何もかも失う―― 

 

 ◎

 

「それだけは嫌だッ!!」

 

「っ!」

 

 倒れると思えばステイクは顔を上げ、指輪を外せば爆発的に魔力が引き上げられる。

 周囲の(マナ)が押し潰されるほどの魔力量、それを全て注ぎ込み創られるのは――

 

「魔拳昇華魔法”魔刃掌拳(ランク50・マジンショウケン)”……この一撃で終わりだ。たかがレベル15如きの君では僕には敵わない……ッ!!」

 

 片腕だけに纏われた篭手。

 漆黒に染められた篭手は今までのどの篭手よりも質素だがそれに込められた魔力は本物だ。

 その一撃をまともに喰らえばキリヤどころか魔女の森さえ無事では済まないだろう。

 だが――

 

「その一撃、受けて立つ……ッ!!」

 

『だ、だーりんっ!?』

 

『ボクチャンさすがに無理すぎだよっ!?』

 

 あまりの魔力量の差にウンディーネとトゥルーが止めに入るも構わずキリヤはステイクの前に立つ。

 互いの一撃が届く間合い。恐らく搦め手を使ったところでステイクは倒れない。

 一人の女を超えるために進む同士分かる。だからこそ、力以上にステイクを支えているのが心だということは分かっている。

 

「この差を前にまだ戦る気なんてね……」

 

「ここで退いたら”漢”じゃねぇからな……」

 

 崩れ落ちる瓦礫。

 その音が合図でキリヤ、ステイクの両者の拳が互いに向けて一直線に振るわれる。

 ただキリヤは拳ではなかった。

 拳を握ったまま人差し指を立てその指先の一点に全身の魔力を集中、一筋の切っ先として形成する。

 

 どうしてそうしたのか、キリヤには分からなかった。

 メレオレナならばもっと別の方法を取っただろう。それでもキリヤは迷わなかった。

 本当にメレオレオナを超えたければ真似事だけでは一生敵わない。だからこそ――

 

「これがオレの全力だ――ッ!!」

 

 魔力格闘技”獅子一刺(ライオネルスティング)”。

 極限に研ぎ澄まされた魔力の一突きは篭手の一点を貫き、ヒビを与え、そこから切っ先を通して水を弾けさせて砕き、破壊する。

 魔力を全て注いだためにキリヤの鎧も解け、だがキリヤの右手はすでに拳を作っていた。

 どんな魔法よりも早くに習得したメレオレオナ直伝の拳骨を握り締め、

 

「だらっしゃァアアアアアアアアア――ッ!!」

 

 振るわれたキリヤの拳骨がステイクの顔を捉え、殴り飛ばせば今度こそ倒れ動かなくなる。

 

「オマエは確かに強かったけどオレ達の方が強かったな」

 

 肩で息をするキリヤは拳を突き上げ勝利を示し、にこっと笑った――

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