オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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56話「エルフの覚醒」

(倒したはイイけど魔力消費が激しいな……)

 

 相手の一撃を超えるために自分の全ての魔力を放出してしまった。

 それに加えて新たなレベルアップによって立っているのもやっとなほどの疲労感が襲い、例え身体進化魔法のレベルアップによって身体の傷が治ろうとも体力だけはどうしようもない。

 

「早くフィオレナのところに行かねぇと……」

 

《四拳》でこの強さだ。

 フィオレナとサキムニが足止めしてくれているのはそれを遥かに上回る《二槍》。

 そうなればフィオレナもただでは済まない。急がなければもしかすると殺されているかもしれない。

 駆け出そうとするキリヤだが一歩大きく躓き、ウンディーネとトゥルーに支えられる。

 

『だーりんとりあえず回復しよっ!』

 

『今のボクチャンが行ってもどうしようもないってば!』

 

「でも、早く行かねえとフィオレナが――」

 

「……急ぐ必要はないだろう」

 

 唐突に聞こえた男性の声。そしてキリヤの前に捨てられる人影。

 そこに倒れていたのは血塗れのフィオレナであり、それまでの道に倒れているのは無数のサキムニだった。

 慌ててフィオレナを抱きかかえれば重傷だというのにフィオレナは笑ってみせる。

 

「ごめんなさい先輩……アタシ、しくじっちゃったみたいです。サキムニ先輩達も巻き込んじゃって……」

 

「イイんだ。よく頑張ってくれた。ちょっと休んでろ」

 

 ウンディーネに目を向ければ彼女もキリヤの意を汲み、フィオレナを抱えて下がり回復魔法で治癒し始める。

 倒れたサキムニ達は自動的にキリヤの魔導書に戻り、涙ながらの声が聞こえてくる。

 

『ごめんご主人……フィーちゃんボク達が守れなくテ……』

 

「大丈夫だからオマエらも休んでろ」

 

 傷ついたフィオレナやサキムニ達の姿に一瞬で怒りが沸点に達したキリヤは眼前に立つ《二槍》を睨みつける。

 睨み付けられたところで物怖じすることのない《二槍》は倒れているステイクを見て、

 

「……ステイクを倒したか。クローバー王国の魔法騎士は貧弱だと思っていたがなかなかやるようだ」

 

「…………」

 

「……そんな顔をするな。これでも褒めている。貴様ほどの戦士はここで殺すには惜しいと思うほどに」

 

「何が言いたいんだよ」

 

「……ここはおとなしく退け」

 

「断る」

 

「……そうか。フィオレナの仇、とでも言いたいのか」

 

 興味がなさそうに《二槍》は肩を竦める。

 

「……フィオレナも一時の感情で国を裏切ったが貴様もまた一時の感情で命を捨てるか。彼我の実力は明確。そこから一歩でも動けばそこは死地だというのに」

 

「フィオレナは譲れないモノがあった。そのために勝てないと分かっててもあんたに立ち向かったんだ」

 

「……愚かな――ッ!?」

 

 言葉を終える頃にはすでにキリヤの拳は《二槍》の左頬を捉えていた。

 顔が歪み打ち抜けば《二槍》は二歩ほど下がり、口端から血が零れ滴る。

 

「愚かなんて上等だ!! 仲間やられて黙ってるほどオレァ人間出来ちゃいねぇんだよ!!」

 

「……本当に愚か者だ」

 

「ぐ――ッ!!」

 

 殴り飛ばしたかと思えばすでにキリヤの掌には槍の一撃によって風穴が開けられており、次ぐ一撃もあまりの速さに氣も(マナ)の流れも気付く頃には穿たれている。

 急所を避けたところで足を穿たれ機動力を殺され、《二槍》はキリヤを見下ろす。

 

「……ステイクとの戦いで疲労していたとしてもすでに実力の差は分かるだろう」

 

 相手は身体強化魔法すら使っていない状態でこの差。

 明らかに勝てる見込みなどどこにもあるはずがない。だが、それでもキリヤは拳を地面に叩きつける。

 

「フィオレナは……勝てないって分かっててもあんたに挑んだ。オレが来るって信じて戦った。だからオレが逃げるワケにはいかねぇんだよ」

 

「……そうか」

 

 あまりに一瞬過ぎて《二槍》の腕がブレただけしか見えなかった。

 そして身体が一瞬揺れたかと思えば自らの左胸に違和感を覚えて、見れば――

 

「ボクチャンッ!!」

 

 トゥルーが慌てた悲鳴にも似た声を上げるもキリヤには意味が分からなかった。

 ゆっくりと、徐に違和感を覚えた左胸を見ればそこには――何もなかった。

 いつも聞こえていた鼓動の音も消えており、咳き込めば手に広がるのは夥しいほどの血。

 

「マジ、か……」

 

 キリヤの意識は途切れ、その身体は地面に沈む――

 

 ◎

 

「ここは……どこだ?」

 

 やけに温かな、それでいて何もない空間。

 気付けばキリヤはその場に立っていて周りを見渡してみれば今までキリヤが歩んできた記憶が映像として流れていた。

 メレオレオナとの出会い、修行、魔導書授与、入団試験、パシリランク決定戦、魔宮探索、ベレラファスラの戦い――これまで歩んできた全ての道が示されていた。

 

 魔女の森にいたはずなのにどうしてこんな場所にいるのか。

 それが分からずキリヤは首を傾げるも考えても分からないので思い出に浸ってみる。

 

 今までたくさんの人間に出会って、たくさんの精霊に出会って。

 気付けば一人でいる時間などないほどに楽しい時間を送ってきた。誰も彼もがかけがえのない存在で。

 だからこそ――帰らないといけないと思った。

 

「でも帰るってどこに?」

 

『そりゃ皆のところにだろ。オマエを必要としてるヤツらがいっぱいいるんだから』

 

「え、誰っ!?」

 

 突然自分と同じ声がすれば驚いて振り返る。

 するとそこには鏡写しのように自分と瓜二つの少年――ただ髪色だけが違う少年が立っていた。

 その少年はキリヤを見るなりにこっと人懐っこい笑みを見せ、

 

『オレは初代オマエだよ――アルーグって言えば分かるか?』

 

「え、マジで!?」

 

 アルーグと言えばサイルが求めて止まなかった存在だ。

 その少年が今目の前に立っていて、キリヤに向かってピースしている。

 だがそれ以上に困惑することばかりで、

 

「初代オレってどゆこと?」

 

『ガルガンのヤツ、オレを捕まえて記憶消しまくりやがってよ。こうやって深層心理にオレ自身の人格を残したけどそれから何度も記憶削除を繰り返されたせいでいくつも人格が出来て消えるを繰り返してな。他はもう完全に消えちまったけどその中でもオマエが一番新しいオレさ』

 

「サッパリ分かんないけどあんたがオレの初代なのか……」

 

『初めからそう言ってるだろ? やっぱりオレってバカだな!』

 

「ははは! ……じゃなくて! どんだけサイルがオマエに会いたがってたか! いるんだったら会ってやれよ!」

 

『残念だがそりゃムリな話だ』

 

「何で!?」

 

『そもそも今のオレはオマエだから出ようと思えばオマエの人格が消えちまうし。他のヤツらと違ってオレの身体はオリジナルだからな。サイルみたいにおいそれと魂チェンジ出来ねぇワケよ。オレらの場合魂チェンジはいらねえけど!』

 

「か、軽く言ってるけどサイルに会いたくないのかよ?」

 

『会いたいよ。会って思いっきり抱きしめてやりたい。だけど今はもうオレもサイルも死んだ身だ。今を生きているオマエやシィナや他の人間を犠牲にしてまですることじゃない。例えエルフの末路が悲惨だったとしてももう死んだんだ。だから安らかに眠るべきだってオレは考えてる』

 

「そういうモンなのか……」

 

『そういうモンだ……ってそんな辛気臭い話をするために話しかけたんじゃねーっての!』

 

 アルーグのツッコミに首を傾げるキリヤ。

 全く自覚症状のないキリヤにアルーグは我ながら呆れた様子で額に手を当てる。

 

『オマエ今死にかけなんだよ。このままだとあの世に魂を持っていかれちまう』

 

「ああそうか! オレ《二槍》にやられたのか!!」

 

 ここで急速に思い出す記憶。

 魔女の森で〈七剣総統〉の《四拳》を倒したのは良いがその後に現れた《二槍》に完膚なきまでにやられた。

 悔しくなって拳を握り締めるキリヤにアルーグは笑う。

 

『でももうオマエの傷はサキムニが治して今は心に入ってオマエの意識を迎えに来ようとしてる。ただオレがオマエに教えたいことがあって止めてるんだけどな』

 

「教えたいこと?」

 

『ああ。魔女王が封印を解いたのと一回死にかけたおかげでガルガンがオレに仕掛けてた魔力の封印は完全に解けた。オマエが目覚めたら今とは比べモンにならないほどの魔力が使えるだろうよ。あと耳とかとんがるぞ』

 

「カッコ良くなるワケか!」

 

『まあそうなるな。で、オマエの身体進化魔法のことだが先輩がイイことを教えてやる!』

 

「お、何だ?」

 

『――もっと精霊と一つになれ。今までオマエの身体進化魔法の鎧はただ表面上しか連結(リンク)出来てねぇ。もっとだ。まるで自分の身体のように、手足のように、混ぜ合わせる感じで繋がれ。そうすればオマエと精霊の絆に誰一人として太刀打ち出来ねぇ!!』

 

「もっと一つに……」

 

 自分の手を見ればアルーグはキリヤの胸に拳を当てる。

 

『オマエはオレだ。オレはオマエだ。だからオマエならやれる。最強になれる。何が《二槍》だ、一番じゃねえのかよって鼻で笑ってやれ!!』

 

「ああ、任せろ!!」

 

 キリヤもアルーグの胸に拳を当てればアルーグの姿は消え、代わりに現れるのはサキムニの一体。今にも泣きそうなサキムニはキリヤに抱きついてくる。

 

『ご主人、ご主人……っ!』

 

「ああ、もう大丈夫だ。行こうサキムニ、あの野郎にオレ達の真の力見せてやろうぜ!」

 

『うン……っ!!』

 

 サキムニも大きく頷けばキリヤの意識は覚醒していく――

 

 ◎

 

「…………」

 

 倒れた少年を一瞥し、《二槍》――マンダラは踵を返す。

 心臓を穿てば生きてはいられない。即死だろう。

 精霊の一体が傍に寄り添うもどのような回復魔法ももう無駄だ。

 そう思えば――

 

「……っ!!」

 

 今だかつて感じたことのない(マナ)の奔流にマンダラは思わず振り返る。

 それは倒れた少年から発せられている者であり、その魔力の濃密さはもはや人間ではない。

 精霊の領域――いやそれ以上に滾る魔力にマンダラも目を見開く。

 

「……貴様」

 

 倒れていたはずの少年が土を握り締め目覚めればその身体を光が覆い、鎧が形成される。

 身体進化魔法”兎々戦の勝鎧(レベル28・ビビットアーマヴィクトリー)”。

 線の細い形状の鎧。兜に刻まれたV字の装飾が二つ重なり、魔力の帯が二本首元から揺らめき、その雄々しき姿を彩っていた。

 

 目を奪われる(マナ)の輝き。

 だがすぐにマンダラはその場から吹き飛ばされる。寸でのところで魔槍で防御したものの咄嗟の行動のあまり構えていた手元が震えるほどの威力。

 これまでにないほどの力に思わず笑みが零れ、

 

「……俺の名はマンダラ。貴様の名を聞こうか」

 

「キリヤスフィール・フィン・ガルガン。感謝するぜマンダラ――あんたのおかげでオレはまた強くなれる」

 

 兜越しでも分かる不敵な笑みを浮かべ少年――キリヤはマンダラに向けて駆け出す。

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