オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

58 / 72
57話「兎炎霊の業猛鎧」

「行くぜマンダラァアアアアアアア――ッ!!」

 

 その場で連続して拳を振るえばキリヤの拳は衝撃波として放たれ魔力の拳となってマンダラに向かっていくつも飛ぶ。さらに空中で弾かれ様々な角度でマンダラに迫る。

 魔槍を構えたマンダラはその攻撃に対応し、切り落とすも分裂し兎の形に変化してさらなる追撃を行う。

 

「……っ!」

 

 その兎がマンダラの身体に張り付けば拳の衝撃がマンダラを襲い、一発でも被弾すればそこから一発に込められた分の一撃の数々が連続で打ち込まれる。

 

「……ただの兎ではないか」

 

 被弾した箇所を手で押さえることで衝撃を殺し、それと同時に駆けてキリヤとの距離を詰めてくる。

 敵と認めてくれただけあって身体強化されたその速度はもはや瞬間移動にも等しい。だがそれでも今のキリヤは負ける気がしない。

 螺旋する槍の一撃を脇に挟み込めば返す刀でヘッドバッドで打ち返し、しかしマンダラもその瞬間に蹴りでキリヤの身体を蹴り飛ばす。

 

 穿抉(がんかつ)魔法”ヴァルサー”。

 離れたキリヤの足元の地面が形状を変化させ槍と化せば無差別に襲い掛かる。

 キリヤは躱しながら倒れているフィオレナを抱き上げトゥルーを回収し、一度大きく跳んで離れればフィオレナを魔女の一人に向ける。

 

「この子を頼む!!」

 

「え、あ、はいっ!」

 

 女至上思考が強い魔女でもキリヤの言葉に圧されフィオレナを受け取り、それを見ると再び跳んでキリヤはマンダラの元へ戻って拳を叩きつける。

 

「……これで邪魔者はいないな」

 

「邪魔だなんて思ってねぇけどな!!」

 

 魔槍で防御されそこから始まる拳と槍による応酬。

 見えなかった一撃が見えるようになり、互いの一撃は徐々に勢いを上げ速度を上げ、先に届いたのはキリヤの拳だった。マンダラの腹部を打てばマンダラも堪えきれず血を吐くもその腕に地面が絡みつき――

 

 穿抉魔法”ヴァルサーリール”。

 触手の如く蠢いた大地の槍が何条もキリヤの巻きつけば突如として天空へ伸び上がり、頂点まで達すれば高速回転したままキリヤを地面に叩きつけ、同時に地面が炸裂し抉れる。

 

「いっでぇぇええええええええ――ッ!! だァアアアアアアアアアアアアアアアアアア――ッ!!」

 

 痛みなど声で吹き飛ばし、絡みつく槍を殴り飛ばして復活。

 その瞬間を狙って肉薄していたマンダラの魔槍を持つ手の腕は恐ろしい勢いで筋肉が膨れ上がり、そこから放たれる一撃の速度はもはや光速に達する。

 

「”兎瞬発蹴(ラビットラピット)”!!」

 

 それでも来る方向さえ知っていれば反撃が出来る。

 サキムニ達の後押しでマンダラの魔槍と匹敵するほどの速度になった蹴りが正面からぶつかり合いその余波は空に浮かぶ雲を掻き消すほど。圧倒的な膂力のぶつかり合いだがキリヤの勢いは収まらない。

 ぶつかり合っていた蹴りと魔槍の拮抗は崩れ、砕き割れるのは魔槍。そしてキリヤの蹴りはマンダラへと叩き込まれる。

 

 蹴られ後ろに下がったマンダラは粉塵に包まれた魔槍の柄を握り締めながら――笑った。

 

「……まさかここまでやるとは」

 

「ぶっちゃけオレも驚いてるけどな」

 

「……貴様を侮ったことは謝罪する。だが――ここからが私の本気だ」

 

 指輪を外せば爆発的に上がるマンダラの魔力。

 そして砕き割ったと思われた魔槍は中から一回り細い魔槍が現れ、その秘められた魔力と威圧感からあれが魔槍本体であることが分かる。おそらく今までのは鞘に収めて戦っていた状態だろう。

 

 それでもキリヤに恐れはなかった。負ける気もなかった。

 むしろ興奮しているほどだ。これほどまで精霊と一体化したことなどなく、その初めての相手が今まで出会った中でもトップクラスの強者となれば遺憾なく自分の実力を試せる。

 初めはフィオレナやサキムニを傷つけられ憤慨していた。許せない気持ちが消えていないのは事実だがそれと同じくらいに爽快さを感じている。

 

 純粋な、混じり気のない戦闘。

 それを感じているのは相手も同じようで、笑ったのはそういう意味だろう。

 

『…………』

 

 と、そんな時にキリヤの肩に降りて来たのは炎で形取られたトカゲだった。

 いや、よく見るとそのトカゲは〈白夜の魔眼〉の〈三魔眼(サードアイ)〉ファナが使役していたサラマンダーであり、サラマンダーはキリヤに目で訴えかけてくる。

 

「何だオマエも力を貸してくれるか?」

 

 言葉にせずとも言いたいことは分かる。

 サラマンダーは頷けばキリヤの魔導書の空白ページに触れ、新たな魔法が刻まれる。

 そして魔導書からサラマンダーは伝えてくる――力を使ってくれ、と。

 サキムニとサラマンダー。片や数で、片や火力で、どちらも一国の軍事力に匹敵するほどと云われる精霊達。

 ならば――

 

「行くぜサキムニ! サラマンダー!! オマエらの力を貸してくれ!!」

 

 二つの力を合わせキリヤの身体は新たな進化を迎える。

 燃え尽きぬ業火。止まぬ連撃。万物を連鎖的に燼滅せし超攻撃特化形態。

 ――身体進化魔法”兎炎霊の業猛鎧(レベル58・サラマンドアルマヴィクトリー)”。

 竜を模した鎧は赤褐色に染まり、兜はより鋭利になり竜に。そして鎧の各所に炎が灯る。

 

「らァアアアアアアアアア――ッ!!」

 

 どれだけ夥しい槍が迫ろうともマナゾーンとサラマンダーの火力、そしてサキムニの連撃がマンダラの攻撃を全て焼き尽くし燼滅し、キリヤの勢いは止まらない。

 迫る真の魔槍の一撃もキリヤの拳が砕き割り、へし折れた魔槍にマンダラが驚いた瞬間――

 

「これで終わりだァッ!!」

 

 マナゾーン”業火炎竜灼熱腕(サラマンレッド・カリドゥス・ブラキウム)”連撃。

 放たれた一撃はマナゾ-ンとサキムニの力もあって万以上叩き込まれ、辛うじて身体を残したマンダラの身体が地面に叩きつけられる。そして動く気配もなくなり、キリヤは拳を握り締め喜びを爆発させる。

 

「しゃァアアアアアアアアッ!! オレ達の勝ちだァアアアアアアア――ッ!!」

 

『ホントいきなり強くなりすぎよーっ!!』

 

『心配させてこのこの~っ!!』

 

『ボク達も飛びつく~っ!』

 

『オデもオデも』

 

「待ってジブラウスト! 流石に今のオレじゃ受け止められねえわ!!」

 

 大の字で倒れれば一斉に飛び込んでくる精霊達。

 人間サイズまでは大丈夫だが流石にジブラウストサイズになれば今は無理で無理矢理起き上がった――

 

 ◎

 

「オマエ達の言う魔石はコレのことだろう。私には必要のないモノだ。くれてやる」

 

「え、魔石!? あざーっス!!」

 

 アスタ達の方も〈白夜の魔眼〉とダイヤモンド王国の〈八輝将〉を撃退に成功しており、キリヤの〈七剣総統〉撃退も合わせれば魔女の森の防衛を完了していた。

 魔女王とバネッサの蟠りもなくなったようで魔女王は耳からピアスにされていた魔石を外すとアスタに向かって放り投げる。

 

「〈白夜の魔眼〉はこれを欲しがってたみたいですけど何でか分かります? てか何者なんスか?」

 

「……その魔石は装着者の魔力を底上げする魔導具だ。だが真に使いこなせるのはエルフ族だけだ。そこにいる男に渡してみせよ。私が知るにこの世に二人しかいないエルフ族の生き残りだ」

 

「え、キリヤが!?」

 

「そうみたいだ。スンゲー魔力あるんだけど今は抑えてるよ」

 

 言った通り今は抑えて普段と変わらない魔力量だがどうやらまだキリヤはあの邂逅をきっかけに完全にエルフの魔力――アルーグの魔力を得てしまったようだ。おかげで覚醒したキリヤの耳は尖っており、試しに魔石を渡されると本当に魔力が底上げされ、キリヤ自身も驚く。

 

「うわびっくりした!」

 

「こっちはそれ以上にびっくりしてるっての!」

 

「エルフ族は数百年前に生きていた高魔力保持種のことだ。非常に高い魔力を持っていたが数で勝る人間との争いで滅び去った……。あのファナとかいう女の三つ眼は禁術魔法はただの人間には出せない。他の誰かが発動したのだろう。だが禁術魔法の発動には途方もない(マナ)と何かしらの犠牲が必要となる。――古の魔神もまたエルフ族の長が発動した最大級の禁術魔法だ」

 

 そしてアスタが持つ剣はエルフ族の長が使っていた魔法剣の成れの果て、そこまで聞けばアスタの頭は限界を迎えてショートしてしまう。

 

「だがこうしてエルフは今目の前に現存している……つまり生き残っているということか?」

 

「いや多分オレとディフォーヌ……さんだっけ。その人以外は死んでるよ」

 

「ほう、何故分かる?」

 

「オレの中にいる初代オレが教えてくれた!」

 

 そう言うと魔女王は理解出来ないと言った様子で怪訝そうにするもキリヤは構わずショートして倒れてしまったアスタの元に歩み寄る。

 

「なあアスタ、オレが〈白夜の魔眼〉の連中と同じエルフ族だとしたら……もうトモダチじゃいられねぇか?」

 

「そんなわけあるかーっ! オマエがエルフだとかそんなの関係なくオレの友達だ!」

 

「……そっか、ありがとな」

 

 例えエルフだと知ってもアスタは変わらず、その言葉にキリヤは笑みを浮かべる。

 と、魔女王の視線は次にキリヤの魔導書に注がれ、トゥルーが仕方なさそうに飛び出す。

 

「トゥルー、一つ聞かせて欲しい。アナタは何故私の元を去ったのか」

 

「にゃはは。魔女王様は確かに完璧な人だったけどワタシはもっと不完全で不恰好なのが好きなんだ。だからボクチャンについていくの。これ決定事項だから!」

 

「……そう。アナタとは長い付き合いだった分残念ね」

 

「今生の別れじゃないしまた会いに来るよん。気まぐれだけど」

 

 魔女王とトゥルーは長い付き合いだったのか、互いの心は分かるのか笑い合う。

 そのままキリヤに抱きついたトゥルーは満足げにしていて、そうなるとキリヤにも疑問があった。

 

「あ、あの! 魔女王様、オレも一つ質問してイイですか!?」

 

「ディフォーヌ・フィン・ガルガンのことだろう。あの女もまた数百年前に存在したエルフ族の生き残りの女だ。しかし、残念だがあの女はここに侵入し盗みを働いただけだ。私はそれを撃退しただけに過ぎん」

 

「そうですか……」

 

 同じガルガンの名を持つから何かしら関係があると思ったがそれ以上は情報がないようだ。

 少しだけ残念だがきっといつかは分かるだろう。そう楽観的に考えているとサキムニ達が支えていたフィオレナが起き上がる。

 

「あ、あれ……ここは……」

 

「起きたかフィオレナ」

 

「先輩っ!? アタシ眠っちゃってたみたいでどうなりましたか!? 《二槍》は――」

 

「大丈夫だって、オレが殴り飛ばして勝った。ほら見てみ」

 

 キリヤが親指で指せばそこにはサキムニやウンディーネの拘束魔法でガチガチに拘束された《四拳》ステイクと《二槍》マンダラが捕らえられており、キリヤの肩にサラマンダーが上ってくる。

 それらを見たフィオレナは目を丸くして唖然とし、

 

「しかもそれサラマンダー……先輩スゴすぎます!!」

 

「おうおう、何とかするって言っただろ。とにかくオマエが無事で良かった」

 

「ぜんぱい~っ!!」

 

 泣いて抱きついてくる可愛い後輩にアスタ達も笑い、キリヤも笑って一先ず結果としては最高な形で魔女の森を去れることとなった――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。