58話「星果祭開催」
「まさか〈七剣総統〉を二人……しかも《四》と《二》を撃退して拘束してくるとは貴様は留まるところを知らないな……」
「お褒めいただきありがとうございまーすっ!!」
本部に〈七剣総統〉の身柄を引き渡し、魔女の森での一件をシャーロットに報告すれば素直に褒められ、キリヤは両腕を広げて何やら期待した眼差しを向ける。
「……何だその目は」
「いや頑張ったんで姫様からのハグとか欲しくて!」
「絶対にせんぞ……ってそんな目で見るな」
『ちょっとちょっとーっ! だーりんは命懸けで頑張って! しかもとんでもないヤツらを相手に捕まえて帰って来たのに褒めるだけで何もなしなの? 団長としてどうなの貴族としてどうなのーっ!?』
「それは――」
『ボクチャンかわいそう! 頑張ったのに報われないなんて! クローバー王国の魔法騎士は義理も人情もないのねぇ~っ! ダイジョーブ、ワタシがハグしたげる~っ!』
ウンディーネはともかくトゥルーも魔導書から飛び出せばキリヤを抱きしめ徹底抗議。
終いにはサラマンダーが魔導書からキリヤの肩に上って何も言わずじーっとシャーロットを見つめる。
「サラマンダーまでも……分かった。分かったから見つめるのはやめろ」
何故こんなことをしなければならないのかと言わんばかりな目を向けられるもキリヤは挫けない。
生憎ソルがいないためにストッパーもおらず、本当に仕方ないと言った様子でシャーロットに抱きしめられる。キリヤもノリノリで抱きしめ返し、
「ふっふーっ! 相変わらず薔薇のイイ匂いがしますねーっ!」
「よし離せ今すぐ離せ。というより貴様メレオレオナ様に惚れているのではなかったのか?」
「……? そうですけどそれがハグしちゃダメな理由になるんですか?」
「そうか。元は野生児だったな貴様は……」
「姐さんに何をしとるんじゃーいっ!」
「イタっ! もうソルが来たか!」
団長室に突入してきたソルに蹴り飛ばされシャーロットから引き離されたキリヤ。
相変わらずシャーロットのこととなれば行動の早いソルはすぐさまシャーロットの前に立つ。
「最近成果を挙げてるからってそう易々と姐さんに触れられると思うなよ!」
「……よく来てくれたソル。今だけはその呼び名を許す」
「ありがとうございます姐さん!」
「もう結構触れたからだいじょーぶっ!」
「うらやまけしからんっ!」
ソルに横腹をびしびし指で突かれ騒がしくなる団長室。
ここでシャーロットは一度手を合わせ、その音で一度キリヤ達を黙らせる。
「報告ついでだ、聞け。もうすぐクローバー王国を代表する祭りがある」
「祭り、ですか……?」
「”星果祭”って言ってだな。ほら功績で貰える星あるだろ? 四月から翌年三月までの一年間累計した数を発表してその年一位の団を決めるんだよ。で、そのついでに国民総出で屋台とか出してドンチャン騒ぐんだ。それが祭りだ!」
「すっげぇ! いつやるんですか!?」
「今日の夕暮れから夜明けぐらいまでだ。羽目を外し過ぎず楽しめ」
「姫様も一緒に行きましょう!」
「断る」
「何でですか!?」
「貴様と行くと絶対に疲れるからだ」
「姐さんは私と回るんだ! オマエは精霊とかシィナとかフィオレナとかと回れ!」
「……ソル、正直オマエと行くのも疲れる気がしてならんのだが」
「そんなことないですよ! 不埒な輩が現れれば私が撃退しますから!」
「そんじゃーシィナもフィオレナも連れて一緒に行きましょう!」
「話を聞け……」
こうして押せ押せで交渉してみれば結局シャーロットが根負けし、キリヤが他のメンバーを誘って共に行くことになった――
◎
「うわースッゲーっ!」
「スゴイ装飾ですね先輩っ!!」
「おいあまり離れるなよ」
「「はーいっ!」」
夕暮れ、始まった”星果祭”にやってきたキリヤとフィオレナは開幕からはしゃいでいた。
街中はいつも以上に賑わい、見ればソルが言っていたように屋台も多く見るもの全てが珍しいキリヤとフィオレナはきょろきょろと辺りを見渡す。
すっかり保護者なシャーロットとその傍を歩くソル。はしゃぐ二人にシィナは小首を傾げる。
「キリヤさんはともかくフィーちゃんも初めてなんですか?」
「はい! だってアタシはクローバー王国の出身じゃな……くなくて遠い方でしたから!」
「そうでしたか。では本当に初めてなんですね」
「いえーすっ! だから今日は楽しみまーす!」
「私は近くの休憩所で座っている。何かあれば来い」
「えー姫様一緒に遊んでくれないんスか!?」
「私は団長だ。それともう屋台で遊ぶ歳でもない」
今のシャーロットはいつもの軽装の鎧を外してぱっと見〈碧の野薔薇〉団長とは分からないほどだ。
今にも踵を返しそうなシャーロットにキリヤは露骨に不満そうな顔で、
「ヤミ団長なら絶対楽しんでると思いますし童心は大切だ的なこと言うと思うんスけど」
「あ、あの男は関係ないだろう!」
「そうだそうだ! 姐さんとあんなムサ苦しいオブムサ苦しい男団長と一緒にすんな!」
「いや心の持ちようを言っただけなんだけどなぁ」
『こらこらだーりん、たまには女心を尊重しないと! 一緒に来てくれただけで御の字でしょ!』
「確かに! じゃあ何か景品取れたら姫様のところに持って行きます! あ、姫様に何かあったらダメなんでサキムニ一匹置いていきますね!」
「私は姐さんの美しさを際立たせるドレスでも探しに行くかーっ!」
ソルはソルでどこかへ走り去ってしまい、シャーロットも踵を返して休憩所の方へ。
残されたキリヤ、フィオレナ、シィナはとりあえず、
「せっかくの祭りだし回ろうぜ皆!」
「「おー」」
二人の賛成を得たところで出発。
屋台では普段は売られていない食べ物が多く売られており、それを楽しみながらも路上で行われる大道芸を鑑賞。戦闘以外での魔力の使い方をあまり知らなかったキリヤは心の底から楽しみ、拍手を送る。
数多ある屋台の中でもキリヤが気になったのは魔力を駆使して遊ぶゲームをしているもので特典が多ければ多いほど豪華な商品が貰えるらしい。
「あれやりてぇ!」
「それでは行きましょうか。フィーちゃんも良いですか?」
「先輩あるところにアタシありですからモチロン行きます!」
「へいらっしゃい! 一回三百ユールだよ」
キリヤは三人分として九百ユールを支払えばそれぞれに歩兵銃を渡される。
どうにもそれは遊戯用らしく実弾は撃てないが魔力は撃てるようで一定時間現れる的をいくつ撃ち抜けるかを試すゲームらしい。
「それじゃあ始め!」
店主の掛け声と共にゲームがスタート。
一度魔宮でやったことが似たようなゲームをしているために経験済みだ。現れる球状の魔力に向かって余裕と思いながら撃つと――当たらない。
「あれ? 何でだ?」
シィナもフィオレナも試しに撃ってみれば思った以上の着弾点ではないようで首を傾げる。
それからも感覚が掴めないまま虚しく時間は過ぎていき――
「残り三十秒だよー」
「アレ姫様にあげたかったけど無理っぽいなぁー」
キリヤが見たのは賞品棚に飾られた特賞の花束。何でも永久に枯れない薔薇らしく、それならばシャーロットも喜ぶと思ったがどうにも当たらない。
少しだけ残念に呟けば何故かシィナの目の色が変わる。
「キリヤさん、少し銃を貸して下さい」
「え、あ、うん!」
「――行きます」
キリヤから歩兵銃を借り二丁を脇に構えればシィナはいきなり連射して的を射抜きまくる。
感覚が掴めたのかそれまでの当たらなさが嘘のように的が撃ち抜かれていき、あっという間に目標の点数を超えてキリヤもフィオレナも驚いて唖然とする。
「お、おめでとうございます……」
これには店主も唖然としてしまう。
だが次の瞬間、シィナはその店主の胸倉を掴み寄せればその双眸を真っ直ぐ見つめ、
「認識を阻害して的に当てにくくしていたようですが――あまり嘗めた真似をすると容赦しませんよ?」
「は、はいぃいいっ!」
自分よりも遥かに年下とは思えない剣幕に店主も両手を挙げて謝罪。
そんなガクブルの店主から薔薇の花束を受け取ればあれだけ凄んでいたシィナの表情は一気に笑顔になり、
「はいキリヤさんどうぞ」
「ありがとなー」
「いえいえこの程度のこと」
半ばスキップで歩き出すシィナにフィオレナがそそくさとキリヤに耳打ちしてくる。
「(シ、シィナ先輩ってキリヤ先輩のことになるとメチャ怖ですよね……)」
「そんなことないと思うけど。仲間想いのイイヤツなんだよシィナは」
と言いながらも先ほどの歩兵銃を撃つ姿は容姿は違えどサイルのもの。
何だかんだ手伝ってくれているのかな、その程度の認識でキリヤも後について祭りを回るのだった――
◎
「姫様これプレゼントです! シィナが取ってくれたんですけど!」
「これは薔薇か……しかもなかなか高価なものだな。まさかこのような祭りであるとは」
「どうスか気に入って貰えますか?」
「ああ、感謝する」
休憩所にいたシャーロットに先ほどの薔薇の花束を渡せばあまり表情には出ないものの喜んでくれたようだ。
キリヤはシィナやフィオレナ達とイエーイと手を合わせ喜びを示し、シャーロットもその様子を見て微笑む。
他にも屋台で見つけてきたシャーロットが食べそうな物を渡そうとすると――
「お~うむうむ麗しいな。よし、今宵の相手はそなただ!」
「……ん?」
現れたのは明らかに酔っている貴族の中年男性だった。
周りの声から中年男性はバミルトン家のバルトン男爵という爵位持ちらしく、馴れ馴れしくシャーロットに近付く。
「まずは一緒に祭りを楽しもうか、さあついて参れ!」
「…………」
バルトン男爵の言葉を無視するシャーロットだがバルトン男爵は強引にその腕を引き、シャーロットの手から花束が落ちてしまう。
その花束を見たバルトン男爵は鼻で笑い、
「そのような安価で価値がないものなど持つ必要はない! この私が最高級の花束をそなたに捧げてやろう!」
「……価値がない、だと?」
落ちた花束を踏みつけようとするバルトン男爵の足首を掴めばシャーロットの眼光は威圧的なものとなり、相手を睨みつける。
「これは私の団員達が私のためにと手に入れてくれたものだ。権力を笠にすることでしか女を口説くことの出来ない陳腐で矮小な貴様程度が金を叩いて買うものなどよりも何千倍もの価値がある。それに貴様は私が女だからと軽々しく接してきたようだが貴様に私よりも勝るものが何かあるのか?」
そのまま荊魔法でバルトン男爵を締め上げるシャーロットの言葉は止まらない。
地面に落ちた薔薇の花束を拾えばさらに大量の荊でバルトン男爵を締め上げ、
「何がバミルトン家だ私はローズレイ家だぞ。あそこまで傲慢な態度を取ったのだ。私の魔法など容易く超えられるのだろう。早く貴様の魔法で私の荊をどうにかしてみろ」
「よしサラマンダー! アレは姫様の敵だ! つまり〈碧の野薔薇〉の敵だ! 思い切りやっちまうぞ!」
『…………』
キリヤの想いが伝わったのかトカゲ状態だったサラマンダーは成長し四足歩行の火竜と化し、その大口を開ければファナの時以上の火炎がサラマンダーの口に灯る。
「ちょ、キリヤさんそれは流石にやりす――」
炎精霊魔法”サラマンダーの吐息”。
荊に囚われたままのバルトン男爵にサラマンダーから火球が放たれれば突然その前に人影が飛び出して魔導書から取り出した大剣で火球を天へ跳ね返す。
「流石にいかーんっ!! やりすぎだキリヤーっ!!」
「あ、アスタじゃん」
そこにいたのはいつの間にか状況を見ていたアスタだった――