二つ目の試験は魔力を用いた岩壁砕き。
先ほどの箒飛行で奇想天外な行動をしたキリヤと一切飛べていなかったアスタは変に注目されており、キリヤは張り切って腕を回す。
「思いっきりやっていいんだよな!」
誰も答えてくれるはずはないが皆遠距離の魔法で破壊しているためにキリヤも合わせる方向で。
拳を握って後ろへ下げれば――
「よいしょォ!!」
拳を放ち、その速度から魔力の本流が放たれる。
一筋の槍と化した一撃は岩壁を容易く貫き、挙句闘技場の壁すらも貫通してしまいその奥の壁すらも貫通。
張り切ってやりすぎてしまったとキリヤは口を一文字に結び、ヴァンジャンスの方を見つめれば――
「た、退場は勘弁してください……」
「ふ、退場なんてしないよ。ここは自らの実力を見せる場なのだから存分に能力を発揮してくれ」
「やたーっ!」
団長というのは何と心広い方なのだろうか。
メレオレオナもする時は思い切りやれと言っていたし、これで憂いはなくなった。
一方アスタはやはり何も出ていなかった――
◎
次は魔法を用いて飛ぶ紙の中心に描かれた印を撃ち抜く試験。
飛ぶ紙はなかなかに素早く苦戦している者も多いがキリヤは別のことを狙っていた。
その視線は一つの紙に囚われず、忙しなく動いていると思えば――
「そこだっ!」
跳び立ったかと思えばすぐその姿は消え、次に現れたのは飛ぶ紙から離れた闘技場の壁。
一点に集中し放たれた魔力は一直線に突き進み、自らのも含めて合計八枚の中心を見事に射る。
「な――何しやがる!」
「どうせなら一気に撃ち抜いた方が気分イイかなって!」
自らの分を撃ち抜かれた受験生達から非難の声が飛んでくるがキリヤはお構いなし。
メレオレオナの言葉を信じるキリヤはどこまでも直進する
一方、アスタはまた何も出来ていなかった。
◎
「オイオイ、何だありゃ。とんでもねェのが紛れてるじゃねぇか。誰だ動物園からあんな獣放ったのは」
団長席で見ていたヤミは率直な感想を口にしていた。
手元の資料を見れば確かキリヤと言ったか、その動きは人間離れした獣のようだ。
素の身体能力に加え、一定量の魔力を放出することで身体能力をさらに向上させ如何なる環境にも適応出来る基礎魔法の極地――マナスキンを常に身に纏っている。
マナスキンはとても一朝一夕で物に出来るわけもなく、しかも八枚の動きを同時に見て撃ち抜いた。
氣や流れを読んだわけでもなく、ただ勘だけで。
「……もしや」
「何だ熱血真面目大王、心当たりあんのか?」
声を上げたのはヤミより一個空けて離れた席に座っていた〈紅蓮の獅子王〉団団長フエゴレオン・ヴァーミリオン。
問いかければフエゴレオンは顎に手を当て、
「昨日姉上から連絡があってな。何でも弟子が入団試験に行くと言われたが……」
「いつ弟子なんて取ってたんだよ、あのバイオレンスメスライオン。つうかよく生きてたなアイツも。充分バケモンじゃねーか」
しかし、言われてみれば納得出来る。
あれだけ野性染みた動き。空中での機動力。マナスキンの精度。何より――持続性のある魔力量。
どこかメレオレオナを思わせるあの動きは間違いなくメレオレオナに叩き込まれた動き。
「見て見てアスタ! レオナ様作った!」
「レオナ様ってまず誰!?」
(ぜってーそうだ……)
今は魔法を用いて何か好きなものの形状模写をさせているがキリヤが作ったのは間違いなくメレオレオナ。
それをあの魔力を持たないチビ――アスタに見せて楽しんでいる様子。
そもそも魔法騎士団入団試験はその人間の人生さえ左右する。それなのに一人だけ緊張感なくただ遊びに来ているような感覚で軽く試験をクリアしている。
「……まぁアネゴレオンの弟子ってのは満更嘘でもなさそうだな」
「彼は相当実戦経験を積んでいるようだ。ある種逸材かもしれないね」
「珍しいなオマエがそんなこと言うなんてよ」
話を聞いていたヴァンジャンスも珍しくそう口にする。
それほどキリヤは見込まれているのか、ヤミ自身にも興味が湧いてくる。
「ま。まだ最終試験があるからな、じっくり見ようぜ」
◎
「――それでは次が最後の試験だ。最終試験は実戦形式、適当に二人一組になってその相手と戦ってもらう。魔法騎士団は戦闘が主な仕事だ。君達の力を存分に示してくれ」
「アスタ、オレとやろうぜ!」
説明が終わればすぐにずっとアスタの近くにいたセッケという受験生がアスタへ声を掛ける。
これまでもどうしてアスタに絡み続けているのか分からなかったがアスタは――
「セッケ……こんなしょーもないオレと戦ってくれるんですかい」
感動してセッケへ感謝を述べていた。
初戦の組み合わせが決まれば二人は闘技場の中央へ移動していく。
その最中、セッケが何かアスタに言っていた気がするが――
「どちらかが降参するか戦闘不能になれば試験終了だ。回復魔法が使える魔道士が控えているから存分に戦ってくれ――では、始め!」
「手加減無しだぜアスタ!」
青銅創成魔法”
魔法を唱えればセッケを中心として水晶のような透明度を持った青銅が半球状に展開され、ところどころに魔力を撃ち出すだろう砲台が聳え立つ。
攻防一体と言ったところか、一見アスタにはどうすることも出来ないように見えるがアスタの目は何一つ死んでいない。
「オイ見ろよアイツの魔導書、クソボロだぜ?」
「決まったなこりゃ。最果てのヤツには無理だ」
「つか何でここにいんの?」
「オマエなんかどこの団も取ってくれねえよ」
散々な言われようにアスタでなくとも腹が立つキリヤ。
何故努力してきたアスタが莫迦にされなければならないのか、そう思った刹那――
「んじゃ、行くぜ――」
一言言って駆け出せばアスタはすでにセッケとの肉薄を果たしていた。
一瞬キリヤのようにマナスキンを疑ったがこれは違う。単なる身体能力による速さだ。
「え」
セッケの呆気に取られた声。
そのうちにもアスタは黒ずみ煤けた魔導書を開いて中から一本の柄を握り締める。
魔法なのか。その判断すらする暇なく叩きつけられた大剣は青銅の壁などなかったもののように砕き、その刀身をセッケに直撃させる。
「アスタ……スゲエなオマエ」
思わずキリヤも感心の声を零す。
弛まぬ努力によって創られた筋肉。そして躊躇いのない太刀筋。
アスタの勝利にざわめく周りの受験生、対しアスタは声を上げる。
「ざわざわうるせぇえ!! オレは魔法帝になるってんだ!!」
「バカかアイツ?」
「最果ての下民が何言ってんだよ。現実見ろよ!!」
アスタが夢を語れば唐突に野次を飛ばし始め嘲笑う受験生達。
すでにそういうのに慣れてしまっているのかアスタは言い返すこともなかったが――キリヤは違った。
「何でそんなにアスタのこと莫迦にすんの?」
思わず口が自然に動き問いかけていた。
すぐ近くにいた受験生が、
「最果て出身で下民だからだよ。世の中には『分相応』ってのがあるんだって、皆だってそう言ってんだろ?」
「ふーん……皆が言ってれば何でも正しいってわけか――オマエ、つまらないね」
心底呆れたキリヤは言った受験生を蹴って中心へ移動させ、先ほどからアスタを嘲笑っていた二人の首根っこを掴んで中心へ放り投げる。
何が何だか分からない受験生を無視しキリヤはヴァンジャンスへ目を合わせ、
「魔法騎士団に入れば協力して戦うことってありますよね?」
「ああ、大抵が三人一組で行動するよ」
「だったら三対一で戦わせてください」
「な、何を勝手に言ってやがる! そんなの認められるわけ――」
「構わないよ。では、そちらの三人と君一人で良かったよね?」
「はい、ありがとうございます」
ヴァンジャンスに一礼すればキリヤは胸ポケットに仕舞っていた魔導書を取り出す。
その小ささに相手の受験生達は早速笑う。
「ハハハ! 何だその小ささ!」
「そんなんで挑んできたのかよ!!」
「――では、始め」
「やっちまえ!!」
開始と同時に一斉に放たれる攻撃魔法の数々。
対しキリヤは魔力を纏った両拳を強く握り締めれば単純に連続で振るう。
ただそれだけで――相手の攻撃魔法は全て消え去る。
「な――ッ!?」
「どうした、たったこれだけか?」
一歩踏み出せば一人のすぐ傍まで肉薄。
「ひっ――」
恐れを含んだ声音だがそれで手加減するほどキリヤは優しくない。
容赦ない拳が一人の顔面を捉えればその身は回した独楽のように高速回転し、闘技場の壁に埋めつけられる。
「クソ!! 何なんだコイツ!!」
水創成魔法”ウォーターランス”。
水で形成された槍がキリヤの顔面を捉え、一瞬『やった』と言った表情を浮かべる受験生の顔面に拳が突き刺さる。
キリヤの顔は何一つ負傷することなく、最後の一人を見据える。
「オレはオレのことどう言われようが構わねえけど――」
「待っ! オ、オレ降参す――」
「トモダチの悪口だけは絶対に許さねえ!!」
渾身の拳骨。
最後の受験生の脳天を捉え、その勢いは止まらず受験生の歯は強引に合わさったことで全て砕け散る。
魔法すらまともに使わず一瞬で三人を打ち倒したキリヤに全員が呆気に取られる。
「あとオマエらの言葉、レオナ様のと違って全然響かねえわ」
「ス……スッゲェなキリヤ!! オマエ超すごかったんだな!!」
「アスタだってレオナ様に谷底に落とされたり不眠不休で追い掛け回されたりすれば出来るようになるさ」
「死ぬわ!!」
最終試験を終え受験生の元に戻ったキリヤをアスタが迎える。
拳を向ければアスタも合わせ、
「でもありがとな!」
「何のこれしき。未来の魔法帝様のためだからね」
と、軽く冗談交じりで言うがこの沈黙した空気に受験生も慄く。
だが中でも物怖じなかったのはユノだった。隣には貴族がいて、対戦相手を貴族に決めたのだろう。
通り縋る寸前。
「魔法帝になるのはアスタじゃない――オレだ」
「ハハハ、頑張れよユノ」
負けず嫌いなのかわざわざそう言ってから対戦に望んだユノ。
相手が貴族にも関わらず相手を一瞬で倒し、そこからいくつか戦いを経て入団試験は終わりを告げる。
正直言って――
(何か物足りねえ!!)
キリヤは緊張感どころか有り余る元気に悩んでいた――