『案外カンタンねー』
『僥倖。コツなるものを掴んだ』
「ボクにも出来ル! ご主人ボクすごイ!?」
「おうすごいぞサキムニ! じゃあ皆山頂で会おうぜ!」
「うぇえ~ボクチャン、マナスキン出来たけど登るのメンド~おんぶして~」
「分かった分かった」
”
トゥルーだけはマナスキンは出来ているものの運動するのが面倒なようでキリヤにもたれておんぶされていた。
『オデ、魔力ナい』
「イイんだよジブラウスト。本来ならオマエらはしなくてイイんだし」
さりげなく肩に乗っているサラマンダーもマナスキンをしていてそもそも火山帯との属性が同じだからする必要はないように見えるがどうにも付き合いでしているようだ。
その光景を見ながらシィナは己の苦戦が恥ずかしくなってくる。
先に行ってしまったユノはさておき現にノエルもレオポルドもソルもあまり一定に放出出来ておらず荒削りでその分魔力の消耗も激しい。
フィオレナはもう先に行ってしまい、コツを聞くことは出来ない。そう思えばシィナに気付いたキリヤがトゥルーを背負ったまま戻ってくる。
「苦戦してるみたいだな」
「は、はい……ちなみにですけどキリヤさんはどれくらいからマナスキン出来るようになってたんですか?」
「レオナ様と初めて戦った時かな。見様見真似でやったら出来たし」
「コツとかありませんか……?」
「コツ……か。魔力で服を着る感じ? そんな考えたことないからあんまりはっきりとした答え返せないけど」
「いえ、今ので充分です。私のことは良いですからどうか先に進んでください」
一礼すればキリヤはシィナの意を汲んで背を向けて駆け出す。
一瞬で姿が見えなくなればシィナは一呼吸し、両頬を手で叩いて気合いを入れる。
「やります!!」
『良い覚悟ね。魔力放出が狂ったら教えてあげるわ』
「……? また私の心の声さんですか?」
『まあそんなところよ。無駄話は終わりにして始めなさい』
「はいっ!」
服のように当たり前に、意識せずまるで
――マナスキン。
深く考える必要なんてなかったのだ。フィオレナもキリヤも共通して当然のようにしており、確かにフィオレナからすれば出来ない方がおかしく見えるだろう。
「追いつきます……ッ!!」
影創成魔法”漆黒ノ影翼”。
影が伸びればシィナの背で一対の翼となり、飛び立つ。
『ほら、翼が出来ただけで背中の魔力放出が分厚くなってる』
「はい!」
逐一心の声に叱咤されながらシィナは調整し、さらに加速する――
◎
「やっと全員揃ったな莫迦者共ォオオ――ッ!! このユルティム火山は夜になると完全に噴火が止んでしまう! それまでに登れなかった者は後日もう一度来ォオオオい!!」
『はいっ!!』
「よォオオし!! では全員温泉に浸かることを許すッ!!」
絶好調なメレオレオナが言い切れば噴火が収まった火口から温泉が噴出し火口を満たす。
一瞬にして巨大な風呂が現れればアスタ達も気分を高揚させるもここでソルが両手を挙げ、
「男共に姐さんの清らかな裸体は絶対に見せんッ!」
土魔法”土壁遮断”。
温泉を二等分にする土の壁が現れ見事に男湯と女湯が出来上がればメレオレオナの「よぉし入れェ!!」と許可が下り、それぞれが男湯と女湯に分かれる。
だがそれに少々不満そうにするのが男女で分けた際に女湯側になったウンディーネやトゥルー達で。
『え~だーりんと別なのっ!?』
「ボクチャンも一緒に入ろうよ~」
「背中流したいのニ……」
「普段一緒に入ってるだろ? ここはオレ達だけじゃないからワガママ言うんじゃありません。後日一緒にくればイイだろ」
露骨に不満そうにする精霊達だが仕方ない。
ここは皆がいるために裸を見るのも見られるのも嫌だと思う者もいるだろう。そうなってはせっかくの温泉なのに気分を害することになってしまう。
「え、オマエ普段精霊と一緒に風呂入ってたのか?」
「はい。男は〈碧の野薔薇〉の拠点にある大浴場使えないんで自室の風呂ですけどね」
「マジかオマエ、マジか……」
ヤミは特にトゥルーや”
ともかく、
「聞き分けなさい。以上!」
『「『はーい……』」』
少々言い過ぎたかしょんぼりした様子でウンディーネ達は女湯の方へ。
それを見送るとキリヤもサラマンダーやノーム、小さくなったジブラウストを連れて男湯へ――
◎
「ふぅ……良いお湯ですね」
あれだけの熱気を持つユルティム火山だったが温泉は適温のようでシィナは登山の疲れを癒す。
周りを見ればメレオレオナが酒を片手にシャーロットに絡んでいたり、ソルがノエルの髪を洗っていたりと各々好きなように過ごしており、シィナは夜空を見上げる。
(今日もいっぱい助けて貰ったけど私の中から聞こえてくる声は誰なんだろ)
度々聞こえ、日を増すごとにはっきりと聞こえるようになった女性の声。
幻聴かと思っていた時期もあったがあれほどはっきり聞こえるのが果たして幻聴なのだろうか。というより幻聴なら魔力の扱い方など教えてくれないだろう。現にそのおかげでマナスキンはマスター出来た。
「シィナ先輩っ! 何か考え事ですか?」
「いえ何でもないですよ」
上から顔を覗かせたのはフィオレナだった。
反応すればシィナの隣に座り、その視線はシィナの胸へと注がれる。
「……?」
「女湯にいるみなさんホントにおっぱいおっきくてアタシぺったんこだから困ってたんですけどシィナ先輩には親近感が持てます!」
「……フィーちゃんってたまにとんでもなくディスってきますよね」
周りを見てみれば確かに胸の大きい女性ばかりだ。
精霊はさておきメレオレオナやシャーロットの大人の女性は無論のこと同期であるノエルや年齢の近いソルですら大きい。対してシィナとフィオレナは見事な幼児体型のぺったんこ。
気にしていないと言えば嘘になるためにシィナは顎あたりまで湯に身を沈める。
「あって困ることはないでしょうが私たちの体格であっても身体のバランスがおかしくなりますよ」
「そうですよねー。昔同僚に貧乳って散々煽られましたけどこの方が動きやすいですし!」
「んにゃ~まあ考え方はそれぞれだよねぇ~」
「あ、トゥルーさん」
湯面に浮かびながら流れてきたのは最近キリヤと契約したケット・シーのトゥルー。
大人びた女性の姿をしていて胸もまた豊満。巨乳は浮くと聞いてはいたがもはや身体すらも浮いてしまっているというのか。
こうしてまともに話すのは初めてでもトゥルーは構わず体勢を変えてシィナ達の前で止まる。
「ねね、ボクチャンいなくて退屈だから恋バナでもしよっ」
「と、突然ですね……」
本当に突然の切り出しに驚くも相手は気紛れな猫だ。
キリヤから聞いていたが突拍子のない行動が多く、現に今がそれ。
「ボクチャンのこと好き?」
「確かに好きですけどきっと私がキリヤさんに抱いている『好き』は恋愛感情じゃないですよ」
「ほほー?」
「キリヤさんは〈碧の野薔薇〉の団員を本当の家族のように想ってくれて、血の繋がった家族と何一つ良い思い出がない私にたくさんの思い出をくれました。――だから私にとってキリヤさんは憧れで人間として好きなんですよ」
「からの~?」
「……からの、とは何でしょうか?」
「だって今のって超絶建前でしょ? ワタシそういうの見抜けるレディなのよん」
「べ、別にそれ以上の感情なんてないですから!」
やけににやにやしているトゥルーはそのままシィナに近付いてくる。
「ここだけの話にしとくからさ~?」
「ここだけが一番不味いですからね!?」
異性として好きかはともかくメレオレオナがいる手前、軽率な発言は出来ない。
というよりトゥルーに言えば絶対碌なことにならないのは目に見えている。
(あくまで友達としてですから! そんな恋愛感情なんてありませんし!)
『何はともあれ自分の心に嘘を吐くのは良くないわよ』
「ぐぬぅ……心の声さんまで」
「別に相手に好きな人がいようがいまいが好きなものを好きだって言って何が悪いの? 一度きりの人生なんだから思うように生きないと! ほらほら! ホントは~?」
「えぇ……」
「好きなの? 嫌いなの? 男として見てどっちなの?」
「……す、好きですよ。そ、その……い、異性として」
「へぇ~! いつ!? いつ好きになっちゃったの!?」
促されて言ってしまったがもうすでに後悔してしまっている。
目を爛々に輝かせて顔を近付けてくるトゥルーの表情はそれはもう楽しそうで。
しかし、促されたとはいえ白状してしまったので、
「思い返せば入団試験の時に見て一目惚れ……でしょうか」
「ボクチャン、カッコイイもんね~!」
「他言無用ですよ!? 本当にお願いしますからね!?」
「わかってるわかってる~……おーいボクチャン! シーちゃんがボクチャンのこと男として大好きなんだって~!」
「何してるんですか!? 他言無用って言った傍から何ダイレクトしちゃってるんですか!?」
「え~だって言いたくなっちゃったんだもーん!」
両肩を掴んで揺さぶればあらゆる部分が揺れるトゥルー。
その表情は何の悪びれもなく、それよりもとシィナは手を離せば、
「あのキリヤさん! 今のは――」
『オレも好きだぞシィナ!』
「えぇっ!?」
「何を騒いでるか莫迦者共」
「わーっ! 違うんです違うんですメレオレオナ様! 今のはえーっと、その、あれです!」
キリヤのことだから好きだと言っても友達としてなどだろう。
立ち上がって必死に取り繕おうとしても頭に手を置かれ、再び湯船に座らされる。
「別に構わん」
「え?」
「獅子は一匹のオスを筆頭に複数のメスが囲い群れをもって生活する。貴様が望み、あの莫迦が受け入れればそれも可能だろう」
(……ん?)
慌てていたが冷静になってみればメレオレオナの発言に違和感を覚える。
今の話、まるでメレオレオナも含められていたような、というかすでにメレオレオナはキリヤのことを受け入れているような――
「ち、ちなみになのですが……メレオレオナ様はその、キリヤさんと本気で結婚するつもりはありますか……?」
その弾みでずっと聞こうと思っていたことが思わず口から零れてしまった。
これは怒られる、と思えば案外そうでもなく、
「あの莫迦弟子に『参った』と私に言わせれば結婚でも何でもしてやると言った。正直あの莫迦の成長には驚かされる。四大精霊の三体を従え、どういうタネかは知らんが魔力だけで言えばどの団の者よりも上だ。私が『参った』と言う日も近いかもしれんな……」
(あ……)
メレオレオナが見せた不意の微笑み。
キリヤに対して明確な想いを口にはせずともその成長を心から喜び、誰よりも認めている。それ以上詮索するのは野暮だろう。
思えばメレオレオナは言葉遣いや教え方が荒いものの相手が王族だろうが貴族だろうが下民だろうが立場など構わず面倒見がよく、それは弟子であるキリヤも同じだった。
(やっぱり師匠と弟子は似る者なのでしょうか……)
納得したところでメレオレオナはシィナの目を真っ直ぐ見つめ、やがて言う。
「経緯はどうであれ貴様もノエルと同じように
「は、はい! キリヤさんのおかげで!」
「――ならば後は自らの過去を超えろ。誰かの代替品なのではなくシィナ・シュヴァルツとしての証明を貴様の強さをもって姉を超え見せつけろ」
「っ! はいっ!!」
それはきっとシィナ自身のけじめをつける瞬間だろう――