オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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68話「魂重なる光と影」

「あれは……」

 

『ベルゼヴィーヴィア……何故あんなところに』

 

 シィナとリィナの戦いを見ていれば現れたのは”吸魔の銃”。

三魔眼(サードアイ)〉との戦いで暴走したキリヤにはまだ使いこなせないと封印を余儀なくされ、その場から一時撤退していたがついに出てきてしまった。

 恐らくキリヤがエルフとして覚醒した時、シムルグやディフォーレが気付いた時にベルゼヴィーヴィアも気付いたのだろう。

 

 あらゆる魔力を吸収する、そんな能力を相手にすればシィナでもただでは済まない。

 キリヤは観戦している魔法帝ユリウスに駆け寄り、

 

「魔法帝! あれはオレの問題です! だから――」

 

「いやこれはシィナ達の戦いだ。実戦だと何が起こるか分からない。不測の事態だって当然起こり得る。その時に君はいつでもシィナの傍にいられるのかい?」

 

「それは……」

 

「違うだろう? だからこそ今あの銃を目の前にしてシィナの真価が問われる。仲間だと言うのなら時に信じることも大事だよ」

 

「……はい」

 

 すっかり言い負かされてしまい、熱を失ったキリヤはシムルグに促されて元の場へ戻る。

 するとウンディーネが魔導書から現れ、

 

「だーりん、今のシーちゃんをよく見て」

 

「……?」

 

 意図が分からないが見てみればシィナは――笑っていた。

 窮地こそ不敵に笑う、キリヤがいつもそうしているように。

 それにウンディーネの言葉の意味がようやく分かった。シィナが纏う(マナ)が今までとはどこか違う。

 

「ああ、何だ。仲良くなったのか」

 

 今まではどうか知らなかったがキリヤはそう言うと笑みを浮かべて戦況を見つめる――

 

 ◎

 

「ずぅっと不出来で! 自分じゃ何にも出来なかったくせに!」

 

「っ!」

 

 ”吸魔の銃”を出してからのリィナの猛攻にシィナは劣勢を強いられていた。

 激昂したリィナの(マナ)はどこか薄暗くおぞましいものへと変化し、黒氷魔法もより凶悪に、より鋭利なものとなっていた。

 今では”吸魔の銃”を鎧として纏い、銃剣と共に戦場には黒氷が乱れ狂う。

 

「これは”吸魔の銃”の影響なのでしょうか……?」

 

『いいえ、これはベルゼヴィーヴィアの影響ではないわ。あれは……別の影響よ』

 

 シィナの頭に直接響く女性の声。

 最初は幻聴かと思っていたが今でははっきりと意思疎通が取れ、

 

「こ、心の声さんは何か知っているのですか?」

 

『ええ。でも今は関係ないわ。眼前にいるのは敵でそれを倒す、それ以外は余計なことよ』

 

「でもやはり”吸魔の銃”は厄介ですね……」

 

 こちらが影で攻撃したところで”吸魔の銃”……もはや鎧だがその鎧に吸収されてしまう。

 どの魔法を使用しても有効なダメージは見られず、今のままでは手立てがない。

 

「シィナはね、お姉ちゃんを認めてくれてれば良いの。お姉ちゃんの言葉に頷いてくれるお人形さんで良いの。なのに! どうしてお姉ちゃんの気持ちを分かってくれないの!!」

 

「……っ!」

 

『耳を傾けては駄目よシィナ。あれはもうあなたを人間として見ていない。ただ自分を肯定してくれる愛玩動物が欲しいだけよ』

 

「分かっています。でも……」

 

 姉に良い思い出なんてない。

 だけど今の姉はどこか苦しんでいるようにも見えた。

 シィナとは違いずっと周りに期待され、重圧を負い、〈銀翼の大鷲〉に入団しても王族として日々周りに見下されないように進んできたのだろう。いつも笑っていたが、それは自らに降りかかる重圧に対する一種の現実逃避だったのかもしれない。

 

 今の言葉だって本当はリィナもシィナと同じように苦しんでいた証だろう。

 きっと誰もリィナに手を差し伸べてはくれなかったのだ。初めから強かったリィナには手を差し伸べられる者などいなかったから。肩を並べて隣に立つ者なんていなかったのだから。

 シィナにはキリヤがいた。自分を認めてくれる存在が。確かに姉よりも才能はなかったかもしれないがその分仲間に恵まれていた。

 強者故の孤独、リィナの心が軋んで悲鳴として聞こえてくる。だから――

 

「お姉様、今助けます。私の――いえ、私達の力で!」

 

『よく言ったわ。私としても倒す相手がいる……やるわよシィナ』

 

 王族として恵まれた魔力、それに加えて大気中の魔力を吸収し、自らに掛かった枷を外す。

 心の奥で枷が破壊されれば今だかつてないほどに魔力が影として溢れ出す。

 溢れ出した影は圧縮し女性を形作ってシィナの身体を抱きしめて包み込む。そして心の声の主とシィナの魂が混じり、一つに溶け合っていく。

 

 メレオレオナとキリヤのマナゾーンを参考に心の声の助言と修行もあって完成したその名は――

 魂魄同化”真影の光騎士”。

 影から解き放たれたシィナの姿は今までの幼さがあるものでもなく大人びたもので、髪色も黒のままだが前髪に白銀のメッシュが入る。

 

「何その姿……?」

 

「この姿は身体から血が噴き出るまで努力した結果です。そして私がお姉様を超えた証でもあります」

 

「王族が……努力……でも、魔力じゃこの鎧は崩せな――」

 

 今まで影が触れれば魔力を吸収していたリィナの鎧。

 だが今度だけは違った。影が触れた途端に”吸魔の銃”による鎧は剥がれ、拳銃へと姿を戻す。

 影弱体化魔法”虚栄の禊ぎ”。

 魔法であればあらゆる強化を無効化し引き剥がす上に一定時間相手の基礎能力と魔力を格段に下げる魔法。リィナが鎧を纏っていたのはあくまで魔力で鎧に変えていたため、ならばシィナの魔法でも引き剥がせる。

 

「そんな……っ! ダメ!! シィナ! シィナだけは――」

 

「ごめんなさいお姉様。私は次へ進みます」

 

 影魔法”絶影魔弾”。

 銃のように構えた右手から放たれる一閃は黒氷の壁を難なく貫けばリィナの身体ごと魔晶石(クリスタル)に叩き込み、砕き割る。

 

『第七回戦勝者はMチーム!!』

 

 過去の自分とを分かつ一撃。

 勝利を収めたシィナは天を見上げ、一度大きく息を吐いた――

 

 ◎

 

「……ん」

 

 あれから一回戦第八試合が始まって数分して救護班に運ばれたリィナは目が覚めた。

 元に戻ったシィナはすぐ傍で様子を見ていて目が合えば、リィナは自分の状態を省みて理解し、

 

「そっか、お姉ちゃん負けちゃったか」

 

「はい。今回は私の勝ちです」

 

「お姉ちゃんと違ってシィナはきちんと一人で進めてたんだね。ずっと後ろにいると思ってたのに、いつの間にか卒業されちゃってたかぁ……」

 

 きっとリィナにとってシィナは最後の頼みだったのだろう。

 自らの価値を証明してくれる存在として。唯一姉と呼んで地位も関係なく接することの出来る存在として。

 それが瓦解した――が、

 

「確かに私はお姉様を卒業しました。けど、卒業したからこそ隣に立ち共に戦うことが出来ます。お姉様は〈銀翼の大鷲〉に私を入れたいようでしたけど反対に〈碧の野薔薇〉に来ませんか? あそこなら王族だとか何だとか関係なく接することが出来ますし」

 

「ふふ……それも良いかも。ごめんねシィナ、今までずっと……」

 

 そこでリィナの言葉が途切れてしまう。

 どうやら意識を失ったようで涙を流すリィナの目元を指でそっと拭う。ようやくこれで姉妹としてのスタートを切れたのだとシィナは思う。

 一方、もう一つ終わらせなければならないことがあった。

 

『前菜のくせに! キリヤと戦う前にボコってやろうと思ったのに! もうこの女はいいモン! 別のに寄生するモン!!』

 

 リィナが持っていた”吸魔の銃”から現れたのはベルゼヴィーヴィアだった。

 悔しそうに地団太を踏み、子供のように喚きながらシィナを睨みつける。それに対し心の中の女性は苛立つような声音で、

 

『シィナ、少し変わって』

 

「は、はい。分かりました……?」

 

 変わって、の意味があまり分からずとりあえず了承するとまるで身体が操られているように動き出す。

 徐に首を掴めば顔をベルゼヴィーヴィアの間近まで近付け、

 

「――覚えておきなさい。あなたが何をしようが私には絶対に敵わない。次誰かを巻き込もうとするならば、今ここで殺すぞ」

 

『ひっ……あ、あんたまさか……』

 

 あまりの眼光に恐れをなしたのかベルゼヴィーヴィアの表情は引き攣り、同時に魔力が抜けたのか小さくなっていく。

〈金色の夜明け〉ユノが契約しているシルフほどに小さくなれば地面にへたり込んでしまう。

 

『び……』

 

「び……?」

 

『びぇえええええええええんっ!! だ、だってぇキリヤが悪いんだモン!! あたしのこと封印するなんで言うがら~っ!!』

 

「うぉっ! 何だかとんでもないことになってんな……」

 

「あ、キリヤさん」

 

 ベルゼヴィーヴィアがガチ泣きし始めたところでキリヤが現れる。

 心の声の女性も引っ込んでしまってシィナに戻っていたために泣かれると反応に困ってしまっていたが助け舟が来た。一歩下がってシィナが見守る中、キリヤはベルゼヴィーヴィアの前にしゃがみ込む。

 

「ごめんなベルゼヴィーヴィア。オレが弱かったせいでオマエを傷つけちまった」

 

『ぐす……許さないし。絶対許さないし!』

 

 子供のように拗ねたベルゼヴィーヴィアはそっぽを向くもキリヤはその小さな体躯を掌に乗せる。

 

「もう一度だけオレにチャンスをくれないか? 都合のイイこと言ってるってのは分かってる。だけどもう一回だけ今のオレを信じてくれないか」

 

 キリヤの言葉にベルゼヴィーヴィアはそっぽを向きながらも考える素振りを見せる。

 やがて振り向き、

 

『……確かに魔力も上がってるし強くなってるみたいだけど、もうあたしのこと放っておかない?』

 

「ああ!」

 

『あたしも友達?』

 

「オマエがそう思ってくれるなら!」

 

『……じゃあ戻る!』

 

 今まで泣いて拗ねていたのが嘘のようにキリヤの肩に乗ると頬にちゅっちゅとキスし始めたかと思えば”吸魔の銃”はキリヤの魔導書に戻り、黒く染まっていたページが再び復活する。

 ベルゼヴィーヴィアの件も無事に解決すればキリヤはシィナに手を向け、

 

「シィナ、ほれ」

 

「はいっ!」

 

 差し出された手にシィナも快活に返事をしてハイタッチを交わす。

 タッチし終えればシィナはふと考え、やがてキリヤに身を預けて抱きつく。

 

「ん、どうした?」

 

「いえ、フィーちゃんがいつもこうしていたのを見ていたので……その、あれです。何となくです」

 

「そっか」

 

 曖昧な理由でもキリヤはシィナを受け入れて、フィオレナにしていたように頭を撫でてくれる。

 鍛えられているせいか妙に安心出来てしまって、安心からか少し手が震えてしまう。

 

「頑張ったな。姉にも勝ったし自分の限界も超えてたじゃねえか」

 

「……はいっ。でも流石に同じチームの二人が気絶したままなので二回戦は棄権になりますけど」

 

「マジか」

 

「大マジです」 

 

 思わず笑いが零れてしまって、キリヤも驚きながらも笑い、そんなことをしているうちに一回戦最終第八試合はユノのチームが勝利して幕を閉じていた――

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