オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

7 / 72
6話「試験結果と新たな生活」

「――以上で試験は終わりだ。では、番号を呼ばれた受験生は前に出て来てくれ。その受験生の入団を望む団長は挙手し、その挙手した団に入団するか否か。また挙手したのが複数の団の場合、どの団を選ぶかは受験生の自由だ」

 

 ――ただ挙手がない場合は魔法騎士団には入れない。

 念押しされるように言われ、一番から順番に呼ばれ、一喜一憂していく。

 だがキリヤには一つ問題があった。

 

(番号って……オレ、何番!?)

 

 受験票は予め渡されていたが確かに数字らしき番号が書かれている。

 しかし、悲しいことにキリヤは文字や数字が読めない。

 緊張しているアスタには悪いので涼しい顔をしているユノに聞いてみることに。

 

「な、なあユノ」

 

「……?」

 

「悪いんだけどオレ何番? オレ文字とか数字とか読めなくて……」

 

 それでよくやってこれたな、と言った表情をされてしまうが仕方ない。

 仕方なさそうにユノはキリヤの受験番号を見ると、

 

「一六六番、だからアスタの後」

 

「マジで! ありがとな!」

 

 何とも緊張感のないが何とか番号を覚えられたのでキリヤはうきうきとした気分で手の上の魔力で暇潰しし始める。

 するとしばらく経ってユノの番がやってきた。

 ざわめく受験生の中を進み、指定された場所に立てば団長は一気に手を挙げていく。

 それも一つや二つではなく――全ての団。

 

「……マジ、かよ……」

 

 これには受験生達からも驚きの声が次々と聞こえ、キリヤも「おー」と言葉を漏らす。

 

「〈金色の夜明け〉団でお願いします」

 

 キリヤの知るところではないが魔法帝になる最短で最善の道。

 ユノはそれを思慮し〈金色の夜明け〉団を選択してアスタの番がやってくる。

 だが――アスタを選ぶ団はどこもなかった。

 

「結局、魔法騎士に求められんのは高い戦闘能力でも得体の知れねぇ力でもなく――魔力だ」

 

 席から立ち上がったヤミから放たれた魔力。

 その魔力は受験生達に悪寒を走らせるには充分であり、キリヤもヤミに少しだけメレオレオナに近しいものを感じるほど。つまり魔法騎士団団長とはそれほどの器なのだ。

 

「魔力がないオマエを欲しがる団はない。この現実を前にしてまだ魔法帝になるとほざけるのか?」

 

 アスタの目の前に降り立ったヤミは圧倒的な魔力を放ちながら威圧する。

 魔力のせいでアスタにはきっとヤミの体躯が何倍にも膨れ上がって見えるだろう。

 普通の人間なら諦めるだろう――だがアスタは違う。

 

「――ここで魔法騎士団に入れなくたって、何度コケたって、誰に何と言われたって。オレはいつか魔法帝になってみせます!」

 

 その言葉にユノもキリヤも笑い――ヤミも笑った。

 

「オマエ面白いな。〈黒の暴牛(ウチの団)〉に来い――拒否権はないがな。クソボロになるほど散々な目に遭わせてやるから覚悟しろ」

 

「えええぇえ!!」

 

「そしていつか――魔法帝になってみせろ」

 

「はいっ!!」

 

(やっぱり皆言うから正しいってのは違うな)

 

 魔力がなくてもアスタを受け入れたヤミを見てキリヤはヤミが言われていたほど悪い人間には見えなかった。

 見た目ばかりで本質を見抜けないのは本当の愚か者で救いようのない莫迦者だ。

 かつてメレオレオナが言っていた言葉はまさにその通りだった。

 

「じゃあ次が差し支えてっからそろそろ下がれ」

 

「うっす!!」

 

 言われてアスタは戻ってきて、ヤミも席に戻る。

 キリヤはまるで我が事のようににこっと笑えばアスタを迎え、

 

「良かったなアスタ」

 

「ああ! 次はオマエの番だろ?」

 

「おう」

 

 番号を呼ばれキリヤは前に出る。

 他人の心配などしている場合ではなく、やりたい放題やってしまったため終わったかと思えば――

 

「嘘だろ……また全団挙手してる……っ!」

 

 ユノに引き続いてキリヤの番でさえ全ての団は手を挙げていた。

 他の会話を聞いていれば〈金色の夜明け〉団は貴族の中でも特にエリートでしか入れないと聞いていたが存外入れるもののようだ。

 だが、ここで二つ目の問題が発生――

 

(レオナ様に勧められた団ってどれだっけ……)

 

 社会見学以降魔法騎士団の話をすることがなく、ただでさえ最初からうろ覚えだったにも関わらず日々ハード過ぎる修行で完全に忘れてしまった。

 消去法で行こうにも今回に限って全ての団が手を挙げてしまっている。そしてあまり待たせるわけには行かない。

 

(確かヤミ様のところが〈黒の暴牛〉、ヴァン何ちゃら様のところが〈金色の夜明け〉……となればあと七つ!)

 

 左から余っているのは寝ている人、縦に細長い人、兜を被った如何にも美人な人、前髪がヤバイ人、額にダイヤのマークがある人、もっさりした髪の人、この中から選ばなければならない。

 

(こんなんだったら遊ばずに他の人の結果聞いとけば良かった! 多分一回ぐらいその団の名前出てただろ!)

 

 と、後悔するも必死に思考を回して――

 

(レオナ様との共通点を探せばいいのでは!? ということは女性だ! 寝てる人は女性なのか分からないけどこれなら答えは一つ――)

 

「兜被った如何にも美人な人のところでお願いしますっ!」

 

『一六六番――〈碧の野薔薇〉』

 

「…………マジですか」

 

 賭けに出た結果これは完全に違う名前だと分かり、キリヤはやらかした――

 

 ◎

 

『莫迦弟子はどうだった?』

 

「はい、姉上が育て上げただけあって群を抜いていました」

 

 魔法騎士団入団試験は終了し、報告のためにフエゴレオンは通信魔道具でメレオレオナに報告していた。

 フエゴレオンが褒めるとメレオレオナはさぞ上機嫌に鼻で笑う。

 

『ハッ! そうだろうな』

 

「――が」

 

『が……何だ?』

 

「その、非常に申し上げにくいのですが……」

 

『無駄に遠回しにするな。さっさと言わんか』

 

 急に歯切れの悪くなるフエゴレオンにメレオレオナからも怪訝な声音が聞こえてくる。

 正直言いたくはないところだが――

 

「全ての団が手を挙げたのですが――彼が選んだのは〈碧の野薔薇〉でした……あの時の様子から恐らく〈紅蓮の獅子王〉含めてまるで団の名前を把握してなかったのかと」

 

『フフ……ハハハハハハハハハっ!! そういえば教え忘れていたな!!』

 

 てっきり『何をしとるかあの莫迦弟子はァアアアアアア!!』と怒るとばかり思っていたがどうもそこまで機嫌を損ねていないらしい。というよりこれほど上機嫌なのは初めてなほどだ。

 

「姉上はキリヤスフィールを〈紅蓮の獅子王〉に入れたかったのでは?」

 

『最初はそうだった。アイツは実力こそあれど何せ精神的に幼い。だから貴様のところで精神を鍛えさせようと思ったが〈碧の野薔薇〉もアイツにとっては精神的に成長出来る場になるか』

 

「確かにあの団は女尊男卑の思考が強いところです。男であるならば真っ先に避ける団かと思いますが――」

 

『何だかんだで上手くやりそうだがな。まあいつか私を超えると言ったのだ。〈碧の野薔薇〉の女などに屈服するなどありえん』

 

「ところで姉上、聞きたいことがあるのですが」

 

『何だ言ってみろ』

 

「本当にキリヤスフィールを谷底に落としたのですか……?」

 

『ああ、修行の一環でな。レオとは違い自力で這い上がってきたぞ』

 

「……いやいや、あの頃のレオは三歳ですし」

 

 本当に過剰スパルタなメレオレオナにフエゴレオンはただ言葉を失った――

 

 ◎

 

(うわー……静か……)

 

 魔法騎士団入団試験を終え、団に選ばれた者はそれぞれ拠点となる場所へ案内される。

 キリヤが入団してしまった〈碧の野薔薇〉はどうにも女性が多いらしい。すでに兜被った美人な人の隣にはキリヤよりも身長が高い褐色肌の少女。

 もう一人はキリヤの隣に黒い髪をボブほどの長さにし、割と小柄で可愛らしい少女。キリヤと同じく新入団員として並んで歩いている。

 とにかく静かな雰囲気はいつもメレオレオナと騒がしい日々を送っていたキリヤにとってつらいものだった。

 

(……ん?)

 

 早くもメレオレオナが恋しくなってきたキリヤだが先ほどから視線を感じる。

 見れば隣を歩く黒髪の少女からで、キリヤは目を合わせると。

 

「何か用?」

 

「私はシィナっていいます。あ、あなたの名前教えて貰っていいですか?」

 

 突然の自己紹介。

 何故か少し顔を赤らめて恥ずかしがっている少女――シィナに名前を求められれば『そういえば団長と付き人の名前しか聞いてなかったな』と改めて、

 

「オレはキリヤスフィール・フィン・ガルガン。長いからキリヤでいいよ」

 

「キリヤさん……よろしくお願いします!」

 

「そんな畏まらなくても、同期なんだしもっと気楽で――」

 

「ちぇいさーっ!!」

 

「あいだっ!?」

 

 シィナが握手のために手を伸ばしてきたのでこちらも手を出すと褐色肌の少女がそれを手刀で阻止する。

 握手を弾かれたキリヤは不満げな表情で、

 

「何だよ、えーっと……サン・マカロンだっけ?」

 

「ソル・マロンだ! 何て適当な覚え方してんだ!」

 

 男勝りな口調で手刀を構えているのは付き人のソルだった。

 褐色肌に黒の短髪、高身長と男のような要素を多く感じるが胸もなかなかに大きく、細身で肉体美はきちんと持っている。あと着ている服装も露出が多い。

 

「で、何でオレ手刀喰らったの? これから数少ない同期と絆を深めようとしてたんだけど……」

 

「あのな新人、ここは〈碧の野薔薇〉だぞ! 男はパシリが当たり前で女に触れるなんて言語道断なんだぞ!」

 

「姫様ー、何で姫様って兜被ってるんですか?」

 

「うぉい! 姐さんに何気安く話かけてんだーっ! てか姫様って呼……ありだな」

 

「……ありなんだ」

 

「二人共、私のことは団長と呼べ」

 

「すみません姐さん!」

「サーセン姫様!」

 

 一向に反省する素振りを見せないソルとキリヤ。

 二人の態度に呆れるしかない〈碧の野薔薇〉団長――シャーロット・ローズレイ。

 だが結局キリヤはシャーロットの兜が気になるのか、

 

「姫様の兜何か尖ってるんですけどまさか……姫様の頭って尖ってるんじゃ――」

 

「そんなわけないだろ! あれはそういう装飾なんだよ!」

 

 ぱしーんと頭をソルに叩かれるがキリヤはふとシャーロットと目を合わせると――兜の尖った部分をまるで白刃取りするように両手を合わせてすぽんと取ってしまう。

 

「尖ってない、だと……」

 

「反対に何故尖っていると思った?」

 

 冷ややかな目で見られるがシャーロットの頭は当然尖っているはずもなく、兜からあまり見えなかったが綺麗な髪をしていた。後ろで団子状にまとめた髪を三つ編みした髪で束ねており、ほどけば元々は長髪なのだろう。

 メレオレオナとはまた違った『美しさ』を持っている、そう思いながら取った兜を被る。

 

「あーっ! 何で被ったオマエーっ!!」

 

「何か、ノリで?」

 

「疑問を疑問で返すな! 私だって姐さんの兜被ったことないのに!」

 

「二人共つまらんことで言い争うな」

 

「アッタマ来た!! オマエのパシリランクは私が決めてやる!!」

 

 何だかよく分からないワードが出てきたがソルはやる気満々。シャーロットの言葉すら無視してキリヤに指を差す。

 

「パシリランク……?」

 

 あまり分からないがとにかく入団して早々大変なことに巻き込まれているのは確かだった――

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。