オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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69話「独創VS創造」

 二回戦はまさに波乱だった。

 一試合目アスタのチームは〈珊瑚の孔雀〉副団長キルシュのチームに勝利するも問題は二試合目。

〈黒の暴牛〉フィンラルのチームとその弟である〈金色の夜明け〉副団長ランギルスのチームの戦いではフィンラルが新たな魔法を見せるもランギルスはそれを上回る禍々しい魔力と共に勝利する。

 

 だが試合が終わってもランギルスはフィンラルを殺そうとし、それを止める〈黒の暴牛〉の面々。

 そして急遽アスタチームとランギルスチームによる試合が行われることとなり、傍目から見てもそれは試合と呼べるものではなかった。

 ザクスが放つ渾身の灰魔法によるカウンターでさえランギルスを捉えることは出来ず、その反動で動けなくなったザクスを(アンチ)魔法を全身に張り巡らせたアスタが守る。

 

 魔力の高い貴族の中でも特に恵まれた強い魔力を持つランギルス。彼にとっては下民や平民――選ばれなかった者が選ばれた者と同じ舞台に立とうとするのを忌み嫌い、それでもアスタは言葉を受け止めながらも返す。

 

「特別なオマエらに別に好きになって欲しいワケじゃねー……ただ、理不尽に奪うなよ。オレ達は特別なオマエらとみんなを守るために、競い合って高め合うために、一緒に戦うために――強くなってここまで来たんだ」

 

 下民も平民も貴族も王族も関係ない。

 魔法騎士団に入って権力を笠に誰かを傷つけるのではなく、ただ助けを求める誰かを守るために。

 そんな当たり前のことを言っているだけなのにランギルスはそれを認めない。

 ――ブラックメテオライト。

 剣がランギルスの身体を捉えればその黒き一閃で魔晶石(クリスタル)をも砕く。

 しかし、同時にアスタチームの魔晶石(クリスタル)もランギルスの魔法で砕かれ、それにより引き分け。つまりこの場では両方敗者となってしまう。

 

「……キリヤ、次は私達の出番よ」

 

「ああ。次は団長相手だ」

 

「き、緊張して声がふりゅえてきます……っ」

 

 アスタとは一度戦いと思っていたがこうなってしまっては仕方がない。

 メガネに声を掛けられれば改めてキリヤも気合いを入れ直し、バトルフィールドへ向かっていく――

 

 ◎

 

『それでは気を取り直して二回戦第三試合を行います!』

 

『あたしあたし! あたしがやる!』

 

『さっきはサラマンダーがやったんだし今度はあーしの番!』

 

「落ち着いてくれ皆。テンション上がるのは分かるけどこれはチーム戦だからな」

 

 いつもなら突撃してその場で対応していくが今はチーム戦だ。

 相手は団長ともありしかも一回戦の戦いを見ていれば苦戦することに違いはない。

 

「私達は変わらずアナタのサポートをする。だけど相手は〈水色の幻鹿〉団長……絵画魔法は相手の弱点を突いてくる。その攻略をしないと」

 

「それならボクチャン、ワタシにイイ考えがあるよ」

 

「マジ?」

 

「うんうん、マジマジ」

 

 そう言って魔導書から出てきたトゥルーはキリヤに近付くと耳打ちしてくる。

 その作戦は意外と単純だがよくよく考えれば浮かばない方がおかしく、しかしそれを本当に実行して良いのだろうか。

 迷うキリヤにトゥルーは笑い、

 

「もうボクチャンってば急に真面目になっちゃって! でもこの試験は全力を出すんでしょ? だったら別にイイと思うにゃ~ん。大体相手のダンチョーサンも真っ向勝負って魔法じゃないしぃ?」

 

「うーんそれ言っちゃうとな確かにってなる」

 

『キリヤ、私も今は勝つことを重視した方が良いと思います。私の息子が最強なのだと証明したいので』

 

『出た親バカ! いつの間に母親になってんのよシムルグ!』

 

『あなたがいなくなっているうちにですよベルゼヴィーヴィア』

 

 アルーグの時からの仲とあってかシムルグとベルゼヴィーヴィアは面識があったようだ。

 ともあれ、すでに戦闘は開始されている。あまり悠長なことは言っていられず、

 

「じゃあ今回はオレ一人で魔晶石(クリスタル)壊しに行くからメガネとビスは自軍の守っててくれ」

 

 キリヤの言葉にメガネもビスも頷けばキリヤはトゥルーと共にシムルグの背に乗ってその場から飛び立つ。

 瞬く間に相手チームの魔晶石(クリスタル)を視界に収め、

 

「よし行くぜサキムニ! 力を貸してくれ!」

 

『うン!』

 

 身体進化魔法”兎々戦の勝鎧(レベル28・ビビットアーマヴィクトリー)”。

 有利な属性を突かれると言うのならあえて無属性のまま行く。シムルグからトゥルーを抱えて飛び降りればそのまま一直線に蹴りを放つ。

 

「あふふふ! さあ今回もイイ一枚を描こう!」

 

 絵画魔法によって描かれ顕現した巨人の拳がキリヤの蹴りと真っ向から衝突する。

 しかし威力を相殺するために放たれたものではなくキリヤの蹴りは衝撃を吸収され、そのまま拘束されそうになるも魔力吸収で絵画魔法から魔力を奪い、ただの絵の具へと変える。

 

「あっぶね、下手すりゃ今ので詰んでたな」

 

「まだまだ行くよ~っ!」

 

 キリヤが鎧を解除し、リルが絵画魔法のために扱う筆とパレットを構えた途端――

 

「今だよねっ!」

 

 猫精霊魔法”悪戯猫の取替えっこ(キャットチェンジトリック)”。

 魔法が発動すればトゥルーが地面から拾っていた石二つとリルの筆とパレットが強制的に転移、それぞれの手元に交換させられてしまう。

 絵画魔法は筆とパレットさえ取ってしまえばこちらのものだ。

 こうしてトゥルーが狙っていた展開になるも、

 

「大丈夫! こんな時のために予備を持ってるからねっ!」

 

「あちゃー……そりゃそっか」

 

『あんたの作戦何の意味もないじゃないの!』

 

「いやウンディーネ、これはイイかもしれねーぞ!」

 

『え?』

 

 筆とパレットをトゥルーから受け取ったキリヤは一つ思いついて笑みを浮かべる。

 

「トゥルーっ! オマエの魔法で絵画魔法再現出来るか!?」

 

「一応出来るけど……」

 

『だーりんまさか……』

 

「行くぜ団長さん! オレとお絵かきで全力勝負しようぜ!!」

 

 その言葉に対戦相手のリルも驚かされる。

 結局、何だかんだ策を練ったところでキリヤの性分は変えられない。それにここまで団長と真っ向勝負が出来る機会などないだろう。

 ならばこの機会に己の全力をぶつける。相手も全力を見せる。その上で――勝つ。

 

「もう仕方ないよね!」

 

 猫精霊魔法”鏡写しのチェシャ猫”。

 一枚の鏡がキリヤとリルを写せばキリヤのメモ帳サイズの魔導書に光が覆って陽炎のように揺らめき、リルのものと形状を似せる。

 

「これで一定時間の間ボクチャンも絵画魔法使えるけど、その間身体進化魔法は使えないよ!」

 

「ありがとう!」

 

 絵なんて今までまともに描いたことなどないがこんなのは感覚だろう。

 筆を宙に走らせれば筆から離れた絵の具がどんどん新たな形を創っていけばよく分からない四足歩行の獣らしきものが地面に着地する。

 

「よし出来た!」

 

「ボクチャン絵下手っ! 何それ!?」

 

「カッコイイだろ!」

 

「あふふ! だったらこっちも負けないよっ!」

 

 犬とも猫とも見える四足歩行の獣はリルに向けて走り出し、リルまた動物を描けば二つの動物は互いの中央で激突。そして相殺してしまえば絵の具が散らばって地面を彩りさらなる様相を見せる。

 

「落ちた絵の具が新しい絵を創ってる……いいよいいよっ! あふふふっ!」

 

「あははは! 絵描くの初めてだけど楽しいなコレ!!」

 

 そこから始まる二人の世界。

 巨人が現れればその首元に噛み付く怪獣が現れ、巨大な蛇が現れれば笛を吹く男が現れる。

 あまりに突発的で、あまりにも現実離れした光景に見ていた魔法騎士達も呆気に取られ、もはやそれは戦闘と呼べるものではなかった。

 互いの創造性をひたすらにぶつけ合い、二人が生み出した芸術は止まらない。

 誰に理解されるわけでもないがただ楽しいと思えた。

 

「二人で描こう最高の一枚を!!」

 

「イイなそれ! よぉしオレのとっておきを見せてやるっ!」

 

 エルフとして覚醒し魔力を爆発的に上昇させればキリヤが身に纏う魔力は段違いのものとなる――

 

 ◎

 

 リルは昔、誰にも理解されずにいた。

 魔導書を授与され、好きな絵を描いていただけなのに周りはリルを恐れ、誰もがリルから筆を奪おうとした。

 周りが拒絶するならばもうこちらも拒絶する。

 そのつもりで絵を描き、苦悩に満ちていたリルを救ったのは執事のじいやだった。

 大き過ぎる才能は他者に理解されないもの、だがじいやは思い切り魔法を震えるキャンパスを教えてくれた。それこそが魔法騎士団だった。

 

 ――最高の一枚を描くために。

 そのためにリルは魔法騎士団に入団し最少年齢で団長となった。

 そして今とうとう目の前に全力をぶつけても良い相手が現れた。

 まさか相手の魔法を使えてしまうとは思ってもいなかったが人生で初めて自分と同じ絵画魔法を使う相手。どれだけ描いてもそれと同等か、またはそれ以上で返してくる。

 

(最高だよ、最高だよじいや! ようやくじいやに最高の一枚を見せられそうだ!)

 

 相手――キリヤの魔力は爆発的に膨れ上がり、今では団長の自分すらも凌ぐほど。

 全力を出してもまだ足りないほどに相手は強い。今まで他の団長と出会ってその力を見てきたが魔力を見ただけでそう思えたのは初めてで、同時に気分は最高潮に高揚する。

 

「これがオレのとっておきだァ!!」

 

 キリヤが描いたのは今までにないほどはっきりとした女性の巨人だった。

 しかもそれはリルも見たことがある女性だ。はっきりと会ったのは功績発表の時だがあの荒々しく燃える炎のよな魔力は一度見ただけで記憶に深く刻まれる。

 ――メレオレオナ。

 きっとキリヤが一番大好きなものを描いたのだろう。これまでにないほど圧倒的な愛情と魔力が込められた作品はまさに最高の一枚を描くのに相応しい。

 

「あふふふふふふふふふふっ!! だったら僕もいっちばん好きなものを描くよ!!」

 

 あの時、周りのことすら理解しようとしなかったリルを”人間”にしてくれた大恩人。

 誰よりも好きなじいやを描き、対抗するに足りない魔力は地面に散らばったリルとキリヤの魔力の残滓を吸い上げ、魔力を得る度に筋骨隆々な姿となっていく。

 互いに向き合った巨人が拳を構え、放ったのは同時だった。

 

 絵画魔法”アモーレじいやの救手”。

 絵画魔法”女獅子の灼熱鉄拳(メレオレオナ・カリドゥス・インパクト)”。

 

 二つの拳がぶつかり合えば今までにないほどの衝撃でバトルフィールドごと粉塵が巻き上がる――

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