オレが愛した女は過剰スパルタアネゴレオン   作:ホスパッチ

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第1章〜初任務編〜
7話「パシリランク決定戦」


「……で、拠点着いて早々何なのこれ?」

 

 場所は〈碧の野薔薇〉拠点の前、何人もの魔道士によって半球状に張られた魔法防護壁の中にキリヤは入れられていた。

 眼前にはソルがいて腕を組んで雄々しく立っていた。

 事情を聞こうと素直に問いかければソルが腕を組んだまま答える。

 

「〈碧の野薔薇〉に入った男は必ず通る通過儀式だ! 私に負ければオマエは一生〈碧の野薔薇〉のパシリ! もし勝つことが出来たらパシリは免除で寝床も拠点の中にしてやる!」

 

「だ、団長でもないのに何てルールを敷きやがる……」

 

 こんな暴挙許されるのかと思いながら防護壁外にいるシャーロットを一瞥するが何も口出しすることはない。

 どうにもこの通過儀礼はシャーロット黙認の下で行われているようだ。

 というより――

 

「質問っ!」

 

「認めてやるっ!」

 

「負けたらどこで寝泊りするんですか!?」

 

「そこに小屋があるだろ! そこだ!」

 

「うわちっさ!!」

 

 荘厳な城のような拠点の隣にあったのはこれでもかというぐらい小さな小屋。

 まさか今まで来た男全員あの小屋にブチ込まれたかと思えば「ひぃーやべぇ」と素直に声が出る。

 

「でも勝てば文句ないんだよな!」

 

「勝てたらの話だけどな!! てゆーかオマエいつまで姐さんの兜被ってんだ!! 返せ!!」

 

「そっちが勝ったら返すよ!!」

 

 キリヤは今でもシャーロットの兜を被っていて、構えを見せる。

 ソルもその構えに合わせて魔導書(グリモワール)を開き、構えれば様子を見ていたシャーロットが口を開く。

 

「改めて貴様の実力を見せてもらうぞ」

 

「よぉし、やってや――」

 

「姐さんに二度と近付けさせないぞ!」

 

 土創成魔法”暴れ地母神”。

 魔導書が輝けばソルを中心に地面は隆起し、やがて大まかに人の形を成していく。

 ゴーレム、そう言うのが正しいのか。四、五メートルはあろう巨体にソルは乗ってキリヤを見下ろす。

 

「せめて最後まで言わせろよ!」

 

「うっさい! 潰れろ!!」

 

 始めの合図もなしに駆けて来るゴーレム。

 確かに実戦において『よーいドン!』などあるはずもない。

 ゴーレムが踏み込んだだけで地面は震え、だが見たところ速度は大したものではなく緩慢な動きで拳を振り上げる。

 

「おっせぇ!!」

 

 拳を引いたところでキリヤは胸ポケットから自らの魔導書を取り出し、そのまま地を蹴る。

 爆発的な初速。ゴーレムが引いた拳に自らの拳をぶつけ、着地と同時に次はゴーレムの片足へ蹴りを放つ。

 

「そんな攻撃……ッ!?」

 

 弾かれ体勢を崩したもののソルはすぐさま第二撃を放とうとする。

 しかし、ゴーレムは指示した動きについてこない――瞬間、キリヤに殴りつけられたゴーレムの拳は音を立てて崩れる。

 

「あれ、何で……魔力が回らない!?」

 

 蹴られたゴーレムの片足もまた魔力が回らなくなったのか巨体は大きくバランスを崩し、転倒。

 大きな砂埃を上げる中、地面に着地したソルの眼前にはすでにキリヤが迫っており――

 

「どうした、それで終わりか?」

 

「そんなわけないだろ! 土創成魔法”土弾連射(どだんれんしゃ)”!!」

 

 ソルが後退すればその背後の土が天に向かって捻り上がり、いくつも砲台が出現。その照準は全てキリヤに向けられ、一斉に魔力弾と土の弾丸が降り注ぐ。

 

「そうでなくっちゃなァ!!」

 

 構えた拳を一斉に振るえば魔力弾も土の弾も消え去り、キリヤは嬉々として目を輝かせる。

 

「よっしゃ次ィ!!」

 

「土魔法”土穴地獄(どけつじごく)”!!」

 

 ソルの魔導書がまた輝きを見せたかと思えば不意にキリヤが立っていた足下が柔くなる。

 まるで一気に耕されたような。その感触を例える暇もなく地面は二つに割れキリヤは浮遊感に襲われる。

 

「うぉっ!?」

 

「もらったァ!!」

 

 落ちるキリヤに再びゴーレムを出したソルはその巨大な拳を振り下ろす。

 一見逃げ場のない攻撃。だがこんなことはメレオレオナとの修行では基本だ。

 だから恐れもしないし、むしろキリヤは不敵に笑って――

 

「もっと本気で打ってくれてもいいんだぞ!!」

 

 足下の魔力放出を強化。

 修行期間に学んだことだが一定以上足下に放出すれば例え空中だろうが足場を創り出すことが出来る。

 これもまた基本の一つであり、拳を真っ向からゴーレムの拳にぶつけ跳ね返す。

 

「さて次は何を見せてくれるんだ!?」

 

 奈落の底などすでに見慣れている。

 修行の時は魔力形状変化によって戻って来いと言われたが今は違う。すでに飛行魔法を覚えている。

 空中で加速したキリヤはすぐさま地上に戻り、ソルから一定距離を取って手招きする。

 

「く……っ! 男のくせにやるな!」

 

 すでに今出しているゴーレムでは通用しないことは分かったのかソルはゴーレムから降りると自らの魔導書を手に取る。

 

「これ使うと魔力消費がとんでもないけど……オマエをブッ飛ばす!! 土創成魔法”暴れ地母神の超拳骨”!!」

 

 魔導書が一際大きな輝きを見せたかと思えばソルは拳を地面に叩き込む。

 ゴーレムが走っていた時よりも遥かに強い揺れが起こったかと思えば今までにないほど大きく地面が脈動し、隆起していく。

 

「へぇ……」

 

 キリヤは思わず感心の声を上げる。

 一気に大きくなっていく土の塊はゴーレムとなり、その右拳はキリヤが見上げてもまだ足りないほどで防護壁のギリギリまで膨れ上がればとてつもなく巨大な拳となる。

 

「これが私の全力だッ! さっきみたいに受け止められるか!!」

 

「よっしゃ上等だァ!!」

(まだ"戦竜の腕鱗(レベル1・プルガトリトン)"には足りねえな……)

 

 これまでの戦いでまだキリヤの魔法を満たすには足りていない。このままなら力負けする可能性もあるがキリヤは不敵に笑う。

 

「だったらァ!!」

 

 ただただ魔力をぶつけてやればいい。

 それが全力を見せたソルに対してこちらも全力を見せる。そうでなければ礼儀知らずもいいところだ。

 ゴーレムは足を開き緩慢な動きで巨大過ぎる拳を振るい、対しキリヤも魔力で拳を覆って握り締める。

 思い切り腰を捻って拳を大きく下げ、真正面から思い切り打ち込む。

 

「まだまだァ!!」

 

 一撃では終わらない。二撃、三撃、瞬きする暇もなく回数を重ね、正面から何度も打ちつける。

 速く、鋭く、重く、相手を圧倒し、完全な敗北を知らしめるには真正面からしかない。

 

「だらァッ!!」

 

 打ち込み続けたキリヤの拳はゴーレムの拳に(ヒビ)を作り出し、やがてその腕自体を吹っ飛ばす。

 脆く崩れ去るゴーレムに呆気に取られたソルの思考は一瞬真っ白と化しただろう。

 その隙を逃がすわけもなく、キリヤは即座にソルとの距離を詰める。

 

「――オレの勝ちだな」

 

「あっ……」

 

 魔力不足でゴーレムから落ちそうになるソルの身体を支えて無事に着地させる。

 これは殺し合いではないのだからこの程度で充分だろう。すでにソルの身に纏われていた戦闘に対する意識も薄れているのを感じ、キリヤはにこりと笑む。

 

「これでパシリ免除だよな?」

 

「くっそぅ……」

 

 防護壁が解除され、周りも終わったことを認知しただろう。

 だが――

 

「ソルちゃんが負けるなんてありえない!!」

 

「何か卑怯な手でも使ったんでしょ!!」

 

 そんな非難の声がキリヤへ向けられる。

 キリヤの知るところではないがソルは〈碧の野薔薇〉でも実力者の一人で、それなのにここの女魔道士が忌み嫌う『男』に負けてしまったのだから納得出来ないのも無理はない。

 一方、外野とは違ってソル自身不満げながらも負けを認めているようで口を一文字に結んでいる。

 

(この空気だと勝っても小屋暮らしだったかなぁ……)

 

 さてどうするか、キリヤがこの状況をどう打破するか考えていると――

 

「――見苦しいぞ貴様ら」

 

 好き放題野次を飛ばす外野の魔道士達を黙らせたのは以外にもシャーロットだった。

 

「今の戦いを見て本当に卑怯な手を使っていたと思うならばここへ降りてキリヤスフィールと戦い、自分自身で感じてみろ」

 

 その一言で一斉に外野の女魔道士達は黙り込んでしまう。

 

「外から物を言うのは簡単だ。しかし、戦いもせずただ卑怯だ何だと野次を飛ばすのは勝者の顔に泥を塗り、さらに正々堂々と戦い負けたソルへの侮辱となる……そんなことも分からないのか?」

 

 一睨み利かせれば女魔道士達は一斉に萎縮し、申し訳なさそうに一歩退く。

 構わずシャーロットが手を出せば控えていた女魔道士が〈碧の野薔薇〉の刺繍が施された外套を二着受け取る。

 

「貴様の実力は見せて貰った――〈碧の野薔薇〉へようこそ、二人共歓迎する」

 

「え、私もよろしいのですか……?」

 

「元々先ほどの洗礼は男だけに課せられるものだ。突破した者は初めてだったがな」

 

「マジで! やったー!」

 

 キリヤは喜びながら外套を受け取ると羽織り、シィナも続くように羽織る。

 自分では見た目がどうなっているか分からないがとにかくこれで本格的に〈碧の野薔薇〉として認められ――いやあの視線の様子ではキリヤだけはまだまだ認められないようだ。

 

「キリヤスフィール、そろそろ貴様は私の兜を返せ」

 

「え、コレって貰えたって思ってましたけど!」

 

「どう捉えればそうなる」

 

 シャーロットが手を伸ばそうともキリヤはシュッシュと避けてしまい、諦めたのかシャーロットは踵を返す。

 

「ソル、魔力が回復し次第中を案内してやれ」

 

「はいっ姐さん!」

 

 まだろくに魔力も回復出来ていないがシャーロットの前では弱気になりたくないのかソルは元気良く返事してみせる。

 足早に去っていったシャーロットの後姿を眺めながらソルは一息吐く。

 

「……私もまだまだってことかぁ。くぅううう悔しいっ!! 姐さんの前でカッコ悪い真似した!!」

 

「別にカッコ悪いとは思わないけどな」

 

「うっさい! 勝ったヤツが負けたヤツに変な同情すんな!」

 

「同情してるわけじゃないけどさ。あのデッカイヤツ今日見た誰の魔法よりすごかったし!」

 

「私を受験生なんかと一緒にすんな!」

 

「あいてっ!」

 

 消耗している割にはまだ力が余っているようで脇腹を捉えたソルの拳が普通に痛い。

 軽く悶えるキリヤだが、倒れた体勢から状態を起こせばキリヤを見つめてくる。

 

「なあ」

 

「何だよ次は」

 

「オマエの魔法って何なんだ? オマエに触られた”暴れ地母神”の腕とか足動かせなくなったし」

 

「あーオレの魔法? 至極単純で今のところたった一つしかねえし」

 

 そう言ってキリヤは人差し指を立てると、

 

「オレが出来るのは魔力の吸収だけ。そんで一定以上吸収すると身体が進化(レベルアップ)してパワーアップするんだ。これがオレの身体進化(レベルアップ)魔法さ」

 

 イエイ、とキリヤはピースし「まあ」と付け足す。

 

「ソルと戦った時はそんなに魔力吸収出来なかったから無進化(レベル0)で終わったけどな」

 

「カッチーン!! キレた!! もう一回私と勝負しろ!!」

 

「ちょ、まだ魔力回復してないんだったら無理すんなよ!」

 

「あの、いつまでもここにいては話が――」

 

 立ち上がったソルは勢い良くキリヤを追いかけ始め、キリヤも逃げる。

 どうすれば良いか分からないシィナは困惑の表情を見せ、そんなこんなで一時間無駄に経過した――

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