「ココが食堂な」
「女しかいねえ!」
「ココが大浴場な。でも男のオマエは使っちゃダメだぞ」
「ええ!? じゃあオレはどこで身を清めれば!?」
「部屋にシャワーあるからそれで我慢しろ」
「大浴場の意味!」
「ココがオマエの部屋な。本来二人一組で使うんだけどオマエ男だからシィナと同じ部屋にするわけにはいかないしな」
「別にオレは気にしねえけど」
「私が気にしますから!」
メレオレオナと二年半に渡って一緒に生活してきたので女性と共に過ごすことなどどうということはないがシィナ的にはアウトらしい。
結論から言って〈碧の野薔薇〉の拠点はものすごく装飾が凝った内装になっていた。
どこに行っても薔薇が飾られ、装飾でも薔薇があってとりあえず薔薇薔薇。薔薇尽くし。あとキリヤ以外女しかいない。
案内されただけですでに一生分の薔薇と女を見た気がする。
「じゃあとりあえず自室には案内したし、任務まで自由だから」
「おう、それじゃあな!」
ソルは適当に手を振るとどこかへ去っていき、残されたキリヤとシィナ。
するとキリヤはすぐに目を輝かせ、
「なあシィナ、探検に行こうぜ!」
「え、今ソルさんから案内されましたよね?」
「やっぱり自分の足で歩いて探検する方が楽しいし、新しい発見あると思わねえか?」
「それもそうですね。一理ある気がします」
「そうと決まれば――」
「でも今日はもう遅いので明日にしませんか? 明るいうちに探検する方が何かと都合が良さそうですよ」
「そっか、じゃあおやすみ!」
「そ、即時決断ですね……」
寝ると決まればすぐにキリヤは手を振って走り出し、置いていかれたシィナは遅れて手を振るう。
ちなみにキリヤが強引にシャーロットから取った兜はそのままもはや私物化したままだった――
◎
「はーい私はプーリ・エンジェル! よろしくパンチボーイにシークレットガールっ!!」
「おうよろしく!」
翌日。
まだ友達も出来ていないのでシィナと共に食堂で朝食を食べていたキリヤの前に小太りな女性――プーリ・エンジェルが現れる。
頭は髪を団子にした団子だらけで見るからにテンションが高い。
「一緒に朝食食べて親交を深めましょうねーっ!!」
「どーぞどーそ」
言って、プーリはキリヤの対面する席に座り、自らの朝食が乗ったトレイを置く。
ブーリはそのテンションと同じく朝からガッツリ食べるタイプのようで皿の上には肉がびっしり。まあキリヤの皿も焼いた肉だらけなのだが。
「あ、プーリのローブ何か俺のと違うな」
真っ先にキリヤの目に入ったのはプーリの着ている外套。
外套はキリヤのよりも長く、また内側にはボア生地が成されていて何ともモコモコしている。
キリヤの興味が向いたのに気付いたのかプーリはボア生地を強調するように見せ、
「イイところに気が付いたわねパンチボーイ! 魔法騎士団のローブって割と改造していいのよ!」
「へぇー! じゃあオレも何か色変えたい!」
「バッド! 改造してイイとは言ったけど〈碧の野薔薇〉の基調色は守らないとね!」
二人揃って笑うがシィナはついていけていないようで、それどころか少し居心地悪そうにしている。
これはキリヤやプーリに対してではなく、周りの視線から来るものらしい。
「シィナ、あんまり視線気になるんだったら無理してオレの近くにいる必要ないぞ?」
「い、いえそういうわけでは……」
「プーリも何でオレ邪険にされてるってのに来たの?」
「簡単な話よ……私は私の見た聞いたものしか信じないの! 外聞にも左右されたくないしね! だから私は私の意思でアンタ達パンチボーイやシークレットガールと仲良くしたいって思ってるからここにいいるのよ!」
相変わらず周りの女魔道士達の視線は厳しいがどうにもプーリは周りの女魔道士と違うようだ。
声音からも嘘は感じられない。本当に本心から言っている言葉だった。
「プーリはイイヤツだな!」
「ホホホっ! 褒めたって羽根しか出ないわよ!」
「それで何でオレはパンチボーイでシィナはシークレットガールなんだ?」
「簡単よ。あ~んなデッカイゴーレム魔力纏ってシンプルな拳で砕くなんてもはやモンスターよ! おかげであの子ナチュラルに凹んでそうだったし!」
「ソルが? どー見たってそうは見えねえけど……」
見てみると少し離れたところでシャーロットが朝食をとっており、その近くに相変わらずソルは見た。
キリヤが見る限り昨日と何ら変わらないように見えるが――
「まあ女の子の心は複雑怪奇なのよ!」
「へぇー」
よく分からないがそのあたりは男のキリヤには一生分からない境地だ。
ここは先人の言葉を信じ、とりあえず頷いておく。
「それでどうして私はシークレットガールなんですか?」
「簡単よ! あなたの魔法、全く見当つかないから!」
「め、めちゃくちゃ単純でした……」
確かにキリヤも全然知らないなと思いながらその後も楽しく盛り上がりながら朝食を終えたのだった――
◎
「――で、オレがずっと気になってたのはココなんだよな」
「男性の魔道士が暮らしているという小屋、ですか?」
「うん。オレだってもしソルに負けてたらこの小屋で暮らすことになってたし、どんな
食事を終えたキリヤとシィナがやってきたのは昨日パシリランク決定戦でソルにも軽く説明されていた小屋だった。
中には男魔道士がいるらしいが見たところ――ボロい。
本当に〈碧の野薔薇〉かと疑いたくなるほどだがこれを見てもまだシィナは、
「いくら雑用を押し付けられているからといってもそこまで手荒い扱いではないはずです」
「おま、よくこのボロ小屋見てそれ言えたよね。オレこの中にまともにヒトいる気がしねえんだけど……」
だが見た目だけで憶測を語るものではない。
もしかすれば中身はすごい豪華な内装になっているかもしれないのだ。
「失礼しまァす!!」
バン、と勢い良く扉を開ければ――
「「…………」」
キリヤとシィナ揃って口を一文字に結んで黙ってしまう。
視界いっぱいに広がったのは夢もない外装見たまんまのボロ小屋の内装だったのだ。
中には男性が指で数えられるほどの人数で倒れていて、完全に干物のようになって疲労の濃さを表している。
「あ、あのー……」
「き……キミは……新入団員の子だね!?」
あれだけ干物になっていたにも関わらずキリヤの顔を見るなり活力を取り戻す。
一番にキリヤに寄って来たのは眼鏡をかけたお河童頭の如何にも生真面目そうな少年で、早速キリヤに握手を求めてくる。
「僕はテアクリン、キミより一年早くこの団に入団したんだ」
「なら先輩っスね、テアクリン先輩」
「よしてくれ。キミはあのパシリランクで勝ったのに僕は勝てずに雑用係してるんだから……」
「じゃあテアクリンで」
「て、手の平返すの早いね……」
キリヤには建前など通じないので本人が「よしてくれ」と言われれば本当にやめてしまう。
一年先輩のはずがすっかり嘗められたテアクリンはずれた眼鏡を戻し、
「でも本当に昨日はすごかったよ。ソルに勝っちゃうなんて!」
「あのソルの負けた時の顔! あれだけで酒が進むよな!!」
「……?」
どうしてソルの負けた顔で酒が進むのか、訳が分からずキリヤは首を傾げる。
メレオレオナもたまに酒を嗜むことはあったが肴は大抵干し肉で「これさえあれば酒は進む」と楽しそうに飲んでいた。とてもヒトの顔では酒は進みそうにない。
「キミは僕達の希望だよ!」
「ああ! どうかこのまま下克上してこの女尊男卑の団を変えてくれよ!!」
「…………何で?」
思わずキリヤは素で答えていた。
盛り上がっていたテアクリン含め男魔道士は一斉に呆気に取られた様子を見せる。
「そもそもさ、団っていっぱいあったけど何でテアクリンは〈碧の野薔薇〉に入ったんだ?」
「そ、それは他の団から選ばれなくて……」
「でも入らないって選択肢もあったじゃん」
「それだと駄目だったんだ。魔法騎士団に入らないと家計を支えられないし」
他の男魔道士達の反応からして事情は大体テアクリンと同じらしい。
そのことを聞けばキリヤは率直に、
「なら仕方なくね?」
首を傾げながら「何言ってんの?」と言いたげな表情を浮かべた。
これにはシィナも同じ気持ちのようで、
「自らの選択で選んだのですからキリヤさんの言う通り仕方のないことですよ。それに文句があるならば最初に勝てば良かったんです」
「お、女だからって何もせずに楽々パシリコース逃れた奴に言われたくねえよ!!」
怒鳴りつける男魔道士。きっとこの言葉はシィナが新人だからこそ言えた言葉で恐らく今拠点の中にいる別の女魔道士には言えないのだろう。
キリヤはシィナを手で制止しつつ、素直な疑問をぶつけていく。
「悔しいって思ってる?」
「そ、そりゃあ思ってるよ!」
「勝てるまで挑めばいいじゃん」
「……そんな簡単な話じゃないよ。あいつら、パシリランク決定の時は必ず中級以上の魔道士と戦わせるから勝てないに決まってるよ」
「だったら何で勝つために努力しないの?」
「だって努力したって勝てないじゃないか」
言って諦めた雰囲気を見せる男魔道士達。
この態度にキリヤはメレオレオナの言葉を否定されているようだった。そう思えば明らかに不快感を露わにする。
「何それ、もしかして努力して負けたら恥ずかしいとか? 負けた時の予防線とか? だったら今のオマエらの姿の方が数百倍恥ずかしいよ」
「なっ――」
「確かに”才能”ってのは皆平等に授かるモンじゃねぇ。だけど努力すればいつか新しい戦い方を見出せるし、習得可能な魔法だってある。なのに努力しないヤツらがよく言うんだ」
――努力なんて意味がない。
口を揃えてそう言って、努力しないで諦めた連中が群がって、いつしか頑張って身を削りながら努力している人間を莫迦にするようになる。
「オレだって初めは何も出来なかったさ。でも必死に身体鍛えて技術を磨いてきた。だからオレに言わせればオマエらは魔道士じゃねえ」
「そんなっ! 誰もがキミのように努力したところでキミのようにはなれないんだよ!」
「してもねえクセに語んじゃねえよ。それにオレの師匠は言ってた、諦めるのはいつでも出来る。だから諦めるのは死んでからでいいって」
せっかく挨拶しにきたというのに思わぬ説教をしてしまった。
キリヤの言葉に何も言い返せなくなった男魔道士達は沈黙してしまい、気まずい雰囲気が流れるが――
「あ、こんなところにいたのかオマエ!」
「ん? ああ、ソルか」
沈黙を打ち破ったのは小屋に顔を出したソルだった。
状況が分からず一度は首を傾げるが用件を思い出せばすぐにキリヤの首根っこを掴み、
「姐さんが呼んでるんだ。こんなところで油売ってないでシィナもさっさと行くぞ」
「は、はいっ!」
「あとオマエら掃除は終わったのか!?」
「い、いえ! すみませんっ!」
「早く行け!!」
雑用係の男魔道士にとんでもなく厳しいソルが大声を上げれば男魔道士達はすぐに背筋がピンと跳ね上がり、そそくさと退散していく。
その光景を眺めながら引き摺られるキリヤはソルを見上げ、
「姫様が俺らに何の用なの?」
「決まってんだろ、任務だ任務!」
「よっしゃ!」
任務、何だか良い響きで反射的に喜んでしまったがキリヤは任務が何なのかまるで知らない――