姉がコツメカワウソ   作:飼育係

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コツメカワウソのキャラソン聴いてたら書きたくなった。


姉がコツメカワウソ

「わーい!たーのしー!」

 

 姉貴が畳の上に寝っ転がって何かの遊びに興じていた。手のひら大の石ころを、両手で交互にひたすら移し変えている。

 

 いったい何をしているのか、何のためにやり続けているのか、そしてそれの何が楽しいのか。それは本人にしか分からない。

 

「たっくんも一緒にやろーよー!面白いよー!」

 

 姉貴が能天気な声でこちらに話かけてきた。俺には興味がない。っていうか訳がわからない。その訳がわかんないものを一緒にやろうとかナニソレイミワカンナイ。

 

「姉貴、俺宿題やってるからさ。勉強の邪魔しないでくんない?」

 

 隣の部屋で勉強していた俺は、背中越しに姉貴に言った。

 

「えー、一人じゃつまんなーい!一緒に遊ぼーよー!」

 

 姉貴は子供のような甲高い声でわめいた。嫌だ。絶対に嫌だ。仮に100歩譲って姉貴て一緒に遊ぶとしても、大の男が寝っ転がって石ころ遊びとか死んでもやりたくない。

 

 俺と姉貴は一緒に生活していた。1LDKの風呂付きのボロアパート メゾンドアリツカ。俺たちはその一階の一室に住んでいた。家族は姉貴と俺の二人だけだ。

 本当なら親の転勤の都合で、今ごろアフリカ・ケニアで生活しているはずだった。

 

 しかし俺は行きたくなかった。まず言葉が通じない。それに文字も読めない。きっと日本より治安は悪いだろう。家を一歩に外に出たら、野生のゾウやライオンやハイエナやヤギが沢山いる。

 それに何よりも一番問題なのは、漫画やアニメやゲームが見れない事だ。いや正確にはあるだろうが、英語さえ聞き取れない俺がアフリカ語のアニメなんて分かるわけがなかろう。

 とにかく俺は行きたくなかった。そして俺は両親を拝みに拝み倒して、ある条件と引き換えに日本に残れる事になったのだ。

 

「じゃープールいこーよー!プールー!」

 

 畳の上でのんきに転がっているI.Q低そうなのが俺の姉のコツメカワウソ。こう見えても大学一年生。

 

【の】 コツメカワウソ(ネコ目 イタチ科 ツメナシカワウソ属)

 

 

 親が俺が日本に残る条件として提示したのは、俺のお目付役として、現在一人暮らしをしている姉貴と一緒に住む事だった。

 

「だから勉強してるんだって!それに姉貴、さっきまで水風呂に入って遊んでたじゃねぇか」

 

 最近は暑さが厳しいので、姉貴は日中ずっと水風呂に入って過ごしていた。体が冷えてくると外に出て遊ぶ。暑くなるとまた水風呂に入る。その繰り返しだった。

 

「お風呂は狭いから飽きちゃったよー!プールで泳ぎたいー!!」

 

「子供か」

 

 姉貴は幼稚園児のように仰向けになって、両手両足をジタバタ振り回した。大学生なんだから勝手に一人で行ってくりゃあいいだろ。

 姉貴がいつもこんな調子だったので、必然的に家の家事は俺の仕事になった。日常品の買い出しから炊事、洗濯、掃除。それを姉貴の分まで含めて全部一人でこなす。姉貴の家に居候させて貰っているとはいえ、これではまるで俺が姉貴の飼育係をしているようなもんだ。

 

「たっくんのケチー!!イジワルー!!のけものー!!」

 

 姉貴は暴れながら俺に罵詈雑言をあびせる。しかし手足を動かすのが疲れてきたのか、だんだんと動きが鈍くなっていった。

 

 そしてついにピクリとも動かなくなる。寝ている姉貴の背中からダラダラと汗が染み出てきた。

 しかしいくら暑いからといって、水着で部屋をウロつくのは本当にやめて欲しい。

 しかもヒラヒラのミニスカートが付いた鼠色のスクール水着、おまけにニーソとロンググローブの組み合わせコーデとか、マニアックにも程があり過ぎるだろ。

 

「これわたしの毛皮だよー!体の一部だから取れないよー?」

 

 嘘をつけ。中学生の時に使ってた水着だろそれ。それにその言い分だと姉貴は全裸で謎の遊びをしている変態女って事になるが、それでもいいのか?

 

「別にいーじゃんピッタリなんだし。着てるだけでなんかだか楽しーよー!」

 

 確かに姉貴の身長は中三からほとんど変わらず、その水着はピッタリサイズだった。だがしかし姉貴がいくら幼児体型だとはいえ、出るとこはそれなりに出てるし、引っ込むところはしっかり引っ込でいる。姉弟なので別になんとも思わないが、やはり目のやり場に困る。

 

「わーい!」

 

 俺の思いなんてつゆ知らず、姉貴はまた水風呂へダイブしていた。

 こんな頭の弱そうな姉貴だが、実は意外にいや……、けっこう賢い。姉貴は全国的にもかなり有名な大学に現役で合格するほど賢いのだ。そして今はその大学に通っている。俺が目指している第一志望の学校なんか、足元にも及ばないくらいすごい。

 こんな優秀な姉だからこそ、親は二つ返事で姉貴の一人暮らしを許可したし、俺の監視役として抜擢したのだ。

 

「ねーねー!ところで夕飯はなににするー?なににするー?私お刺身がいーなー!」

 

 姉貴が水風呂に浸かりながら、キッチンを覗いていた。俺はキッチンにある冷蔵庫から麦茶を取り出した。

 

「さっき昼食ったばっかなのに、もう夕飯の話かよ。というか、昨日も刺身食べただろ!」

 

「昨日はマグロのお刺身だったからー、今日はサーモンのお刺身が食べたーい!」

 

 聞いちゃいねぇ……。姉貴は魚介類がとても好きだ。魚や貝、エビ、カニ、その他肉系のものは何でも食べる。しかも生のまま食べたがる。

 その量も半端ではなく、生牡蠣なんかも当たって死ぬんじゃないかってぐらい平気で食べる。姉貴の頭が良いのは魚のDHAのおかげなのだろうか?

 

「そんなに暇なら、夕飯まで友達でも誘ってプールでも行ってくれば?」

 

 俺はうざったい姉貴を外へ追い出そうと、適当な話を持ち出した。

 

「あっそういえば、お昼にお友達が遊びに来るんだった!忘れてたー!」

 

 忘れてたのかよ。約束すっぽかしてプール行くつもりだったのか、姉貴。

 

「それってよくウチによく遊びに来るごはん屋のお姉さん?」

 

「違うよー、サーバルちゃんだよー!」

 

「……今なんと?」

 

「だーかーらー、サーバルキャットのサーバルちゃんと遊ぶんだよー!!」

 

 サーバルちゃんは姉貴の大学の友達だ。なんでも生物学科のゼミ?で一緒のクラスになったらしい。一回ウチに遊びに来た事がある。姉貴と同じ系統の匂いがするが、姉貴に比べればだいぶマトモな人だ。

 

「じゃ、じゃああの人は来るのか?黒髪のすごい賢そうな……」

 

「かばんちゃん?来るんじゃないかなー?あの二人いっつも一緒に遊んでるよねー」

 

 かばんちゃんさん。同じく姉貴のゼミのクラスメイト。見た目は黒髪でお淑やか、麦わら帽子に白いワンピースが似合いそうな良い所育ちのお嬢さまという感じ。

 しかし性格はその外見に寸分違わぬ聡明な女性(ひと)で、その仕草の一つ一つが上品で知性が溢れ出ていた。俺の姉貴とは大違い。

 

「なんでそれ早く言わないんだよ!!ヤベェ!もう1時過ぎてるじゃん!!」

 

「たっくん何で怒ってるのー?」

 

「いいから、早く着替えて片付けろよ!かばんちゃんさんが来ちまうだろ!!」

 

「別に大丈夫だよー!このままでも遊べるしー」

 

「バカ!かばんちゃんさんに、こんな汚い部屋を見せられるか!!」

 

「あー!たっくん今バカって言ったー!!ひっどーい!!」

 

 こうして俺は姉貴を着替えさせ、散らかり放題の部屋を片付けた。

 しかし約束の日は明日だったと姉貴が思い出したのは、俺が必死で部屋の掃除を終わらした後になっての事だった。




PPP「ペパプよこく〜」

プリンセス「今週はワニについて予習するわよ!ワニの歯は一生のうちに何度も生え変わるらしいわ」

ジェーン「へぇー」
コウテイ「すごいな」

フルルー「じゃあ入れ歯が一生分作れるねー」

イワビー「お、おう……」

パッパッピプッぺッぺッポパッポーパッパッペパプ!


プリンセス「次回、サーバル」

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