私と僕の暗殺教室   作:宵季

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僕と私と依頼人たち
彼と依頼人


突如として部屋の中が暗闇に満ちる。

ソファーに座っていた女性、および両脇に控えていたガタイの良い男性二人が獲物に手をかけて暗闇の中での攻撃に備えた。

上か、後ろか、頼りにならない視覚の代わりに己の培ってきた感覚のみで部屋の中での変化を探る。変化した箇所が即ち『敵』の居所であるはずだと。

 

「あはは、そんなに警戒しないでくださいよ。白熱電球に寿命が来ただけですって。

そんなんだからお役人は堅いとか言われちゃうんですよ。」

 

予期していたような変化はなく、パチ、と小さな破裂音と同時にぼんやりとした黄色い光が再び部屋を照らす。

そこには構えたままの姿勢で呆気にとられる三人と、その三人をテーブル越しににやけ顔で見つめる白い髪の少年がいた。色白の肌と洋風な顔立ちも相まって、ビスクドールがそのまま大きくなったかような印象だ。

しかし髪と揃いの色の長い睫毛に縁取られた緑色の瞳と僅かに色づいた唇が、自分より年の離れた大人達がありもしない脅威に警戒する様を見て弓形になっている。その人間的な愉悦の表情が、彼が美しいだけの人形などではない事をありありと物語っていた。

 

うちっぱなしのコンクリート壁と天井。窓があるであろう場所をすっぽりと覆う真っ黒な遮光カーテン。

そんな殺風景というにはあまりに無骨過ぎる九畳ほどの応接間の中心には、高さ40cm程の木製の机と、それを挟んで対になるように少年と女性が座る布張りのソファー。そのどちらも使用感が目立つ。

 

二人の間にぶら下がる黒い電力線を剥き出しにした白熱電球は、先程のように部屋を真っ暗にすることはなくとも、少年と共に喉でくつくつと笑って三人を馬鹿にするように小さな破裂音を鳴らし続けていた。

この部屋の中で唯一光源と言えるものはこのいたずら好きな電球しかない。

 

「……今まであなたに支払ってきた情報料の額を考えれば、たった一つの電球を買い換える余裕が無いほど困窮しているとは思えませんが。」

「愛着ですよ。こいつには太陽って名前もつけてるんです。可愛いでしょー?」

「随分と頼りのない太陽ですね。」

「つい最近7割も消えたせいで満月を見せてくれなくなった本物の月よりは、まだ僕は信頼がおけますよ。」

 

そんなことを口では言いつつも、頭の中で少年は次の太陽候補について考えていた。勝手知ったる白熱電球か、LED電球か、いっそのことこの機会に天井を整備してリモコン式LEDシーリングライトでもつけようか。

 

「……今回の依頼内容はその月を7割も消した犯人についてなのです。」

 

部屋の中の太陽に思考が飛んだ少年に向かい、警戒態勢を解いて居住まいを正した女性が話題に上がった本物の月に纏わる話題を出す。彼女らにとってはこちらの話が本題であった。

 

少年の方はまさか自分が皮肉として出した話題がこう使われるとは思っておらず、少しの間面食らっていたが、すぐに聞く体制を整えた。もちろん頭の中での次期太陽候補選は急遽中断した。

 

「犯人っていったって、あれはつい最近の出来事でしょう。

もう自然現象か故意的なものなのかハッキリしてるんです?僕は自然現象説推してましたけど。」

「ええ。月爆破事件の犯人が自ら名乗り出ています。ですので、あれは故意的に引き起こされた大規模な事件です。」

「……その言い方だと、裏付けもせずに俺が月を爆破したぞ~って宣うヤツの言葉を鵜呑みにしたって聞こえるんですけど。」

 

そういうわけじゃないんでしょ?と口外に少年が女性に問う。

言葉にしない言葉を正しく女性が受け取ると、裏付けと依頼内容を語る為の注意事項に入った。

 

「ここから先は国家機密の情報です。口外や取引の材料にすること等の情報の外部流出を厳しく禁じます。

もしもこれを破った場合、原則は記憶消去の手術を受けてもらうことになっていますが、その時の状況次第では……それ以上に厳しい処罰を受けていただくことも。」

「うわーすっごく嫌な予感する~。けど、了解しました。毎回別で相応の口止め料も頂いてるし、今まで通りリスクを背負いますよ。」

 

わずかに文句を垂れながらも了承した少年の前に、謎の目を光らせたタコ型キャラクターがでかでかと表紙を飾る『極秘暗殺依頼書』という冊子が置かれる。この時点で少年は自分の予感が思わぬ形で当たったことを察した。

 

その後の話の内容を簡単に纏めるとこうだ。

月爆破事件の犯人として目の前に現れたのは人語を解する巨大な黄色いタコであること。そのタコはマッハ20で移動すること。そしてそのタコは来年の3月までに自身を殺さねば地球も爆破すると脅していること。成功報酬は百億円であること。

一つ一つの情報が現実離れし過ぎており、少年の頭にはすんなりと言葉が入らない。民法のオカルト系ゴールデン番組でも見てる気分だ。しかしそんな濃すぎる機密情報の中で最も度し難かったのが

 

「え、何でUMAが中学校教師を?何で学校とクラスまで指定してきてるんです?」

「……分かりません。何もかも。本当に。」

 

女性の言葉が尻すぼみになっていき、最後には頭を抱えていた。少年も頭を抱えていた。

そんな二人を見て、護衛二人もなんとなく頭を抱えたくなった。

 

「うん、心中めちゃくちゃお察しします。僕も仕事柄色んな情報を扱うけど、未だにちょっとよく分かってないもん。

だから僕自身もそんな未確認超生物関連の情報は爪の先ほども知らなかったし、取っ掛かりが無さすぎてそこから新しい情報も探りにくい。岩じゃなくて砂の一粒を頼りにしてボルダリングするようなもんです。

いつもみたいに手持ちの情報を提供したり、潜入して情報を収集したりする形で、そちらさんの力になることはできないと思いますけど。」

 

「いえ。今回はあなた゛達゛に収集の依頼するべく赴きました。」

「……ああ、そっちですか。」

 

この言葉で少年は女性の言わんとする事を察した。

この店で、この少年にでなく少年゛達゛に、

情報の゛提供゛でなく゛収集゛を依頼することの意味。

 

「……聡明なあなた方のことです。当然分かっていて区別をつけているんですよね。

再三確認します。前回や前々回や前々前回みたいに゛僕に対しての゛依頼では無いんですよね。」

 

迷い無く首が縦に振られる。

 

「貴方たちに私立椚ヶ丘中学校3年E組の編入生として潜入していただき、既に任務に当たっている現地の生徒と現地に送り込まれる暗殺者への未確認生物暗殺完遂のバックアップ、及び対象の暗殺を依頼します。

こちらとしては、二週間後に作戦に入っていただきたい。」

 

それは簡単に言えば、殺しを伴う潜入依頼であることを意味する。

ただの情報目的での依頼ならば、少年のみへの収集依頼になる。そうなれば情報の収集が最優先事項となり、基本目立ちすぎる行動…殺しを伴わない仕事となる。

しかし、今回は少年のみでの仕事ではない。

情報の収集・提供が専門の少年だけでは成り立てない。殺しを専門にする、もう一人が必要なのである。

 

「この仕事の特殊な部分は゛生徒であれば危害は来ない゛とターゲットが明言している部分です。実際に生徒が何度か暗殺を試みて失敗しているようですが、特に報復行為もなく日常を送っています。」

「……つまり、仮に素性がバレても生徒である限りは即時失敗に繋がるものではないと?」

 

眉をしかめながら少年が問う。

 

「ええ。この3年E組は、ターゲットが何故か教師の仕事を欠かさず行うことから世界で一番殺せる確率が高い場所。我々政府による武器支給や技術提供などのバックアップも手厚い場所です。しかし学業が本業ですから、あなた方にも暗殺の傍ら学生生活を送ってもらうことにはなりますが。」

「…………。」

 

少年は思案する。

100億円の報酬や政府からのバックアップ、何より素性がバレようが仕留め損なおうがコンティニュー可能という部分は、これまで請け負ってきた仕事内容と照らし合わせてもかなり条件が良い。

その代わり難易度とリスクは現実離れしているが、受理しなかったからと言って確実に自分達が地球消滅というリスクから退避できるわけではない。

 

しかしそんな利益不利益の話以上に、学校生活という響きに彼は惹かれていた。

 

「期間はどのくらいなんです?全日制の学校に編入生としてってことは、仕事の期間は一日二日じゃないんでしょう?」

 

「とにかく手段も誰が行うのかも問わないので、確実にターゲットの暗殺を完遂してほしい。期間に関しては最悪タイムリミットに間に合えば良い、というのがこちらの要望と考えです。

よって期間は、ターゲットが地球消滅までのタイムリミットとして提示した来年3月まで。ですがもっと早期に暗殺が可能ならば、是非そうしていただきたく思います。」

 

「なるほど。そこの生徒と馴染んでから協力して殺すも良し、送りこまれる暗殺者と協力して殺すも良し、僕らが単独で殺すも良し。結果的にあの実在したSFを絶命させられればいいってワケですね。りょーかいです。お受けしましょう、その依頼。

もう一人には言っておくので、必要そうなものは後で」

「その前に、あなた方はご自分の戸籍はお持ちですか?」

 

言葉を遮られ、少年はわずかな不満に口をとがらせた。

 

「……僕たち自身のものはないですよ。でも、こちらの筋で横流してもらうなり借りるなりするのでそこはご心配なく。」

「いえ、今回の依頼では自身の戸籍を作って潜入していただきます。

学校側は、無戸籍および偽戸籍の人間を生徒としては受け入れたくないとのことでしたので。

急ぎ作成するものなので、名前を登録しただけの形のみの戸籍にはなってしまいますが。」

「あはは。きっちりしてますね、その学校。」

 

少年がしっかりと戸籍を作れといいつつ、そんなただ゛正規品゛というだけでほぼほぼ中身の無い戸籍で入学を了承した学校の矛盾性を皮肉な言葉で指摘した。

 

ふぅ、と短くため息をついた後、黒いパーカーのポケットに引っかけていた油性ペンとテーブルのしたに束で置いていた厚紙を取り出す。

きゅきゅ、と厚紙に二人分の名前を書くと文字が読める方向に紙を回して女性の方に差し出した。

 

「んじゃあ、戸籍作成用に僕の名前と姉の名前だけお渡しして、今回のお話は終了という事で。

この辺りはあんまり長居するものじゃないですし。まぁ、柔じゃないとは思っていますけど。念のため。」

 

厚紙を受け取り、女性がその文字に目を通す。

 

「…思えば、貴方たちの名前を初めて知りました。」

「あはは、ソレ偽名ですけどね。

あー……でも確かに呼称に当たるものを教えるのは初めてかも。

呼びたければその名前で呼んでもらっていいですよ。これから一年間くらいはその名前で色んな人に呼ばれるんでしょ、僕たち。今のうちに慣れとかないと。」

「……了解しました。では、そのように。

今回の依頼、受諾していただき感謝します。

道具の支給についても、また後日連絡させていただきます。

俵木 統也(わらき とうや)。」

「あはは、早速使ってくれて嬉しい限りです。

道中お気をつけて~。」 

 

そう言い去っていく黒服達の背を手を振って見送る。

パタンと閉じた扉を見つめながら、少年は依頼を受けたもう一人……片割れたる姉との二週間後に思いを馳せた。




2021/6/29 既に投稿した分の話を、大まかな流れは同じですがシーンを追加したりしてリメイクしました。
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