私と僕の暗殺教室   作:宵季

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一年以内に更新!(ハードル激低)


私たちと自己紹介

「……そろそろ朝礼の時間か。丁度いいタイミングだ。磯貝くんと前原くん以外のクラスメイトにも挨拶をしにいこう。」

 

学生としての生活に障ることはしたくない、という烏間さんの言葉は本当だったようで一般生徒との顔合わせになる朝礼の時間には私達を解放してくれた。

 

服飾品以外の専用装備を今日受け取るとは思っていなかったため、ベストの下のインナーベルトに指していた護身用で携帯している2本のうちの1本、手の平サイズの金属製ナイフを抜いて特殊素材のナイフの取手を通してみる。……うん、金属製のものより持ち手のサイズは大きいけれどホルダー部分がゴムだったので何とか携帯できそう。

左に軽量の金属製ナイフ、右に比較的重量のある特殊製ナイフと左右のバランスが僅かに釣り合わなくなるが大きな差では無いし活動する分には問題ないだろう。

 

「ヤツに金属製のナイフは効かんぞ。ふざけた話だが、体内で全て解けてしまうらしい。」

「ですが、人間相手には頂いたナイフは効きません。壁などへの刺突も金属製の方がやりやすいです。」

「……もし暗殺に生徒を人質に取る方法や危害を加える方法を思案しているのなら、それは許可しかねるぞ。」

「いいえ。単純に選択肢を増やすためです。不測の事態に陥った際、使用できる得物の種類が多い方がその分状況突破の可能性は高くなります。その時には一芸に秀でた者より、器用貧乏の方が生存率が上がる。」

 

視界の端に鮮やかな緑。

目を向ければこちらにトウヤがいつも通り薄い笑顔を浮かべて手を出していた。入れ替えたナイフだけじゃない。これは、話を寄越せと言っている。

持ち手側を向けて、抜いた方の金属製ナイフを手の平の上に置くようにして渡す。握ったのを確認してから手を離せば、トウヤがあははといつもの笑い声を発声してから口を開いた。

 

「僕達の界隈って治安悪いんですよ〜。大抵は互いに不可侵なんですけど、同業者ってだけで潰しに掛かってくるとんでもなく元気の有り余ったヤツだっている。まぁ同業者を潰してもそいつの顕示欲が満たされるだけで仕事上の大したメリットも無いから、同業者潰しする殺し屋で息が長い所はあんまり聞かないけど。でも、遭遇してしまった場合は対処する他ない。ちょー面倒だけど。

そんでもって、これからはここに色んな僕らの同業者がやってくる。僕の見立てだと殺せんせーを殺すのは随分と骨が折れるから、よりどりみどりかなりの人数が投入される。そして姉さんは評判の良い、異名を持つ殺し屋。」

「……つまり、その金属製ナイフは主に血気盛んな暗殺者への迎撃が用途だと認識して構わないな。」

「ビンゴ!流石ですねぇ!」

ベルトに引っ掛けていたホルスターと銃の隙間に金属製ナイフを滑り込ませてから、トウヤが烏間さんににぱっと大きく笑いかける。

トウヤには大した反応返さず、烏間さんは小さく溜息をついてから再び歩き出した。私達もそれについて短い廊下を歩いていく。

 

教室を前にするとより輪郭を持つ人の気配。鼓動、布擦れ、足音、物音、話し声。狭い空間に混ざり合っているがこの感じだと、ざっと2,30人くらいだろうか。……今からこの空間に入ってそれだけの人数の目に晒されるのかと思うといつもよりも身体が強張る感覚がする。いけないいけない。

大丈夫、つい先程までいた場所だ。初めて赴く空間ではない。

「入室の合図をしたら入ってくれ。」

そう一言だけ私とトウヤに告げて、烏間さんが教室に入っていく。烏間さんが教室に入ると、足音や話し声は止んでそれぞれの意識が一本化していっていた。多分、入室した烏間さんに向かっている。

「おはよう。既に知っている者もいるかもしれんが、今日からこのクラスに二人編入してくる。早速だが紹介しよう。入ってくれ。」

 

ここは木造故に扉が閉まっていても音が聞き取りやすい。烏丸さんの入室合図で統也が教室に足を踏み入れる。おぉ、という声と各々の意識の揺れる気配。左側の生徒たちの顔を見ないように、私は緑のパーカーの背を見つめながら教室内にまず一歩を踏み出した。

 

「……!」

突如として背中側から突風が起きる。

右肩と左脇腹の辺りに違和感を感じて自分の体を見てみると、大きく『本日の主役です』と印字された白と赤のタスキが私と統也にかかっていた。……なんだこれ。

殺風景だったはずの木造りの教室にも、赤やら青やらの色とりどりのリボンや花を模したような丸い飾りが散見される。私から見て右手側の黒板にも「☆★☆ようこそ☆★☆俵木宵さん☆★☆俵木統也くん☆★☆」と星マークがチカチカと目に痛々しい横断幕が掲げられている。

いや、突風と目にも留まらぬ状況変化を考えると、これらは殺せんせーの仕業である可能性が高い。そして私に掛かっているこの素材のものは布が擦れた音が鳴りやすい。つまり、これはまた私が攻勢を仕掛けた時に感知しやすくするためのものだと考えられる。

 

「ようこそ3年E組へ!ほらほら皆さんも新しい仲間に向かって明るく大きな声でせーの、ウェルカーム!」

「うるさいぞ!はしゃぐなターゲット!」

前を見ると、先程までいなかった殺せんせーが姿を現している。触手に持った小さなクラッカーを弾かせながら3人ほどに分身していた。こちらにクラッカーを向けていないため、殺傷目的での運用ではなさそうだ。

そうか、マッハ20ともなると鮮明な残像であたかも分身したように見せる芸当も可能なのか。これは少々厄介かもしれない。

殺せんせーの鳴らしたぱーんという追加のクラッカーの音と、それを飲み込む程の烏間さんの怒号が教室に響き続けている。あ、トウヤにクラッカーから出てきた紙吹雪がかかった。

 

「え、めっちゃかっこい~!」

「美男美女って感じだね。」

「俺らの誰より殺せんせーが喜んでら。」

 

目視した分では男女混合、計26人。教室外で感知した人数と同じくらいだ。

笑顔も散見されるし、それぞれの反応は概ね好意的なようだ。先程話した磯貝くんと前原くんにも笑顔が見られる。磯貝くんは少々困ったように眉尻を僅かに下げているが。前原くんと目が合うと、彼の瞳孔が少し開いて少々だらしない笑顔でこちらに手を振ってきた。そしてそれを見た左側の女子が、前原くんの頭を叩いて制していた。あの子、良い反応速度だ。

依然として騒ぐ殺せんせーに対して、烏間さんの眉間はシワが更に深くなって青筋も浮かんでいる。随分な興奮状態だ。

 

「……今のターゲットに敵意は無さそうだよ。単純にこういうお祝い事が好きなだけみたい。」

「……。」

殺せんせーと烏間さんに大半の意識が向いている中で、トウヤが私の方に声を潜めてそう言った。言葉の外で「考えすぎ」と多少バカにされた気がしたので、トウヤの白い髪に引っかかった原色ばかりの紙吹雪を強めに払う。「縮む縮む!!!」とトウヤは小さな声で喚く。なんて器用な。更に気に入らない。「理不尽の気配がすいだだだ!!!」

 

「あーでもほら。思ったより、賑やかで楽しそうだよ。ここ。」

「そっか、良かったね。」

「ええ〜!めっちゃ他人事!」

 

「あの〜……。殺せんせー、二人の自己紹介とかって……。」

窓際二列目の水色の髪の、恐らく男子が少々言いづらそうに手を挙げながら殺せんせーに進言してきた。自己紹介、先程トウヤが磯貝くんにしてたみたいなアレを私がやるのか。そう思うと入室前のあの感覚が蘇ってきた。

「にゅやっ!?いやはや先生としたことが、少々はしゃぎ過ぎてしまいました。それではお待ちかねの……レッツ、ウキウキ自己紹介ターイム!

そうですねぇ、それではまず廊下側の宵さんの方から自己紹介をどうぞ。ご自身の名前と好きな食べ物なんかを皆さんに伝えてください。」

 

シンとした空気が部屋を包む。その中で30人近い人間の意識を一身に受けて、私の動きが待たれていることをありありと感じる。……それをこんなに心細く感じるのは、きっと私にはこういった経験が浅いからだ。喉が閉じて固くなっているのを感じつつもそのままの状態で発声をする。

「……わ、ら木宵です。よく食べてるのはパンと白米、あとパスタかな。」

(全部炭水化物だ……。)

(朝食は何派なんだ……。)

 

「うんうん、全身のエネルギーがもりもり湧いてくる素晴らしい好物たちです。よくできましたね。」

殺せんせーが弾んだ声でくるりと黒板側を向いて触手の先の三本指でチョークを掴んだ。同空間で私以外の対象が動き、それに伴って私一人に集まっていた意識が分散したことで思わず小さく息をついた。

カッカッカッと黒板には読みやすい字で「俵木宵」と私の名前表記を書いていく。関節は無いはずなのに、よくあそこまで安定して字を書けるものだ。

 

「ではお次は」

「はーいはーい!俵木統也でっす!

僕達二人、政府から依頼を受けて皆と一緒に殺せんせーを暗殺するために送り込まれました。さっき殺せんせー暗殺しようとしたのに、失敗しちゃって落ち込んでます〜。

僕が情報サポート、姉さんが実戦って感じだから気兼ね無く接してね〜!」

殺せんせーの進行を遮るようにして、トウヤが自己紹介を始めた。

トウヤのよく響く声が非常に明るく私達二人の素性を語っていく。

 

「……。」

「……。」

「……。」

 

「いやいやいや気兼ねしかねぇよ!!!」

「笑顔でするカミングアウトじゃねー!!!」

 

少しの沈黙の後、騒がしくなった生徒たちの声。その中でもトウヤはあっはっはと微塵も気に留めていないかのように笑顔を浮かべている。

烏間先生は目を見開いて。殺せんせーは黒板に名前表記を書いた時と変わらず、口角を上げたままの何とも読みづらい表情で。……まるで予想内なのだとも思えそうな表情で。

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