私と僕の暗殺教室   作:宵季

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渚と双子

「はーいはーい!俵木統也でっす!

僕達二人、政府から依頼を受けて皆と一緒に殺せんせーを暗殺するために送り込まれました。さっき殺せんせー暗殺しようとしたのに、失敗しちゃって落ち込んでます〜。

僕が情報サポート、姉さんが実戦って感じだから気兼ね無く接してね〜!」

 

最初は儚げで綺麗な顔の男の子だと思った。同じ転入生の俵木宵さんに何かを話して頭をぐりぐりされてたから身内なのかなとか、仲が良くていいなとかそんな風に感じていた。

……けれど、彼がはいはーいと注目を集めた瞬間にそんな儚げな印象は霧散した。

ぺかーと効果音が付きそうな程の明るい後光を背負って、俵木トウヤくんはブンブンと両手を大きく振っている。そんなに広い教室では無いのに、それはもうドーム公演かってくらい大きく。

名前すら口にしていないそのタイミングで儚いというよりも、とにかくめちゃくちゃ明るくて良い子そうだという印象に変わっていた。

 

そう。良い子そうだと思った途端に、続けてこの爆弾発言が投下されたんだ。

 

「……。」

「……。」

「……。」

頭の処理が滞った。発言と表情が何にも噛み合ってない。

いやいやいや。

いやいやいや。

 

「いやいやいや気兼ねしかねぇよ!!!」

「笑顔でするカミングアウトじゃねー!!!」

 

爆発したように教室の方々からツッコミの嵐が巻き起こる。

いや確かに殺せんせーの暗殺のために送り込まれた刺客と言われると、時期とか二人も転校生がE組に纏めて来るところとかあらゆる違和感がほぼ全て解消されるけど!

その情報はその表情とテンションで言うことじゃないでしょ!?

驚く僕達に対して俵木くんはあっはっはと、この揺れる空気を気にしていないかのようにパーカーのポケットに手を入れて笑っている。これは大物だ……。

 

「だって一度暗殺に失敗してるから殺せんせーには僕達が刺客だってバレてるし。皆のことは政府からサポートよろしく〜ってされてるから、僕達の素性分かってた方がサポートされやすいだろうし。」

 

素性が分かっていた方がサポートされやすいというのは、まぁ確かに。同じ内容のアドバイスでも、言う人間の実力とか実績によって納得しやすくなるのは本当だから。仮にピアノを習うとして、世界的ピアニストからのアドバイスと趣味でピアノを弾いている人では世界的ピアニストからの言葉の方が価値あるもののように思えるだろうから。

……だとしてもその納得の裏付けとして機能するべき暗殺者やら情報屋という肩書きは、あまりに僕達の日常から飛躍したものだ。しかも同年代。

そこまで考えて、ほんのちょっとだけトウヤくんが初っ端にカミングアウトをした理由が分かった気がした。そうだ、同年代だからこそなのかもしれない。例えば僕達が最初から烏間さんの言葉を素直に聞いたのは人柄もあるかもしれないけど、まず第一に烏間さんが年上で政府の人間だって肩書きがあったからだ。同年代で共に重ねた時間の少ない彼らが、限られた時間の中で僕らを暗殺という非常的な部分でサポートする。それを効率的に達成する上では、最初から素性という名の実績および発言の裏付けを開示する方が都合が良い……のかもしれない。

本当はもっと理由があるのかもしれないけど、僕程度が考え及ぶのはこのぐらいだった。

 

「この二人の技術は本当に素晴らしい。実際に暗殺を実行された先生が言うんですから間違いありません。同年代の二人から暗殺に関する知識や技術をどんどん学んで、二人もこの教室でありとあらゆる事をどんどん学んでいってください。まぁ、それでも先生は殺せませんがね。ヌルフフフ。」

「……私達も?」

「ええ。だってここは教室で、貴方は学生なのですから。」

殺せんせーが話しながら宵さんの名前の隣に「俵木統也」と名前を書いていく。

宵さんは僅かに目を見開く。逆に統也くんは一瞬僅かに目を伏せた、ような気がした。……いや、自信はない。だって直前あんなに明るい笑顔だったのもあるし。彼の白い睫毛は光によく溶け込むから、黒板の前に立つ殺せんせーを見る横顔だけの今の状況ではすぐに見失ってしまう。

 

「そして皆さんも学生!というわけで、残りの朝の時間は皆さんお待ちかねのワクワク質問ターイム!転校生二人にバンバン質問をして、二人のことをバンバン学んで行きましょう!」

そういって先生は表紙にデカデカと【質問したいこと】と書いてある辞書ぐらい厚いとんでもなく分厚いメモをすごい速さでめくっている。

 

「いや、お前が質問するんかい!!」

「どうみても一番お待ちかねだったの殺せんせーだよね!?」

「そのメモ帳軽く100ページ位あんじゃねぇか!!」

「残りの朝の時間で全部聞けるわけねーだろ!!」

 

またもや巻き起こるツッコミの嵐と、殺せんせーへの一点集中攻撃。

というところで、僕の上からひらりとメモ用紙が落ちてきた。たぶんこれ、殺せんせーの手元にある【質問したいこと】のメモ用紙だ。マッハの勢いでめくられて、耐えきれなくなった分がこうして離れていったのかもしれない。

少しだけ立って、メモ帳の端を右手で掴む。よし、捕まえた。

「渚、なんて書いてある?」

茅野も身を乗り出してメモの中身を見たそうにしていたので、少し体を寄せて一緒に見てみる。

『屋台の焼きそば派かカップ焼きそば派か』

聞いてどうするの!?

「……もしかして、あのメモの中身って全部こんな感じなんじゃあ。」

「……十分ありえる。」

苦笑まじりの茅野の言葉に同意する。うーん……このいい質問が浮かばないことはあとで弱点メモにメモしておこうかな。念の為。

メモはこれ以外にも何枚か舞っていたみたいで、教室の前の方にいる烏丸さんもキャッチしたメモを見て眉間にシワを寄せながら何とも言えない表情をしている。……内容は分からないのに、内容のくだらなさは容易に想像できるのはなんでだろう。

 

「ううっ……。先生だって質問したいことの百や二百あります!

ですが確かに今は君たちの時間ですから、先生は涙を飲んで諦めます……。ええ諦めますともぉ……。」

部屋の隅で触手で平仮名の「の」を書きながらいじける殺せんせー。

ぐすぐすとハッキリ聞こえるから、全然涙を飲めてないことが分かる。……正直質問タイムがあの焼きそば並みにくだらない質問だらけになるのはゴメンだったから、これで良かったのかもしれない。

……でも、殺し屋と情報屋に質問か。一体何を聞けば。それは他の皆も同じみたいで、直後に手が挙がることは無かった。

 

「俺からいいか?」

そんな中で最初に手を上げたのは磯貝くんだった。その姿には、じわじわと空気を侵食していた遠慮や戸惑いみたいなものは無くてどこか頼もしい。

 

「同じ苗字で同じ学年の俵木ってことは、二人は双子でいいんだよな?」

「え。」

「そ〜!見た目は残念ながらあんまり似てないけど、ちゃんと同じ所の同じ人から産まれてる姉弟。宵が姉、統也が弟!僕は宵のことを姉さんって呼んでるし、その辺はすぐに覚えられると思うよ〜!えへへ、ありがとうね。」

小さく宵さんが何か言った気がするけど、直後に意識は回答した統也くんに全て移った。最後に磯貝くんに向けて行ったウインクが妙に印象に残った。うーんなんでだろう。統也くんの西洋っぽいその顔立ちに、ウインクがよく似合っていたから……なのかな?

 

「……はい!」

「はい!そこの子!」

次に意を決したように手を上げたのは倉橋さん。その勢いのままにすかさず統也くんが倉橋さんを指す。

「二人の好きなもの教えてほしいな〜!」

 

「僕の一番好きなものは姉さん!あとはね〜昆虫とか会話とか!あ、ゼリー飲料とかも!好きなものいっぱいあるんだ〜!姉さんはスパイスカレー開発するの好きだよね。」

「え、そうなの?」

「あんなに色んな香辛料買って連日違う配合で作ってたんだもん。好きなんだなって思ったよ。それとも自分で他に思いつく?」

「いや、特に思いつかない。」

「ほらぁ〜!」

「むっ。」

「昆虫!好きなの!?」

「うん!特にカミキリムシの幼体が好きかなぁ。」

「おお〜っ!」

……妙に具体的で妙にウケが悪そうなチョイスなのが引っかかるけど、倉橋さんも統也くんも楽しそうなので深く考えないことにした。どちらにしてもついて行けそうにないし。

それにしても、宵さんは好きなものを自覚してないのか。姉さんが一番好きと発言した統也くんには最初驚いたけど、自分以上に自分のことを分かってくれる人がいるのは心強いかもしれない。……最後眉間にシワが寄ってたけど。

 

「はい!」

「ハイ!ハイ!ハイハイハイハイハーイ!!!」

「姉さん、どっちがいい?」

「え、私?」

次にほぼ同時に手を上げたのは中村さんと岡島くん。統也くんは宵さんにどちらを指すかの選択をさせていて、宵さんはいきなり渡されたそれに対して大きく声色も表情は変えていないけれど若干戸惑っているようだ。

 

「……じゃあ、男の子の方。」

「え、姉さんマジ?」

「え。」

「いよっしゃあ!!押し勝った!!!」

もうこの時点で分かる。岡島くんもろくな質問をしなさそうだ。

「是非とも宵さんのその美ボディのスリーサイズを宵さんの口から」

瞬間、岡島くんが仰け反った。

「あはは、二度目は無いよ〜!」

……状況から察するに、統也くんがすかさずチョークを岡島くんに投げてそれが眉間にクリーンヒットしたみたいだ。一番好きなものに宵さんを上げた直後のこの質問、無謀を通り越していっそ勇敢にすら思えてくる。

「ギェぇぇ!!!痛ってぇぇ!!!」

「自業自得。」

「だーから私にしときゃ良かったのに。」

「どこと、どこと、どこのスリー……?」

痛がる岡島くん。呟く片岡さんと中村さん。当事者の宵さんはそもそも質問の内容が分かっていないみたいで口に軽く手を当てながら考え込んでいる。……知らないままでいいと僕は思うよ。

 

キーンコーンカーンコーン

 

朝の時間終了の鐘が鳴る。

最後の質問がこれで本当に良かったんだろうかと思うけれど、統也くんのカミングアウトの時のような戸惑いと警戒の混じった雰囲気は今はもう消えていた。

 

「すっかり打ち解けてきたようで何よりです。二人は朝に決めた席で初授業の準備としばしの歓談を。改めて、よろしくお願いしますね。」

登校した時、最後列に増えていた二つの机とスポーツバック。最初はなんだろうと思ったけれど、きっとそこが二人の席なんだろう。

 

「……。」

僕は手元の弱点メモを見ながら、一人覚悟を決めた。

 




ファーストペンギン。危険や未知の中に集団の中で一番最初に飛び込む人の事を尊敬の念を込めてそう言うらしいです。一羽目のペンギンが勇気を持って飛び込めば、二羽目三羽目四羽目とどんどん続いていって物事が進んでいく。おや、質問の時に似ているなぁ。(すっとぼけ)

普段女子を名字で呼び捨てにする男子キャラクターの宵ちゃんの呼び方に頭を悩ませた今話です。今後訂正の可能性もあったり、なかったり……。
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