私と僕の暗殺教室   作:宵季

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今回若干のグロ要素と風俗的要素があり、
程度に個人差はあれども胸くそ悪い表現になっているかと思われます。
多分モブの台詞が一番むかむかします。
閲覧の際はご注意ください。

多分そろそろ原作のような明るめな雰囲気になってくるはずです。

2023/6/8 一部文章を追加しました。


私と依頼人 

右、直線、左、右、道沿いに斜め右………

 

繁華街のまばゆい光をも入り込めないこの入り組んだ真っ黒な路地裏。その道筋に規則性はなく、それはさながら一つでも間違えれば二度と出ることのできない迷路だ。

それを己の夜目を頼りに、左手で荷物を引きずりながら進んでいく。

 

荷物にくっついているスタッズと、何年も整備されずにひび割れたコンクリートが、相成れないと言うようにギギギギと不愉快な声をあげた。こうして進んでいくほど、荷物の表面に傷が付いていく。

 

(確か待ち合わせ場所はこの辺りだったはず。)

 

依頼書の文面を思い出しながら進んでいけば、黒かった視界にわずかに赤みがさす。

この路地裏唯一の光源。日陰者にとっての太陽。間違いない、この先だ。

最後に道に沿い、角を曲がる。

狭い通路を塞ぐように置かれた赤い電気看板。光源の正体はこれだ。

 

そしてその看板が塞ぐ通路の向こう側に

 

「まあ驚いた。本当に時間きっかりだわ。」

 

ゴールドの腕時計から顔を上げた、依頼人と思しき女性が立っていた。

暗闇でも映える白い肌と深いスリットの入った扇情的なドレス、それに相対した清い少女のような愛らしい顔立ち。

電気看板の赤い光のせいで色は多少分かりづらいが、この女性が風俗関係の職に就いていることは彼女の服装と待ち合わせに指定されたこの店、そして首元のまだらで大方察することができた。

 

「頼めばグリップ並みの状態で請け負ってくれるって聞いたからどんな筋骨隆々が来るかと思えば、こんなに可愛い子だとは思わなかったわね。」

「ご冗談を。」

 

女性が私が後ろ手に持っていた荷物に気がつき、僅かに目を見開く。

 

「…最優先暗殺対象、暗殺成功しました。

こちらはこれで依頼を完遂したと認識していますが、これでよろしいでしょうか。」

 

今まで引きずり続けた荷物をずいと依頼人の眼前に持っていく。

 

すると依頼人は「うぅっ」と口を手で覆った。

 

しまったと思った刹那に、彼女の肩が震え出す。

時折いるのだ、慣れないその生理的な不快感から思わず吐瀉してしまうことが。

『この辺り』の人間だからと、かわされることがないように堂々と見せつける形にしたが、一瞬判断を誤ったかと焦る。

 

「うふふ…あははははッ!

ボロ雑巾みたいになってほんっと良いザマよ!

まるであんたに捨てられた直後の私のようだわ!」

 

と思った矢先。彼女のボルドーのラメに縁取られた丸みを帯びた形の良い瞳は、その悦と狂喜に瞳孔を開いていた。

ああ、本当に、楽しそうだ。

 

「ねえ、今どんな気持ちなの?

あらやだ、ごめんなさいねえ。雑巾には気持ちを感じることも出来やしなかったわよね。他ならぬあなたが言ったんだものね。」

 

うふふふふ、あははははは。

暗い路地裏に、文字通り狂喜乱舞する依頼者の声が響く。

鈴のような声で紡がれる数々の呪詛。

マット地のリップで縁取られた唇はにやけが止まらないと言ったように清々しく、黄金比ともいうべき綺麗な形をしている。声と言葉だけが、ただただ異質で醜悪だった。

射抜かんとする程に凝視しながら怨嗟を吐くその様子は、彼女の執念深さを物語っていた。

 

言いたいことをぶつけきったのか。凝視をやめ、星の見えない曇った空を仰ぎながら高笑う彼女は憑き物が落ちたかのような笑みだ。彼女のその美しさより愛らしさの強い見目も相まって非常に画になる。

身体が擦り傷でボロボロになった『男の遺体』を見ての行動である、ということを除けばそのどこぞの絵画か写真の題材にでもなりそうな程に。

 

なるほど、今回はやはり私怨からの暗殺依頼だったようだ。

 

「ああ、すっきりした。

それじゃあこれが報酬。あんたに依頼するために死ぬ気で働いて貯めた金だけど、注文通りに無様な顔と体でコイツ連れて来てくれたから大満足だわ。

……ああ、そのボロ雑巾はその辺に捨て置きなさいな。もう興味ないわ。」

 

そう言うと彼女は胸元から取り出したぶ厚い茶封筒をこちらに投げ渡してから、もう興味ないというその言葉の通りにぷいっと踵を返して店の扉に手をかける。

 

「そうだ。あなた、もしフリーランスに嫌気が差すことがあったらうちにおいでなさい。顔もそっちの腕もいいなら、かなりの客がつくわよ。

笑顔の絶えないアットホームな職場だから。」

 

そう言って扉を引く。

赤以外が輝く光の中にただいまと気を張らぬ声で依頼主の彼女が言葉を投げれば、おかえりと数名の女性と男性の声が返されていた。その重い鉄製の引き戸がバタンと閉めきられれば、そこからは店の内での声も光も一切分からなくなる。

 

あんなに遺体に釘付けで罵詈雑言を放っていたのに、帰るときは先ほどの攻撃的な笑顔の欠片も見せずにあっさりとしたものである。さながら仮面の脱着のようだ。

 

片手に元・最優先暗殺対象を持っているので、空いている方の手で袋の中身を確認すると、どうやら約束の報酬よりも少し上乗せされているようだった。

私はいつも通りに仕事をしただけで特別何をしたわけでは無いのだが、それだけ彼女の怨恨が深かったということだろう。

 

それにしても。

 

従業員であろう彼女の執着と無頓着の異常なまでの落差といい、

報酬受け取りの場所として指定された辺りといい、

この店は客も働き手も相当゛真っ黒な゛店のようだ。この異様な荷物を持って取引した光景を見られたとしても問題のない場であるということなのだから。

 

こんな迷いそうな路地裏にあって、日陰者の太陽などと大層な名称で通っている理由がよくわかる。

 

『その辺に捨て置いて』と言った彼女の言葉通りに、店から少し歩いたところにある長年収集に来られていないごみ捨て場のごみ袋の山の中に元・最優先暗殺対象を投げ入れる。

既にごみ袋の山の住民だったネズミたちが、次の新鮮な住処の襲来にちゅーちゅーと散っていった。

 

「やほ~お疲れ様~。

路地裏の光源と日陰者の太陽って、やっぱりエクリプスのことだったんだね。あの店本ッ当に質が悪いから、いくら姉さんだとしてもちょっと心配しちゃった。

あはは、でもその様子だと何事も無かったっぽいね。良かった良かった。」

 

背後から声。

振向くと、トウヤがいつもの作ったような笑顔ではなく、心の底から楽しいと言いたげな良い笑顔でこちらを見ていた。

それ故か、あははという癖付いた笑い方もいつもより少しは中身のあるものに思える。

 

しかし、この暗闇の中で白という色は本当によく映える。弟の白髪といい、先ほどの依頼主の彼女の肌といい、天然の持つ白とはとことん隠密に向かない。

 

「トウヤ、帰ってたんだ。依頼主には笑顔の絶えないアットホームな職場って言われたよ。」

「うっわそれ一番信用ならない職場紹介じゃん。」

「へぇ、そうなんだ。」

 

さすが名の知れた真っ黒店~といいながらトウヤが私の隣に並ぶ。

 

「なんだか珍しく楽しそうだけど、潜伏先で良いことあったの?ええっと、今回は2か月だったっけ。」

 

「んもー、3か月!

姉さんはもっと僕っていう可愛い弟がいないことについて興味関心を持ってよ!

トウヤは寂しいと死んじゃうんだよ?」

 

「冗談よりも、私の質問に対する答えを優先して言ってもらえる?」

 

冷ややかな目を作り、トウヤに向ける。

トウヤ本人もこの目が心の底からの嫌悪の産物ではないとわかっているようで、笑顔を崩さずにひるんだふりをした。

 

「あはは、分かったからそんな目しないでよ~。

詳細は家に着いてからにするけど、なんとなんと、僕ら姉弟で久々に依頼が来てね!

 

潜伏先は知らない人がいないレベルで超有名なあの場所!

冗談抜きで世界を救う、ロマンと非日常がごった返す超高難易度依頼!

成功報酬も過去最高額を記録!

ねぇ、何だかゲームみたいでワクワクしてこない?」

 

すごいでしょ、すごいでしょと言いたげなキラキラした目でこちらの反応を待つトウヤ。

肝心な部分を言わずに明らかに濁しているのは、私の興味を誘うためだろうか。それとも、どこで他人に聞かれているかわからないからだろうか。

この依頼も、仕事とあれば基本断らないスタンスの私のことを知っているから既に受諾したのだろう。

 

しかし、まぁ、どこに潜入しようがどれだけの難易度だろうがどれだけトウヤが冒険心をくすぐられようが、私にとってはいつもの通り仕事という名目であることに違いはないわけだ。

 

「へぇ。」

としか言いようがない。

 

「…………。って、それだけ!?」

 

「要は二人して長期の仕事の依頼が入ってきたってことでしょう?

最長ってことは、もっと早期に完了することも可能って意味だろうし。

いくら要素として特殊なものが重なっても、結局のところ私たちが最終的にやらなきゃいけない事自体は今までと大差ない。」

「あー、期間についてはご明察。

だけども、いつも通り……にしては、対象があまり特殊すぎるというか、なんというか。

んーと、とりあえず帰ろっか。次の仕事候補のことだけじゃなくて、前の仕事の土産話とかもいっぱいあるんだよ!

姉さんに話したいことがいっぱいあるんだ。」

 

トウヤは私の前を駆け足で進み、どんどん道を曲がっていく。

そんなトウヤの忙しなくくるくると変わる表情と行動に思わずため息を吐いた。

そして、その溜め息はあくびに変わる。いつものことだ、住処に着くまではまだ動けるはず。これはきっとトウヤの言ういっぱい話したいことの最初辺りで、私は眠ってしまうだろう。ちょうどいい。

 

トウヤの姿を追う気のない私は、歩いて道を曲がる。

自身の長い髪もその行動に沿い、僅かに風にはためいた。

トウヤと違い、闇で映えることなく寧ろ紛れる黒髪。

歩行のペース、口数、請け負う仕事の種類、それについてのスタンス、更に表情筋の稼働率。

 

今更だけれど、私たちは正反対だ。

もちろん、だからと言ってあんなに喧しいトウヤのことを全く羨ましくは思わないけれど。

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