「でたああああああああああああああ!」
「にゅやああああああああああああ!?」
統也と宵さんを連れて職員室前につき、入室許可を得て職員室の扉を開けるとその直後に統也の叫び声が響いた。
見る覚悟どこ行った。
「思ったより身長が大きいし触手も太いんだね。
ずいぶん空気抵抗が高そうなフォルムだけど、本当にマッハ20もでるのかな。」
宵さんは叫ぶことなく冷静に殺せんせーの容姿についてぽつぽつと疑問を呈していた。
こっちは逆に冷静過ぎてびっくりする。
「か、かかか、開口一番に゛出た゛なんてお化けでもないのに失礼じゃないですか!!先生も思わず釣られて悲鳴を上げてしまいましたよ!
にゅやぁ……。こういうのは第一印象が大事だというのにぃ………。」
「おっ、おおおお化けじゃなくても生UMAなんて誰だって悲鳴上げますって!
寧ろこうやって質量持って実在してる分お化けよりも怖いですって!」
俺の目の前に初めての生UMAを冷静に分析してた女の子がいるけど、それは良いんだろうか。
そう思って視線を宵さんの方に向けると、ちょうど向こうも顔はほとんど正面だが、少しだけ振り返って目線をこちらにやっていたのでばっちりと目が合った。統也とは違う深い紫色の瞳が、じっとこちらを見やっている。
俺が見られていたことよりも、正面よりも睫毛の長さがよく分かる、流し目の宵さん自身があまりに画になりすぎていて一瞬どきりとする。
それが顔に出ていたのか、若干宵さんが眉をしかめたように見えた。悪いことはしていないはずなのに、何だか申し訳ない気持ちになる。
「うっへえ~磯貝君ってば、よくぞ正気を保ってあの先生の前に立てるよねぇ。」
「これはもう慣れ、だな。」
宵さんから、俺の名前を出した統也の方に視線を移す。
………正直宵さんに抱いたふわっとした申し訳なさから逃げたかったので、不謹慎だけどちょうど良かった。
「あ、そういえば先生って名前あるの?」
「ええ。是非とも私のことは、殺せんせーと呼んでください。先生と殺せない、という意味の殺せんで殺せんせーです。」
「殺せん先生で殺せんせー。うっわー名前の由来の時点で高等生物って感じ。
ああ、そうそう!知ってるかもだけど、僕の名前は俵木統也です!」
「俵木宵です。えっと、よろしくお願いします、殺せんせー。」
「よろしくね~殺せんせー!あっ、そうだ!」
名前の話題から、ぽん、と用事を思い出したように統也が手を叩く。殺せんせーが先程の騒がしさとは打って変わって「にゅ?」とデフォルトのにやけ顔で統也の言葉を待つ。
「ねーねー!磯貝君、先生ぇ………って、あっ!!」
統也の「とんでもないことに気付いた」と言わんばかりの間抜けとも思える大きな声が、部屋中に、いや校舎中に木霊した。
反射的に体が強張り、統也に俺の意識が集中する。
その、一瞬だった。
視界で黄色い何かが弾けて、木の床にぺちゃっと落ちる。
ビチビチと奇妙に動くそれが切り離された殺せんせーの触手である、という結論に至るまでに俺は体感長い時間を有した。
だって、殺せんせーがダメージを受けることなんて、初めてで。
切られた殺せんせーの残った方の触手を視認すべく、俺は床から先生に視線を移す。
が、そこでの光景もある意味異様だった。
向かって右後ろの殺せんせーの触手が一本、半程から切り落とされている。
もう一本、切られたものとは別の手にあたる触手では、
先程俺の目の前にいたはずの宵さんがこちらに左手を突き出して何かを握り潰したような形で両手両足を他の触手で拘束されていた。
拘束といっても纏め上げられたような拘束ではなく「動きそのままの形で、それ以上は動かせなくする」という風な拘束の仕方だが。
突き出された左手の手袋には、粘液が付着していた。
「あは、超生物に一本やれたらさ。まぁ上出来じゃない?」
「………!?統也!」
統也の方も、宵さんと同じく動きそのまま、という風に両手両足に殺せんせーの触手の拘束がなされていた。
こちらは左足を蹴り上げたような恰好で。
「…………なるほど、中々シンプルでそれでいて上手い手ですね。君たちの技量の高さが伺える。」
統也の大声をキッカケに様変わりした光景と空気に、俺は全くついていけずにただ呆然と光景を見ていた。
「先生、生徒に危害は与えない約束なんでしょう?
この体制のままなのは辛いから、そろそろ私たち二人共離してくれると嬉しいのですけど。」
「ええ、もちろんですとも。」
するするすると統也と宵さんに絡まっていた触手が解かれる。
ふぅ、と息をつく統也と、左手の粘液を振り払う宵さん。今ならわかる。この二人は、あの一瞬で殺せんせーを暗殺しようとした。
しかも、あの先生にダメージを与えた。
「あはは、ごめんね磯貝君。めちゃくちゃびっくりさせちゃったでしょ。」
笑い混じりの困り顔でこちらに謝る統也。
あんな光景を見せられたのに、こんなに思考は上手く働いていないのに、俺は未だ統也に対して一切の恐れに似た感情を抱いていなかった。
ああ、恐れてはいない。でも、その統也に恐れを抱かないという事実がどこか気持ち悪くもある。
「まず最初に、あなた達の身につけている手袋と靴。それと統也くん、君の着ているそのパーカーも。私にダメージを与えられる素材のものですね。
いやはや、ナイフと銃弾だけでなくこんなに早くに衣服にも対先生物質を応用するとは。
にゅるふふふ、政府も中々頑張っていますねぇ。」
「でっしょー?本当にこんなんが対抗手段になるのかって疑ってたんだけどね。僕らのこれがプロトタイプなんだってさ。
……まぁ今先生に知られちゃった以上、強みも大分薄れちゃったんだけど。」
対先生物質については俺らも知ってる。政府から支給されたナイフと銃弾にそれが使われているし、その効果も先生が実演済みだ。
でも、彼らのように衣服の形でそれが使われているのを見るのは初めてだった。
「統也くんが会話の中心発言者として注目を集めている状況を作り、あっ!というその声とタイミングで更に瞬間的に意識を統也くんに強く向けさせる。我々が完全に統也くんに意識を向ける一瞬をつく、気配を完全に消した宵さんの不意打ち。そのコンマ一後に統也くんがもう片方を潰しにかかる。
しかも宵さんあなた、その前はすぐに不自然に気配を消さずに布擦れなどを使って徐々にフェードアウトしていきましたね。統也くんに我々の意識が向く強さに合わせて、ごく自然に。
おかげで先生も思わず触手を一本取られました。」
先生の解説を静かに二人は聞いていたが、説明し終わると統也は気まずそうに頬をかき、宵さんは目をわずかに見開いた。どうやら図星のようだ。
この打算だらけの行動が全て俺の知らぬ内に行われていたのだと思うと、ただただ驚いてしまう。
「しかし、その後先生の触手を狙うルートの足場に壁を選んだのはいけなかったですねぇ。ほかの建物ならまだしも、ここは老朽化の進んだ木造。足を付いた時の軋みが大きいので、すぐに居場所が分かってしまいますよ。
宵さんの素晴らしい跳躍力とバランス力あってのルート選択ですね。普通の人間ならこうはいかないでしょう。
まぁ、床や天井を選んでも同様の理由で先生を殺すことは出来なかったでしょうがねぇ。」
「驚いた。ルートから足場まで正確に割れてるなんて。」
ここまでのものを見せられて二人の正体に思い至らないはずがなかった。
寧ろ何故今まで気がつかなかったんだろうか。
俺がそれに気がつかなかった事すらも、これら打算のうちの一つでは無いかと勘ぐってしまう。
思えばおかしい話なのだ。
この椚ヶ丘中学に転入生が早々にE組に姉弟揃って落とされること。
よりにもよって、この時期に転入生が来ること。
きっと、この二人は
「歓迎しますよ。俵木宵さん、俵木統也くん!
プロの刺客として、私の生徒として。」
普通じゃない。
本編ではシロが対先生物質の布を着ていたわけですが、あれはシロが自分達で作ったものなのか、はたまた別の所が作り上げた技術なのか……。シロは一応は政府に協力している体でしたし、対先生物質を扱うなんて政府の息がかかっているでしょうから広義的に政府開発という言い回しでいいのですかね?多分、恐らく、そう思いたい、こっちの設定的に。
というかそもそも対先生繊維ってホントに本編のどのタイミングで生まれた技術だったんでしょう。
とりあえず今回はプロトタイプという形で二人の衣服にそれを使ってみました。黒手袋、ブーツという「こんなんアニメかゲームの中の学生しか着てなくない?カッコいいけど。」なものを身につけていたのはそういうことです。カルマはショートブーツらしいですが。そういうところが中二半というコードネームに説得力を生む。
ちなみにここ限定の対先生繊維プロトタイプの裏設定としては、後にシロ達が纏う対先生繊維よりも先生に対する攻撃力(溶かす力?)が弱いというものがあります。普通の布を作る際に使う物質の割合と対先生物質の割合で言えば、シロが本編で身にまとっていたものよりも対先生物質の割合が低いです。つまり単純に純度が悪い。
シロのやつとか手を置いただけで一瞬でドロォでしたしね。
でも普通の素材の割合がそれなりな分、デザインを優先しやすいとは思うので二人のパーカー・手袋・ブーツはかなりシンプルかつかっこいいデザイン、であるもののつもりです。そっちの方が私が得です。
対先生系のものがどう言ったレシピで作られていたのかはさっぱりですが、トライアンドエラーを繰り返す過程で「一応使い物にはなりましたよ」な、現状では最高性能なプロトタイプが支給されていてもいいんじゃないか。そういった感じで今回「対先生繊維プロトタイプ」を捏造しました。
それと宵の気配の消し方についてですが、某レッツホニャララな授業バラエティでお馴染みのアハ体験をイメージしています。
ぱっと消えると何が消えたか分かりますが、徐々に徐々に消えられると意外と分からないものですよね。それを等速でなく調整しながら行った、気配版超超超難関アハ体験だと思っていただければ。