私と僕の暗殺教室   作:宵季

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初日が……長い!
進みも……遅い!


磯貝と竹馬の友

「にしたって納得いっかなーい!こっちは一応触手全部切り落とす気でいたのにさ!」

 

3年E組の教室内にて。

俺ら三人以外はまだ誰も来ていないので、統也一人の不満げな声だけが反響している。

 

俺の机に肘をつきながら『8秒チャージ!onゼリー』と大きくプリントされたパウチをふてくされながらぢゅーと吸い込む姿は、先程殺せんせーを暗殺しようとした時よりも随分と幼い。

殺せんせーから対先生素材で作られていると言われていた緑のパーカーのフードを被りながらふてくされて食事をする光景を見て、なぜか『はらぺこあおむし』という単語が頭をよぎる。

 

「統也、気持ちは分かるけど飲みながら叫ばないで。飛ぶから。」

 

姿勢を正しながら『ザキヤマ スゥィィトプゥルロール メイプル味』を黙々と食べていた宵さんは、咀嚼していたそれをきちんと嚥下してから統也に苦言を呈した。

宵さんの所作は基本的にスマートというか洗練されていて、だら~と効果音の付きそうな統也との対比を更に濃くしている。

 

ちなみに宵さんは既に

『POPVALUE 比較的おっきめのメロンパン』

『ザキヤマ 粗く引いたフランクをフルトしたパン』

『ザキヤマ 白い愛人コラボ もちもち柔肌触感ロール』

『it 焼きそばパン~パンに焼きそばを挟んでみたらダブル炭水化物なのに意外といけた件について~』の四つを完食済み。

つまり今食べているパンは五つ目。

あんなに勢い良くゼリー飲料を飲む統也ですらまだ二個目なのに……。

 

二人が持ってきていた大きなスポーツバックの中身はほとんどが二人用のパンやエナジーゼリーだったようで、教室に入って職員室で殺せんせーから言われていた自分達の席を決めてからすぐに鞄を開けて一つ目を食べ出した。

 

二人の新しい席については机と椅子の運び出しを先生が既にしてくれていたようで、曰わく

 

「とりあえず一番後ろの列に新しく5セット置いたので、お好きなところにどうぞ。一年間使う場所ですし、授業的な意味でも暗殺的な意味でもプレビューは大事ですからねぇ。

 

あ、でも一番廊下側は既に寺坂君が使っているのでダメですよ!そこだけは注意です!席のダブルブッキングだなんて、管理が杜撰なコンサート運営じゃないんですから!」

とのことだった。

 

コンサート運営の下りに関しては異様に憤っていたけど前に何かあったんだろうか。

あんな常識外れの見た目をしているくせに人が多かろうがおかまいなしにどこにでも赴く殺せんせーのことだし、その杜撰なコンサート運営とやらに当たったのかもしれない。

 

一番後ろの席、つまり前から五列目には先生が言ったとおり、見慣れない五つの机が並んでいた。

 

宵さんは真ん中の列の左側を、統也は廊下側の列の左側を選択していたが、正直二人が隣同士ではなく一席空けての席を選んだことは意外だった。

 

宵さんは「窓際だと眠る時に日光が入って来やすいから眠りづらいの。廊下側は右側に既に人がいるから、隣のスペースに空き椅子を置いて横になることが出来ないし。だから消去法で真ん中にしたの。」とのこと。

 

統也の方は「姉さんは寝る時に右側を下にするんだ。僕が隣の席にいたら、姉さんは寝る時に右隣の机の椅子を清々使えないでしょ?姉さんの睡眠を阻害する要因は僕自身であっても断たなきゃ!」とのこと。

 

……宵さんが授業中に居眠りすることを前提にして話が進んでいたのはこの際気にしないことにした。

いやまぁ、クラス委員長としては気にするべき案件なんだろうけれど。なんだか、至極当然という風に話を進める彼らに対して止めても無駄だなと感じていた。

 

一応統也の方には、正面よりも少し斜めの方が対象の細かい動きが観察しやすいこと。利き手が左手なので、対先生銃を使用する時に窓側よりも廊下側の席の方が方向的に殺せんせーを狙いやすいこと。

と、このように合理的で至極真っ当な理由もあるようだったけれど、理由説明の際に宵さんの睡眠がらみの理由の方が熱が入っていたのでやはりそちらの方が主だった理由なんだろう。

 

うちのクラスの席の法則として男子は男子で、女子は女子で縦列が固まるというものがある。 しかしそれの法則性を破って、例外としてこの二人にだけ好きな位置の席を選ばせたことには、殺せんせーのどんな意図があるんだろうか。

 

二人は一般の生徒ではなく、プロの暗殺者。先程の職員室での一件で新しく判明した事実。これは暗殺だなんてさっぱり無縁だった俺達には願ってもないことだ。さっきの職員室の一件でも、二人の凄さが十二分に分かった。

 

この二人は俺たちなんかよりも遥かに殺せんせーを殺せる確率が高い。つまり、殺せんせーがこの教室内で最も警戒するべき相手だ。なのに先生は、そんな二人に好きな席を選ばせた。好きなように、自分を暗殺しやすいと思える場所を。一体どうして。

疑問ばかりが増えていくが、それについての明確な答えは今考えてもわからないような気がした。

 

二人が決めた席に目印として互いに筆箱やノートを置いて、席決めは完了。

俺の席の場所を教えると自分の席の椅子を持ってきて俺の机を囲むようにして座り、スポーツバックからゼリー飲料を取り出して今に至る。

 

「磯貝くんも食べて。私たちだけが食べてるんじゃなんだか申し訳なくなっちゃう。」

 

「ああ、ごめんな。そういうことなら遠慮なくいただくよ。」

 

俺も二人から場所代だと言われてありがたく貰ったいくつかのパンのうちの一つ『it ピリッとスパイシーマヨチキンロール』を開ける。残りの甘いパンは母さんや弟妹たちにお土産で持って帰ろう。ちょうどシール付きのキャラクターもののパンとかもあったし。

 

「やっぱり怖いよねぇ。僕たちのこと。」

 

統也が最後の一口を飲み込んで、白いビニール袋に薄くなった空のパウチを突っ込みながらあっけらかんと言う。

 

「そんな」

そんなことはないと言おうとした。

だって俺は、この二人に対して恐怖だとかいうマイナスなものは抱いていない。寧ろ、暗殺というものからかけ離れた生活をしていた俺たちにとってはプロというのはかなり心強い。

それを伝えようとしたタイミングで

 

がららら

 

少し引っかかったような引き戸の音が、俺らの話し声しか響いていなかった3-Eの教室に響く。俺たち三人の視線は教卓側の教室の出入り口に集まった。

そこには昨日「よし、じゃあ明日早めに来てみんなで最終確認な!」と明るく言った竹馬の友がいた。

 

「はよー……ってウワーッ!磯貝が知らない美形たちに囲まれてる!

え、待って待ってめちゃくちゃ可愛いね君!名前は?何が好き?どこ住?髪の毛めっちゃツヤツヤじゃーん!LINEやってる?」

 

「あ、前原おはよう。」

 

挨拶から三言目でナンパに入っている。本当にブレないな前原。

 

「お触り禁止!」

「ぶべらっ!?」

 

間髪入れずに脳天へ鉄拳制裁。

一応俺も統也を宥めはするものの、相手が相手なのでまぁ因果応報かなぁとそこまで強く止める気にはならなかった。

 

「統也、私まだ触られてない。

ごめんね。褒めてくれてありがとう。ええっと名前は俵木宵で、好きなのは睡眠と食事で、住んでるのは」

「宵さん。この手の質問には、多分指折りしながら真摯に答えなくても大丈夫だと思うぞ。」

「え、そうなの?……磯貝君が言うなら、わかった。」

暗黙の了解ってやつなんだね。難しいね、人間関係って。と深刻そうに宵さんが眉を潜ませながら言う。

多分真面目な子なんだろうけど、その受け止め方のスケールは少々大き過ぎじゃないかな。

 

正直、あのモードの前原の言動をここまで真っ正面切って真摯に受け止めてくれる宵さんってかなりの天然か超大物なんじゃないだろうか。

ふとそんな彼女を見て、岡島と対面させていいものかと不安が過った。岡島は悪いやつじゃないけど、怒らない子を選んでやっている節もあるから場合によってはエスカレートするんじゃなかろうか。

 

「あは、姉さんが可愛いのはすっごく分かるけど、明確な下心を持って口説くのはNGだからね~!はーい、僕を通してくださ~い!」

「あだだだだ!あああ、頭、頭がかち割れ痛だだだだだ!!」

「割れない割れない。ちょっとだけ頭蓋骨のつなぎ目を刺激してるだけだし。」

「それ力加減によってはつなぎ目からバッカリいくんじゃん!?」

「いったらいったでアナタはそれだけのことをしでかしましたよ~っていう神様からのありがたいメッセージじゃない?」

「メッセージの伝え方がそれじゃあもう取り返しつかねぇじゃん!?」

「神はいつでも残酷なんだよ。」

 

……過ったが、速攻で統也が前原の後ろに回り込んで側頭部の一点をギリギリと挟み込む光景を目の当たりにして不安が吹っ飛ぶ。あんな過激なボディーガードっぷりを見せられたら「まぁ、大丈夫か」という気になってしまった。

二人の初対面とは思えないほどの賑やかさに、自然と笑いが零れる。

 

「やっと笑った。」

「えっ」

「ずっとどこか表情が強ばってたから。君は正直な人なんだね。」

 

宵さんが6個目の『MID ミニマムおフランスパン』を開けながら言った。

俺はそんなに笑っていなかったろうか。両手で軽く口角を上げたり下げたりしてみる。確かにこうやって触ってみると、無意識に力が入っていたようにも感じる。

宵さんに気にさせるほど無意識とはいえ緊張が顔に出ていたのかと思うと、何だか申し訳無い気分だ。

 

「なぁに?それ。」

と宵さんが俺の真似をしているのか、同じ様に自分の口角をやわやわと上げ下げしていた。

その姿が、妹と弟がもっと小さい頃に絵本に出てきたラッコの顔マッサージの絵を真似している時の様子に少し似ていてまた笑ってしまう。

 

「えっ、なに。」

口角を両手で挟んだまま、宵さんが眉を寄せて怪訝そうな顔をする。しかし、ラッコのマッサージをしながらそういう表情をするせいで、全く緊張感が生まれない。

 

「あーっ!磯貝てめぇ!俺が妨害されてる間に美少女と抜け駆けしやがって!」

「抜け駆け!?磯貝くん、一体どういうことさ!」

「え、いや!そんなつもりは!」

「ううっ、ひどい人!僕とは遊びだったのね!」

「わー!抜け駆けの上に二股なんてイケメン委員長の風上にもおけないやつめ!覚悟!」

「それは一から十まで濡れ衣!ちょ、やめ!」

 

悪ノリし始める統也とそれに軽率に乗る前原、そして謂われのない尋問をされる俺。

そんな阿鼻叫喚の様を、宵さんは(よほど気に入ったのか)ラッコマッサージをしながら静観していた。




元々更新が遅くなる話ではあったものの、年単位なのは自分でも驚きです。頭の中には常に彼らがいたのに。
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