『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』最終部「宇宙(うみ)と風と虹と」 作:城元太
アーカディアは、己の意志によって標的への接近を加速させた。必然的に相対速度も上昇し、照準を絞るのも困難となるが、精緻な機動により音速の数百倍で迫る小惑星を次々と捉えた。
「
火器使用のため、ウィングバリアを解除した機体に砕けた岩塊を浴びつつも、怯むことなく巨大な標的へと突き進む。
「
「
絶え間無く放つ砲火の輝きが、虚空の闇に怪竜の輪郭を鮮やかに浮かび上がらせる。
コアに宿る魂は想いを語らぬが、語らずとも全身より発露していた。掛け替えのないものを守るため、あらん限りの能力を尽くし、飛来する災厄に抗う姿がそこにあった。
隕石掃蕩の一方で、艦橋では新たに生じた破滅的事態に対しての
「有り体に言えば、揺れながら回転する
佐伯是基の示す艦橋の拡大投影機には、壮大な降着円盤を伴い両極から猛烈な
「パルサーは〝マグネター〟と称される中性子星と同様に、降着円盤から吸収された星間物質が亜光速で噴き出される現象。平面を回る独楽であればいずれ横倒しとなって止まりますが、宇宙では横倒しになろうとも回転を永遠に続けることが可能なのです」
恒星の中心軸より伸びたビームがゾイド星系を直撃する様子が示される。
「マグネター・フレア・ビーム=パルサーは、恒星の歳差運動よってゾイド恒星系を何度か
『
計算の結果、ゾイド星系にパルサーが照射される時間は数刻に過ぎませぬが、ウォルフ・レイエ星方向の惑星Zi半面に一斉に荷電粒子砲の直撃を受けると考えれば、その凄まじさは想像を超えた修羅場となります。地表は燃え上がり、大気は局所的に消滅。蒸発した海水が密雲となって空を覆い、焦熱地獄と
「
懸命に絶望を拭い去るかのように、赤い光輪が第一標的の数倍に及ぶ小惑星を切り裂いた。再度展開したウィングバリアに破片が燃え上がり消滅する光景を眺め、紀秋茂が低く呟く。
「隕石群を全て破壊しても、惑星の滅亡は防げないのか」
「いっそ滅亡してしまえば良い」
津時成の放った言葉は、評定の場に集う魁師達にとってこれまで抑えて来た感情でもあった。
「『神』でも『鬼』でも構わぬ。あの様な腐り切った奴らが棲む惑星など、軌道エレベーターごと焼かれてしまえば良い。因果応報だ」
海賊と謂えど、元は平穏に漁撈を行う沿岸の漁民や海上交通要所の水先案内人であった。雅な都とソラの繁栄を支えるため、国衙の
「落ち着け時成」
純友が組んだ両腕を解き、動揺を始めた座を制した。
「貴様の言う事は判っている」
「ならば船長はなぜ戦う。なぜ守る、あんな奴らの為に」
沈黙する座の中、純友は立ち上がった。
「俺も考えた、ソラを全て葬り去ることを。だがそれは『神々の怒り』を征し、バイオデスザウラーを倒してからと決めたのだ。
自ら悪を為している事に気付かぬ者は、俺達海賊衆などより遥かに極悪人だ。だがあのちっぽけな惑星には、一握りの極悪人の何千倍、何万倍もの無辜の善良な民が暮らしていることを忘れるな。それに」
コアのある方向を振り返り、問う。
「
無言で操作盤を探る是基は、諸元を一瞥し訝しむ表情を浮かべた。
「読みます。
当初〝赤色巨星〟と分析した恒星が二重連星系であり、水素を纏わぬウォルフ・レイエ星であったことの修正を報じております。〝スマヌ〟と、一言付け加えて」
暫時、評定に場違いな緩んだ気が流れる。
「〝済まぬ〟か。木訥な坂東武者らしい返答だ」
純友が深く鼻から息を吐き出すと、張り詰めた空気が一気に解けていく。
「俺たちも知恵を絞り、難事に立ち向かわねばならぬ。焦った処で妙案は浮かばぬ」
「船長、勘違いされるのは気に入らぬので言うが、俺達は皆、藤原純友という海賊頭にどこまでもついていくと誓った。例え宇宙の果てまででも」
時成を見て、純友は昂然と笑みを交わす。
「
純友は再び船長席に悠然と座した。
「三辰、是基と共にコアの元で策を練れ。手透きの者は是基たちの抜けた穴を補い、全力で隕石群破壊を行う。必要あれば呼べ。俺も是基への伝令ぐらいは出来る」
「滅相も無い」
恐縮する是基を見て、評定の場は既に焦りの色が消えていた。
竜骨座
天文学的尺度に於いて、ヨハネス・ケプラーが天体運行の法則を解明してから人類がワームホールドライブによる恒星間航行を成功させる期間など、瞬きの間に過ぎない。爆発の発生が明日か1万年後かも、星の寿命にとっては同時刻に等しい。通常、恒星は核融合反応によって水素原子を燃やし尽くすと更に重い原子へと融合が進み、最終的に星の中心核が鉄となり一応の安定をみる。その場合、恒星の周囲には核融合反応に使用されなかった密度の薄い水素が膨張し、いわゆる赤色巨星と移行していくが、イータ・カリーナの如き大質量恒星の場合〝星風〟が発生し表面に漂う水素を吹き飛ばし、赤色巨星とは異なる青色巨星=ウォルフ・レイエ星と変化するのである。
照合された情報は、非常に特徴が類似しているが、ゾイド星系を襲うパルサーを放った極超新星爆発が、イータ・カリーナ星であるという確証はない。
コアの元に行くと告げた純友が向かった先は、藤原三辰と佐伯是基が作業をする格納庫であった。
「是基、お前には道化役になって貰った事、礼を言う」
「何を言われているか、さっぱり見当が着きませぬが」
絶望的事態の中で、自暴自棄に陥った状況を打破できたのは、全て是基が切っ掛けであった。しかし当事者本人は純友に視線を合わせず、格納庫の先の空間を見ていた。
「それより船長、こんなこともあろうかと、」
実直な是基に似つかわない、得意満面の笑みを浮かべる。
「エアウルフを宇宙戦仕様に改造しておきました」
そこにはジャイロリフターを撤去し、代わりにアタックブースターを装備した九匹の銀色の狼が待機していた。
純友は危機迫る状況も忘れ、静かに出撃を待つ銀狼の周囲を気忙しく見て回る。純友もまた、ゾイド好きな少年と同じ純粋な心を失っていなかった。
「なぜもっと早く言わなかった」
責める、というより新しい玩具を隠されていた子供の感情に近い。是基に告げるべき言葉は忘れ、それは是基も望んだことであった。開発当事者が誇らしく語り出す。
「無重力戦仕様に改造は完了していたのですが、過剰な出力と遠心力、及び気密性と宇宙放射線の防御不充分のため、搭乗者を乗せ操縦すること叶わぬ機体になってしまいました。折りを見て出力を下げる改良をする予定だったのですが、此度、このままの仕様で無人機としての運用が可能となったのです」
「どいうことだ」
一頻り機体周りを検めた純友は、装甲式風防に換装された機首に、五芒星の桔梗紋が描かれていることに気付く。
「我らは〝桔梗の前〟という最高の自動制御装置を得ました。これをエアウルフのコアに複写したことにより、人の限界を超越した性能が発揮可能なゾイドが完成したのです。
船長は以前『桔梗の前は、どの様な形であっても我らの力になる筈だ』と言われましたが、その言葉通りとなりました」
「そうか」
純友は、銀狼の機首に描かれた桔梗紋に掌を置き、呟く。
「だが、俺たちはガンマ線バーストという破滅の光を防ぐのが目的だ。空間戦闘に優れたゾイドをどう使う」
「これを装備させます」
純友の背後より、格納庫の隅に立つ藤原三辰が声を上げた。足元には、銀狼と同じ数の円筒形の装置が並べられていた。
「本来小惑星破壊の後、浮遊するスペースデブリを一斉除去するために準備していた装置です。
ウィングバリアは、マッドサンダーの反荷電粒子シールドの原理と同じものです。アーカディアのウィングバリアを、艦の周囲を繭状に覆うのではなく、惑星に降り注ぐガンマ線バーストの遮蔽として平面状に展開するのです。この極超短波の電磁障壁中継装置を装備したエアウルフをアーカディアの周囲に配置し、パルサーの到達範囲に広げます。その際エアウルフの撃破は免れませんが、無人機なれば左様の特殊攻撃も可能です」
「
銀狼の機首に描かれた桔梗紋見つめる。成否の可能性を問うことはない。
「〝
純友が呟く。
「スターウルフ、良き銘です」
銀狼の機首より飛び降りると、緩やかな重力に引かれ、純友はふわりと格納庫の床に着地する。
「艦橋には俺が伝える。三辰、アタッカーの出撃は任せるぞ」
「承知」
〝
艦橋から、最後の小惑星破壊の報告が響いた。
「同胞よ、俺に力を貸してくれ。これよりアーカディア及びスターウルフによる第二次惑星Zi防衛作戦を敢行する」
純友の囁きに、コアが力強く脈動した。