『ZOIDS Genesis 風と雲と虹と』最終部「宇宙(うみ)と風と虹と」 作:城元太
流体金属のテルミット反応による侵徹力は、アーカディアのウィングバリアをも
「右翼上面被弾。艦内施設、及び乗員に甚大な被害が発生!」
粘着榴弾と化したバイオゾイドは、装甲材内壁を剥離させ、その破片によって被害を与えるホプキンソン効果を及ぼした。赤いビームスマッシャー発射装置外縁から濛々と黒煙が噴き上がり、猛追してきたサラマンダーが破損個所に火焔を注ぎ込む。アーカディアは苦悶の声をあげ、僅かに速度を落とす。背後には天空龍が迫っていた。
依然アーカディアへの追撃を続ける天空龍に、銀狼スターウルフが果敢に挑む。だが撃ち込む曳光弾は、巨体を覆うウィングバリアに阻まれ実体面に達することはない。執拗に進路を阻む銀狼へ、ギルドラゴンは射角を広げたニードルガンを放射した。
火器使用の際のウィングバリア消滅の機を逃さず、スターウルフは
三叉の角が輝き、後方に貼り付く銀狼目掛け雷霆を放つ。ドラゴントライデントはギルベイダーのツインメーザーに準じる武器であり、攻撃死角を補う機能を有していたのだ。
人間の反射神経であれば直撃していたに違いない。自律戦闘システム〝桔梗の前〟なればの回避能力だった。直撃こそ避けられたものの、アタックブースター上面を掠られバフェットに煽られる。螺鈿色の表面を離れ浮き上がった瞬間、青い小型ビームスマッシャーが銀狼に向け発射された。
狼の左後肢が切断され、激しいスピンに陥る。フュエルタンク後方に後落する銀狼の命脈は尽きたかに見えた。
機首の星型桔梗紋が輝く。不規則スピンの途中から、規則的・幾何学的なバレルロールに移行し、体勢を立て直す。アタックブースターのアフターバーナーが螺旋の航跡を描き、銀の餓狼は獰猛な牙を剥いた。
機関砲、三連衝撃砲、そしてストライククロー。螺鈿色の天空龍の中枢を狙いゾイドの生命の炎全てを燃やし、スターウルフは一筋の光となって突入した。
閃光と共にスターウルフが消滅する。同時にギルドラゴンの飛行速度が急速低下し、アーカディアから引き離される。機体の犠牲と引き替えに、天空龍頚部の情報伝達系機関が切断されたのだ。見る間に距離の広がっていく螺鈿色の機体を確認しながら、アーカディアの舵輪を握る純友が囁く。
「桔梗の前、其方の最期を無駄にはせぬ」
飛来し続けるバイオゾイドの塊を回避しながら、黒い怪竜は大宰府目指し突き進んでいた。
フレイムスラッシュシステムを作動させたストームソーダーと、ホロニックアーマーに覆われたバイオメガラプトル・グリアームドの空中戦は続く。
「邪魔だ」
トップソードによって2機のサラマンダーが撃墜される。サラマンダーの残骸を突き破り、翼を持つ骸骨竜が猛襲する。
「子高め、どこまでも汚い手を使う」
歯軋りする三辰の操る赤い翼竜と、燐光を放つ骸骨竜とが目まぐるしくローリング・シザースを描き、互いに機体強度の限界点で鬩ぎ合う。
キウルキウル キリ ボキウボキウ ボキリボキリ ボキリホキリ
キウムキウム キウムキウムキメイテイ マメイシマカテイカラメイト ソワカ
先に音を上げたのはストームソーダーであった。長時間に亘る格闘戦により、操縦者である藤原三辰の意識が遠退き、一瞬の隙が生じたのだ。一方のグリアームド搭乗者、藤原子高は早々と失神していた。機体の操縦は真言を詠唱する幣帛使が担っている。有機生体受信機としての役割のみしか与えられていない子高にとって、意識のあるなしなど問題ではなかったのだ。
骸骨竜が赤い翼竜にヒートハッキングクローを構える。肉食獣の本能に赴く肉弾戦である。三辰が目の前に燐光を放つ爪が迫るのを気付いた時、逃れる術は失われていた。
「船長、あとを頼みまする」
三辰は、届く保証のない打電をアーカディアへ送った。多少なりとも敵の追撃を阻むことができただけ満足だった。
一斉に撃ち上がる弾幕の豪雨に、燐光を放つ骸骨竜が洗われる。実体弾に弾かれ、グリアームドは四肢をあらぬ方向へ捻じ曲げ吹き飛んだ。
弾幕を展開しつつ、海面から五隻の斑の巨鯨が浮上した。間断無き攻撃はさしものグリアームドも近寄れない程の熾烈さであった。赤く染め上げられた〝南無八幡大菩薩〟の海賊旗が翻る。
「白浪様……」
ホエールキングの装甲面に描かれた逆巻く波涛、三辰の脳裏に嘗て瀬戸の海を席巻した女海賊の名が過ぎった。
女海賊
〝三辰殿、あとを頼むにもまだまだやり残しがありましょう〟
涼やかながらも静かな闘志を秘めた声が通信機に響き、バレルロールによって鬱血していた三辰の頭脳に活力を与える。
「……情けない、まだ成すべきことは残っていた」
ストームソーダーの翼が赤く燃え上がる。翼を窄めたアンロード加速により、赤い翼竜が光る骸骨竜に標的を定める。
実体弾攻撃に晒されたグリアームドに異変が現れる。立体感を無視した横縞模様が表面に描かれ始める。
「何度も量子転送で逃れられると思うな」
朧げに蒼空に紛れようとする骸骨竜の正中線を狙い、フレイムスラッシュを帯びたトップソードが亜光速で貫いた。
羯
初めて聞くバイオゾイドの悲鳴だった。或いは搭乗者藤原子高の断末魔が、幣帛使の真言を逆流し周囲に響いたのかも知れない。
グリアームドの全身が光の粒子となって分解されていく。量子転送とは異なる現象を顕し、喘ぐ口吻を真上にして骸骨竜は虚空に消滅していった。
フレイムスラッシュシステムを解除し、元来の黒と紫の姿に戻ったストームソーダージェットと、悠然と浮遊する五隻のホエールキングが蒼穹に残された。
〝三辰殿はアーカディア號に合流してください。我らはこれよりギルドラゴンに向かいます〟
「白浪様も、どうか御無事で」
ベイパートレイルを曳き、黒い翼竜は飛び去っていく。見送る先に、夫にして海賊頭の藤原純友の不敵な顔を、白浪は思い描く。
突如として静寂が破られた。ストームソーダージェットが点となって消えた先より、青い光輪が飛来したのだ。一隻のホエールキングが、右翼を発動機ごと切断され傾斜する。回避のために蛇行飛行を開始する五隻の巨鯨の前には、頚部より白煙を吹いて迫る天空龍が出現していた。青い光輪が更にもう一隻の巨鯨を切り裂く。アーカディアに引き離されたギルドラゴンは、有らん限りの憎悪をホエールキング艦隊に叩き付けたのだ。
海賊衆の武装強化型ホエールキングを以てしても、天空龍ギルドラゴンはあまりに分が悪い。更に二隻が切断され、海面に落下していく。残る旗艦の艦橋の中、白浪が依然美しい笑みを湛えていた。
「女はいつも男の後始末をせねばならぬものですね。重太丸、父のように強くなるのよ」
やがて斑模様のホエールキング艦隊は硝煙の中に沈んでいった。
「大宰府が見えました」
東方大陸北端、
「シーパンツァー部隊だと……」
整然と並ぶ重装甲の海底戦用ゾイドと、それを取り巻き、長大な砲身を備えた肉食竜型大型ゾイドが隊列を組む。その光景を見た純友は、嘗ての副将藤原恒利の生存と裏切りを同時に察知した。
大宰府の海賊征伐部隊の編制には、地上に残されたソラ及び龍宮のほぼ全兵力が結集されていた。以下に投入された主立った兵力を記す(全兵力に非ず)。
征西大将軍;藤原忠文(参議右衛門督)ジェノリッター
副将;藤原
同;藤原
同;平
同;源
同;源経基(散位)ゴジュラスギガ・バスターキャノン装備型
判官;藤原慶幸(右衛門尉)ゴジュラスガナー
伊予国警固使;
讃岐介;藤原
讃岐警固使;坂上敏基 アクアドン、フロレシオス混成部隊(×17)
兵庫允;宮道
同;藤原桓利(軍監・海賊)シーパンツァー部隊(×22)
同;藤原
同;藤原
注目すべきは、伊和員経のデッドリーコングとの戦闘によりアイアンコングPKを失った橘遠保に、
信じ難い事に――この言葉も、もはや陳腐な言い回しに過ぎないが――大宰府の大質量射出装置を芯に、撃ち出されることのなかった成り損ないのバイオゾイドが海嘯となって這い寄っていた。大気に非ず空間を振動させ、幣帛使の
――ノウボウ タリツ ボリツ ハラボリツ シャキンメイ シャキンメイ タラサンダン オエンビ ソワカ――
――オン シュチリ キャラロハ ウン ケン ソワカ――
――ノウマク サマンダ ボダナン ベイシラマンダヤ ソワカ――
――オン ヂリタラシタラ ララ ハラマダノウ ソワカ――
――オン ビロダキシャ ウン――
――オン ビロバキシャ ナギャ ジハタ エイ ソワカ――
――ノウマク サンマンダ バザラダン センダンマカロシャダ ソワタヤ ウンタラタ カン マン――
――ノウマク サラバ タタギャティ ビヤサルバ タタラタ センダ マカロシャナ ケン ギャキ ギャキ サルバビキナン ウン タラタ カン マン――
――ノウマク サマンダ バサラナン タラタ アボギャ センダ マカロシャナ ソワタヤ ウン タラタヤ タラマヤ ウン タラタ カン マン――
――ノウマク サンマンダ バザラダン カン――
地表より湧き出した溶岩色の流体金属がマスドライバーを覆い、下から上へと
次第に形成されていく姿は、悪夢の再生であった。クリムゾンヘルアーマーを纏う竜が身を起こす。
「またもバイオデスザウラーが……否、あれは別種のもの」
頭部形状は不死山の死竜に準ずるが、全身は遙かに小さい。
小さいとはいえ、アーカディアとほぼ同規模の巨大ゾイドにして、禍禍しさに至っては死竜を上回る。肢体の彼方此方に、成り損ないの貌が貼り付く無数のバイオゾイド集合体、別称するならば「寄せ集め」である。
【温羅め。我らが幣帛の産み出した〝
未定着のクリムゾンヘルアーマーを滴らせ、口腔にマスドライバーを備え四肢で長大な胴を支える異形の死竜〝バイオブラッディデーモン〟が、アーカディアの前で形成された。
ウィングバリアを失い、満身創痍のアーカディアに、無数の火砲と血塗れの怨霊が対峙する。
大宰府は、純友と将門にとっての最後の戦場であった。