南方棲鬼と申します。   作:オラクルMk-II

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これからは1日おきの隔日更新になりそうです。今日から年末休暇なのでお話を書くぞ書くぞ!\(^o^)/

あとお気に入りがあっちゅーまに100越えてて腰が抜けた() 応援していただいている方々には頭が上がりません……


君と羊と青の意味って素敵

 戻ってきて早々に二人は、車ごと大勢の艦娘達に周りを取り囲まれることになった。理由は、先程の大事故が速報としてテレビのニュースに映っていたかららしく、隣の鎮守府までに通る道だと知っていた何人かが心配していたとのこと。……同時に、一体誰が撮っていたのか、某サイトに華麗なカウンタードリフトで危機を回避する白のインプレッサの動画までアップされていたらしい。現代の情報の伝わる速さって怖いと巧は思った。

 

 「怪我はないか?」「大丈夫だったの?」「っていうか平気ってことはアレはCGで違う道通って帰ったの?」と普通の考えから少しぶっ飛んだものまで色々飛んできた発言、質問達に。巧が「何ともなかった」と口を開く前に、加賀が受け答えをする。

 

「それがね、みんな聞いてちょうだい。彼女が居なければ私は今頃病院か天国だったかもしれないわ」

 

「「「それでそれで!?」」」

 

「普通の人ならブレーキ踏むところで、巧はアクセル踏んで加速したのよ? それで映画みたいに横転した車の横を素通りして何ともなかった、というわけ。」

 

 女が3人以上寄れば姦しいとはよく言ったものである。すげぇすげぇ、キャーカッコいー! と周りから称賛されたが、自分に出来ることをしただけな巧には、いまいちすごいことをしたとの実感が湧かない。思い返しても、アレは考えての行動ではなく、体が反射的に動いてとった行動だったのだ。

 

「それにせよ、本当に貴女人間? 艦娘の私でも見えなかった車捌きと動体視力......それについてこられる反射神経に判断力って?」

 

「いや、あ~不味いなって思ったら、あぁなって」

 

「私の考えすぎ? どれも普通の人間じゃあり得ない、でも異常と言うには説得力が弱い......って思ったけれど」

 

「いや、人間じゃなかったら逆に私は何なんですか」

 

「深海棲艦!」

 

「えぇ!?」

 

 ニヤリと笑いながら加賀が漏らした言葉に巧は変な顔になり、様子を見ていた周囲からどっと笑いが起きる。困った様子の彼女を気にせず、加賀は更に言う。

 

「朝だって摩耶が言ってたわよ。「人間じゃねぇよコイツ……みたいに思うことばかりするヤツだよ」って」

 

「そんなぁ……」

 

「……でも、なんにせよ本当にありがとうね。巧。貴女のお陰で助かったわ」

 

 にんまりと、歯まで見える満面の笑顔で手を振りながら、加賀は建物の玄関に向かって歩いていく。誉められたのは正直に嬉しいと感じていた巧の周りでは、加賀のあんな表情初めて見たと驚きの声が出ていた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 翌日。巧と、整備の腕前が良いからと今ではすっかり出撃任務以外では整備係の一員にされてしまった、天龍を含む整備士たちは、妖精から普段と違う仕事を言い渡され、それに従事していた。

 

 赤、青、緑の大量の小型LEDがくっついた配線を両手から引き摺りながら。整備士どころか今日暇をしている鎮守府の一員は総出でやるらしい、クリスマス用の電飾でこの建物から門、更には植え込みの木までを飾る、という仕事に。巧は、ベンチコートやウインドブレーカーでしっかり防寒した加賀や那智、暁らと会話混じりに参加していた。

 

「軍隊とか、こういう場所でもクリスマスを祝うんですね。なんか意外です」

 

「元帥のおじ様がイベント大好きなの。その影響かしらね。今年で70にもなるのにケーキもお肉もバリバリ食べる元気な人でして、毎年この季節にパーティーを開いて、各地の鎮守府の提督と秘書に自分の鎮守府に来るように、なんて召集までかけるのよ」

 

「すごい太っ腹ですね……」

 

 「今日辺りに召集と言う名のお誘いが来るんじゃないかしら」、と巧の応対に合わせた後、加賀は続ける。

 

「クリスマス会はそれはそれはもうとんでもない力の入れようよ。1週間ほどぶっ続けでやって、わざわざ各地の警備網が手薄にならないように日程を設定していたり。それでも来れない人は多いけど」

 

「あ、強制じゃないんですね」

 

「えぇ。流石にそこまでバカではないわ。私も最初に聞いたときは平和ボケしすぎとか思ったけど、これが結構楽しくて……文句が言えない立場になってしまって」

 

 恥ずかしさからか、外気の寒さによるものか、判別はつかなかったが頬を赤らめながら言う彼女に。会の内容について、気になった巧は少し踏み込んで聞いてみる。なんでも、ディナーは高級ホテルの一般解放の食べ放題並みに豪勢で、会の目玉のケーキは頬っぺたが落ちるを通り越して、頭が爆発するほどウマイとのこと。

 

 今日のためだけに組まれた工事現場の足のような場所をいったり来たりして、建物の窓やへり等引っ掛かりのある部分に電飾を施すこと一時間。

 

 もう少しで建物は終わりか、と巧が思っていたとき、今度は天龍にボコられた響の姉、暁から声をかけられた。因みに彼女は身長が150ほどなので、頭1つぶんで済まない身長差の巧と話すときはいつも上目使いだ。内心巧は、自分も女だが、ちんまい彼女がカワイイと思っているのは声に出さない。

 

「南条さんは、化粧品とか何を使ってるんですか!?」

 

「え? どうしてそんなことを?」

 

「南条さんが美人だから! 背も高いし白くて綺麗だし体系もモデルさんみたいだし!」

 

「そ、そうかな? でも化粧水塗って眉毛整えたら終わりなんだケド……」

 

「嘘でしょう!?」

 

 昔から「白すぎてキモい」だのなんだの言われていた彼女には、この怒濤の誉め言葉が新鮮に感じる。それどころか「スッピン美人! うらやましい!」だなんて生まれて初めて言われて、思わず顔を赤くする。二人の様子を見ていた加賀は、巧の表情を覗き込みながら何か企んでいそうな笑顔だ。

 

 照れながらも手は止めずに作業中だった時だった。その場に居た全員の鼻っ面に、白い物が当たって、溶ける。一瞬雨かと思い、巧が上を見ると、鉛色の空から雪が降ってきていた。

 

「あ、雪だ……こっちでも降るんですね」

 

「久々ね。2年ぶりくらいじゃないかしら」

 

「冬タイヤ履きっぱなしで良かったな……でも運転怖いな」

 

「道民の貴女としては大したこと無いと思うけれど? どうせ靴底の厚みぐらいしか積もらないもの」

 

「私はなれてても、周りが慣れてない人多いからどっちにせよこの季節は危ないですよ。昨日の事故じゃないけど、車がどこに飛んでくかわからないですからね。雪の上って」

 

 北海道で運転していた頃を思い出し、免許取り立ての頃はよくツルツル滑って横を向いたな、なんて巧は軽く呟いたが、その経験があの物凄い運転技術なのか? と加賀は邪推する。そんな巧に、同じく作業中だった那智がはにかみながら口を開く。

 

「冬場もCR-Xの洗車頼むぜトップ整備士。この時期は嫌ってほど水アカが付くからさ」

 

「任されました!」

 

「すっかりお気に入りね? 那智は巧が」

 

「そりゃそうさ、新車同然に磨いてもらった時は涙が出そうになったからな」

 

「そんなに? じゃあ私もFCの洗車頼もうかしら」

 

「ありがとうございます!」

 

 こういった会話にすんなり馴染んで混ざれてしまう辺り、加賀もすっかり車好きが染み込んだようだと巧と那智が会話の最中に考える。少し前まではFDとFCを間違うレベルだったのに、と思うと感慨深い……気がする。

 

 飾り付けももうあとは窓三つほどに電飾で終了か、というとき、足場の下から長門の声が響いてくる。別行動中の人員が足りないらしい。

 

『暇なやつ、こっち手伝ってくれないか』

 

 それを聞いて。巧は三階建て程の高さの鉄骨から飛び降りた。

 

「は~い。今行きます」

 

「えっ!? 巧……」

 

 こんな高さから飛べば怪我をすると加賀が言うのよりも先に降りた彼女に、周りの視線が集まった。ドスンと着地して足を捻る……どころか、軽い身のこなしで、宙返り3回転程で上手く落下の勢いを殺しながら、やんわりと危なげなく着地した巧に。加賀他数名が唖然としていた。

 

 コイツ本当に人間かと摩耶が言いたくなるのも無理はないな。スタントマンのような動きを見せた巧に、加賀はそう思った。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 長門と合流した巧は早速彼女から何の仕事で呼んだのかを聞く。仕事に使うのか、彼女のすぐ近くに大型フォークリフトに載せられた、彼女用の戦艦の艤装が置いてあったのが目を引いた。それの煙突(?)のような部分に、何やらよくわからないビニールの何かが連結してある。

 

「早速来て……貴女か。ちょっとこれに風船を繋ぐのを手伝ってくれないか」

 

「風船?」

 

「サンタクロース型の巨大バルーンだ。デパートとかで観たこと無いか?」

 

 あぁ、アレか、と自己完結。してから長門に更に詳細を教えてもらう。なんでも風船が大きすぎて普通の空気入れでは全然パワーが足りないので、引っ張ってきた自分の艤装から起こした風で風船を膨らませるらしい。

 

「これそんなしょうもない事に使っていいんですか? 大切な装備なんですよね?」

 

「いいんだいいんだ。いざってときに深海棲艦と戦ったら意外とすぐに壊れるからな。多少は愛着はあるが道具は使ってこそ、だぜ」

 

 既に熱が入っているという艤装に、無理矢理取り付けたような枝分かれしているパイプの先に、言われた通りに巧は長門と風船を取り付けていく。

 

 5個ほど繋げたとき、長門から「もういいぞ」と言われて、巧は意外と早く終わってしまったので、今度は木に脚立を立て掛けて、それに登って枝に電飾を施していた親友の元へと馳せ参じる。

 

「マコリーン、手伝うか~い?」

 

「巧か、ちょっと下に積んでるヤツ持っててくれ、一人で支えてると重たいから」

 

「りょーかい!」

 

 摩耶の真下に、とぐろを巻いた蛇のように積んであった電飾を持ち上げて支え、少しでも彼女がそれを手元まで手繰り寄せる助けにする。と、同時に。巧は親友に会話の切り口をふっかけた。

 

「気になってたんだけどさ、よくマコリン外車なんて買ったね。しかもミニ」

 

「荷物が積めてある程度速くて、見渡せる高さもあるってなって決めたんだよ。後々後悔したんだけどな」

 

「そうなの? あまり悪い評判聞かないけどな、ミニって。一応BMWだし」

 

「最初はもう酷かったぞ乗り心地クソ悪くて。サスは異常に硬ぇわシートも硬いわ、岩に乗ってるみたいだったよ。腹立ったから車高調入れてセミバケ入れて……ってなったら軽く100万近くかかったからな。下手したらお前のインプレッサのほうが遥かに乗り心地良いよ」

 

「うっそー、すごく意外!」

 

 スポーツカー……と言う割にはあまりストイックな設計ではないが、それでも乗り心地が良い方ではないアレに負けるとは相当ではないだろうか。元々部品が壊れたりすると、高いお金がつくと知っていてあまり巧の中では印象が良くなかった外車が、更にイメージが悪くなった瞬間だった。

 

 

 

 そうやっていろんな場所を奔走しながら手伝っていると、冬場ということもあってか、すっかり周囲は暗くなっていた。

 

 提督の緒方以下、総勢40名ほどかき集めたイルミネーションの取り付けは、この1日で終わり。加賀の提案で、出撃で居ない者には見せられないが、軽い点灯式でもやろうかということになり、正門に艦娘から整備士までが集合する。

 

 

「点灯!」

 

 

 加賀が年甲斐もなく少し張り切って電飾のリモコンスイッチを押す……が。想像よりもイルミネーションがしょっぱい出来だった。

 

 今年から初めて入隊した天龍と巧は、いつもこんなものなのか……? と首をかしげつつ見ていたとき。おかしいと思っていたのは二人だけでは無かったらしく、那智が何かに気付く。

 

「……なんかショボい」

 

「加賀、それ省エネモードだぞ」

 

「あっ」

 

 ボタンの押し間違いを指摘した那智の発言に、周囲が笑いに包まれる……前に、加賀は皆を凄まじい形相で睨み付けたため、賑やかにはならなかった。

 

 軽い咳払いをしてから、「点灯!」と少し顔を赤くして、加賀は今度こそイルミネーションのボタンを押した。

 

 「おぉ……」と、周りに居た者達から緩く感嘆の声が漏れる。北海道民ということで、あちらの方では意外とこういった派手な電飾を見る機会は多いものの。それでもやっぱり、暗い中で、浮き上がるように光って自己主張をする小さなLEDの軍団に、巧は軽く見とれた。

 

「綺麗ですね~……でも電気代がヤバそう……」

 

「太陽光発電から自活分の電力を引っ張ってきているから、そうでもないそうよ?」

 

 2分ほど寒い中で硬直していたところ、緒方が解散と言ったので、各々がマイペースに鎮守府の中に戻ろうとするその時。緒方の携帯電話が鳴る。

 

 『今日辺りに召集と言う名のお誘いが来るんじゃないかしら』との加賀の発言が巧の頭によぎった。はたして予想は当たっていたようで、彼に来た通話の内容はクリスマスパーティーのお誘いだったらしい。

 

「恒例行事の誘いだ。今日から1週間だって……来たいヤツ、居るか?」

 

 行きたいな……でも私整備士だしな、と巧が思っていると。隣に居た摩耶が腕を掴んで、無理矢理挙手させてきた。緒方はというと、眉間に軽くシワを寄せて少し動揺している。

 

「マコリン!?」

 

「摩耶、その、整備士の南条さんは……」

 

「前にメカマンとイチャコラしてる艦娘が居たのを見たろ。一人ぐらい大丈夫だって」

 

 「それに、」と摩耶は続けた。

 

「コイツがなんで無理くり連れられたか誰にもわかんないんだろ? あのジイさんに直接聞いてやろーぜ」

 

 成る程、と内心で相槌を打つ。彼女なりにいつも自分の身を案じてくれていた事を知り、巧はテレた。

 

 

 

 各自の仕事の日程の考えたところ、今日中に行くのが一番都合が良いということになり、全員は礼装に着替える。摩耶と巧はお互いにパンツスーツ姿になったが、親友同士、似合わないスーツに少しだけ笑いあった。

 

 軽くだが積もった雪対策として、冬タイヤに交換していた摩耶と巧が各々の車を出すことになり、摩耶は隣に緒方、巧は隣に加賀をのせることが決まる。因みに巧の車は元帥直々に許可が必要な書類数点が箱に入れられて後部座席に積まれることになった。

 

「じゃあアタシの後ろ着いてこいヨ。ならナビ無くても道も大丈夫だろ。ちと早いけどもう今から出ればいいだけなんだろ?」

 

「ゴメンね、マコリン」

 

「いいよ別に。どうせ暇だしさ。ホラ、提督乗れよ。アタシのミニはサスとシート代えてるから乗り心地いいぜ?」

 

「……何が違うのかわからんが……タイヤが四つついてれば全部車じゃないのか……?」

 

「「「正気かアンタ!?」」」

 

 鎮守府から出発する直前だというのに。車好きに言ってはいけない台詞ナンバーワン……を争いそうな事を口走り、緒方は3人から特大のブーイングを食らった。

 

 余談だが人一倍自分の車にこだわっていた摩耶の機嫌は、会場の鎮守府に着くまで治らなかったとか。

 

 

 

 

 

 

 




セミバケ→セミバケットシートの略。すご~く座り心地がいい。

車高調→車高調節式サスペンションの略。車の高さの調節から柔らかさと硬さの調節までほぼなんでもできる。スポーツカーはこれに換装する人が多いが、摩耶のように乗り心地目的でつける人ももちろん居る。

BMW社の名誉の為に言っておきますがミニは名車です。ただセッティングが少し日本に合わないんですよね……

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