南方棲鬼と申します。   作:オラクルMk-II

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こっそり前話に挿絵を追加しておきました。
若干ゃ超展開かも。ドゾ。

あとは余談ですが初めて星0の評価を貰ったのですが、ちょっと感動しました。例え低評価でも見ていただいている方が居ると思うと、嬉しいものです。


ゴーゴー行け行け幽霊船

 雪の積もった町中は軽い渋滞が起きていた。馴れない雪道にホイールスピン状態で四苦八苦している車に、街路樹に追突してレッカー車を待っている車に、と、窓の外の先人たちを見習い、いつもよりも注意して巧はステアリングを握る。こういうときには、乗っていた車が四駆で良かったな、と思う瞬間だ。

 

 出発して20キロほどの距離に、あまり声を大にしては言えないが、急ぐ関係で若干法廷速度オーバーぎみのスピードで差し掛かった時。ナビの代わりをしてくれていた摩耶が止まったので、巧も連動してブレーキを踏む。

 

 何で足止めを食らったんだ? と思い、巧は首を動かして前の車越しの景色を見てみる。踏み切りのような設備の先に、道路が垂直に立っていた景色を見て、何だコレはと軽く驚く。加賀によれば、「跳開橋」という、船を橋のある水場に通すためなんかに作る、苦肉の策で出来た橋らしい。

 

「すご……跳ね上げ式の橋なんて初めて見ました」

 

「一時間おきに、定期的に10分間ぐらい上げ下げを繰り返すそうよ。この辺りの港に出入りする船のために」

 

「へぇ……アニメ映画みたいだなァ……」

 

「アキラとか好きだったりするのかしら?」

 

「え! 加賀さんああいう映画見るんですか!」

 

「あら、心外ね。一時期は本気で二輪車に乗ろうと思ってたわ」

 

 「今は単車よりも車だけれども」と溢した相手に「加賀さんとは今までより仲良くできそう!」と言うと、隣の彼女は笑って見せる。意外と話題が合う加賀と雑談で時間潰しをしていると、上がっていた橋が繋がり、巧はシフトノブをニュートラルから1速に入れて発進した。

 

 摩耶が運転するミニの誘導に従うこと、30分とすこしぐらいか。二人ずつ乗せた2台は軍で一番のお偉いさんのお膝元に到着する。そして予想通りだったのだが、自分の職場と家を兼ねる鎮守府とは訳が違う規模の敷地や建物に。巧は驚く。

 

 新設されたとはいえ威厳があった自分のよく知っている建物の倍ほどの大きさで、アレの比ではない威圧を持つ鎮守府、安全灯がチカチカと輝く大型クレーン設備に、何に使うのか、巨大なコンテナ船が停泊していたりと文字どおりスケールが違う。それに駐車場に止まっていた、恐らくは今回招待されたと思われる提督や秘書が乗ってきたのであろう車たちも規格外だ。

 

 レクサスやベンツ、ポルシェは当たり前。マセラティやロータスといった、見慣れない雰囲気の、スーパーカーに片足を突っ込んだハイパフォーマンス車から、高級車の代名詞のようなベントレーやフェラーリが止まっている。それも1、2台ではなく、中古車市並の規模で停車しているのだ。ぶつけたら一体自分はどうなるのか、と巧は気が気ではない。

 

 焦りと緊張から汗が出る……状態が一周回って、体温が下がるような状態で、巧は機械的に摩耶のミニを追う。スーパーカーすげー、かっこいー、なんて気が散った瞬間ぶつけるというヘマをしそうなので、心が無の状態を維持した。

 

 恐怖の高級車地帯を抜けると、歩道の近くに、路上駐車可能と書かれた看板がたてかかっている場所に摩耶が車を停めたので、巧はその前が空いていたので停車する。車からでて開口一番に「お疲れ~」と言ってきた親友に、巧はこの場所についての愚痴混じりの感想を言った。

 

「お給料いくら貰ってるんだろうねみんな。これ私の車浮いてるんだけど……」

 

「わりぃ、巧、アタシがミニ買ったのもそういう理由なんだわ」

 

「はぁ!? マコリンこの! このブルジョワジーめ!」

 

 摩耶の言った言葉に少しムカついたので、胸にチョップする。すごく柔らかかった。隣に居てそれを見ていた緒方が猛烈に顔を赤くして帽子を目深にかぶり直す。

 

 少し上ずった声で早く行くぞと言うと、緒方は雪を踏みながら、さっさと先に行ってしまう。そんな彼の様子を見て、ウブだなぁと思った女子三人組はクスクス笑った。

 

 

 

 鎮守府の隣に建っている、今回のようなイベント事に使うという名前のわからない建物(別館とでも呼称するべきか)の中は凄まじく広かった。巧は昔に、学校の行事に行った美術館のホールを見て感動した経験があるが、ガラス越しの景色はそれよりも更に一回り広く見える。

 

 外観が古そうに見える、この建物の景観を損ねない洒落た造りの玄関の回転ドアを潜り、一行は中へ入る。シャンデリアがいくつか天井からぶら下がり、大きな丸テーブルには幾らかかるか、庶民の巧には想像もつかなさそうなかしこまった料理が並んでいるのが、賑わっている大勢の人間の隙間から見える。会場の雰囲気としては、立食パーティーと結婚式を組み合わせたような様相となっていた。

 

 入り口の近くで身分確認と会場案内を兼ねた仕事をしていた、眼鏡をかけた艦娘の指示に従い、4人は86番と札が置かれたテーブルに向かう。

 

 途中、巧は周囲からヒソヒソ話の対象になったり、チラチラ顔を見られたりしたが気にしない事にした。……心の中では、一人ぐらい取っ捕まえて張り倒してやろうかと思わないこともなかったが、そんなことをしたが最後なのでもちろんセーブする。

 

 本当は開会式があって盛大に始まるクリスマス会だとのことだが、急な参加ということで遅れて来た4人はすぐに食べ物に手を付ける事になる。

 

 「そこのエビの料理が美味しいですよ」と加賀から言われ、巧はそれを小皿に装って口にした。皿にはオマール海老のアヒージョと書いてある。

 

 アヒージョってなんだろう、と思うよりも先に。

 

 

 ウ マ イ !!

 

 

 こんなの人生で一度も食べたことないや、と内心でおおはしゃぎする。目を輝かせていたところ、加賀に「食べて良かったでしょう?」と聞かれ、驚きと幸せと笑顔を足して5を掛けた表情でぶんぶんと首を縦に振る。

 

 予想の倍ほどの料理の美味しさに、巧はすっかりここに来た趣旨を忘れて、場の空気と食べ物に夢中になった。来るまでは、金持ちと貧乏人の味覚って合うのか? とあまり期待していなかったのがいい意味で裏切られたようだ。が。数十分ほど経過してからの親友の呼び掛けに、彼女は夢の国から現実に引き戻される。

 

「メシが美味いのはわかるがボケてんじゃねーよ巧。何のために来たんだ」

 

「夜ごはん?」

 

「アホタレ! 元帥のジイさんに会うためだろ、ホラ行くぞ」

 

 まだ会の終わりの8時まで時間あるんだから後でいいのに……。テーブルの皿を名残惜しそうに見送り、巧は摩耶に引きずられていった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「急用が入って会えない、ですか?」

 

「はい。神座(かみくら)はただいま別の鎮守府の視察に赴いております」

 

「参ったな……あの、失礼ですがお戻りになられる時間とかは」

 

「申し訳ありません、何分自由な人ですから、秘書の私でも彼の行動は把握できておらず……」

 

「そうですか、ありがとうございます」

 

「お力になれず、誠に申し訳ございませんでした」

 

 人の波を掻き分けて行くこと、意外とかかって5分。パーティ会場の裏手で、やっと元帥配下の艦娘を見つけて声をかけたものの、まさかの今日は元帥が鎮守府に居ないという事を知り。摩耶は軽くため息を点いた。

 

 スーツの袖をまくり、安物の腕時計を覗く。デジタル計には丁度7時だと表記されているのを見て、あと一時間であのジジイ戻ってくるだろうか? と思案を巡らせる。だが考えても問題が山積みだ。

 

 こういった無礼講染みた会だからこそ気安く話を吹っ掛けたり、顔を見て話ができるのであって、当たり前だが元帥だなんていうものは、普段は声すら聞けないような超絶上の階級の人間なのだ。できることなら今日中に会いたかったのが摩耶の考えだった。

 

 もし会の途中にあったら、何がなんでも巧を連れてきた理由を聞いてやる。実のところ、大親友が嫌々連れ出されてきたというのを聞いて、軍に疑念と軽い怒りを感じてこのところを過ごしていた摩耶は、今一度覚悟を決める。

 

 取り合えずまた30分ぐらいしてから秘書の艦娘に声をかけにいくかと、軽く後の事を決めて。巧に声をかけて席に戻ろうかと思ったときだった。

 

「……アレ?」

 

 アイツどこいきやがった! いつの間にかに消えた親友の姿に。慌てて摩耶はまた人の波の中に突入していった。

 

 

 

 満員電車、は流石に言い過ぎだが込み合っていた会場の中で、すっかり巧は迷子になっていた。背が高いのを有効活用して玄関を見つけ、そこに戻ってから自分の席を探す……という作戦も、所々にあるバルーンアートなんかが邪魔で使えない。

 

 これ、どうやって戻ろうか。自分から知らない人に声かけるのも、なんかみんな楽しそうな所に水指しそうでなぁ……、と持ち前のヘタレを発揮して、ぼうっとしていると。そんな彼女に声をかけてくる男性がいた。

 

「もし、そこの色白のお嬢さん」

 

「あ、私ですか?」

 

「ええ。自分の席がわからなくなってしまったかな?」

 

「……! はい、お恥ずかしながら」

 

 声が届いた方向に体の向きを変える。

 

 白い軍服を着ていて、その胸には大量の階級証だか勲章だかがひしめいて自己主張をしており、また顔の右目に眼帯をしているのが特徴的な、優しそうな顔をした50~60歳ほどの男性だった。もっとも目の眼帯と鍛えられた体に、胸の大量のバッヂから、相当なお偉いさんだと察して、軽く巧は気を引き締めたが。

 

「何番かは覚えていらっしゃいますかな? それならばご案内できますよ」

 

「確か、86番です」

 

「86ですね。では。失礼ですが、はぐれないように手を繋いでも?」

 

「あ、はい」

 

 戻れるなら別にいいか、と相手の発言を飲み。巧は手を引かれて歩いていく。異性と手を繋ぐなんて何年ぶりだろうか、と考えていると、歩いている最中にまた相手が口を開いた。

 

「それにしても綺麗な方だ。私のようなオヤジには宝石のように見えますよ」

 

「はぁ……? 初めて言われました」

 

「おや、そうですか。貴女のような美しい方と話せるとは、男冥利に尽きますが」

 

「言いすぎです、白すぎて気持ち悪いって昔から言われてますし」

 

「ははは、見る目がない人間ばかりだっただけかもしれませんよ?」

 

 海軍関係者はアルビノ好きが多いのか? と照れながら思う。数分もせずに「席、あそこですね」と無事にいきたい場所まで戻れたことを彼に教えられ、礼を言って一人歩こうとすると、また止められる。

 

「席まで案内した代わりに、少し私の言うことを聞いてほしいのですが」

 

「はあ」

 

「最近SNSというものに、年甲斐もなくはまってしまって。今の言葉はわかりませんが、昔風に言うなら「メル友」になってほしいのです」

 

「それぐらいなら。良いですよ」

 

「本当ですか! いや、ありがとうございます!」

 

 細い目を更に細め、口角を上げて笑顔になった彼に。巧は、かわいいオジサンだな、と感想を抱きながらLINEを交換した。そのまま彼はどこかに行ってしまったが、登録名が偽名やハンドルネームじゃなければ「神座」という人らしい。

 

 さて、席に戻るかと86番テーブルに目線を移す。場所取りと目印代わりに待ち人をやっていた加賀と緒方の二人が、こちらを見て呆然としていた。何かあったのか? と思って近づく前に、腕を誰かに掴まれる。摩耶だった。

 

「あ、マコリン。ゴメンはぐれちゃって」

 

「それどころじゃねぇよ、おい、今の人……!」

 

「道案内してくれたオジサン?」

 

「バカヤロウ!! アレ元帥だぞ!?」

 

「ええええええぇぇぇぇぇ!!?? メル友になろうよって言ってきたんだけどォ!?」

 

「うるせぇ急げ!! 追うぞ!!」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 人混みの中に紛れ込んだ人間一匹を探すのは大変だった。結論から言うと、会が終わるギリギリにやっと二人は目的の人を見つけて話し掛けたのだが。

 

 巧についての事情を教える代わりに、ついでに貴方たちの鎮守府の視察がしたいと要求を突きつけられ。ぐぬぬした摩耶は緒方に言うと、許可を得られたので、車で元帥を送ろうと外に出ていた。周りには3人と元帥が既に待っている。

 

 元帥なんか乗せてドライブなんて、プレッシャーきつすぎて吐きそうだ……そんな事を思って、摩耶は始動キーを差し込む。が、エンジンがかからなかった。

 

「……あれ」

 

「どうしたの?」

 

「巧、もっと近くで……ヤバイ、故障したかも」

 

「こんなときに!? どうするのさ」

 

「どうしようもねぇよ、お前が乗せるしか!」

 

 ヒソヒソ話の後に、悪あがきとしてガソリンの残量から、ボンネットの中まで摩耶は確認するものの、結局原因がわからずミニはレッカーされてしまうことになった。

 

 そして

 

 人数オーバーの加賀は今日はここに泊まることになり。緒方、元帥、摩耶の3人を乗っけて、巧は元居た場所まで戻ることになったのだった。

 

 

 

 すごぉ~く居心地が悪いと巧は感じていた。一番広い助手席に元帥を乗せたかったのだが、車は後部座席が上座らしく、緒方と元帥は彼女の後ろに陣取っている。しかも彼女の車はロールバーを組んでいるので、ただでさえ小さい後ろの席が更に窮屈なのだ。申し訳なさとプレッシャーで胃が潰れそうな思いだった。

 

 隣の摩耶のナビに従って巧は機械的に運転を続ける。曲がり道を越えて、海岸線沿いの長い直線道路に来たとき、バックミラーを使って後ろの元帥の表情を覗く。会の時には優しそうに見えた顔が、今は滅茶苦茶に怖かった。

 

 いつもの倍を越えるぐらいに運転に気を使うが、走る車には付き物の、路面の段差を越える度の振動一つ一つに気が散る。こうした動きが少しずつ積み重なって元帥の怒りが爆発しないか? なんて思うと気が気ではなかった。

 

「久し振りですね。こういう車に乗るのは」

 

「元帥様はスポーツカーなんてお乗りになられるのですか?」

 

「ええ。昔はAE86(エーイー ハチロク)に乗ってましたから」

 

 唐突に口を開いた彼に、巧が聞くとそんな答えが返ってきて、摩耶と二人で胸を撫で下ろした。乗り心地が悪いだとかは呑んでくれていたようだ。もっともすぐ隣に座っていた緒方は動悸が激しくなっていたのは、二人の知らないところだったが。

 

 橋があるところまではひたすら真っ直ぐな道で、信号が赤になったのでブレーキを踏む。少しはこのモヤモヤした気が晴れるかと思い、巧は窓の外の奥に広がる真っ暗な海を見る。だが海上には明かり一つ無かったので闇しか見えなかった。

 

 

 その闇の中で、見間違いか、一瞬何かが光った気がした。

 

 

 UFOか何かかな、なんて平和ボケした考えを浮かべて間もなく。轟音と共に車体が傾き、鈍い音をたてて着地してギリギリ横転せずに道に復帰する。

 

「な、何が……」

 

「…………!?」

 

「巧、アクセル踏め!! 早く!!」

 

 訳もわからず巧は、非常に嫌な不快感というか予感というか、親友の声と同時にそんなものを感じてアクセルベタ踏みで車を加速させた。

 

 タコメーターの回転数がぐんぐん上がり、エンジンが唸りを挙げる。シフトレバーを1から5まで順に引き上げていくと、スピードは計測器ではもう少しで180キロに差し掛かる。だが、なぜか真っ直ぐに走ってくれないこの車に、巧は咄嗟にサイドミラーを覗いて車体の後ろを見る。

 

 先程の何か、今も続く砲撃(?)によって破損したのか、後ろのタイヤが壊れて引き摺られているのが見えて、軽く舌打ちした。本当なら今すぐにでも裏路地かどこかに入って難を逃れたかったが、不幸なことに、この道はあと何キロも先まではひたすら真っ直ぐで、町へ続く横道など無かった。

 

 何秒、何分走ったか、ハンドルを左右に切り返して車を真っ直ぐに走らせるのに必死で、周りの音や状況が巧にはわからなくなっていた。だが、振動からまだ謎の攻撃は続いている事は知覚する。

 

 目線の遥か先に、行きでも使った橋を見付ける。が、定期点検の時間か、だんだんと上に上がっていた。

 

 

 巧は5速に突っ込んでいたシフトを4に戻してレッドゾーンまで回転を引き上げてから、また5に戻して車を限界まで加速させる。そして愛車の馬力を総動員させて、踏み切りのバーを吹き飛ばして、橋から車ごと飛んだ。

 

 

 ジャンプ台の代わりに足蹴にした橋の長さも含めれば、優に100mは越える長さの距離を滞空していただろうか。

 

 向こう岸の橋を越えた道路に着地すると同時に、サスペンションで吸収しきれなかった衝撃が車内に奔る。そしてとうとう耐久力の限界を超えた、壊れていたリアタイヤが一つ外れた。

 

 橋を越えてすぐに現れた道を見逃さず、巧はサイドブレーキを引いて後輪をロックさせながら、猛スピードで路地に車体を捩じ込み、急いで海岸線の道から離れていった。

 

 時間にすればきっと5分にも満たなかったかもしれない。だが、4人は生きた心地がしなかった数分だった。

 

 

 

 

 




忘れた頃にやって来る艦これ要素。もう少しでお話が終わりなんじゃ。

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