南方棲鬼と申します。   作:オラクルMk-II

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変な時間に失礼します。
艦これっぽい話が急に今回から入ってくるので、超展開気味かも。
後2、3話艦これ感をかもして本筋は終わります。その後はクルマまみれなお話を予定しています。ドゾ。


いきなり言われても困ります

 

 昨日、命からがらという言葉がこれ以上ないほど似合いそうな状態で、壊れかけになった巧の車が戻ってくると、鎮守府中が騒然となっていた。

 

 無茶をやったときに、額をピラーに打ち付けて血が出ていた巧は頭に軽く包帯を巻き、同じくその時に(したた)かに車内に体を打った元帥と緒方は、軽く打撲した部分にガーゼを巻いて処置を受けた。運が良かったのか、摩耶だけは怪我もなく元気だった。

 

 後から入ってきた情報によれば、あの衝撃は艦娘の警戒網を突破してきた深海棲艦による攻撃だったらしい。死者は出なかったものの、今は道路が激しくダメージを受けているため、あの海岸沿いの道は封鎖されたとのこと。

 

 だが巧の脳内はそれ以外のことで一杯だった。

 

 

「………………」

 

 加賀と一緒にFCの整備をしたり、職場として働いていたガレージに運ばれた、自分のGC8の前に立つ。タイヤが外れてから、軽く数キロは引き摺ったせいか。車体下のシャシー防護用のアンダーガードは垂れ下がり、着地した際に壊れたのかフロントバンパーにはヒビが入り、ヘッドライトも片方割れている。

 

 それよりも問題だったのは、昨日の攻撃で飛んできたコンクリート片がヒットしたリア周りだ。

 

 何が起きたらこんな壊れ方をするのか。トランクが凹んで、ルーフは軽く潰れたミニカーのように歪み、サスペンションのアームごと右リアタイヤが脱輪している。ロールバーで車体が補強されていたのが幸いしたのだろう。後ろに乗っていた元帥と緒方が、こんなに潰れた車内で生きていたのが奇跡と思えるような破損の具合だった。

 

「おはようさん、巧」

 

「おはよ、マコリン……と加賀さん」

 

 頭の中が真っ白な状態で居ると、摩耶と、朝方に彼女の車を運転して戻ってきた加賀がやって来たので機械的に挨拶を返す。……無駄とはわかっていても、ある話題を摩耶に言わずにはいられず、巧は口を開いた。

 

「……修理(オコ)せないかな。このインプレッサ」

 

「………それは、お前が一番わかってんだろ」

 

「ッ…………」

 

「リアタイヤがサスペンションのアームごと折れて外れただけ、とかならまだなんとかなったろうけど。後ろの骨格が歪んじまってる。金積んだところで直るモンじゃねーだろ、この状態はさ」

 

「……そんなに重大な破損なの?」

 

「ああ。こんなんじゃ、イチから車体作った方が早いってレベルだよ」

 

 唇を噛み締めている巧を見て、加賀は摩耶に聞いてみたものの、その筋の専門職である彼女から返ってきたのは、気休めにもならない答えだった。

 

 巧から、すぐ近くの彼女の車に加賀は目を移す。知らない人間からすれば、こんな状態の車を見て、すぐにツブして新車を買えば、なんて言うのだろうが。出来たばかりの友人、それも数日間にいつも車のことで親身になって尽くしてくれた彼女に、そんな言葉をかけることは加賀には出来なかった。

 

「……今年で10年目だったんです。これに乗り初めて」

 

 唐突に口を開いた巧の言葉を、黙って二人は聞く。

 

「免許とったばかりの時から乗って、専門行った後からは、お父さんから卒業祝いだって言って、譲ってもらって」

 

「「…………」」

 

「下手だった頃は、しょっちゅう壁に擦ったり、ぶつけたりして……父さんからグーで軽く殴られて。でも、その度に笑って二人で直して……古い車なりに、大事に乗ってたんです」

 

 その場にしゃがみこみ、愛車のバンパーを撫でて、力なく笑いながら巧は続ける。彼女の頬を涙が伝うのを、二人は見逃さない。

 

「今度はグーで済まないだろうな……オヤジに骨折れるまで殴られちゃうよ、こんなにしちゃったら……」

 

 静かに泣いている親友の姿に、胸が締め付けられるような感覚を二人は抱いていた。摩耶は、どうにかして巧の車を直してやりたいとは思うが、同時にどうしようもないことは、神様にでも頼むしかないという考えにも至り。やり場の無い怒りをどうぶつければいいのかと思案する。

 

 5分ほどの静かな時間が、3人の体感的には永遠のように感じられていたとき。どこかから走ってきたのか、息を荒くしている那智がやって来る。なんだろうと思って、巧は涙を拭って立ち上がり、彼女のほうに向き直る。

 

「やっぱりここか! 巧、急な仕事がお前さんに入った」

 

「仕事?」

 

「ああ、元帥が話があるから医務室まで連れてこいって。摩耶と加賀も来るか?」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 初めて鎮守府に来たとき並の緊張を感じながら、巧は医務室の前に立つ。周りには摩耶、加賀、那智も居る。採血の時に1回来たことがあるとはいえ、あのときとは状況が違いすぎる。なんといっても、この木の板一枚を挟んだ向こう側には、総理大臣レベルの超絶お偉いさんが居るのだ。さっきまでのメソメソが完全に頭から吹っ飛んでいた。

 

 昨日、LINEの交換をしたときの彼の表情を思い出す。無礼な振る舞いとかしてなかったっけ!? と心臓がバックバクで落ち着かない。相手の職業を知らない方が良かった、立場さえなければ、ただのおじさんとして接せられるのに、とずっと考えるだけでも仕方がないので。ぷーッと息を吐いて、勢いのまま巧は部屋の中に入った。

 

 部屋に入ると、ベッドに腰かけていた元帥の姿が真っ先に目に飛び込んできた。ニコニコ笑顔で「君たち、座りなさい」と言われたので、素直に巧は近くにあったパイプ椅子に腰かける。……加賀に小声で「ノック忘れてたわよ」と言われて あ、私死んだ と思ったが、続けて相手が「堅苦しいのは止してくれ」と言ってくれて、胸を撫で下ろす。

 

「礼が一言言いたかった。運転していた貴女が居なければ私は今頃地獄か天国だったからね。言葉じゃあ表しきれないぐらいだけど、まずは感謝する」

 

「……ありがとう、ございます」

 

「受けた恩は必ず返そうと考えているんだ。何か、私にやってほしいことはあるかな? できる範囲で何でも聞こうと思う」

 

「えっ、い、いきなり言われても困ります」

 

「ははは。今すぐじゃあ無くても構わないよ。ゆっくりと考えてくれ」

 

 初めて出会ったときから少しは思っていたが、話がしやすい人だな、と巧は思った。右目を縦に横断する傷が顔にある目の前の人に、なんというか、立場や職業や生まれの違いなんかを度外視して、同じ目線の高さで話をしてくれるタイプの人のような、独特な居心地の良さを感じたのだ。

 

 そんな事を巧が考えていると、今度は入れ替わるように摩耶が口を開く。巧が軍に引きずり込まれたことについての話題だ。

 

「元帥サマ、昨日言った事は考えて頂けたでしょうか」

 

「……? 済まない、わからないからもう一度言ってくれ」

 

「彼女、南条 巧は私の友人です。私は何故、彼女に仕事と家をツブさせてまでして、ここに連れてこられたのかが気になって、毎日夜も眠れませんでした」

 

「続けてくれ。……もっと素直に言ってくれても構わない」

 

「乱暴に言えば私は非常に軍に怒りを感じています。だいたい昨日の事だって彼女が居なかったら、無かった事だったんだ。馴れない環境に一般人連れ込んで、直接じゃないとはいえ危ない目にもあわせて、なのにまだ巧になんでこっちに来いと言ったのかの理由が教えられていない」

 

「…………」

 

「教えてください。彼女がいったい何をしたのでしょうか。コイツの人格と過去が知りたいのなら、原稿100枚にまとめろと言われても私はできます」

 

 摩耶は、馴れない敬語と話し言葉、そして溜まりに溜まった爆発寸前のストレスで、思ったことそのままを口から出力したような物言いをする。彼女の言葉を聞いた元帥は、ゆっくりと話し始めた。

 

「わかった。話すよ、いい機会だからね」

 

「「「…………!」」」

 

「だが、今じゃない。そして話をするのは私じゃないんだ」

 

「何……?」

 

「私よりも、君の事情に詳しい人物が今日やって来るよ。少し変わった場所から、ね」

 

「巧の事情に詳しいヤツ……?」

 

 変なことを言い出した彼に、摩耶は怪訝そうな表情を見せる。全員がどういう意味だろうかと首を傾げたときだ。

 

 バタン! と勢い良く部屋の扉をこじ開けて一人の艦娘が入ってきて、叫び声で、5人が話していた後ろで寝ていた緒方に緊急連絡を伝えた。

 

「ご主人様ァ!! 姫級の深海棲艦がこっちに向かってるって、警備から連絡が!!」

 

「漣、ここは医務室だ」

 

「そんな事言ってる場合じゃねっすわ、識別信号は戦艦水鬼だヨン!! すぐに近隣の部隊も総動員して迎撃に……」

 

 全員に緊張が奔るのを巧は感じた。記憶を少し辿る。確か姫級というのは、めちゃくちゃに強い化け物? だったか。自分が連れてこられる原因になった、巧とそっくりさんらしい南方棲鬼の写真を思い出す。

 

 だが元帥だけは落ち着き払って、こう言った。

 

「通せ。その深海棲艦はこちらの事情を知っている」

 

「え?」

 

「通せと言ったんだ。南条、と言ったね? こちらの彼女と関係がある者だ。相手は」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「マコリン、ちょっと教えて欲しいんだけどさ」

 

「何?」

 

「せんかんすいき? ってすごいの? みんなコワイ顔してるけどさ」

 

「あたしらが普段相手してる駆逐艦……お前の知ってるクジラみたいなやつが戦車だとしたら、水鬼はサイコガンダム。アタシは下っぱだから会ったこと無いけどさ」

 

「オッケー、なんとなくわかった」

 

 ヤバイじゃん、それ下手したらここ消し炭になるんじゃないの!? とやっと周囲が緊張している理由を知り、作業着姿の下で、巧は鳥肌が立った。

 

 先程のやり取りから場所は変わって、ここは鎮守府の港だ。巧の周りには十数人の艦娘が、武装して立っており、物々しい雰囲気を醸している。この集団の先頭近くに巧と摩耶は居た。親友は両手に2連装の大砲のようなものを付けていて、巧には普段とは印象が違って見える。

 

「戦艦水鬼か……本人を、それもこんな近くで見ることになるなんてな」

 

「肩の力を抜いていて貰えると助かる。彼女は非常に臆病だからね」

 

「は? いえ、しかし」

 

「来たら解るさ。言う通りにしてくれると私が嬉しい」

 

「はっ!」

 

「周りの君たちも聞いていたね? 相手が相手だけに難しいだろうが、普段通りにリラックスしていてくれ」

 

 先頭に居た長門に応対した元帥の言葉に、艦娘たちはモジモジして落ち着かない様子だ。やはり落ち着けと言われても、町ひとつ吹き飛ばせる怪物が来るとなると、元帥の言う通り難しいのだろう。自分もその立場ならそう思うだろうし、と巧は考える。

 

 無線機とお喋りをしていた艦娘によると、あと少しで相手が来るらしい。それから程無くして、海上をゆっくりと小型船舶が警備の艦娘たちの誘導に従って、こっちにやって来るのが見えた。何気に、テレビ画面ではなく、生で艦娘が海の上をスケートしているのは初めて見る巧だった。

 

 小型の漁船クラスの船が岸に着き。いよいよ中から人型の深海棲艦が出てくる。艦娘たち+巧が表情を引き締めたときだった。

 

 「あっ」と声を出したかと思うと、戦艦水鬼は足を踏み外してアスファルトの地面に顔面を打ち付けた。

 

「あ゙っだっ……痛い」

 

「…………。大丈夫ですか?」

 

「うん、ごめんなさいね」

 

 親切心で、反射的に長門は手を差し伸べた。女は強打した鼻をさすりながら立ち上がる。

 

 艦娘たちは完全に拍子抜けしてしまった。名前と噂からどんな化け物みたいなのが来るかと思えば、目の前の女はドジを踏んで軽く怪我をしたばかりか、目に涙が浮かんでいる。全く怖く感じなかったのだ。

 

 巧はというと、第一印象は綺麗な人だな、と思っていた。吸い込まれるように真っ黒な長い髪に、それと対照的に異常に白い表皮、そして自分と同じく赤い瞳をもつ女性は、同じ性別の巧でも魅惑されそうな、アブない色気が漂っている。出会って一番にズッコケたせいで、天然っぽく見えるのがタマに傷か。

 

 一見外国人と言えば通りそうな容姿だが、額の端から角が1本生えているのが人間ではないのだという証拠がある彼女は。巧を見て、口を開いた。

 

「久し振り……になるのかしらね。貴女とは」

 

「え?」

 

「後で言って回ったり、時間が取るのが難しいかも知れないから。周りに人が多い今、言うわ」

 

 人の言葉で普通に話すんだな、という事を考えた次の瞬間にそれは相手の言葉を聞いて雲散した。

 

 続けて戦艦水鬼は巧の手をとって、自分に言い聞かせるような静かな、だがよく通る声で呟いた。

 

 

「私が貴女の母親に当たるわ。こんなに大きくなって……南方棲鬼。」

 

 

 女の発言に周囲の空気が凍りついた。

 

 

 

 

 

 

 




展開早いかな大丈夫かな(風邪引いた
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