南方棲鬼と申します。   作:オラクルMk-II

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お待たせしました~
ぶっ飛びな展開だけど勘弁してね。作者の限界が表れた回です(白目)


ケンカ上等……やっぱゴメンなさい

 

 

 

 人払いがされた鎮守府の執務室で、巧は自分の母親を自称した戦艦水鬼と向き合っていた。親と話すとは思えない空気の重さに、彼女はさっさと部屋から出たい心理状態になる。

 

 というか母親ってどういうことさと部屋の椅子に座った瞬間に聞いたのだが、相手に待ったをかけられ、深海棲艦とはなにかということから話が始まるのだった。

 

 水鬼によると、深海棲艦には派閥という物があるらしい。1つは人類を滅ぼさんと刹那的な目的でただただ暴れまわる者たちと、もう1つは人々に手を出さず、上記の者たちを抑え込む代わりに、最低限の自分達の住む場所と、安全の保証を海軍に求める穏健派だそうだ。ただのエイリアンか何かと認識していた巧には新鮮な話だった。

 

「簡潔に言えば、艦娘と軍の方々が戦っているのは猛獣のような物よ。何も考えずに人を見つけたら取り合えず暴れる。そんな感情しかない、理性の無い獣みたいなね」

 

「クジラみたいなやつとか」

 

「ええ。そしてそれらを統率してけしかけてきたり、ときたま自分から攻め込んでくるのが姫級……や、他の人型の深海棲艦ね」

 

「あなたは人をやろうとは思わないんですね」

 

「考えたこともないわ。だって勝てるわけがないと最初から思ってたもの」

 

「はぁ」

 

「話を戻すけど、時間の経過と共に、突然何故か私のような平和主義な思考力がある深海棲艦が出てきた。でも艦娘の方はそんなこと知るわけ無いから、普通に攻撃してくる。から、私は痛いのは嫌だから人と取引したの」

 

「取引?」

 

「武器を放って白旗振りながら、なんとか軍船に近づいてね。貴女を孤児として陸に置くようにって」

 

「……………」

 

「死にたくないなって、思ったから、貴女を作ったの。……ごめんなさいね、自分勝手な母親で」

 

「はぁ…………?」

 

「深海棲艦というのはね、最初がどう生まれたのかは私も知らないけれど。鉄屑と少しの魚のスリ身で作れるの。それらを培養機に放り込んで出来たのがあなた。」

 

「……………!」

 

「そして、もし預けた子が人間社会に溶け込めるなら、深海棲艦は安全な生き物だと証明できるでしょう?って。当時のカミクラに言ったの。そして今になるわ」

 

 話が下手なのか、言うことの順序がおかしいとは思ったが。彼女の言うことが本当なら自分は人間では無いらしい。軽く動揺しながら巧は話を切り出す。

 

「待ってくださいよ、血液検査だってなんだってやったけど私は異常無いって言われたのに……というか貴女の言うことが本当なら私の腕やら何やら、中身がカマボコじゃないですか」

 

「そこが生命の神秘ってやつかしら。深海棲艦はだんだん体ができてくるにつれて、人の肉体と同じ組成になるそうよ」

 

「でも、私は素手で砲弾を弾いたりなんてことだって」

 

「艦娘もそうだけど、艤装を付けているか否かで肉質が変わるわ。貴女も付けたらそれぐらい簡単に出来ると思う」

 

「孤児として送ったって言ったって、そう都合よく引き取る人がいる訳じゃないでしょう?」

 

「だからわざわざ引き取られるパーセンテージが高い養護施設に、軍、というかカミクラは送ったそうよ。貴女を育てた父親の愛情については、それは流石に作り物ではないから安心していいと思うわ」

 

 母親の言葉を聞き、安心なんてできるかと、巧は完全に黙ってしまった。気になることは全て聞いたが、どれも淀みなく相手は答えたのだ。確証は無いが恐らく全て事実なのだろう。今の会話で戦艦水鬼の口から出てきた言葉は、巧に漠然とした不安を植え付けた。

 

 父は? 友人は? 知人は? 今まで接していたのがヒトモドキの怪物だったと知ってどんな反応をするんだ? 軽蔑か、畏怖か、愛想笑いをしながら距離を離していくのか?

 

 出来の悪いSF映画の能書きのような自分の出自に混乱している彼女に、戦艦水鬼は更に続ける。

 

「あと、最後に。今日ここに来たのはさっきのことと、もうひとつ言うことがあって来たの」

 

「………………」

 

「あなたにも戦闘に参加してもらうためにね、南方棲鬼用の艤装を持ってきたわ。詳しいことはまた後で」

 

「…………は!?」

 

 今日いきなり来たばかりか、今度は戦争に参加しろだと?

 

 流石に腹が立ち何か言おうとするが。巧は相手に先手を取られる。

 

「その……悪いけれど、もう決まったことだから。何も言わずに従って頂戴」

 

 「勝手な母親でごめんなさい」。そういって部屋から出ようと戦艦水鬼が立ち上がり、ドアのある方へと歩く。

 

 その彼女の腕を、巧は握りつぶしそうな勢いでガッシリと引っ掴み、相手を睨み付けながら、口を開いた。

 

「何度も何度も「母親」って連呼してるトコ、悪いんだけどさ」

 

「何かしら」

 

「……「戦艦水鬼さん」って呼んでもいいですか」

 

「…………!」

 

「なんでもかんでも、色々と急な話すぎてなんか母親とは思えなくて……私の中で親は父さんだけだったから」

 

「……呼び方は好きにして。じゃあね」

 

 悲しむかと思ったが、巧の言葉に意外とドライな反応を見せながら、今度こそ戦艦水鬼は部屋から出る。

 

 閉めた扉の前で。彼女は娘から見えないように泣いた。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 日にちを跨いで翌日、巧は生まれて初めて艤装というものを身に付けて、海上に立っていた。機械のメカニズムや理論は全くわからないが、少し感動する。

 

 摩耶と那智から軽く教わったのだが、スケートやスキーの要領で簡単に操作できるらしく、事実、道民ということもあって上記のスポーツに親しみがあった巧はすぐにコツをつかんで動けるようになった。

 

 昨日のあの後に、巧が、なぜ自分が戦いに参加するのかを元帥から聞けば、今日は敵の数が多いのがわかっていたかららしい。敵1匹1匹は強くはないが、数が多いと警備を突破されて面倒なことになるため、ならばこちらも数だということで、今回は水鬼が連れてきた深海棲艦まで動員しての作戦とのこと。

 

 もう少しで戦闘が始まると聞き、何人かの艦娘と待機するように言われた場所に張り込む。時間があるうちに、巧は昨日のうちから持ち込まれていたと聞いた、自分の装備に改めて目を向けてみた。

 

 他の艦娘たちが付けている、いかにも軍艦の大砲や甲板を模したようなメカメカしい物と違い、自分が腰から付けているものは、機械と生き物が混ざったような有機的なデザインで、しかも定期的に動物の口のような部分が動くオマケ付きだ。なんだかキモチワルイと思い、テンションが下がる。

 

 更に付け加えて、いつもより周囲の艦娘たちの態度が、自分に対してよそよそしいのが彼女の気分を下げる原因になっていた。いつも対処に頭を悩ませる敵と同じ生き物だったと知ってはしょうがないのだろうが、そう思っていても、やっぱり巧は滅入ってしまう。

 

「…………」

 

「あまり緊張しないほうがいいわ、巧」

 

「加賀さん」

 

「いざというときは私が手伝うから。しゃんとしてなさい」

 

 一人で落ち込んでいると、巧が両腕にはめていた、指先がカギ爪のようになっている籠手を両手で握りながら、加賀がそう言ってくる。いつもと態度が変わらない相手に、少なからず巧は感謝の念を抱いた。

 

 艦娘としては先輩に当たる彼女にしたがって、とにかく落ち着いて動くことを意識するか。気合いを入れるために、両手で顔面をパチリと叩いた。ゴツゴツした籠手が当たって痛かったが、寝ぼけ気味の目は覚めたので良しとしておく。

 

 

 

 戦闘だなんていうものだから、作戦中はきっとスターウォーズばりの大激戦かと巧は思っていたのだが、実際はスポーツの消化試合のようなものだった。

 

 明確に回避行動や狙いを定めてから砲の引き金を引くこちらに対して、相手は昨日の水鬼が言っていた通り、本能に突き動かされて暴れているような統率の取れていない動きなので、面白いようにやられていくのだ。緊張していた巧は肩透かしを食らっていた。

 

 次々と煙を上げて沈没していくクジラや、特撮映画の怪獣を小さくしたような敵を見る。相手は自分が発射した弾丸一発で沈むが、自分は当てられても痛くも痒くもなかった。嬉しさ半分、複雑な心境が半分の割合で巧の心の中に混じる。

 

 当たったときに死ぬほど痛い目に遭うのはそれはそれで嫌だが、これで自分は本当に人間では無いということが確定したのだ。素直に喜べることでは無かった。

 

 少し遠くの方で戦っている加賀を見る。彼女の弓から放たれた矢が何メートルか射手から離れると、火花を散らして飛行機に変形して相手に弾丸や爆弾をお見舞いしている。ここ最近の彼女の天然っぽいなりは潜み、凛とした態度の加賀は巧にはすごく格好よく見えた。

 

 考え事をして注意力が散漫になっていたときだった。耳に摩耶の叫び声が聞こえてくる。

 

「巧!! あぶねぇ!!」

 

「え゙」

 

 何事かと思って摩耶の方を向き、次に彼女が向いていた方向に視線を変える。

 

 豪快に水飛沫をあげながら、テレビや雑誌なんかの紹介で多くの人々に知られている深海棲艦、サイボーグのクジラのような見た目の駆逐イ級が飛びかかってきたのだ。

 

 軽自動車並の大きさが普通なのだが、いきなり出てきたコイツはサイズが桁違いで、建設現場の大型のダンプカー並にデカい。恐怖で頭が真っ白の放心状態になった巧は涙目になる。

 

 

 でけええええぇぇぇぇ!! こんなの無理だぁぁぁァァ!!

 

 

 咄嗟に脊髄反射で目をつぶって両手で顔を守った。……巧は、自分は砲撃か体当たりの衝撃に襲われるかと思ったが、そんなことはなく、砲弾の発射音だけ聞き、「アレ?」と呟いて目を開く。見ると自分の艤装の砲の部分から煙が上がっていて、動物の口のような部分が動いて鳴き声? を出していた。

 

「v14wh610J."."'"94¥&'"#6")19`9'!!」

 

「……?? あ、ありがとう……?」

 

 彼(?)が全く何を言っているのかさっぱりわからなかったが、何となく「俺に任せろ嬢ちゃん!!」的な事を言われた気がしたので、一応お礼を言っておいた。後から巧は知ることになるが、深海棲艦の艤装は半分は生き物と同じらしく、今回のように装備の持ち主を守ろうと勝手に動くことがたまにあるらしい。

 

 そんなことは勿論今は知らないが、この勝手に動く機械と共同作業で順調に敵の数を減らし。巧は頬に軽く傷を作りながらも、無事に作戦を終える事が出来たのだった。

 

 

 

 交替で警備のためにやって来た違う鎮守府の艦娘たちに仕事をパスし、20名ほどの艦娘と、巧を含めた10名の深海棲艦が自分達の鎮守府に戻るために海を滑っていく。

 

 昼から始まった作戦は2時間続き、敵が居なくなってからは、そこから普通の警備の任務が継ぎ足される形で続き。時刻にして夕方5時になった海上は、日照時間の少ない冬ということもあって、すっかり薄暗くなっていた。

 

 帰り道の中で、巧が不安だらけな脳みそを働かせて今後はどうなるのか、なんて考えて、心ここにあらずといったそんなとき。親友から声をかけられた。

 

「巧。帰っても時間とれるかわかんないから、先に言っときたいんだけど」

 

「……なにさ」

 

「アタシは……っつーか、あの、口下手だから伝わるかわかんないけど。加賀も、那智も、他のみんなも多分、何があろうとお前の友達だから。じゃ、お先」

 

 手を振りながら、前傾姿勢で加速しながら摩耶は先に帰っていった。

 

 どういう意味だろうか。色んな意味を含んでいそうな、そうでもないような彼女の言葉が、巧にはどこか引っ掛かった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 鎮守府に戻ってきても、巧はすぐに休みには入れなかった。巧と整備士たちに新たな仕事が元帥から言い渡され、それをこなさなければならなかったのだ。

 

 今後も同じ場所で警備や戦闘に参加するにあたって、誤射が発生する可能性があるから、目印として深海棲艦の装備に迷彩塗装を施せと言われて。シンナー臭いのを嫌った巧は、台車に物を乗せて風通しのいい海岸で作業をしていた。

 

 ペンキが入ったブリキ缶にハケを突っ込んで塗料をのせると、それで一思いに真っ黒な装備を綺麗な青色に塗りつぶしていく。生乾きぐらいの状態から更に白、水色とのせていき、近くに広げた戦闘機の迷彩パターンを参考にして適当に色を塗る。

 

 今日だけでもさまざまな要因が重なってストレスが溜まっていた巧だったが、こういった何も考えずに打ち込める事をやっていると、自然と気分が晴れてくるので、意外と嫌な仕事とは思っていなかった。だがやはり疲労も蓄積しているので、たまに無心になっているのに気を付ける。

 

 何個目に色を塗るときだったか、自分の意に反して何秒間か寝ていた事に気がつき。慌てて巧が仕事に戻ろうとするが、膝に置いていたはずの部品が見つからず、どこにおいたかと横を向くと。さっきまで誰もいなかった場所に天龍が座っていた。

 

「あれ、ガレージのほうにいなかったっけ」

 

「うす、手伝いに来ました」

 

「別にいいのに。簡単な仕事だし」

 

「巧さん今日疲れてるじゃないっすか。でも俺全然仕事してないから。頼ってくださいっす」

 

 初めて出会った、自分にスープを投げつけてきた不良はどこにいったのやら。すっかり真面目が板についた天龍に言われて、言葉に甘えて巧はひとまず休む事にした。

 

 黙々と作業を進める眼帯の彼女を見る。眉間に刻まれていたシワが薄くなって、目付きが優しくなったように見えなくもない。同時に最初は仕事が嫌でしかたがないというのが見え見えだった表情が、逆に楽しそうな顔に変わっている。

 

 2週間かそこらでここまで変わるんだな、と思う。そして気になったことを、巧は天龍に聞いてみた。

 

「あのさ」

 

「?」

 

「私が怖くないの?」

 

「へ? あ、いや、えーと」

 

「正直に言っていーよ。怒ったりしないし」

 

「めっちゃ怖いっすよ」

 

「ひどい!」

 

「え゙!?」

 

 正直に言えっていったのにぃ!! と涙目で訴えてきた相手に「冗談だよ」と言って宥める。天龍はよっぽど巧に殴られたときが恐ろしかったのか、特大の深呼吸をして自分を落ち着かせていた。

 

「やっぱり怖いよね。そうだよね、人間じゃないんだもの」

 

「……あの、いいすか」

 

「ん?」

 

「俺、そういう意味で言ったんじゃなくて」

 

「どういう意味さ」

 

「その、俺はぜんぜん巧さんのこと化け物だとか、人外だとか思っちゃいないっすから」

 

「慰めなら……」

 

「本音です。俺、頭悪いから、お世辞とか言えないし。信じてください」

 

 両手を握りながら天龍が言う。眼帯がないほうの目が潤んでいる。

 

「巧さんが深海棲艦だろうがなんだろうが、俺は部下としてついてきますよ」

 

「…………」

 

 

「だって、巧さんは、その、失礼かもしれないけど。俺の上司でもあって、同時に友達だから。」

 

 

 

 

 

 

 




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