活動報告にて、小説に登場する車両のアンケートを取っています。特に期限や制限はありませんので、気軽にご参加ください。
「財布財布……つか車どっちだっけ~……?」
まさかこんな間抜けやっちまうなんて。パン屋で買い物をするつもりが、鞄を覗いたら財布がないのに気付いた天龍は、小走りで町中をウロウロしていた。
ランニング程度の速さで走って駐車場につくと、なるべく早く戻ろうと。ドアロックを解除したR34の助手席の座布団に潜り込んでいた財布を引っ張り出して、目的は果たしたのでまた同じ場所に向かって走ろうとしたとき。
特に意味もなく横を向いたときに、黒い軽自動車のエンジンルームを覗き込んで、何やら難しい顔をしている背の高い男性の姿が目に入る。
少し前のスレた彼女だったら、そんなものは無視して4人の居たところまですぐに戻ったかもしれない。が。巧の説教(物理)を食らってから、すっかり真面目が板に付いた天龍は、相手に声をかけてみる事にしたのだった。
「あの、車、どうかしたんすか…………ッ!?」
「…………?」
瞬間、彼女の全身に電流が奔った。この男性、アイドルだとかイケメンだとか、そんな言葉で表せないようなスバラな容姿を持っていたのだ。まったく恋なんてしたことがなかった天龍が、初めて異性を「カッコいい!!」と思った瞬間だった。
そんな風に思われているなんて勿論知らず。話しかけられた男性は、天龍に爽やかな顔面を魅せながら口を開く。
「いえ、なんかエンジンかからなくなっちゃって……」
「け、携帯電話使って修理の人とか呼んだらどうでしょう!」
「それが、ドジ踏んじゃって。スマートフォンも充電が切れて、途方に暮れていたんです」
「はぁ……ちょっとエンジン見せて貰っても?」
「観て貰えるんですか!? すいません、お願いします!」
自然な流れで、彼が乗っているワゴンRの故障の原因を探ることになり。とりあえず自分の携帯の懐中電灯で、見えづらい場所を照らしながら全体を把握することに努めた。
ゴム製パイプや配線、エキマニのヒビは無し。奥の方がホコリ被ってて見えづらいからちょっと掃除して照らす……特に問題ないな。もしかしてバッテリー切れか? エンストの原因がなんとなく把握できて、彼女が隣の彼に伝えようとすると。相手の方から先に口を開いてくるのだった。
「直りそうですか?」
「多分電気系統じゃないっすかね。それも、合ってれば多分バッテ……」
何も考えずに左を向いてしまう。超がつく至近距離にあった彼の顔に、おっふ。と変な声が漏れて慌てて口を塞ぎ、横に向けた顔を光速でエンジンルームに戻す。
やっばいぐらいイケメン……! ヤバい、心臓と胃が痛くなってきたった……つかアレだ、こんなキズなんかある顔観られたくない!
いつもなら眼帯で隠しているが、今日は運転に邪魔だと外しているので、自分の顔の左にある傷痕が丸見えなのを思い出し。気付かれないように5センチほどずれてから、点検を続ける。
「あの、一回キー貸して貰えないでしょうか。それで多分わかると思うので」
「どうぞどうぞ、すいません何から何まで……」
「こ、困ったらお互い様です!」
柄でも無いことをべらべらと言いながら、天龍は空いていた車のドアを空けてシートに座り、貰ったキーを差し込んで捻る。
予想通り、始動の音はちゃんとするが何となく弱いのを聞き付け。点火プラグなんかに問題はなく、ほぼ十中八九はバッテリー上がりだなこれはと思い。ドアを閉めずに車から降りて、彼女は話し出す。このとき、早口になっていたのは自分でも気付いていなかった。
「バッテリーですね多分、ちょっと待っててください、すぐに戻りますから!」
謎の恥ずかしさとドキドキで心臓が爆発しそうなのを隠しながら……隠せていなかったが、天龍は超特急で自分の車に乗り込んで戻ってくると。後部座席に投げていた、今日たまたま巧から貰っていたブースターケーブルを取り出して、早速使ってみる事にする。
ぴったりと隣に着けたR34のボンネットを開いて固定し、バッテリーの蓋を開け、両端が選択バサミみたいなケーブルの赤を+端子に、黒を-端子に挟んで取り付ける。次に残った反対側を、相手の車のバッテリーの同じ端子の部分に繋げて準備完了だ。
ドキドキしながら、まずは自分の車の車のエンジンをかけて、Pに入れっぱなしで、2000~3000回転を維持し、5分間ほどアクセルを空吹かしする。止まってしまった隣の車に電力を供給するためだ。
きょとんとしながら一連の様子を観ていた彼に。天龍はエンジンをかけてみて、と伝える。
「これで多分つくと思いますよ。一回キー入れてみてください」
「はい、わかりました」
上手くいくかな。彼女の不安は
「かかった……! すいません、ありがとうございます!」
「いや、この程度なんともないっすから。あと、そっちにガソリンスタンドあったんで、観てもらったら良いと思います」
「何とお礼を申し上げるべきか……あ! 今度お礼をしたいのですが、連絡先交換しませんか?」
「へ?」
イケメンとお話しする千載一遇のチャンス!!!! ……だが天龍は反射的に思ってもないことを口走る。
「い、いやいいですよ! 見返りが欲しくてやった訳じゃないし!!」
「そうですか……本当にありがとうございます!」
ぷらぷらと手を振りながら、ワゴンRの彼を見送る……あぁぁ!! なんて俺はバカなんだぁ!! との悲鳴は声に出ない。
淡い恋心だった……変な感傷に天龍が浸っていたその時だった。
いきなり彼に手を掴まれ、何かを握り込まされる。なんだ? と思ったときには彼は車に乗って、もう発進するといった様子だ。窓をさげたまま、彼は去り際にこう言った。
「
「――――!!」
ファッション雑誌の表紙を飾るイケメンタレントのような、眩しすぎる笑顔を振り撒いて、彼は爽やかな風と共に去っていった。考えていた事が全て吹き飛んだ天龍は、数秒のインターバルを挟んで握っていたものを見る。彼の携帯の番号が書いてあった。
「夢じゃ……ない」
俺、明日死ぬのかな……呆然としていると。知らないうちに、何故か自分の近くに来ていた巧に声をかけられる。
「居た居た、なにしてんのこんな所で突っ立って? 来ないから心配したんだけど」
「巧さん……」
「ん?」
「今度から神様って呼んでいいすか」
「…………は?」
この人がくれたケーブルがなかったら……そう思ったから出た言葉だったが。相手をした巧は「なんのこっちゃ」と意味がわからなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
オンナ5人のドライブGOGOな日の翌日。鎮守府に孤独なオタク娘2人の絶叫が響き渡る。
「「初対面の男から連絡先を貰ったァ!?」」
「へへへ……」
「どっ、どこのどんなヤツ? 湾岸の総長? ヤクザ? それとも……」
「なっ!? 失礼ッスね明石さん! フツーのイケメンっすよ!!」
「「イケメンん゙ん゙ん゙ん゙ん゙~!!??」」
ちくしょう、こんな不良娘に先を越されたァァァァァ!!
……うるせぇなぁ、と思いながら、巧は明石、夕張、天龍の3人が喋っていた方向を見ながら、GC8に水を撒いて洗車中だ。
今日もまた休みなので、鎮守府に住み込みの3人はともかく、自宅から鎮守府に通っている天龍は、用事もなければここに来ることはない筈だったが。巧が聞けば、エアロの組み替えがやりたいので、設備が整っているここに来たらしい。
そして毎度のことだが、ボーイフレンドも居ないので2人寂しく鎮守府でFDとS15のナニカをやっていたオタク組に鉢合わせし、2人から昨日のドライブの感想を天龍が暴露したところコレである。
ウッキウキで、なんだか気持ちが悪いぐらいに笑顔で、ドライバーでペン回しをしている天龍を見ながら。視線からロックオンした彼女から目線がズレないようにと動く、これまた挙動不審な2人が巧のほうに近づいてくる。流し聞きしていた情報が正しければ、天龍は2日後に例の男性に会いに行くらしい。
「くっそ~摩耶さん居ればクーパーにみんな乗せてもらって追い掛けたのにィ!」
「ははは……マコリン今日用事ですからね」
「……バリさんが今言ったから思い出したけど、摩耶って今日どこに行ったの? あの人もここ住みだよね?」
「ミニの車検取りに行くっていってましたよ。箱根の、御殿場のほうに知り合いが居るから、遅めの新年の挨拶しにいくついでにやってくるって」
「御殿場?? わざわざそんな所まで? っていうか県外で車検なんて取れるんですか?」
「納税証明書とか、給料明細……だったかな? 確かそんなような書類を持ってく紙に追加で入れとけばできたはずですよ。継続車検なら」
「ふ~ん? ……それは別として……南条さん、2日後天龍のこと尾行しませんか?」
「えぇ? ヤですよ、バレたら多分あの子に怒られますよ」
「大丈夫だって、あんな浮かれてるのが気づくわけないでしょ?」
ホラ見てみ? と夕張がR34の窓を磨いていた天龍の方を指差すので、車の影から顔を出して眺める。
キュキュッ! キュピィーッ! と拭きすぎて音が出るぐらいにピッカピカに窓を磨いた後に、いきなり脱力してへなへなと窓に寄りかかって、今まで見たこともないようなノロケ顔をかましていた彼女の姿が見える。
あの天龍が、こんなになるぐらいにイケメンな男の人か……。不覚にも興味が湧いた巧は、渋々2人の尾行作戦に付き合うことにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
午後9時頃の御殿場市の、とある民間車検場にくっついた、車の整備工場の作業スペースに。摩耶は巧に言った通りの用事を済ませに来ていた。
車検に通る項目はクリアしたが、なんだかフィーリングがおかしいような気がして、彼女はそのまま経営者が同じ隣のチューニングショップに点検を依頼したのだ。
すると、今年で早くも5年目になる愛車の2代目R56ミニに、重大な故障に繋がりかねない部品の劣化が見られたとの宣告を親戚の整備士から受けて。「検査官の野郎、手抜きしやがったな」なんて眉間にシワを寄せながら、摩耶はリフトで上げられた自分の車のシャシーに目を向ける。
「1週間かかる? マサキよォ、それマジで言ってんのか」
「おう、トランスミッションがかなり負荷がかかってて、もう限界だよコレ。1度載ってるもの全部降ろして点検して、部品取り寄せないと」
「冗談だろおい……アタシやだよ、そんなに車使う仕事じゃねーけど、無いとなんか気持ち悪いし……」
「こればっかりはどうしようもないな。代車はあるからそれのって帰るか、それとも休み潰して御殿場で過ごすか、どっちがいい?」
「代車に決まってんだろうがアホタレ。変なギャグ言うな」
「ゴメンて、じゃ、取ってくるから待ってろ」
自分の従兄弟で、名字が同じで命名の理由まで似ている、名前をマサキと言う彼からそう言われて。「いらないからあげる」と貰った缶コーヒーを飲みながら代車が来るのを待つ。その間、もう一度ミニの底面に視線を向ける。
初代NSXやスマートロードスター並は言い過ぎだが、足回りの交換で車高を下げていたせいか、結構シャシーに擦り傷が付いているのが目立つ。丁寧な運転を毎日心がけてはいるものの、知らないうちに結構スっちまってるな、と思う。
ミッション交換のついでに、マフラーとブレーキでも交換しといて貰おうかな、とまで考えていると。外からなんだか煩いエキゾースト・ノートが聞こえてきて、首の向きが変わる。代車ってまさかスポーツカーか? と摩耶が外を見ると。
止まっていたのはまさかの
ターコイズ系統のカラーに、ガンダムチックなゴテゴテエアロでボディ同色のGTウイングがくっつき、フロントガラスには「N.D.N.L」との艶消しの白いステッカーが貼ってあり。どこからどうみても会社のデモカーである。
うっわ……無いわ、と思っていると、マサキがばつが悪そうな顔をして車から降り、口を開く。
「悪いなマコト。プリウスとかあるかな?って思ってたら、なんかどれもこれも出払っててよ、コイツしか残ってねーわ」
「えー……なんでこんな
「たかが4日間かそこらだからさ。我慢してくれ」
苦い食べ物を口にしたときみたいな渋い顔をしながら、摩耶は車の鍵を受け取り、スープラに乗り込む。
ダッシュボードにはブーストメーター、油圧計、油温計、後付けのタコメーターといった計器類が大量に並び、ハンドルにもブーストアップとNosのスイッチが付いていて、コクピットはまるで戦闘機のようだ。後部座席も取り払って斜行バー付きのロールケージまで入っていて、シートベルトもご丁寧な事に、4点と3点を選べるようになっていた。
「なんだよコレ……サーキットでも走んのか。変な族とかに絡まれそうなんだけど」
「お前地味に運転上手いんだから、その程度ならコイツで振り切れるだろーが。ターボとスーチャの併用で500馬力はあるぜ!」
「そういう問題じゃねーよ……シフトは? メーター表示だと7000になってるけど」
「8000まで回すようにしてくれ、上まで回さねーと負担かかるから」
「あっそ。5日後か、また来るから」
「おう。じゃあな」
ブォボボボボボ……ヒュルルンッ!! ……夜中に走り回っているスポーツバイク並みに響く、少々やかましいマフラーのサウンドに、ひきつった笑いを浮かべながら。摩耶は言われた通り、少しレブらせ気味に車を発進させる。
あ゙ー。こんな事になるなら、ミニはレッカーして貰って、巧からインプレッサでも借りてくるべきだったか。峠に入るまでの信号で止まっていると、この車がジロジロと周りの視線を集めている事に気付き。摩耶は内心で愚痴を垂れた。
次回からシリアス……というか胸糞が入ります。そういう要素が苦手・嫌いだという方はご了承ください。