南方棲鬼と申します。   作:オラクルMk-II

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次話投稿よォ~ 明日までは2話ずつ投稿よォ~


港のヨーコヨコハマヨコスカって意味不

 

 

 

 

 あの、軍属を名乗る妙な男女から、謎の呼び出しを食らってからちょうど一週間後。12月の頭ごろに、(たくみ)は自分の車と仲良く横須賀に到着した。

 

 深海棲艦とかいう映画のミュータント(少なくとも一般人にはそんな風に認識されている)みたいなヤツラのおかげで、北海道から千葉までのフェリー航路が塞がれていたとあって。彼女は青森から陸路ではるばるここまでやって来ていた。因みに交通補助で貰ったお金は五万円ほどだったが、先程述べた生き物の影響で現在はフェリー料金は上がっており。結論から言うと、補助金からはみ出したここまでのガソリン代は自腹だ。

 

 クルマと人間合わせて七万円。そして慣れない道を行ったり来たりで燃料代その他もろもろが約四万円。漏れた数万という金額は、日々の食費を1000円で抑えるような生活を送っていた彼女のお財布には、ボクサーチャンプのボディーブロー並みにキく一撃だった。

 

 しかしがっくりしていても仕方がない。荷物も纏めて積んであるんだし、アパートも店も話を通して出たんだし。それにまさか国家機関に逆らうなんて無茶だろうと、気合いで横須賀まで来て。目的地まであともう少しかな、と彼女は車の助手席に貼った地図とにらめっこをしながら、法廷速度をほんの少しオーバーした速度で道を走る。

 

 北海道から出てきて、もう何個目かわからない数の信号と、T字、十字路を曲がったり通りすぎたり。頬杖をついてぼうっと巧がステアリングを操作していたときだった。彼女の目線の先、道端に並ぶ街路樹を越え、先のコンビニも越えて、工事中の何かの建物も更に越えた、軽く100か200メートルは離れた場所だろうか。周りの建造物と比べると、景観には笑うほど府釣り合いな古そうなレンガ作りの赤い塀を見付ける。

 

 写真で見せてもらった横須賀鎮守府だ。たしかあんな見た目だったはず。例の3人組から「ここに来るように」と見せられた写真の建物の景観を脳内に浮かべながら、巧は入り口はどこだろうかと、随分立派なこの赤レンガの外周を車で回る。

 

 出来たのはつい二年前と聞いたが、謎の貫禄と歴史を感じさせるオーラが漂うこの建物の門にたどり着き。少々緊張した面持ちと心で、巧はウインカーのスイッチに手を伸ばす。指が震えていたことは自覚していなかった。

 

「ここで大丈夫……かな?」

 

 「そして間違ってたらどーしましょ……」と小声で呟き、ついに彼女は意を決して建物の敷地に入った。

 

 アクセルを抜いた途端に車のボンネットの中から発される、パシュウウゥゥンと、炭酸ジュースの蓋を開けたときのようなブローオフバルブの音と、うるさいとまではいかずとも、周囲に響く重いエンジンサウンドを引っ提げて。ウインカーを点滅させて敷地に入ってきた白のスポーツカーの姿に、その場に居た人間たちの視線が集まる。乗っていた巧はというと、周りのギャラリーの目線におっかなびっくりといった様子だ。

 

 周りにいるこのセーラー服の女の子達は、話とかニュースで聞く艦娘さんなのかな。パッと見は学生さんにしか見えないけど……。考え事混じりに敷地をゆっくりと流していたところ、彼女はある問題に直面する。駐車する場所が見つからないのだ。

 

 道路に引かれるような白線は見当たらないし、そもそも車がどこにも見つからない。もしかして周りから見られているのは「こいつどこ走ってんだ? 馬鹿か?」みたいな感じだったり!?

 

 勝手に脳内で盛り上がり、心拍数が上がった巧は不安を抑えきれず。建物の玄関と思われる場所の前にあった、ロータリー交差点のようにどんと構えた花壇を回った後に。近くに居た少女に道を聞くことを思いつき、パワーウィンドウを下げて声をかけてみた。

 

「あの、すいませーん」

 

「はい? 何です………ひゃああぁぁぁぁぁぁ!!??」

 

「…………ッ、……?」

 

 ビックリしたぁ! なんだろ、どうしたんだあの子?

 

 窓から少し顔を出して喋ったところ、何かに驚いたのか変な大声を出して走って逃げた彼女に。逆にこっちが驚いたと巧が思い、不思議に思う。そんなとき。脳内がハテナで埋まっていた彼女に、顔にシワを寄せた背が高い女性が話し掛けてきた。

 

「おい」

 

「はい?」

 

「ソレから降りろ」

 

「……? わかりました」

 

 あ、やっぱり進入禁止だったのかなこの場所。この人多分怒ってるよなこの表情……。そんなふうに軽く考えて、巧は言われた通りにシートベルトを外してバケットシートから体を離し、ドアを開けて車から出た。

 

 その瞬間。見計らったかのように、彼女は声を掛けてきた女性に物凄い力で地面に組伏せられてしまったのだった。

 

「まさか深海棲艦が、車の盗難をして陸から侵攻してくるとは。覚悟しろ南方棲鬼!」

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「本ッッッッ当に申し訳ない!! あの女……長門っていう部下の者ですが、キツく言っておきました」

 

「はぁ……あの、大丈夫ですよ。びっくりしましたけど、怪我とか顔少しスッたぐらいだし」

 

「そう言って頂けると、少しホッとします……貴女がアイツに地面にノされたって聞いて気が気じゃ無かったんで。何せ力の有り余ってるゴリラみたいな女で……」

 

 その言い方は、流石に女性心理を無視しすぎじゃないかなぁ……。言っていることは事実だが、どうもデリカシーに欠ける物言いの緒方に、巧は表情に出ない程度、緊張しながらもほんの少しムッとする。

 

 謎の女性に地面に押さえ付けられていたところ、事件現場に、どんな客が来るかの事情を知っている艦娘の不知火が偶然通りがかり。意味は全くわからなかったが、何かの誤解が解けたらしい巧は、鎮守府の応接室に案内されていた。

 

 木目調の家具で統一感を出し、床から天井にかけて段々と式材の色を薄くしていく、色調コーディネートのお手本のモデルルームのようなこの部屋に。どれか一つにキズでもつけたらやばいことになりそうだ、なんて場違いな事を、出されたお茶を飲みながら巧が考える。

 

 人間心理では落ち着く効果のあるはずのこの部屋の色たちも、流石にガチガチに固まった彼女の緊張をほぐすには至らず……心なしか震えているように見えなくもない彼女へ、緒方は話題を変えて、本題に繋げる。

 

「今日来ていただいた事について、さっそくお話をしたいのですが、いいですか?」

 

「はい」

 

「ありがとう。簡単に言いますと、我々の上司の方々の集まりで「あなたが深海棲艦なのでは?」と出たのが切っ掛けでして」

 

「……はい!?」

 

 男の口から出た言葉に、巧は一瞬だがおもいっきり眉間にシワを寄せて嫌な顔をすると、ほとんど条件反射に近い早さで言いたい事を頭の中にまとめて口を開く。

 

「深海棲艦って……あの、なんかゴテゴテしたクジラみたいなやつですよね?」

 

「ご存知ですか」

 

「それぐらいはニュースとかでもやってますし……っていうか人型ですら無いじゃないですか?」

 

 まさか、SF映画じゃあるまいて、あんなのがロボットみたいのにトランスフォームでもするのか? と続けたくなったのは自重して心の底に仕舞い込んで。彼女が言うと、男は机に置いていた書類の厚みで太ったファイルから一枚の写真を出して説明を始めた。

 

「似てるんですよ。貴女が、この写真の人物とね」

 

「…………」

 

 巧は渡された写真の像をまじまじと眺める。そこには自分と同じく肌と髪の毛が白く、眼の赤い、それも髪型まで同じ女性が写っていた。もっともそんなことよりも、この人物は黒の下着の上から革ジャン?を羽織っているという随分男の目線を引くような格好をしていることの方が、彼女の興味を引いたが。

 

 当たり前だがそんな格好はしていない、エドウィンのジーンズにピンク色のスニーカーをはいて、黒地にペンキを撒いたようなプリントの入ったパーカーという普通な姿の巧は、感想を男に告げるため口を開く。

 

「……その、なんというか……開放的な格好の人ですね」

 

「深海棲艦ですよ」

 

「人じゃないんですか」

 

「えぇ。先程貴女が仰ったクジラみたいなやつ、それは我々は駆逐艦と呼ぶ敵でして」

 

「駆逐艦?」

 

「あぁ……えーと、戦艦の種類です。皆さんが思い浮かべる戦艦が戦車に相当するなら、駆逐艦は銃を持った人間が乗った軽自動車みたいなもんです」

 

「…………?」

 

「こちらは姫級と呼ばれる個体で、まあクジラの親玉とでも言いましょうか。民間にはほとんど知られていない情報ですね」

 

 なんかちゃんと理解できなかったけど、いよいよもって話がSF映画みたいになってきたな、なんてどこかこの状況を他人事のように巧が捉える。そんな彼女の思考など知らず、緒方は続ける。

 

「さて、では次に入りましょうか。事前にお渡しした経歴書や、あと身分証は?」

 

「これです」

 

「ありがとう。後程確認します」

 

 相手の要求に特に嫌な顔なんかはしないで素直に対応し、巧は持ち込んだ自分の鞄から書類の入ったファイルと、財布から免許証を出して机に置く。後で確認する、とは今言ったものの、男はちらりと目だけを動かしてそれを眺めていた。

 

 ファイルが透明なので一番上の書類はそのまま読むことができる。「所得している資格」の項目に見えるのは漢字検定、英語検定、運転免許といった履歴書に書くような定番の資格から、中にはアーク溶接免許、色彩検定2級といった見慣れない資格も記述されてある。その上に置かれた免許証は色帯が青色だったのは、彼女はスピード違反でもしたのだろうか、なんて考えながら。更に緒方が質問を投げ掛けようとしたときだ。

 

 ゴン、ゴン、ゴン、と妙に強い力で部屋の扉がノックされ、「提督、居る?」との女性の声が中に響いてくる。来客、というかは艦娘さんが緒方さんに用事でも言いにきたのだろうと巧が仮定する。対面していた緒方は「少しお待ちください」と言って、彼女の予想通りに席を空けて一旦外に出た。

 

『オモテのインプレッサ誰のだ? 提督の?』

 

『インプレッサ?』

 

『車だよ、停まってんじゃねーか白いスポーツカーが?』

 

『あぁ、たぶんお客さんのかな』

 

『長門にノされたってやつ?』

 

『バカ、聞こえるって!』

 

『それは置いといてさ。暁がなんか花に水をやるのに邪魔だって……』

 

 残念ながら全部聞こえてるんだよナァ……。

 

 スマートフォンでも弄って暇潰しをしようとしたが、そんな失礼は見られたら不味いかなんて考えていたところ、扉越しに聞こえてきた会話の内容に。ポケットに突っ込んでいた車の鍵を手に取り、軽い溜め息をつく。

 

 部屋に男が戻ってきた瞬間。巧はソファから立ち上がり、扉から緒方の体が全部出てくる前に返事を呟く。

 

「すいません、少し」

 

「車、どかしてきます。ごめんなさい」

 

「お願いします」

 

 やば、聞かれてた。そう顔に書いてある、分かりやすく表情がひきつった相手に愛想笑いを返して、自分の車がある場所まで戻るかとドアノブをひいては廊下に出る。

 

 

 そして、巧は先ほど緒方と話していたと思われる、右手に長いリストバンドを付けた女性と顔を合わせる。「こんにちは」と互いに無難な挨拶を交わす……と、同時に何かが引っ掛かり。二人同時にまた振り替えってお互いの顔を再度見合わせた。

 

 

「「…………ん?」」

 

 

 アレ、こいつもしかして……? 二人の脳内には同じ言葉が浮かんでいた。そして彼女らは一斉に口を開いて、各々に言いたいことを放つ。

 

「マコリン、なんでここに?」

 

「巧じゃん久しぶり! それはアタシの台詞だ!」

 

「…………え゙、もしかして知り合いなの……?」

 

 顔に指を差し合いながら声を挙げた二人に、再度ひきつった笑顔を作って聞いてきた相手に。彼からは「摩耶」と呼ばれていた女性は口を開いた。

 

「知り合いどころか大親友だよ、マブダチだよ! んだよ、客ってお前だったのか!?」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 車が邪魔だとのことで再度外に戻るために廊下を歩きながら、巧は実に3年ぶりに会う旧友と会話を交わす。

 

 秋山 マコト。名前がカタカナなのは、彼女の親が「誰にでも覚えてもらえるように」なんて理由でつけたらしいが、よく周りからそれでイジられ、付いたアダ名がマコリン。高校生の頃からの付き合いで、一緒の専門学校に通い、少し前までは一緒に旅行までしたような仲の女である。世間一般では十分、大がつく友達と呼べる一人だ。

 

「いや本当にびっくりした。繰り返すけどお前だと思ってなかった……ワケじゃないなウン。薄々気づいてたわよくよく考えたら」

 

「そーなの?」

 

「当たり前だろ、2ドアで白のGCインプレッサなんて今時見かけねーよ。送り迎えやらで何回も乗ったし見たし」

 

「あ~……そーいえば乗ってたね。山とか行ったらよく助手席でマコリン泣き叫んでた!」

 

「それ本気で言ってんのか……お前の隣乗って一発目で泣かない奴が見てみたいわ」

 

「えぇ、酷くない? 安全運転なのに」

 

「どこがだ! この世のどんなジェットコースターよか怖ぇえよ! リニアモーターカーで脱線するより怖いぜあんなの……」

 

 仲良しらしく談笑(?)すること数分後。建物から出てすぐの場所、ナガト?とかいう女性に巧が引きずりだされた現場までやってくる。鍵を開けてシートに座り、彼女は親友の指示を受けながら、車を進めた。

 

「どこまで進めればいーの?」

 

「もっと奥だよ。ここじゃ他の車とか花壇係の邪魔だから、建物沿いに進むと駐車場があるからさ」

 

「おっけー。あー、ちゃんとナビしてね」

 

「へいへい」

 

 窓を下げっぱなしにし、アクセルの踏む力を加減して、外を歩く摩耶、もといマコトと並走する。さっきは緊張や不安といった感情で、あまりこの建物をジロジロ見るような余裕は無かったが、生涯一の大親友レベルの知人が居たことが起因して。少々心持ち余裕が生まれた巧は、鎮守府というものを眺めてみる。

 

 これから何ヵ月か、ここが自分が住む場所になる。友達が居たのは嬉しいけど、うまくやっていけるかな。

 

 親友の横顔とすぐとなりの建造物を見比べて。巧はそんな事を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価の他にも、「お前はここがダメなんだよバカタレが」と言われれば作者は喜んで訂正作業に入ります。よろしくお願いします。

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