南方棲鬼と申します。   作:オラクルMk-II

30 / 40
どうにか頑張ってリクエスト車両を捩じ込んだ回になります。少し強引だけどご愛嬌。


支援艦隊

 

 

 

「で。山で巧の隣に乗った感想は?」

 

「そりゃもう、もう……こう、グワーッと来て、ドワーッてなて……殺されるかと思いましたよ。えぇ」

 

「そんなにか? 加賀の時はどうだったんだ」

 

「黙秘するわ」

 

「そっか。まぁ、自分もまさかコーナー3つで見えなくなるとは思わなかったぞ」

 

 山道遊びから何日か経過し。仕事のある平日の昼休みに、駐車場のベンチに3人は集まって。巧と天龍が休憩している作業ガレージに視線を飛ばしながら、仲良く駄弁っている所だった。

 

 口臭対策で持ち歩いているガムを1つ、口の中に放りながら、ガングートの背後から見た彼女の運転を那智が思い返す。平均速度90km超えで、なかなか自分も限界まで攻めていたのにも関わらず、あっという間に前を走る車が消えていなくなったなんてイリュージョンは、忘れることが出来ない程度には脳裏に焼き付いている。

 

 北海道出身だからまさか、とは思ったがな。あの程度の雨ぐらいへっちゃらだったか。

 

 噂に聞いていて実は少し興味があった巧の運転に、ほんの少ししか観れなかったがスゴさの片鱗は確かに感じたように思っていると。加賀が那智に話題を振ってくる。

 

「そういえば、天龍が今修理に出している車、あるじゃない」

 

「35にぶつけられたERだっけか」

 

「名前は忘れたけど、今朝相談に乗ってくれって、龍田に言われて少し喋ったのよ」

 

「なんだ、本人からじゃなくて妹から?」

 

「彼女の事を思ってだそうよ。ホラ、好きだった物が壊れたってだけで精神的に悪そうなのに、面と向かってその話題に触れさせるのはどうなんだ? って思ったらしくて。で、戻るけど、見積り、軽くだけれど100万は掛かるって」

 

 値段を聞いて、悲惨だな、と2人の表情が曇ったとき。加賀の顔がひきつった。何かと後ろに顔を動かすと、いつの間にかに自分らの背後に巧が立っていて、ビビった2人が変な顔になる。

 

「100万か……へぇ~」

 

「ど、どーした巧……鬼みたいなカオして」

 

「やっぱり許せないですよね、あのクソッタレ。月末が待ち遠しいです」

 

「ヤル気マンマンだな。何度目かわからんが、勝てるのか?」

 

「勝てる勝てないじゃないです。「勝つ」んですよ」

 

 ……1週間かそこら前辺りから、本当に殺気立ってるよナ……おーこわ。

 

 口には出さなかったが。3人同時に全く同じことを考え、妙な空気を纏ってガレージに戻っていく彼女を見送る。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 仕事と並行して、巧には日課になった86のチューニング作業を進める。箱根でのテスト走行からそう時間は経っていなかったし、まだ若い女性ということでそんなにお金も無いので、この車の変わったことと言えばダンパーのセッティングぐらいだった。

 

 外装の費用だけで結構なお金が飛んでしまったのが痛い。やっぱり軽量化よりは、ターボでも積んだほうが良かったのかな……。

 

 車の下に潜り込みながら、今さらそんな事を後悔する。頭に来ているのは確かだが、現実的に86でGTRの相手は務まるのか? など考え出せばキリが無かったが、しかし不安要素が多いし大きいしで悩みが増えていく。

 

「巧ィ~調子はどうだ?」

 

「あ、マコリン。……良くはないと思う」

 

「そりゃ、車とお前どっちだ?」

 

「どっちも、かな」

 

 艦娘としての仕事終わりなのか、近くに来ていた親友の声に、巧は車体から這い出る。ここ最近の激務を見かねていたのか、摩耶から栄養剤を貰って飲んでいると、心配の声を掛けられた。

 

「あんまり気負いすぎるなよ。体壊すぞ」

 

「へーきへーき、徹夜とか習慣だったし」

 

「とか言っててもさ、結構ストレス溜まってんじゃねーの。……なんだかんだでまだ2、3ヶ月そこらで色々あったんだし」

 

「………………」

 

「いきなり顔も知らねー女に人間じゃねーって言われたり、とんでもねーお偉いさんに目付けられたり、ここ最近の35騒動とかな。自分じゃ平気だと思ってても、けっこー体が悲鳴あげてるかもよ」

 

 流石大親友。痛いところをズバズバと……。素で浮かべていた笑顔が苦笑いに変わっていくのに、巧は気が付いていなかった。

 

「それを言いに来たわけだ」

 

「当たり前だ。オーバーワーク気味の友達居たら心配するだろーが」

 

「言うこと聞かないかもしれないのに?」

 

「昔からアタシの言うことちゃんと聞いてくれた巧なら、とりあえず今日はもう戻って寝てくれるかなって思ったんだがな」

 

「……ありがと」

 

「うるせぇ。ちゃんと飯と睡眠を取りやがれ。クルマはアタシが暇なときもやってやるから」

 

「うん。じゃぁね」

 

 相手の言う通りか、なんて思って、ギシギシいっていた肩関節や腰をほぐしながら、巧は着崩していた作業着を直して工厰から出ていった。

 

 

 

 

 さぁて、邪魔者は消えた。仕事に入るかな。巧が居なくなってから10数分後、摩耶は服に仕舞っていた無線機を出し、機械の奥にいた人物に連絡する。

 

「那智、もういいぞ。お客さんとやらは来てんのか?」

 

『こっちはバッチリだぜ』

 

「あっそ。じゃあやるから、早く全員連れてこいよ」

 

『了解、ボス』

 

 なんだか、妙な工作でも始めそうな空気だが……その実ただの業務連絡をこなしてすぐ。摩耶がガレージのシャッターを開けていると、数台の改造車が外に集まってくる。

 

「壮観だな……」

 

 スマートロードスター、ロータスエリーゼ、新型ランチアストラトス、三菱のエボX……最後を除けば、どれもこれもが録に荷物も積めなければ、値段も高そうな車たちに、若干気圧される。

 

 その中の1台、銀色のロードスターから降りてきた、名前は知っていたが、直接会うのは初めてな島風に。彼女は挨拶する。

 

「初めまして。作業場はこっちっす」

 

「どうも。時間そんなに無いし、始めよっか」

 

 なんだかこれからやる作業が、楽しそうな事だと思っていそうな表情で、島風は、ガングート、海風、嵐と3人の艦娘を引き連れて工厰に入っていく。遅れて走ってきた那智と会い、摩耶も中に入った。

 

 一体この6人は何をやるつもりなのか。それは至極単純な事で、巧が当日に使う86を全員がかき集めてきた部品で勝手に改造してしまおうというものだった。提案したのは那智で、巧の居ないところでガングートに話題を振ったのがきっかけだ。結果、例のR35相手というならば是非とも手伝いたいと、チームリーダーの島風が乗っかってきたのだ。

 

 3人が乗車から荷物を運び出し、それを残り3人でリレーして86の横に積み上げていく。一通り終われば、早速部品の交換作業が始まる。

 

「荷物の内容は、カーボンのパーツが5個、アクリルガラス3点に補強材幾つか。……ガン子、よくこんなに集まったな」

 

「チームは合計12人。1人から2~3万ほど徴収したらこれぐらい楽チンチン♪」

 

「へぇ~すごいですね」

 

「あ、でもその代わりに店のこのステッカー貼っといてって」

 

「「あららら……」」

 

 なるほど、宣伝ヨロシクってことね……。摩耶は島風が引き連れてきた1人、海風からメーカーの艶消しシールを受け取り、気を取り直して交換を始める。

 

 車体の後部とクォーターガラスを外し、アクリル製品の物に。続いて、ボンネットとドアに合わせて天井とトランクまでカーボンに替え、リアには大型のGTウィングを取り付ける。初めの頃はなんだか頼り無さそうな見た目をしていたクルマは、部品の交換点数を増やす毎にどんどんとゴツい見た目に変わっていった。

 

「でっかいウイング。空でも飛ぶのかね」

 

「だって走るのは椿ラインなんだろう? 必須だぜ、あそこを走るのにリアスポイラーは」

 

「へーぇ。後はこのエアロか。見たことない形だがなんだこれ、どこの会社のだ?」

 

「ふん、自分が作った!」

 

「……信用できるのか?」

 

「実家はエアロ屋なんでね。ちょいとばかり設計図をパクって造ったんだ。舐めるなよ那智」

 

 知り合いの発言に那智の表情が怪しくなったが、当のガングートの返事を聞きながら改めて部品を観る。オリジナルだというエアロパーツは純正を加工した物だと言うが、継ぎ目や工作の後は綺麗に仕上げて消されており、普通に既製品だと嘘をつけそうな出来映えで。一応は悪かったと謝っておく。

 

 大人数かつ外装のみの改造だったのが幸いして、一時間もせずにチューンが終わる。さて、と一呼吸置き。摩耶がこんな話題を出した。

 

「取り合えずできたケド、誰が試運転する」

 

「私はやーよ。明日早いし」

 

「自分は速いクルマの運転は苦手だからパスだ」

 

「四駆以外に運転した事無いんですよね……」

 

「…………」

 

「……ハァ。わかった、結局アタシか」

 

 応援で来てくれたLike a RR の4人がそれぞれ口裏を合わせたように運転は出来ないと言うと。摩耶はため息を1つ。巧がガレージにいつも置きっぱなしにしている86のキーを手に取った。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 カッコつけていうと26時……普通に言う午前2時頃。摩耶は外装が完成した86の助手席に那智を乗せて、首都高に来ていた。

 

 ブレーキ、エアロの空力性能、後部にこれ見よがしに取り付けた大型のGTウイング。それらの効果を体感するにはサーキットにでも行くのが一番だったのだが、生憎そんな時間も取れなければ、この車が走るのも公道だということで。空いている時間でセッティングを煮詰めるにはここが最適だろうと、島風から言われたのが、ここまで来た理由だ。

 

 何かがあったときのために、そして仮想敵としての役割で後ろを付いてきていたチームのメンバー……軍では駆逐艦の海風をやっている女の乗るランチアをバックミラーで観ながら。摩耶は隣の那智に話し掛ける。

 

「変なところとか無いのか?」

 

「見たところ大丈夫。もう少し踏んでくれ」

 

「了解!」

 

 エンジンルームから延びている配線が繋がったノートパソコンの画面を見ていた相手の言葉に応じ、摩耶はシフトノブを6速に入れて目一杯アクセルを踏み込む。

 

 今まで走っていた横羽線からC1環状線の方面へ。この分岐の最後にある長いストレートは、車が車なら時速300kmにも届く、飛行機の滑走路のようなレイアウトが特徴だ。道路両脇を流れていく工場夜景が美しいが、今の摩耶にそんなものを楽しむ余裕は無い。

 

「人間一人が命を乗せて、最後まで踏み切れるクルマに仕上がってるか。お前の双腕にかかってるよ」

 

「あぁそうかい……!」

 

「……さっきから気になってたんだがな、なんでそんなに踏ん張ってハンドルこじってるんだ?」

 

「ステアが滅茶苦茶に重たいんだよ、頭に来るぐらいな……!」

 

 摩耶が額を脂汗で濡らしていたとき、首都高名物である高速道路にあるまじき曲がりくねった道に2台は入っていく。後方から追いすがってくるランチアストラトスは、乗り手が道に慣れているのか、スムーズな動きを見せる。が、対照的に摩耶が運転する86は動きがぎこちない。

 

 考えられることはただ一つ。巧のヤツは軽量化でパワステを外したんだろうな。手っ取り早く軽くはなるんだろうが、運転しづらいことこの上ない……!

 

 一般車をかわしてすぐにコーナーに飛び込んだ車体を曲げようと、摩耶は腕に血管の筋が浮かぶほど力みながら、強引にハンドルを左に回す。

 

「わぁっ!? 摩耶、リア滑ってるって!」

 

「うっせぇ、これで精一杯なんだよ!」

 

 那智の声に怒号を被せながら彼女は度胸頼りにアクセルを踏み抜く。下手にびびれば車体が暴れると知っていたため、怖かろうがなんだろうがそう簡単にはペダルから力を抜けなかったのだ。

 

 横に滑っているように見せかけていて、予想に反して車は前に進む。なんとか壁にぶつかることは無かったが、気を抜かずに摩耶は力みっぱなしのままハンドル操作を続ける。

 

「とんでもねー車だよ。飛ばせばアンダー、抑えればオーバー、綺麗に曲がることがねぇや……」

 

「じゃじゃ馬ってことか?」

 

「巧が上手いのは解るが、こんなので乗りこなせるのかね……アタシには最後まで踏み込めねーよ」

 

「データを見る限りはかなり調子良いんだがな。馬力が無いせいなのか、1から6まで加速のダルい部分はなしで綺麗に吹けてる」

 

 「これ、見てみ?」と那智はおどけてそれとなくモニターを運転席に寄せたが、「見れるわけあるか!」と摩耶に突っぱね返され、それもそうかと確認作業に戻る……が、また大きく車体が揺れ、彼女の体は右に左にと揺れ動く。

 

「おぉおぉ!? だから滑ってるって!」

 

「逆ハンしてるだろ!!」

 

 トンネルの中を、車線に対してほぼ真横を向いて滑っていくような車の姿勢を、摩耶は根性と度胸でなんとか持ち直して……。そんな事が数えられないほど続く。

 

 摩耶は、気が抜けなさすぎて厳しい。那智は、吐き気を催してきて厳しいだなんて考えていたが。後ろから見守っていた海風から心配されていたことは、86の暴れ馬っぷりのせいで頭に無かった。

 

 

 

 

 




ランチアストラトスの新型というのは、まだ市販されていない固定式ヘッドライトのアレです。

パワステ→パワーステアリングの略。現代の車にはほぼ標準装備で、これを搭載することによって車のハンドルが軽くなる。外すと数kgの軽量化だが凄まじくハンドルが重くなるため推奨できない。一般的に旧車と呼ばれる車にはついていないことが多いが、現在と比べてどれもが車体が軽いため、そこまで猛烈にハンドルが思い車は少ない。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。