夜寝て朝起きたらお気に入り50件突破してて腰抜けるかと思いました(小心者
「このあいだサスペンションおかしくしちゃってさ、交換したんだよね」
「へー……ッ! すごーい、コレ、フジタさんとこの部品ですよね!?」
「お目が高いね夕張ちゃん!! それ高かったんだよね~」
「憧れるな~明石さんのFDいつ見てもカッコいいです」
「夕張ちゃんのシルビアだってさ………」
「いいな……俺も車買いたいよ」
各地の鎮守府には、「一斉休日」という制度がある。これは何かというと、期日を決めてそこに所属する艦娘から提督まで全員に休日があたるシステムらしい。短くて2日、長くて1週間、その間は他の鎮守府や基地の艦娘に海域の警備を任せるとのこと。加賀がマイカーお披露目に指定したこの日の朝方、駐車場は少し賑やかになっていた。
目の前で愛車について専門知識をひけらかし、一般人には聞いても意味がわからない単語ばかりで会話をしている、巧が採血をするときに立ち会った明石、夕張、オマケの天龍という3人を、巧と摩耶はぼうっと眺めて加賀を待っていた。すぐそばには巧が最初に出会った艦娘の不知火と、ここ最近で仲良くなった那智も居る。
せっかく貰った休みの日だったのだが、やることもなく、家も鎮守府内部の寮とあって、暇潰しがてらに来ていた不知火は。なんだかよくわからない単語の飛び交う彼女らの様子に頭がこんがらがっていた。
「南条さん。明石さんたちの言っていることが不知火には全く理解できないのですが……」
「ははは……まぁわからないよね。っていうか普通はそうだから心配しなくていいと思うよ」
「だいたいなんなんですあのゴテゴテ、トゲトゲした厳つい車は。危なくないですか?」
「エアロパーツっていってね。簡単な話が車のお洋服。レースとかするなら必要な部品だけど、正直普通の人が乗る分にはただの飾りだよ」
できるだけわかりやすく、彼女の目線に合わせて……世の車オタク君からは文句が飛んできそうなアバウトな説明で、二人が前にしていた改造車について巧は説明する。
正直言って明石のRX-7と夕張のS15シルビアはこの中では浮いていた。なぜならこの鎮守府は、巧のインプレッサ、那智のCR-X、摩耶のミニクーパーとそこそこのスポーツ走行ができる車を、ほぼ外装はノーマルで乗っている人だらけだったので、攻撃的な外見の車は少々アウェーな雰囲気を纏っていたのだ。
リアスポイラーは当たり前のようにGTウイング、ボンネットとトランクもまた打ち合わせしたようにカーボン製の黒い物を装備し、それらは塗装せずに見せびらかしたいのか地の色のままで装着。そんな2台と、那智の車を見比べる。
後から知ったがCR-Xもボンネットはカーボン製らしいが、目的は軽量化の副産物でくっついてくる燃費の改善であって、彼女のほうはしっかりとボディと同色に塗ってあり。こういうところに持ち主の性格がハッキリ出てるよな、と巧が考えていたとき。いつのまにかに明石と夕張に囲まれていた。
「南条さ~ん?」
「はい?」
「貴女だけですよ? まだ車の紹介してないの!」
「いや、ほとんど純正ですよ」
「もったいぶらず見せて下さいよ……エンジンルームとか内装とか!?」
「ど、どうぞ」
随分と熱が入った様子で鼻息を荒くしながら要望を言ってきた相手に、少し引きながら、巧は気圧されたようで、大人しく車のドアとボンネットを開け、後者は支持棒を立て掛けて押さえる。
「いや~GC8のエンジンルームって初めてみたな~。あ、エンジンのカバーは外してるんですね」
「あっても無くても変わんないですから」
「パワーはどれぐらい!?」
「馬力、ですか。弄ってないから、多分200かそこらですよ」
「勝った! 私のFDは400はあります!」
結局自慢したいだけじゃねぇか!! とは言いたくはなったがこらえる。安全装置や機械制御の部品で今のギチギチな車の中身とは大違いな、割りと余裕のあるインプレッサのボンネットの下をなめ回すように見終わると。二人は今度はタイヤ付近や内装に目を向け始める。
ホイールの隙間から見える大型ブレーキと、車の室内にあったある部品を見た瞬間。先程までは「なんだただの純正か」とでも言いたげな塩っぽい顔をしていた二人は、いきなり表情を変えて叫び始めた。
「えええぇぇぇぇ!? これもしかしてブレンボ!?」
「クスコですよねこの水色のロールバー!?」
「ですね」
「「すげえええええ!!!!」」
勝手に興奮するオタク二人に、摩耶と巧以下四人は「うるせぇ」という感想を抱く。摩耶だけ口からこの言葉が漏れた。エンジンチューンが適当なのに、最高級品のブレーキと補強パイプが取り付けてあったのが相当意外だったらしい。
早く加賀が来ないかな、といい加減この二人のテンションがうっとおしいと巧、摩耶、那智、不知火の四人が感じていたとき。離れたところから、スポーツカー特有の低く響くマフラーの音を聞きつけ、やっと来た!! と全員が駐車場の入り口辺りに視線を向ける。
全員が予想していたのとは違う車が入ってくる。
加賀が乗ってきたのは間違いなくRX-7だ。だが…………。なんだか嫌な胸騒ぎを感じ、窓を下げたまま入ってきた加賀に、巧は声をかけた。なんとも満足そうな顔を彼女はしていたが、巧の不安は続く。
「どう? 南条さん。この白いRX-7。ちょっと調子悪いけれど」
「すごいな加賀さん……でも、FDかと思ってたけどFCのほうなんですね」
「…………? えふしー? RX-7って名前じゃないの?」
「「「…………え゙」」」
車から降りながら、巧の問いにそんなすっとぼけた反応を見せた加賀に、その場に居た全員が変な声を出した。当たっていて欲しくなかったが、巧の予想は当たってしまっていた。
心配になった摩耶と那智も加賀に問い詰める。そして判明したこと。それは、彼女は「RX-7 FD3S」と「RX-7 FC3S」を間違って購入していたのだ。
とんでもない間違いの買い物をしてしまったことに気づかされ、加賀はすっかり意気消沈してしまった。どうやって励まそうなんて巧が困りながら考えていたときだった。あろうことか、彼女を励ましていた摩耶と不知火の後ろで、車オタク二人+天龍がバカ笑いをし始めたのだ。
「ぐっ……ふふ……ふふふふふ」
「「「アーーハッハッハッハッハッ!! 加賀さん、間違って買っちまったってッヒィーー!! ヒフフハハハハハハハ!!」」」
「加賀さん、FDとFCじゃ全然違いますよォッフホホホホ!! これ、スポーツの引退選手みたいなもんですよFDから見たら!!」
「ハハハハハ!! ダメだ、おっかしぃ!! 駄目ですよ、無知でもちゃんと調べないとホフフフフヘヘヘヘ!!」
大勢の前で見栄を切っておきながら、大恥をかき、そればかりか周囲から嘲笑われる。それがどれだけ辛いか。加賀は摩耶を振り切って何処かへ走っていってしまう。
「……………ッ!」
「あっ、ちょっと!! ……笑いすぎだお前ら」
「ちょっと追っかけてきます」
慌てて加賀の後を急いで駆けていく、その前に。数秒だったが、「自重しろ」という意味で笑っていた3人を睨んでから、巧は彼女を追いかけた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
追いかけた先、建物の角に設置してあるベンチに加賀を見つけて、巧は歩み寄る。目を潤わせ、見るからに不機嫌な顔をしていたのは無視して、とにかく彼女との物理的な距離を詰めると。相手から先に声をかけてくる。
「来ないでちょうだい。あなたも私を笑いに来たの?」
「そんなんじゃないです。スゴいじゃないですか、加賀さんは自分の車持ってるんですから」
「バカ言わないで頂戴! あなただって持ってるじゃない。あっちに立派なスポーツカーが」
「アレは……父さんから譲ってもらったやつだし。正確には自分のじゃないですし……でも、あのFCは一から十まで加賀さんがお金を払った所有物じゃないですか…………その、誇れるコト、だと思います」
「誇れる……?」
巧が発した言葉に、目から頬を伝った涙を拭きながら、加賀は耳を傾けた。
「ええ。もう30近くにもなって正確なマイカー持ってない私より、全然カッコいいじゃないですか。その、FCとかFDとか関係ないですよ。それにだいたいサーキットでも走るわけじゃないですし、馬力なんてあったって無駄なだけです」
「……………」
「あとはその……車の調子悪いなら、私とマコリンで直しますし。それから……」
「もういいわ」
「え」
「優しいのね。貴女は。……なんだか気分が晴れた。戻りましょう?」
どうにかモチベーションが回復した加賀を連れて、巧は駐車場まで戻ってくると、早速彼女にボンネットのロックを解除してもらい、車の状態を確認してみる。
結論から言うとそこまで重大な欠陥は無かった。年式の古い、それもスポーツカーなんてものは謎の改造やら何やらで車体がヨレヨレのポンコツを掴まされた、という話も珍しくは無いので心配していたが、程度はかなりいい個体だった。……しかし腹が立つ部品が数点取り付けてあったのが、彼女の整備士としての逆鱗に触れたが。
「……なんだコレ? ペットボトルをオイルキャッチタンクの代わりに刺しとくとかナメてんですか!?」
「配線の絶縁も中途半端だな……雨の日とかあぶねーよコレ」
「バケットシートがカバー剥がれてボロボロ……中のプラスチック見えちゃってるし」
巧はまず目についた、エンジンの横に突き刺さっていたいちごミルクのペットボトルを引き抜いて地面に叩き付け、摩耶は剥き出しになっていた配線類をまとめて外に出し、最後に二人は経年劣化でボロボロになっていた車内の椅子を2つ取り外す。
そして暇になった加賀には不知火と雑談でもしていて貰い。2人は、彼女を笑った3人をこき使って鎮守府に隠していたという部品数点を集めさせると、そのうちの何点かを分取り、ここに集結した暇な車好き5人で早速FCの整備に取り掛かった。
なんだかエンジンが吹けない気がする、と言っていた加賀の言葉に、巧はオイル交換を行う事にした。
作業にはまず古くなった内容液を出す必要があるため、ジャッキアップして上げた車体の下に潜り込み。車体のちょうどエンジンの真下の近くにあるオイル排出口の役割を兼ねるボルトを、巧はレンチで緩める。そしてオイルがダバッと溢れてあらかじめ置いておいたトレイに滴り……落ちなかった。なんと例えたものか。粘土の高いチョコレートソースか、海苔の佃煮のような液体がゆっくりと流れ出てきたのを見て、巧と摩耶は頭を抱える。
「おっふ……エンジンオイルがコールタールみたいにネバネバ真っ黒……」
「加賀はどこでこの車を買ったんだよ……」
これのどこが悪いのか。簡単にいえば完全にこれは交換時期と使用期限を越えているのである。本来はソフトドリンク並に綺麗な色でサラサラな液体がコールタールに変身しているのだ。エンジンに好影響な訳がない。
ここまでとんでもないものが入っていたとなると、オイルパンの中身も普通は洗浄しなければならないが、今日中にドライブがしてみたいという加賀の願いに答えるために、二人はエンジンを下ろして洗浄に入りたいの心を抑えて渋々明石から奪ったオイルに交換する。すると、シートの交換を指示していた明石と夕張の声が耳に入る。
「南条さん! シートの取り付け終わりました!」
「なんか早くないですか?」
「見てください! 完璧ですよ!?」
オイル交換自体は早く終わる作業だが、座席の交換はもっと普通なら時間かかるんだけど……本日二度目の嫌な予感と共に、ジャッキを下ろして車体を地面に戻し、巧は車内を見てみる。一見しっかりと固定されているように見えるシートを掴み、思いっきり上下に揺さぶる。そして大きいため息と共に、オタク2人に告げた。
「やり直しです」
「「え゙」」
「配 線 も レ ー ル 固 定 も な っ て ま せ ん や り 直 せ と 言 っ た ん で す。椅子がグラグラの違法改造車に加賀さんが乗って事故ったら責任取れるんですか!?」
「「アイアイマム!!」」
「巧、キャッチタンクと配線の絶縁終わったぞ」
「那智さん……完璧です。二人も見習ってください」
車好きのクセにテキトーな作業を行った二人に雷を落としながら、一方では丁寧な仕事ぶりを見せてきた那智と天龍にピースサインを送り。結局シートの取り付けは自分と摩耶の整備士組がやることになり。巧は呆れやら無駄な疲労やらで、またも大きい溜め息を吐いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
本当なら車持ち全員でドライブの予定が、整備とならし運転で時間が大幅にずれてしまい。すっかり日が落ちた時間帯に、加賀は巧主導の突貫工事でリフレッシュされたマイカーと共に、鎮守府から2時間ほどの場所にあるヤビツ峠という場所に来ていた。助手席には巧も乗っている。
MT免許は持っているものの、運転経験は半年も無いということで、おっかなびっくりと言った様子で、山道にはありがちな先が見通せない曲がりくねった道路を登っていく。
サイクリングの聖地で有名なこの峠は、道路の狭い「裏ヤビツ」とそれなりの舗装路が続く「表ヤビツ」で別れているのだが、車のならしとドライバーの練習ということで、加賀は表ヤビツの終点である山の中腹にある売店付きの休憩所で車を止めた。
やはりペーパードライバーには忙しくハンドルを動かさなければいけない峠道は神経を使うらしく、肌寒いこの季節に汗をかいていた彼女に。車を降りたと同時に、巧は労いの声をかけておく。
「お疲れ様です。どうでした?」
「怖いわ。ただでさえ先がわからないのに、特に今は夜でしょう。制限速度が速く感じるもの」
「じきに慣れますよ。でもすごいですねここ。道路が狭くなったり広くなったり」
「心臓に悪いわ。何度かぶつかるかと思ったもの……そうだ」
何か閃いたような仕草のあとに、加賀は私服のポケットから携帯電話を取り出すと、自分の車の写真を撮り始めた。
「記念ですか?」
「えぇ、初ドライブのね」
朝、笑われた時には落ち込んでいたが、すっかり元気になった彼女を見て。自分が初めて車に乗った時のことを、巧が思い出す。だが……
「加賀さん、そうい」
「おい、お嬢ちゃん。ここで何してんだ?」
なんとなく二人が感傷に浸っていたときだ。唐突に背後から男二人が声をかけてきた。奥に目をやれば、赤の新型シビックが止まっていたので、巧は峠の走り屋だと察する。
「このFCのならし運転に来ていて」
「ならしだぁ? 俺らはここ走るのに使うんだよ。遅ぇのは勘弁してくれや」
「だいたい何でFCだ? 今の時期ならFDでも時代遅れだぜ」
「いえ……その……私がFDと間違って買ってしまって」
「「はぁ?」」
これ、もしかして朝と同じ流れでは……。当たって欲しくない予想が今日は当たりまくるようで、男たちは加賀の話を聞くと、明石達とほとんど同じリアクションをとりやがったのだ。
「はははははは!? 嘘だろおい、どこの世界にFCを間違えて買う奴がいんだよ!!」
「ひーひひひっひっひ!! あぁ、久々に笑わせて貰ったよ。まぁ御苦労さんってこったな!! アハハハハ!!」
やっと元気になった加賀はまた表情を曇らせる。それを知ってか知らずか。男二人は自分達の車が止めてあるほうに戻り、エンジンをかけるとわざわざ窓を下げてこちらに近づいてくる。そして最後に、助手席越しに、運転手の男がこんな事を言ってきた。
「間違っちまったお嬢ちゃんよぉ、良いこと教えてやろうか?」
「何ですか」
「このヤビツはなぁ、ロードバイク野郎共の聖地なんだよ。だからよ、なんつーか」
「まぁ、せいぜいチャリンコに煽られねぇよう頑張ってくれや!!」
笑われただけだったら多分許していたかもしれない。
だが、この男の余計な言葉が巧の闘争本能に完全に火を点ける。
頭に来た巧は、シビックがスピンターンで方向転換をして道路に下っていった後に、無言でFCの運転席に乗り込んだ。急な彼女の行動に加賀は変な顔になるが、巧はそんな加賀に怒鳴り声に近い声で口を開いた。
「加賀さん乗って! あんなボテッとしたトマトみてーなクルマ、こいつでぶっちぎってやる!!」
「え゙っ」
「早く! 追い付けなくなっちゃうでしょ!」
「えっ……えぇ」
巧の剣幕に気圧されて、加賀は大人しく従って助手席に乗り込む。すると、ドライバーの彼女はアクセルをベタッと踏み。車を急発進させるのだった。
次回の展開は某漫画のごとく()
小ネタですが巧と天龍が着ているピンクの作業着は、作者の前作でツユクサが着てたアレです。
加賀さんのFCはヘッドライトが固定式になっています。(フロント以外はほぼ純正)