ストパンのVRゲームでウィッチになる話   作:通天閣スパイス

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※御指摘を受け誤字修正。
※色々と微修正


キャラクターメイキング

「ちわーっす、宅配便でーす!」

「……」

「佐藤様ですねー。こちら、判子かサインお願いしまーす!」

「…………」

「はいどうも、ありがとうございましたー!」

 

 ガチャリ、と。配達員の青年が別れの言葉を言うが早いか、俺は即座に玄関の扉と鍵を閉め、今配達されたばかりの荷物を抱えて自室へと向かう。

 ドタドタと足音が鳴るのも気にせずに、沸き起こる興奮に身を任せて小走り気味に急ぐ。玄関から自室までは歩いて十秒もかからない距離ではあるが、一刻も早く目的を達したいという欲求が俺の脳内を占めていた。

 

 勢いよく自室の扉を開け、それを閉める時間も惜しいとばかりにすでにセッティングされているゲーム機のそばに座ると、急いでいるが故の少々乱暴な手つきで荷物の包装を開いてゆく。段ボールを開け、隙間を埋め尽くすように入っている大量のプチプチを退かすと、中には見覚えのあるアニメ絵が印刷された箱が一つ、その存在感を漂わせて入っていた。

 おそるおそる、出来るだけ傷つけることのないようにその箱を取り上げ、上部の蓋を外す。すると中に一冊の厚い冊子と、幾つかのグッズ、そして箱と同じような絵が印刷されたケースが一つ入っているのが見えて。俺はそのケースを取り出すと、本を開くようにケースを左右に開け――――

 

「う、お……。うおおおおおおおおっ、キターーーーーーーーーーーーーッ!?」

 

 中のゲームディスクが見えた瞬間、思わずガッツポーズ。

 製作企画が出た時から楽しみにし、期待をスポンジのように膨らませながら様々な情報を集め、発売日を今か今かと待ち望んでいたゲーム。今流行りのVRゲーム、それの『ストライクウィッチーズ』を原作にしたゲームをようやく手に入れて、俺はここ数年で一番の喜びを感じていた。

 

 VRゲームとは、文字通りVR技術を使ったゲームのことである。頭をすっぽりと覆うフルフェイス型の機器を使い、データ上で作成した感覚を脳に現実だと誤解させることで擬似的にリアルな感覚を楽しめる。それがVR技術であり、データの世界にもう一つの現実を作り出す技術であった。

 概念自体は20世紀から存在していたが、技術レベルの問題により21世紀まで開発はなされなかった。そしてそれが民間レベルにまで普及したのは、なんとここ最近――21世紀後半の頃。軍事機密だの、高額だった機器の低価格化への試行錯誤だのと色々あったらしいが、今となってはゲーム機にも使われる一般的な技術だ。小学生がクリスマスプレゼントにVR機能付きのゲーム機を買ってもらえるくらいに普及した、今年で二十歳を迎えるバイト暮らしの大学生の俺にも手が届くお手軽品である。

 

 そしてこのゲームは、VRゲームで今年一番のサブカルチャー界隈からの注目を集めている話題作。『ストライクウィッチーズ』という21世紀初期の名作アニメを原作にした、自分が一人のキャラとなってそのアニメの世界に入り込めるゲーム――ファンの間では『ストライクウィッチーズVR』と呼ばれている、ファンにとっては堪らない一作だ。

 何を隠そう、俺もストパンファンの一人である。初恋はサーニャ、初めて買ったエロ本は同人のもっひじ本、バイトの初給料で買ったのはエイラの抱き枕という生え抜きのストパニストである。

 このゲームをどれ程待ち望み、期待し、今日という日が来るまでの時を長く感じたことか。あの苦しみはなんとも、筆舌に尽くしがたいものであった。

 

 しかし。しかし、である。ゲームを手にしたこの今、最早何を苦しむことがあろう。何を待つことがあろう。発売日までの苦行が報われる、その時がやって来たのだ。

 今こそ立てよ、立てよ国民。苦しみを元気に変えてゲームをプレイし、思う存分に楽しもうではないか。ハイル、ジークハイル。クリーククリーククリーク。

 

「……ぐふ。ぐひ、ウェヒヒヒ」

 

 興奮でハイになっているせいだろうか、思わず変な声が口から漏れ出た。

 外では優しい真面目なお兄さんで通っている俺が、自宅で一人になったらこんな風になると知ったら大学の友人達はどう思うんだろうなぁ、等と。そんな益体もないことを考えつつ、俺はケースからディスクを取り外し。それをゲーム機に入れると同時にゲーム機に接続してある機器を頭に被り、VRシステム――身体を一種のトランス状態にさせ、感覚を現実からデータの世界へと移す機能のスイッチをオンにすると、次の瞬間には俺の意識はゲームの世界へと飛んでいた。

 

 まず初めに、どれだけの資金とアニメーターのライフをコストにしたのか想像もつかないクオリティのOPアニメが流れ、一分半ほどのその至福の時間の次に来たのは、青空の背景にタイトルロゴというシンプルなスタート画面。未だに止まぬ興奮にせっつかれながら画面を切り替えると、今度は幾つかの項目が並んだメニュー画面に切り替わった。

 『ニューゲーム』、『コンティニュー』、『設定』、『アルバム』、『オンライン』、etc。ゲームを多少知っている者にはお馴染みのそれらを見て、俺は迷わず『ニューゲーム』を選択した。一番最初のプレイだからというのもあるが、細かなもので時間を潰すよりは一秒でも早くプレイしたい、という気持ちによるものである。それで多少後悔することになったとしても……まあ、それもまたゲームの醍醐味、というものであろう。

 

『キャラクターメイキングを開始します』

 

 ゲームを開始すると、自動的にキャラクターメイキングが始まった。

 まず性別を選び、年齢を選び、出身地を選び、開始時の立場を幾つかから選ぶ。そしてメインでもある容姿の作成に移り、それを終えるとキャラクターの名前の入力画面になって、最後に初期ステータスとスキルを決定する。前情報通り実に自由度の高いものであり、その気になればこれだけで一日潰せそうなほどのクオリティだったが、俺は予め決めていた通りのキャラクターをさっさと作っていった。

 

 性別は女、年齢は14、カールスラント生まれのカールスラント空軍所属航空ウィッチ。緩くウェーブがかかった金髪を肩まで垂らし、未だに子供臭さが抜けない童顔とは裏腹に発達したスタイル。

 正しく美少女、と言って差し支えない――あえて形容するならば、どこぞのエロゲのキャラが軍服のコスプレをしているような、そんなどこかアンバランスな魅力を持ったキャラがその作成したキャラクターである。

 

 発売日までの悶々とした気持ちを抑えきれず、先走った妄想を詰め込んでキャラクターの概要を予め作ってしまった結果ではあるが、いやなんとも、いざ作ってみると悪くない。むしろ非常に魅力的な、個人的にはなんとも心惹かれるキャラクターに仕上がっていた。

 そしてゲームとはいえ、自分がこんな美少女になるのだと思うと、これまた何とも言えない興奮を覚えてくる。ストパンの主役は女の子だろう、ということで軽い気持ちで決めた性別だったが、今思うとあれは英断だったのかもしれない。

 

『キャラクターの名前を入力してください』

 

 続いての名前入力も、予め決めていたものを入力する。

 『フランツィスカ・ヴェラ』――ストパンらしく実在のエースパイロットの名前をもじったものを入れて、決定。すると今度は六つの項目に分かれた表と、その項目それぞれに付いた+−の矢印が現れた。

 

・筋力:10

 

・体力:10

 

・魔力:10

 

・器用さ:10

 

・素早さ:10

 

・運:10

 

・ボーナスポイント:100

 

 見ても分かる通り、ステータスの決定画面である。おそらくこのボーナスポイントと書かれている100ポイントをそれぞれに割り振って、最初のステータスを自由に決めろということなのだろう。

 この手のテンプレとしては、安全策として全体を満遍なく上げるか、あるいはどれか一つに極振りしてロマンにかけるという二つの方針がある。ファンの間でゲームの攻略が進み、プレイヤー達のデータと経験を集めて効率的な『最適解』が出されるとまた別の話ではあるが、やはり何も事前情報がない場合としてはその二択に絞られる。

 

 ロマンか、無難か。ゲーマーに対してのその問いは、正しく愚問というものだ。

 

・筋力:10

 

・体力:10

 

・魔力:10

 

・器用さ:110

 

・素早さ:10

 

・運:10

 

『以上でよろしいですか?』

 

 胸を張って、『はい』を選ぶ。

 器用さ。うむ、なんともいい響きだ。

 

 

・所持スキル

 

【ウィッチ】:人類の希望であり、ネウロイに対する矛である。ネウロイの一部スキルを弱体化

 

【銃器/E】:銃器を扱う技術。Eは軍人としては最低限のもの。銃器の使用時、微量のボーナス

 

【空中適正/E】:航空兵器のパイロットや航空ウィッチに必須の素質。Eは最低限飛べる、というだけ。ボーナス無し

 

【技術の天才】:『器用さ』に優れる人間の証。技術系のスキルの効果・器用さ・素早さに多大なボーナス

 

・ボーナスポイント:50

 

 

 そして最後に、スキルの決定画面。これもステータスと同じくポイントがあり、それを使って新たなスキルを獲得するか、所持しているスキルを強化するかということらしい。

 既に幾つかのスキルを所持している状態なのは、見る限り、軍人の航空ウィッチという選択とステータスの極振りのお蔭だろう。特に後者の恩恵の可能性が高い【技術の天才】は、一点特化を目指す人間には嬉しい効果がありそうだ。残念ながら、スキルをポイントで強化できるのはアルファベットが付いているものだけらしいが、それでもステータスやスキルをブーストするスキルがあるのは嬉しい。

 

 【技術の天才】もあることだし、どうせならスキルも技術系に特化してしまえと新たなスキルを幾つか追加して、残りのポイントを全て強化に注ぎ込む。ポイントが持ち越せるかどうかも不明なので一応使い切るようにして、スキルの選択や強化の増減を上手く調節してゆく。そうして出来上がったのが、以下の通りのスキルであった。

 

 

・所持スキル

 

【ウィッチ】:人類の希望であり、ネウロイに対する矛である。ネウロイの一部スキルを弱体化

【銃器/D】:銃器を扱う技術。Dは一通りの扱いに慣れた程度。銃器の使用時、少々のボーナス

【空中適正/D】:航空兵器のパイロットや航空ウィッチに必須の素質。Dは簡単な機動を行える。空中での行動に微量のボーナス

【鷹目】:遠くまで見据える目と技術。近接武器を除いた武器の使用時、射程距離にボーナス

【早撃ち】:素早く弾を込め、素早く引き金を引く技術。銃器の使用時、リロード速度・攻撃速度にボーナス

【固有魔法/操作】:ウィッチが発現する固有の魔法。操作に優れる。技術系のスキルの効果・器用さに大量のボーナス

【技術の天才】:『器用さ』に優れる人間の証。技術系のスキルの効果・器用さ・素早さに多大なボーナス

 

 

 技術系で役立ちそうなスキルを幾つか追加し、あのままでは効果が少し怪しげだったスキルを強化した。

 これが最適だとはさすがに言い切れないが、それでも自分なりにベストな選択をしたつもりである。……特化型を止める、という選択肢を除外しての話ではあるが。

 

『キャラクターメイキングを終了し、ゲームを開始します。よろしいですか?』

 

 とりあえず、これでようやくキャラクターメイキングが終わった。後はこのまま肯定の返事を選んで、ゲームの本編を開始するだけである。

 ああ、これで。これで俺のウィッチ生活が今日からスタートするのだ、などと。これまで積み重なった期待による興奮を胸に、俺は、『はい』を選んで――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――俺の意識は、暗転した。

 

 

 

 

 


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