ストパンのVRゲームでウィッチになる話   作:通天閣スパイス

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※色々と微修正


チュートリアル 2

 このゲームの戦闘は、ある意味では実にシンプルなものとなっている。

 

 武器が銃ならば、銃口を敵に向けて引き金を引く。武器が剣ならば、敵を突いたり凪ぎ払ったり振り下ろす。昔懐かしのコマンド選択式のようなシステム的なものではなく、自分が実際に行動して、現実と同じようにしなければならない――言うなれば、FPSゲームを限りなくリアルにした戦闘システムを採用している。

 言ってしまえば、それは現実のシミュレーションだ。ゲームであるがゆえに、世界観が違ったり独自法則があったり細かい部分はわざとシステムチックにしてあったりと様々な差異はあるが、優れたVRゲームは最早もう一つの現実と言って差し支えない。

 このゲーム、『ストライクウィッチーズ』という作品を元にしたVRゲームもまた、その一つであり。俺の手に握られた銃は、それが仮想の物だとは思えないほどに、ずっしりとした重さを持っていた。

 

『よーし、目標視認……。新入りと私で飛行型を相手する、他の奴等はその間に陸上型を叩け!

 全機、発砲を許可するッ!』

 

 隊長の号令が、無線で皆へと届く。それを聞いた隊員達は意気揚々と前に進んで行き、目の前の黒い無機質な異形――侵略者であり、人類の敵であるネウロイへと、その砲火を浴びせ始めた。

 ネウロイ。ストライクウィッチーズを語る上では外せない、シリーズを通しての敵である。堅い装甲と驚異的な再生能力を持ち、瘴気を撒き散らして侵略した大地を毒す、人類にとっての天敵。金属を吸収する性質があり、車や船、飛行機を乗っ取って自身の身体とすることもある恐るべき存在だ。

 細かい設定を話せばまた色々と複雑な、絶対悪的な存在とも言い切れないこともないかもしれない設定とかが他にも色々とあるのだが、それだけでアニメ一話くらいの量になりそうなのでここで一先ず置いておくとして。俺は空を飛ぶネウロイへと突撃してゆく隊長に続き、ネウロイに向けて前進。両手に抱えた銃を構え、片目を瞑って眼前の標的の一体に狙いを定める。

 

「……」

 

 スゥ、と。軽く息を吸い込み、止めた状態で銃に付けられたスコープを覗き込む。

 今俺が持っている、この銃――『Kar98k』は現実世界では1935年にドイツが制式採用し、第二次世界大戦において連合国側の兵士を散々苦しめ、21世紀でも一部の国が使用していた、正に傑作と称すべき軍用小銃だ。当時他国で実用化されていた自動小銃ではない、ボルトアクション方式の旧式ではあったものの、その命中精度や安全性は特筆すべきものである。

 

 かの名高いドイツ降下猟兵達も、この銃を使用していた。スコープを装着すれば狙撃銃としても使えることもあり、この銃の存在は確かにドイツの戦線を支える助けの一つとなっていたのだ。そしてこの世界でもまた、ネウロイを倒す武器としてこの銃は存在している。

 

「――――てッ!」

 

 パン、と。俺が引き金を引き、火薬の乾いた破裂音が聞こえると同時に放たれた弾丸は、一つ数える間もなく、数百メートル先のネウロイ――空を飛んでいた、小さなエイのような形をしたネウロイに着弾。その胴体の真ん中を綺麗に貫くと、装甲と中身を吹き飛ばした。

 

『……着弾確認! ハハッ、やるなぁ新入り。お前狙撃の才能があるぞ?』

 

 俺の先を行く隊長から、無線で通信が入る。その声の調子には敵が傷付いた喜びと共に、予想外の驚きが含まれていた。

 無理はない。これが初陣の新兵が、数百メートルでの狙撃をいきなりやらかすなどと、誰が予想出来ようか。実際俺も、初めての攻撃が成功した興奮より、この距離で命中したことへの驚きの方が強い。

 

 狙撃というものは、難しい。“狙いを付けて撃つ”という行為は一見単純そうだが、風、コリオリ、空気抵抗といった微細で様々な要因を考慮しなければ正確な射撃の出来ない、立派な高等技術なのである。俺は軍事訓練なぞ受けたこともないし、銃を実際に撃ったこともない、FPSゲームをそれなりにやったことがあるくらいの普通の大学生だ。勿論、狙撃の訓練もやっていない。

 なのに、俺は今。数百メートル先の目標を、確かに“狙って”撃ち抜いた。ラッキーな偶然ではない。スコープを覗き、ネウロイを照準に捉え――そして身体が勝手に少々の調整を行った、その感触を確かに覚えている。その調整は無意識の、俺が意図しない動作だった。例えるなら何かに手助けされたような、何かの補正を受けたような、そんな感覚である。

 

 この奇妙な感覚の心当たりなぞ、一つしかない。ううむ。成程、これが。

 

「……これが。これが『器用さ』極振り、か……」

 

 極振りって、凄い。

 やっぱりそう思った。

 

『――呆けるな、新入りッ! 敵から注意を逸らすんじゃあないッ!』

 

 驚きで染まっていた頭に、隊長からの喝が入る。慌てて俺も撃ったばかりのネウロイをスコープで注視すると、徐々にではあるが、確かに穴がもう塞がり始めていた。

 

 そう、先に言ったこの再生能力こそ、ネウロイが人類に対して優位性を保っている大きな要因の一つである。ネウロイを倒すには、その身を幾ら削ろうとも効果はなく、体内に存在するコアを破壊する必要がある。

 そのコアを破壊するには、まず装甲や周辺を剥がして露出させるか、火力に任せて堅い装甲の上から破壊しなければならず。しかもコアを破壊しない限りダメージを与えてもすぐに再生してしまうため、ネウロイは人類の通常兵器に対して圧倒的なアドバンテージを有していた。

 

 幸い魔力を纏わせた攻撃は比較的通るし、戦車砲クラスの火力の攻撃なら魔力を纏わせなくても何とか通じないこともないため、人類の対ネウロイ戦線は何とか――辛うじて首の皮一枚繋がっている、という状態ではあるが――崩壊はしていない。しかしいくら魔力を保持する、人類にとっての希望であるウィッチであっても、その再生能力は無効に出来ない。

 つまり、ウィッチはあくまでネウロイに“マトモに対抗できる”というだけであって、決して絶対的な上位者というわけではないのだ。少し気を抜けば、簡単にやられてしまう。そんな鋭利ではあるが、脆い矛なのである。

 

 幸い、俺はその事実を『原作知識』という形で知っていて。慢心はせず、ネウロイの様子を見た直後にリロードし、素早く次弾を装填することが出来た。

 初弾を撃ち、隊長の喝を聞き、次弾を装填するまでの間が僅か十と少しを数えるほどという早業である。おそらくこれも極振りしたステータスと、習得していた【早撃ち】というスキルのお蔭なのだろう。ゲームとはいえ、自分の高スペックっぷりには感嘆せざるをえない。

 

 再び息を止め、スコープを覗き、ネウロイに狙いをつける。幸い、スコープによって拡大されたネウロイの先程の穴から赤く透明な何か、即ちコアが半分ほど露出しているのが見えた。

 あちらもこちらの存在には気づいているようで、俺を攻撃せんとこちらに向かってきているが、もう遅い。俺があちらの攻撃範囲に入るよりも、俺が引き金を引く方が遥かに早いのだ。

 

 パン、と。再びの破裂音を残して、弾丸が飛んで行く。ライフリングによって回転し、ネウロイに向けて一直線に飛ぶその弾は、目標までの距離を俺が瞬きをするよりも早く、一瞬で詰めた。

 弾は再度ネウロイを貫き、その異形の身体を穿つ。そして今度は装甲や中身だけでなく、一見すると宝石のようにも見えるほど小綺麗な、禍々しい身体とは雰囲気の異質さすら感じさせるコアを、正確に撃ち抜いていて。

 

『隊長よりヴェラ軍曹へ、コアの破壊を確認。――早速の初戦果、おめでとう』

 

 隊長から無線が入ると同時に、撃ったネウロイの身体がキラキラとした粒子になって消え去ってゆく。コアを破壊されたネウロイは消滅し、何故か死体も残さず消え去るのだ。つまりこの光景は、ネウロイが撃墜された、ということである。

 俺の初戦果を示す、明確な証拠だった。

 

『ヴェラ軍曹? おい、新入り、聞こえてるか?』

「え? ――あ、はいっ、聞こえてます! 無線感度良好、問題ありませんっ!」

『……戦果を喜ぶのは分かるが、一体倒しただけで気を抜くなよ。ネウロイは複数いるんだから、な』

 

 初めての撃墜に多少なりとも感動を浮かべ、思わず少し呆けてしまうと、即座に隊長から注意が飛んできた。

 ……そういえば、他にもネウロイはいたのだったなぁ、と。狙撃したネウロイに意識を傾けていたために、無意識の内に頭から抜け出てしまっていた他のネウロイの存在を思い出して、突然冷や水を浴びせかけられたように冷静になる。

 

 慌ててスコープを覗き込めば、いつの間にかネウロイに接近していた隊長が、接近戦で他の飛行型ネウロイを引き付けている姿が目に映った。

 ……成程。俺が狙撃に集中している最中、他のネウロイにちょっかいをかけられなかったのは、彼女がああして注意を引いてくれていたかららしい。 さすが隊長を任されるだけのことはあると言おうか、気がつかない間にフォローを受けていたことを知って。俺は素直に、彼女への感嘆を抱いていた。

 

『ま、今回は少数相手だし、これでおしまいなんだが。

 ……せっかくだ、よく見ていろ新入り。エースの戦いというものを、お前に見せてやろう!』

 

 そう言うと、隊長は今までの引き付けさせるための引き撃ちから、一転。

 背を海老のように反らして上昇し、半円を描いた辺りで急降下。追ってきた二体のネウロイを相手に、機動戦を仕掛けた。

 

『まず、ひとぉーつッ!』

 

 すれ違い様、隊長は一体に向けて手に持った機関銃を発射。パパパ、と連続した音を出して飛び出た複数の弾丸は吸い込まれるようにネウロイへと突き刺さり、その身をミンチのように引き裂いてコアごと破壊した。

 その様子を横目で確認した彼女は、続いて急角度で旋回。後ろから浴びせかけられたネウロイの攻撃――細いビームのような攻撃を回避し、螺旋を描くように上昇する。

 

『いいか、空中の接近戦で一番重要なものは、機動力だ! 敵を撹乱し、攻撃を回避し、敵の背後を突く。それが何よりも大事な基本となる!』

 

 隊長の動きは素早く、流暢だ。速さだけではない、機動を流れるようなものにしている上手さがある。メタ的な話をすれば、おそらく相応の高いステータスやスキルがあるのだろう。俺には絶対真似出来ないということも、システム上はありえないはずだ。

 だが、今視界で空中舞っている隊長の姿は、とても遠い壁を感じさせるものだった。彼女の動きは洗練されていて、芸術のような美しさすら感じさせる。俺では確実に手の届かない、数段上の技術のように思えた。

 

『空中戦はチェスと同じだ、常に相手の動きを予測しろ! 自分が望む状況に、上手く相手を引きずり込むために動け!』

 

 光線を避けながら、隊長は時折銃撃をネウロイに浴びせている。特定の点を狙ったものではなく、弾幕を作ろうとばらまかれたそれは、ネウロイの動きを牽制するものだ。おそらくネウロイを誘導しているのだろうと、俺が見ても分かった。

 隊長によって導かれたネウロイは、彼女の背中を離れずに追従してきている。放たれる光線を曲芸染みた機動で避けながら、彼女は左斜め上に旋回。ネウロイもしっかり追ってきていることを確認すると、弧の頂点で意図的に失速。旋回半径を小さく取り、ついてこれなかったネウロイに追い越されたのを見ると即座にその場で一回転。

 

『そして、最後に。――判断は素早く、だッ!!』

 

 ネウロイが無防備に背中を晒した、その一瞬の隙を突いて。放たれた機関銃の弾丸が、ネウロイのミンチを新たに作り出していた。

 

「……」

 

 呆然、と。一連の隊長の戦闘の光景を、俺はここが戦場だということも忘れて見つめていた。

 正直、何と言葉にしたらいいのか分からない。俺がやったのは、正直に言ってただの狙撃だった。だが今の隊長のそれは間違いなく空戦であり、それも一級の実力を持った人間の、スタイリッシュさすら感じられる心震える戦闘シーンである。

 二体のネウロイをあっという間に片付けてしまったことも、今の俺では及びもつかない戦闘技術を見せてくれたことも。何もかもがただ、凄いの一言だった。

 

『――隊長へ。陸上型ネウロイ、殲滅完了しました。繰り返す、陸上型ネウロイを殲滅しました』

 

 無線で、隊員の一人から連絡が入る。視線を下に向けると、確かに陸にいたネウロイの姿は一つ残らず消え去り、地表付近を飛んでいる隊員達がこちらに手を振っていた。

 

『ああ、こちらでも確認した。こっちもちょうど、殲滅ついでの新入りへの教育が終わったところだ』

『教育って……ああ、いつものですか? 隊長、いつも言ってますけどね、あんなの見せられても正直凄すぎて参考になりませんって』

『……む』

『私達みたいな凡人にゃ、エースの動きは凄いってことしか分かりませんよ。それより早く帰りましょう、クリスタがお腹空いたって煩いんです』

『ああ、ああ、分かったよ。……新入り、帰るぞ。そろそろ戻ってこい』

 

 隊員とのやり取りに、隊長は苦笑を浮かべて了承の返事をすると、未だ呆けていた俺に無線で呼び掛ける。その声で俺が我を取り戻したのを見て、彼女は今度は全員に帰還の号令を掛けた。

 簡単な任務ではあったが、損害なしかつ敵殲滅という最上の結果を出すことが出来て嬉しいのだろう。薄く笑みを浮かべて『帰るぞ』と短く言った彼女に、俺達は行きと同じように声を揃えた。

 

 

 

 

 

『『――Jawholッ!!』』

「Jawhゆッ!?」

 

 

 

 

 

『……えっ?』

「えっ?」

 

 

 

 

 

 いや、噛んでねーし。

 

 

 

 

 

 

 




チュートリアルなので、一匹自力で倒せばあとは自動で進みますよ、という話。
あと主人公は特化型ってだけなので、現状はそこまでチートなわけじゃない。レベルを上げればそりゃなってはいくだろうけど。頑張れば絢爛舞踏取れるんじゃないっすかね(適当)


Q.知力ステないの?

A.あっても死にステになりそうだったので、ありません。
開発者プレイとかは、そうですね。また掲示板形式で設定とか書くかもしれません。

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