ストパンのVRゲームでウィッチになる話   作:通天閣スパイス

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※御指摘を受け誤字修正。
※間隔調整しました


ガリア撤退戦
???


 航空ウィッチにとっての戦場は、陸上海上山上を問わない――すなわち空がある場所なら戦えるが故に、地表のほぼ全てに他ならない。

 空を飛ぶことに魔力を消費するため、陸上ウィッチや通常兵器に比べればどうしても戦闘可能時間は短いものの、その汎用性と利点はその欠点を補ってあまりある。

 

 例えば、航空戦力があるとないとでは、地上戦における難易が劇的に変わる。制空権をどちらが確保するかという点は、近代戦においての天王山なのだ。

 対ネウロイ戦でもそれは同じで、敵の航空型ネウロイをいかに素早く排除できるかが、戦闘による戦力の消耗を押さえるためのポイントだ。陸を一方的に攻撃出来るポジションを押さえるアドバンテージは、それほどまでに大きい。

 

 極端な話をすれば、もし航空型ネウロイが存在しなかった場合、人類はネウロイに勝利出来た――もしくはここまで戦況が悪化することはなかったかもしれない。

 いくら通常兵器の効き目が薄くても、全く効かないわけではない。数を揃えた爆撃機で絨毯爆撃をすれば、間違いなく効果をあげられる。重装甲の超大型ネウロイは難しいにしても、十把一絡げの小型達は殲滅出来るだろう。

 その場合、人類側の戦力は相対的に上昇する。総人類数十億という数の暴力を使って、通常兵器による対応はもっと効果的なものになっていたはずだ。

 

 それを不可能にしているのは、一重に航空型ネウロイの存在であり。それに対しての矛たる航空ウィッチの存在が、さらに重要なものとなっている所以でもあった。

 

『――た、隊長っ! ルイスがやられましたぁ!』

 

 そして、今ここ。ガリア北部のパ・ド・カレー近郊にて起きている戦闘で、制空権を賭けた激しい攻防が行われていた。

 

 空ではネウロイとウィッチが幾度も交差し、砲火を交え、視線を向けたどの方向にも敵と味方が見えるという、まるでダンスを踊っているかのような混戦状態が続いている。下では戦車を中心にした通常兵力が、小型と中型の混成の陸上型ネウロイ達を必死に食い止めていた。

 ウィッチは二桁以上の数がおり、順調に敵の撃墜数を増やしつつあるものの、対するネウロイも陸空合わせて数十近くの数を要していた。数の暴力と、混戦状態による理不尽な流れ弾によって、ウィッチと他の兵隊達も段々とその数を減らしていたのだ。

 

 無線から響く再びの撃墜報告に、ウィッチ達を率いる隊長のロロット・ヴェルヌ大尉は、歯に思いっきり力を入れることで感情の動揺を抑えた。

 視線を一瞬だけ下に向けてみると、確かに一人の少女が落下して行く姿が見える。その少女は間違いなく彼女が率いる隊の隊員で、天真爛漫な性格で隊の皆に人気があった、彼女もよく知る存在だった。

 その少女が気を失って、シールドが間に合わなかったのか、その腹部を真っ赤に染めながら落下して行く。リベリオンに恋人がいるのだ、と先日嬉しそうに話していた彼女の姿が、ロロットの脳内を過った。

 

「……狼狽えないでください。命令は変わりません、全員目の前の敵を食い止めることに集中を! 落伍者の救助は禁止、繰り返す! 落伍者の救助は禁止ッ!」

 

 ルイスの姿から視線を逸らして、ロロットは感情を理性で押さえつけながら、先程下した命令を繰り返す。

 彼女達の背後には、ガリアの避難民達がいる。彼女達がネウロイを食い止められなければ、その数万単位の民衆と護衛の僅かばかりのガリア軍は、あっという間に全滅の憂き目に遭うだろう。

 

 彼女達がこうして大空戦を挑んでいるのは、避難する民衆の護衛に就いていたガリア軍――正確には、北部で未だに抵抗を続けていたガリア軍の残党の一部が集結した寄せ集め――が、近くに大規模なネウロイの編隊を補足したからだった。

 このまま進めば襲撃は避けられないと判断した彼らは、一部を残して避難民と別れ、ネウロイに向けて転進。半ば無理矢理にでもネウロイの進撃を食い止めることで、民衆が避難出来る時間を稼ごうとしているのだ。

 

 彼らが目指していたパ・ド・カレーには、カールスラント軍が十分な戦力を残して駐留している。そこまで逃げられれば助かったも同然だろうし、近くまで行けば迎えに来てくれる可能性だってあった。

 出発時点でカールスラント側に連絡は入れているし、受け入れとブリタニアへの渡航の了承の返事も聞いていた。ネウロイに突撃することも一応連絡は入れたが、戦闘地点と基地の間はそれなりの距離がある。

 もし彼らが援軍に来るとしても、その時までに半数は生き残っていまい――。この絶望的な状況に、ロロットはそう判断を下していた。

 

『――――隊長ッ!?』

 

 ハッ、と。焦りを多分に含ん無線からの声が、彼女の頭を突き抜けた。

 

 反射的に背後を振り返ると、小型の航空型ネウロイが一体、彼女の背中を狙っているのが分かった。

 普通ならそこでパニックにでもなるのだろうが、ロロット・ヴェルヌは紛れもないエースである。彼女はすぐさま腰に差した軽機関銃に持ち替えて――抱えたアサルトライフルでは間に合わない――引き金を引き、相手を即座にミンチに変えていた。

 その反応速度は神速で、正にエースと呼ぶに相応しい技量だった、が。

 

『隊長ッ、もう一体ィィィーーーーーーーッ!!』

 

 彼女にとって不幸だったのは、迫っていたネウロイがその一体だけではなかった、ということだった。

 彼女の死角、下方から襲いかかってくる別のネウロイに、銃を打ち終えたばかりの彼女は即座に反応出来ない。彼女が銃を向け直すよりも、そのネウロイが攻撃を加える方がどうしても早かった。

 ネウロイから発射された赤い光弾が、ロロットの体を穿つ。至近距離で、銃弾よりも素早く放たれたその攻撃は、彼女の腹部を射抜いていた。

 

 カハ、と。彼女の口から、少量の血が吹き零れる。

 幸いギリギリで――本当に紙一重でシールドが間に合い、致命的なダメージだけはなんとか避けられたものの。それでも完全には防げず、内蔵が傷ついてしまったのか、反射的な吐血は避けられなかった。

 あくまで命は助かった、という状態である。戦闘の継続などはほぼ不可能だろうし、事実、握力が弱まった手から機関銃が離れていくのを見て、ロロットは自身の限界を感じ取っていた。

 

 そして、また。命が助かったというのは、あくまでもこの瞬間においてのみのことである。

 彼女を襲うネウロイは、今も変わらずそこに存在しているのだ。傷ついた獲物を前にしての、それの次の行動は――彼女には容易に想像出来た。

 

「……くり、かえ――す……」

 

 ネウロイが、再び光弾を発射するまでの、間。

 泣き叫ぶようにロロットの名を呼ぶ声が響く無線に、彼女はかすれる声で語りかけた。

 

「らく、ご――しゃ……の、きゅう、じょ、は……きんし。そういん、われを、かえりみず――われを、われを、われを……」

 

 ……あれ。そういえば、次はどう言うんだったかな、と。

 赤い光を強めるネウロイを目の前に、彼女は、そんなことを考えて。

 

 

 

 

 

『――――ヴェラ軍曹、撃て』

『……Jawhol.』

 

 

 

 

 

 薄れゆく意識の中、遠くで乾いた音が一つ、鳴ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 ……生きている。意識が覚醒して、まずロロットが思ったことはそれだった。

 

 彼女の視界に映るのは明らかに人工的な天井で、体勢と感触を考えるに自分はベッドのようなものに寝かせられているのだ、と分かる。

 痛みは感じるものの、腹部に食らったはずの傷も上体を起こせる程度には治っていて。治癒魔法と通常の治療の併用か、体のあちこちに包帯も巻かれていた。

 

 部屋の中を見渡しても、彼女の他に人影はない。

 遠くから生活音らしきものは聞こえているから人は居るのだろうが、色々と尋ねるべき人間が見当たらなくて。仕方ない、と彼女は病身を押して立ち上がり、壁に手をついて体重を支えながら、なんとか歩みを進めた。

 

 ペタリ、ペタリと弱々しい足つきながらも、彼女は部屋の扉に向けて歩いてゆく。

 ようやく辿り着いた彼女は、ドアノブに手を掛ける前に、一つ息を吸って。傷の影響だろう、どうにも力が入りにくい自身に力を入れ直すと、意を決して扉を開いた。

 

「――ヴェルヌ大尉っ!?」

 

 彼女が廊下に姿を見せた瞬間、ちょうど居合わせた一人の少女が、驚いたように声をあげる。

 

 少佐の階級証と、カールスラントの軍服を身に着けたその赤毛の少女は、慌ててロロットに駆け寄っていく。

 今にも崩れ落ちそうなロロットに肩を貸し、大丈夫ですかと心配する声をかけてくる彼女に対し、ロロットは笑顔を半ば無理矢理浮かべた。

 

「治癒魔法で傷は塞がったとはいえ、内臓が傷ついているんです! 無理をせず、大人しくベッドの上で――」

「……ありがとう、ございます、少佐殿。でも……。他の、皆が……」

「貴女の部下のウィッチ達なら、全員命の危険はありません! 付近を偵察していた部隊が強行して援軍に行ったんです、救助が全員間に合ったんですよ!」

 

 え、と。すがるような目を向けたロロットに、少女は諭すように話を続ける。

 

「襲撃の連絡を受けた際、我々の部隊――JG3が近郊で作戦行動中でした。連絡を受けた上層部は、そこから二個中隊を引き抜いて救援に当たらせたんです」

「……二個、中、隊?」

「ランガー中尉の第7中隊、ダール中尉の第4中隊、どちらもエースに率いられた精鋭です。相応の損害は出ましたが……。ネウロイも撃退に成功、怪我人も救助が間に合いました。避難民の被害も皆無ですよ。

 作戦は成功したんです、ヴェルヌ大尉」

 

 だから、貴女もゆっくり休んでいてください、と。彼女のその言葉を聞くと同時に、ロロットは崩れ落ちた。

 

 ……生きていた。生きてくれて、いた。

 彼女の内心は、思わずそんな感情で溢れて。しとしとと、静かに涙を流しながら、自らに肩を貸す少女に「ありがとう」との礼を繰り返し呟いた。

 

「……礼なら、貴女方を救援に行った彼女達自身に言ってあげてください。私は本隊にいて、そちらには向かいませんでしたから」

 

 そう言って、ロロットから申し訳なさそうに顔を逸らす、少女。

 少女――ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケと名乗った彼女は、自らをJG3の司令官を勤めている人間だと言った。確かにロロットを助けたのは彼女の部下ではあるが、彼女自身は助けに行ったわけではない。

 

 礼を言われて嫌というわけではないが、部下の苦労と名誉を奪ってしまっているような気がして、彼女はあまり嬉しくはなかった。……実際に対価として血を支払ったのは、あくまでも彼女の部下なのだ。

 彼女のそんな内心をやんわりと察したのか、ロロットもそれ以上繰り返すことはなく。今度は色々と迷惑をかけたことに対しての、短い謝礼をした。

 

「……分かり、ました。後程、直接礼を、述べに行かせてもらいます、ね……。

 ご迷惑をお掛けします、少佐……」

「いえ、お構い無く。お疲れでしょう、部屋に戻っていてください。詳しい説明は夜にいたしましょう、今はごゆっくりと」

 

 その言葉に、ロロットは弱々しく頷いて。ミーナの肩を借りたまま、自分が寝ていた部屋へと戻っていった。

 

 数十秒ほど経った後、ロロットをベッドの上に戻したミーナが部屋から出てきて。後ろ手にドアを閉めながら、一つ、溜め息を吐き――手で顔を覆うと同時に、天を仰ぐ。

 その表情は手によって隠されてはいるが、口元は横にこれでもかと引き締められていて、彼女の感情の方向性は誰の目にも明らかであった。

 

「……早すぎる」

 

 ポツリ、と。人影のない廊下で、彼女は呟いた。

 内心のそれを隠しきれなかったのか、声の端々を震わせて。動揺、焦り、悲しみ、怒り……。そういった負の感情を、彼女は今持て余してしまっている。

 

 ネウロイが、この地に近づいている。それはもう、誰にでも分かっていたものだ。

 参謀本部は、当初一月と言った。現場からの報告を受け、次の会議ではその半分に減らした。前段階の作戦を実行した時は、それがまた縮まった。実際に作戦が始まると、さらに縮まって――現実はさらに、その上を行ったのだ。

 

 約一週間。

 何もしなければ、そんな短期間の後にネウロイが基地へ、ひいてはカレー港に押し寄せる。参謀本部の最新の報告では、そんな予測だったらしい。

 

 作戦は完璧だった。あの時点で考えられうる最良の作戦プランを、カールスラントは用意していた。それはまず間違いない。

 なら何故、このような事態に陥ったのか……。正直に言ってしまえば、現実であるが故のイレギュラー――ガリアの不甲斐なさのせいだろうと、彼女は思っていた。

 パリの陥落、それによる戦線の後退と分散。全てがそこの読み間違えからの話であり、それがなければ今頃は余裕を持って作戦を行えているはずだったのだ。

 

 北部で抵抗していたガリア軍の残存兵力の撤退も、あまりにも早すぎる。ロロットがいた部隊はその一部とはいえ、残りの部隊も次々に抵抗を諦めつつあった。

 それによって、ネウロイの余剰戦力が発生。それの多くは北部で未だ残る抵抗勢力に振り分けられ――ロロット達が遭遇した一団もその類いであろう、という話である。

 それはつまり、作戦を何とか行うためには、その増強しつつある敵戦力を退けねばならない、ということであり。そのための犠牲と行われるであろう任務の危険性を考えて、ミーナは思わず泣きたくなる衝動を覚えた。

 

「……クルト……」

 

 今はこの基地で整備兵として働いている、自らの親しい男性の名を呟いて。

 彼女はそっと、天に祈りを捧げた。

 

 

 

 

 




ヴェルヌ大尉はオリキャラ。
これで第一部開始、といった感じでしょうか。戦局がどんどん悪化してきてオラワクワクしてきたぞ。

Q.ログアウトさんがログアウトするようです

A.なんでや、出来る可能性だってあるやろ! 微粒子レベルで

Q.エスコンみたいなストライクウィッチーズのゲームがやりたい

A.BF1942の某modで我慢するしかないこの状況。三期がやったらワンチャン……

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