狐の祖という存在は色々としんどい。
私は生まれたときからそうだったけど、やはり疲れてしまう。
例えば・・・どっかの圧力のせいで意識だけが現実世界から飛んでいたり。
「・・・消し飛ばしてあげようかしら」
「止めてくれ」
「エミヤ。久しぶりね」
「君は何故そう突拍子に恐ろしいことを・・・」
「そう?私からすれば迷惑だもの」
それはそうだ。
今回が初めてではなく、何十回とあればさすがにそう考えても良いでしょ。
「・・・それで、今回はすぐには戻らないのだな」
「妹が帰ってきたのよ。それで仕方ないから座には居てあげるわ」
とはいっても悪用されたら想像具現化でぷっつんと切るけどね。
それに聖杯戦争でもわざわざ願いたい理由もないし、あれば自分で何とかする。
「ほう・・・それで、私は何をしていた?」
「士郎?うーん・・・まぁ、照れ隠しが下手ね。でも凜に対する気持ちはあるのかな?」
「ふむ・・・そうか」
「君は、どうなんだ?」
「・・・へ?」
この英霊は何を聞いてきてるんだ。
「好きな相手はいるのかと聞いているんだが」
「・・・何?宝具使って斬り飛ばしましょうか」
「それは御免被るが気になるではないか」
「はぁ・・・同性愛者なのよ、私」
「・・・ほう」
「好きな相手なんて夜々に決まってるでしょ。可愛いし、抱き着くと柔らかくて良い匂いするし」
なんで私はこんな奴に話しているのだろうか・・・。
まぁ良いのだけれど、夜々の事は大好きだもの。
「さて、帰るわ。次呼ばれたらここ消し飛ばすからそのつもりで」
「・・・帰るのは自由だが消すのは勘弁してくれ」
「さあね?私は忙しいのよ」
「はぁ・・・それを可能にしてしまえる力を与えた者は一度相手してほしいものだ。では、またな」
「ええ、また」
目をつぶるように夢から覚めるようにすれば、そこは現実世界。
周りを見渡すと私の部屋でベッドにはイリヤの姿が・・・無かった。
「・・・イリヤ!?」
「陽華」
名前を呼ばれて振り向けば。
赤い瞳で金髪を揺らす小さな女の子が私の前に座っていた。
「良かった・・・」
「・・・ありがとう、こうして戻れたのが嬉しいわ」
「夜々に言いなさいな・・・」
「あら?私は夜々と陽華両方に感謝してるのよ?二人がいなければ戻れなかったのだから」
「と、とりあえず一度見てみるからじっとしてて」
「ふふ、可愛い」
イリヤってこんなにからかう子だったかな・・・。
とりあえず私は解析魔術で問題が無いか調べた。
イリヤの身体には魔術回路は無かったものの、魔術限定で行程無視の能力はあった。
あとは大量の魔力があるぐらいかな。
「なんともないね。至って健康です」
「本当?やった!」
「凜の所に連れていくね、士郎もそこにいるだろうから」
「・・・どうやって?」
「イリヤは知らないんだっけ、私の能力」
「?」
イリヤの手を掴むと、想像具現化で凜の所へと移動する。
転移程度なら代償無く出来るから便利なのだけど多用は出来ないね。
「ほいっ、到着」
「えっ?な、なに今の」
「秘密。気が向いたらね」
「凜ー!いるー?」
そうして凜を呼ぶとバタバタと走ってきてこっちに来た。
その時私の隣にいるイリヤにかなり驚いてた。
「・・・イリヤ・・・よね?」
「そうよ?イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。忘れちゃったの?リン」
「陽華、あんたどんなことを・・・」
「能力。それだけ。士郎はいる?」
「士郎は、買い出しよ。待ってれば戻って来るわ」
「イリヤ、後は説明自分で出来る?」
「ええ、あの世界で色々と見てきたから」
「ん、じゃあ大丈夫かな。それじゃ帰るね」
「ま、待ちなさい!」
凜の言葉を無視して私は家に戻る。
なにせ、イリヤのことは桃子お母さん達には秘密だからね。
夜々が漏らす事はないから黙っていればばれないし。
「よっと・・・」
「あ、帰ってきた」
戻ると夜々がベッドで寝転んでいた。
グルグルと布団を巻き込んで。
「イリヤを凜の所に連れていったわ。後はあっちで何とかすると思う」
「そっかー・・・大丈夫かな?」
「大丈夫だと思うわよ・・・それと布団で丸まるのは止めなさい」
「え~・・・暖かいのに」
「はぁ・・・とりあえずやることは多いよ。この世界の事とかね」
夜々はこの世界の魔法をよく知りはしないだろうからある程度の説明をしてあげないと。
それに、少し嫌な予感もするから。
それが私の大切な人達に危害を成すのなら・・・。