幼馴染転生 - ルディと一緒に本気だす -   作:文頼

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第十六話「迷宮」

 魔神窟最深部。

 

 目の前にある荘厳で巨大な扉を見て、私は溜息を溢す。

 何でこんなダンジョンを攻略しようと思ったのか。

 ダンジョンに入る前の私に問い詰めたい。

 

 

 最初は楽しかった。

 強そうな敵が現れて、私の魔術で無双していく。

 ちょっと魔物がグロかったが、爽快感があってどんどんと下層に降りていった。

 

 だが、まったく終わりが見えない。

 お腹が空いた。

 眠くなってきた。

 どんどん空気が淀んでいく。

 息苦しい。

 でも、ここまで来て引き返す訳にもいかない。

 

 初日、私は百層近く潜った。

 でも終わりは見えなかった。

 

 そういえばロキシーは『龍神孔』という一万年以上前からあるダンジョンは、推定で2500層あると言っていた。

 このダンジョンが魔神窟だとしたら、だいたい二千年ほど前だろうか。

 七百層くらいあっても不思議ではない。

 ああ、なんでこんな所に潜ってしまったのだろう。

 きっと、外部魔力から解放されて特に何も考えていなかったのだ。

 だからこんなダンジョンに平気で足を踏み入れた。

 

 

 二日、三日、潜っても潜っても終わりは見えない。

 魔物は段々と強くなっていく。

 

 腹が減ったら魔物を食べた。

 時にはゲテモノみたいな魔物も食べなければならなかった。

 おいしいものもあったが、調味料が無いのですぐに飽きた。

 

 眠くなったら、周囲に結界を張って眠った。

 魔術で体は浮かせていたし、結界内の気温も温かくした。

 でも安眠は出来なかった。

 魔術で無理矢理眠ることはしない、そんな事をしたらこの先魔術でしか眠れなくなるから。

 

 歩き疲れた。

 空を飛んだ。

 陽の光を浴びたい。

 最小の太陽に似た物を生み出した。

 魔物が臭い。

 消臭魔術を使った。

 

 この時ほど魔術を努めてきて良かったと思った事は無い。

 そんな日々を、一ヶ月続けた。

 

 ある日、眠りながらダンジョンを平行移動して進んでいると、目の前に巨大な扉が現れた。

 あの莫大な魔力の根源が、その奥から感じられる。

 

 私は油断していた。

 このダンジョンに入って、一度も私に攻撃を与えられた魔物は居なかった。

 だからそのまま、半分寝ぼけた状態で、扉を開けた。

 

 

---

 

 

 視界が真っ白になり、結界に亀裂が奔った。

 

 ……ほぇっ!?

 

 寝ぼけていた意識が冷や水を被ったように覚まされた。

 冷めるとほぼ同時、反射的に結界を斜めに反らす。

 謎の光は、結界に背後の壁に反らされる。

 

 ビキビキ、とダンジョンの壁から音が聴こえた。

 何とか間に合ったことに安堵しながら、結界を高速で修復する。

 

 謎の攻撃が止み、その攻撃をした敵の姿が見えた。

 頭には無数の蛇、醜く歪んだ顔、黄金の翼。

 その眼からは怪しい光を発している。

 

 前世で人並みには神話を知っていた私にも分かった。

 

 ……あれ、メデューサじゃない?

 

 という事はさっきの攻撃は石化の光線?

 石化を解く魔術はまだ一度もやったこと無いから危なかった。

 寝ぼけててそのまま石化とか、後でやってきた冒険者に笑いものにされる。

 

 取り敢えず、メデューサは首を落とせば勝てるかな?

 

 魔力を飛ばす、が何かを感じ取ったのか避けられる。

 ゼロ距離からの魔術で仕留めたかったがそんな簡単にはいかないらしい。

 

 メデューサの眼がまた光る。

 反射障壁でカウンターを狙う。

 メデューサの眼が石化した。

 使い古された攻略法が成功したことに私は呆気にとられる。

 それと同時に髪の毛の蛇が私に向かって放たれるが、本命の配置していた魔力で全て燃やし尽くす。

 

『ギャァーーーー....』

 

 絶望に濡れた悲鳴を上げながら、メデューサは走って突っ込んでくる。

 体長五メートルはありそうかというメデューサの物理攻撃は、確かに強い。

 しかしそんな苦し紛れの攻撃で私の結界は突破することはできない。

 メデューサの拳で結界に罅が入る。

 更に蹴りによって結界が破壊される。

 

「ふ~ん、それだけ?」

 

 先程は一枚だけだった結界は、何枚にも重なってそこに存在していた。

 

 私はもう既に目の前の魔物への格付けを終えていた。

 メデューサが怒りに狂い結界を壊そうするのを冷静に眺めながら、魔術を構築する。

 

 

---

 

 

 倒れ伏したメデューサの亡骸から魔石を取り出す。

 額にむき出しになっていたので、簡単に取れた。

 体格のいい大人の拳くらいのサイズで、灰色の魔石だ。

 これを媒体に魔術を使えば私はどれほど強くなれるだろうか。

 取り敢えず服のポケットに押し込み、部屋の最奥に置いてある宝箱に目を移す。

 膨大な魔力の正体はメデューサではなく、あの宝箱の中にある物のようだ。

 

「………」

 

 知らず知らずのうちに心拍数があがっている。

 年甲斐もなく興奮しているらしい。

 長く深呼吸をして、魔術で大きい宝箱を開ける。

 

「……黄金の鎧?」

 

 箱の中には、金銀財宝や魔道具が沢山あったが、ひときわ目が引いたのがそれだった。

 眩しすぎる。

 製作者は何を思ってこんな使いにくい鎧を生み出したのか。

 私は目を細めながら、不用意に鎧を手に取った。

 

「うぐっ…!」

 

 しまった。呪具の類だったか。

 鎧から魔力が私の体を伝い、体の支配権を乗っ取ろうとしてくる。

 鎧から手を離せない。

 

 間に合わないかと思った。が、魔力の侵攻は脳の直前まで迫り、止まった。

 人神対策の魔力壁が邪魔で、立往生しているらしい。

 

 体内に障壁を張っている人間なんて、私くらいだろうなっ……。

 

 その間に私の外部魔力で逆に鎧の乗っ取りを開始する。

 攻められたなら、その隙に相手の根城を奪い取ってしまえ!

 

「はぁぁああああ!!!」

 

 苦しい。

 相手の魔力が圧倒的に多すぎる。

 七人で何千人が守る城を落とすようなものだ。

 そうだ! あれを使えば……!

 

 さっきポケットに入れた石を鎧に触れていない方の手で取りだす。

 

「これで、本当に私の勝ち……っ!」

 

 効率が飛躍的に向上した魔力で、圧倒的な魔力を押しのける。

 この程度、外部魔力に比べたらまだ温い!

 

 

---

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ。勝った……」

 

 何気にメデューサ戦より何倍も危なかった。

 何とか鎧の支配権を乗っ取ったが、そのせいで外部魔力がすっからかんになってしまった。

 魔力を維持するだけの余裕も無かったからだ。

 あれだけ魔力制御に自信を持っていた私が、その維持すらできなくなるなんて。

 この鎧の支配力の恐ろしさを物語っている。

 幸い、魔力壁の方は何とか維持できた。

 これが無ければ私は一瞬の間に鎧に乗っ取られていただろう。

 

 着た。

 ダボダボかと思ったが、着たら自動で私の体に調整された。

 手元に黄金の杖が現れた。

 先っぽにはメデューサの灰色の魔石。

 この鎧は使用者に合わせて武器まで生成してくれるのか。

 財宝の中にあった金縁の鏡で全身を確認する。

 うん、可愛くて強そう。

 

 でも所々鎧が無い所がある。

 手とかほぼ丸出しだし、鎧というか、装飾品みたいな形状に変化してしまった。

 ゴツゴツして前もよく見えない鎧よりかはマシだけど、思ってたのと違う。

 

 ……まあいいや。

 気を取り直して、杖を通して魔術を使ってみよう。

 ●ラだ。

 

「――っ」

 

 いつもの感覚で普通の火の玉を生み出そうとしたら、五メートルくらいのメラメラとした業火球が現れた。

 鎧の効果か熱は全く感じなかったが、相当の熱量があるのは見て取れる。

 今のはメラ●ーマではない、メ●だ。をまさか自分にやってしまうとは。

 

 やったやった。一ヶ月もダンジョンに潜った甲斐があった。

 

 ……何か思ってた以上だったけど。

 

 日常的に付けてても邪魔にならない鎧と言うのは凄い。

 体が鎧の魔力で黄金に輝いてるけど、日の当たる所に行けば違和感は感じないだろう。

 強力な鎧と杖を手に入れたな。これでまた格段と夢と目的に近づいた。

 

 ――人神、打倒に向けて!

 

「えいえいおー!」

 

 意気揚々とダンジョンを戻っていく私はある事実に思い至り足が止まる。

 

 ……ああ、ダンジョンから出るのに、また時間が掛かりそうだ。

 転移の起点になるものを置いておけとあれ程……。

 

 

 私はダンジョン制覇した嬉しさも忘れ、トボトボと憂鬱な薄暗い迷宮に戻っていくのだった。

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