市場を散策した。
魔法大国なだけあって、すぐに良質な魔力結晶は見つかった。
帰り道、魔力結晶内部にある魔力を取り出してみる。
久し振りに外部魔力と同じ要領で周囲に漂わせる。
その懐かしい感覚に、思わず頬が緩む。
後はこれを、魔力体に吸収させるだけなのだが……。
「お前、――止まれ」
通りすがりの男に話しかけられた。
銀髪で偉丈夫の冷たい眼をした男だ。
その後ろには、黒髪の女性。
「何ですか?」
「――貴様は何者だ?」
初対面の相手にそれはどうなのだろう。
自分から名乗ってくれたらこっちも普通に名乗るのに。
しかし、何故話しかけられたのか。
「人にモノを尋ねるのなら、それなりの態度があるのではないですか?」
「……すまない。俺は百代目龍神オルステッドだ。それで、お前は何者だ?」
お、おお?? や、やばいんですけど。龍神に出会っちゃったんですけど。
よりにもよってこのタイミング? 何も考えてなかった。
「龍神様でしたか。私はサラスヴァティ・グレイラット、しがない魔術師です」
「……。グレイラット、アスラ王国の地方の貴族だったか? ……まあいい。その体は何だ? お前は生きているのか?」
質問攻めだな。
魔力体に目をつけられたか。
まあ、言ってもいいか、敵ではないんだし。
「龍神様の慧眼おみそれいたしました。私はサラスヴァティ・グレイラットの分身体です。本体が、といっても私もその記憶がございますが魔術の失敗をした時に偶然生まれた魔力体が私ですね」
「……失敗で生まれたのか。一体何の魔術を行使した?」
「転移魔術です」
「――何だと?」
転移魔術ってオルステッドでも使えなかった魔術だっけ。
老デウスが使ってたから使えるものと思っていたけど。
と、そんなことより今が龍神に取り入るチャンスではなかろうか。
オルステッドは常に動き回っている。
このチャンスを逃すと次いつ会えるか分からない。
「龍神オルステッド様、私を貴方の陣営に入れてくれませんか?」
「……俺が何を目的としているか、知っているのか」
「えぇっと、人神の封印及び殺害でしたっけ?」
「殺害だ。だが、何処で聞いた」
剣呑な雰囲気が漂い始める。
今にも殺し合いが始まりそうな雰囲気だ。
一度、場を改めよう。
「その話も含めて、場所を変えて話をしましょう。長くなりそうですし」
「ちっ、いいだろう。場所は任せる」
私の後をついてくるオルステッドと黒髪の女性。
彼女がナナホシなのか、懐かしいアジア人の顔だ。
場所は、私の研究室でいいか。
さて、どうなることやら。
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研究室に着いた。
まだ何も置かれていない、私専用の研究室だ。
魔力結晶から取り出してあった外部魔力で椅子とテーブルを生み出す。
「この通り、罠どころか物も置かれていないので安心してください」
「………」
『失礼します』
ああ、ナナホシさんまだ日本語しか話せないのか。
道理で黙ってばかりだと思った。
『どうぞ』
『――え?』
『これから何かと話す事になると思うから、よろしくね』
ナナホシは驚いた顔で固まっている。
まあ異世界で日本語ペラペラ話す人間が居たら驚くよね。
彼女には色々迷惑になりそうだから、しっかりと話しておこう。
「……何を話している。ここまで来たんだ。早く説明しろ」
「はいはい、分かりましたよ。一から説明してあげます」
「っ」
何か言いたげなオルステッドを無視して、話し出す。
前世の世界でのことと、この世界に転生したこと。
何故私がオルステッドの目的を知っているのかを。
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「成る程、お前は異世界人で、この世界のあらましを途中まで読んで知っていると」
「限定的にですけどね。その物語は私の兄の視点で描かれたものですので、兄が知らない事は基本的に知りません」
「ルーデウス・グレイラットか。……お前が俺に話す事で物語とは致命的にずれたと思うが大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃありません。ですから私に出会わなかった通りに行動してください。そうすれば変な事にはならないと思います」
オルステッドは私の居ない世界の事を知っている。
だから、私が嘘をついていない事もよく分かっているだろう。
「……嘘はなさそうだな。それで、お前は俺の陣営に入って何がしたいんだ?」
「人神の殺害を手伝いましょう。私はまあ、あまり役には立たないと思いますが、本体の方は人神に対抗するために強くなっているはずなので」
「そういえば、お前は本体じゃないんだったな。本体は今何処で何をしているのか分からないのか?」
「繋がりはあるので方角くらいは分かりますが、その程度です。本体はナナホシさんの転移事件の被害を最小限に抑えようと自ら召喚魔術に巻き込まれたので、何処かに転移していますから私にも予測不可能です。方角的には東に居ますね」
「まったく、めちゃくちゃだな、お前の本体は。いいだろう、お前も陣営に入れてやる。本体は会った時にでも話しておこう。何か他に要望はないか?」
「大丈夫です」
はあ。何とか話が纏まって良かった。
原作に介入なんてするものじゃないな。疲れるだけだ。
これで間接的に本体の役に立っただろう。
私ってば、やればできるじゃん。
話が終わるとオルステッドはナナホシを連れてすぐに出て行った。
私と会った分の時間を補い物語通りに行動を進める為だ。
窓から覗く太陽はゆっくりと降り始めている。
今日は疲れた。
魔力結晶の操作は明日でいいかな。
私は魔術で生み出したイスとテーブルと魔力に変換し、外部に貯蔵した。