フィットア領捜索団に手紙を出すことにした。
私の無事を知って、パウロも少しは安心してくれると思う。
事前にゼニスに高度の結界魔術のネックレスを渡していた事を書いておいた。
私は両親が不幸になってほしくはない。
また以前の様に、このブエナ村でのんびり暮らしていて欲しい。
そのためには労力を惜しむつもりは無い。
原作では二人共、救われない最後だった。
そんな未来は、私が認めない。
占命魔術でルディが魔大陸に居る未来を視たことも書いておく。
もし会ったら、怒らないでやってください。
ルディもルディなりに、頑張ってきたはずだから。
最後に、家族全員無事に生かす心意気を書き留める。
屋敷にあったグレイラット家の便箋に入れ、郵便局に出した。
なんとか配送機関がいきていて助かった。
ロアの町がきれいさっぱり消えているので、少しだけ届くのが遅くなるかもしれないけれど。
一年の内にはパウロの手元に届くだろう。
それから数日、ブエナ村の手伝いをしながら休暇を過ごした。
一年も旅を続けていたのだから、少しくらい休んでも良いだろう。
今後の予定はまだ何も考えていない。
ただ、それ以外何もしていなかったわけではなく。
魔力壁改め魔力障壁を身体に馴染ませる形で作り直し、肉体的な防御力の向上をしたりもした。
闘神鎧はあくまで鎧が硬いのであって、中の人が脆ければ衝撃に耐えきれず死んでしまう。
そもそもそんな攻撃をくらうつもりなどないのだが、もしも受けざる終えなくなった場合、死んでしまうのは拙い。
闘気は正直よく分からないので、身体を障壁にしてやった。
これなら闘神鎧を通った衝撃にも耐えられる。
人神対策の魂を隠蔽する能力も失っていないので、完全に上位互換だ。
試しに強い衝撃波を近くに起こしてみた。
バンッという音と共に、全身に衝撃が奔った。
体は衝撃が起こった反対方向に吹っ飛ぶ。
地面に叩きつけられる前に重力と風で速度を遅め、華麗に地面に着地した。
三次元駆動の鍛錬をしておいて良かった。
あれ程の衝撃を全身に受けたのに、痛くもかゆくもない。
軽く何かが触れたかな程度の衝撃だ。
それでも普通に自分の体を触れば、いつもの同じ感触が返ってくる。
闘神鎧のお蔭もあるかもしれないが、これは凄い。
ふと見ると、銀髪の冷たい眼をした男が此方を見ていた。
村にはあのような人物は存在しない。
人神に私の存在がバレたか?
魔力壁を魔力障壁に変化させたからバレてはいないと思うけど。
解析魔術を使うか。
「面倒なことはするな。俺はお前の仲間だ」
「いや面倒って、お生憎、私はあなたのことは知りませんが?」
そう言いながら近づいてくる男を両目の予見眼で数秒先を視ながら、解析魔術で現在の視界を得る。
《男と会話をする》
《束縛魔術で拘束する》
相手が攻撃してくる様子はない。
というか束縛魔術を避けようともしない。
少なくとも話をするだけなら危険はないだろう。
「俺の名はオルステッド。お前の分身体から話は聞いている」
「お、オルステッド! 龍神の?」
私の返答に、奴は頷いた。
分身体って、向こうの私何処で何やってるの?
いつの間にオルステッドの仲間になっちゃったわけ?
それは時間の問題だったから別にいいけど、私何も知らないんだけど。
「あっちの私から何処まで話を聞いてるの?」
「転生から人神討伐の為に力を蓄えている所までだな。お前の兄の事も聞いている」
それ全部話してるよね。
私がしなきゃいけない事、凄いやってくれてる。
オルステッドが一番難関だと思っていたのに、何か知らない間に解決してるんですけど。
流石向こうの私、尊敬します。
「分身体も異常な魔法技術だったが、確かにお前の方が数倍技量が上だな。形は変わっているがその鎧、闘神鎧か? その様子だと意識は乗っ取られていない様だが。転移時に回収して来たのか、やるな」
「は、はぁ。リングス海の中心に転移させられた時に、変な魔力を追って迷宮に潜ったついでに取ってきましたけど。予定の方は大丈夫なんですか?」
「ああ。此処に来たのも用事のついでだ。サラ、お前にこの腕輪をやる。通信機で、魔力を通すと俺に繋がる」
オルステッドから貰った腕輪を手首に通すと、自動で大きさが調整された。
「……そうだな。今からヒトガミの使徒を倒しに行くからついてこい」
「え? 今から?」
「そうだ。どの道ヒトガミを殺す為に力を蓄えているなら使徒と戦う事になるだろう。それなら早い方が良い」
そんなぁ。
私の休暇はどこに消えたのですか……。
というか人神ってヒトガミっていうのか。
原作でもそうだった気がする。
分身体が羨ましい。一体何処で何をしているのか。
「分身体の私は今何処で何をしているんですか?」
「この前は、ラノア魔法大学の研究室で魔石の集積化の研究をしていた」
何で、大学なんて、行ってるの!
ずるい。ずるいよ私!
魔石の集積化って何か凄そうな研究しているけど、私も行ってみたかった!
というかあそこ原作の重要起点だけど、そんな所に居て大丈夫なの?
原作変わったりしない?
……急に心配になってきた。
「――おい、行くぞ」
「はいはーい……」
それでもやっぱりずるいと思う。
私は不満をぐちぐちと呟きながら、オルステッドの後を追って、ロアの町に向かったのだった。