リーリャはグレイラット家で働く侍女だ。
以前はアスラ後宮の近衛侍女だったのだが、実力が足りず、王女を狙った暗殺者に不覚を取り、
結果、剣士としての能力を失い解雇されたのだ。
能力が無くなれば、解雇されるのは当然だ。
リーリャもそれで納得している。
このままアスラ王領に住み続けると、
王女を狙った暗殺者にまた狙われる可能性が高いと判断し、
次の日には王領を出た。
そうして一ヶ月、各々の村を回り、偶々見つけた募集が、
パウロの家の侍女としての仕事だった。
仕事の割に給料が高く、王領とも離れた位置にある。
更には彼とは面識があり、人柄も知っていたのもあり、迷わずブエナ村に訪れた。
パウロは快くリーリャを歓迎してくれた。
奥方のゼニスがもうすぐ出産という事で、焦っていたらしい。
子供が生まれた。
双子だ。
最初に出てきたのは男の子。
次に出てきたのは女の子だ。
後宮でした練習通りの出産だ。
何の問題も無かった。
スムーズにいった。
なのに、生まれた男の子の方は泣かなかった。
そして、女の子は異常な様相で泣き叫んだ。
何か処置に誤りがあったのか。
そう思わざる終えない状態に、冷汗をかいた。
しかし、男の子が顔をしかめると、
「ぎゃぁ、ぉぎゃあ!!」
何かを訴える様に、一度だけ泣いた。
女の子の方も泣き疲れたのか声が小さくなった。
それを聞いて、リーリャは安心した。
何の根拠もないが、なんとなく大丈夫そうだ、と。
---
生まれた男の子はルーデウス、女の子はサラスヴァティと名付けられた。
ルーデウスはハイハイができるようになると、家中を移動した。
玄関から、どうやって上ったのか、二階にまで移動していた。
そして必ずと言っていいほど、後ろにサラスヴァティがくっついていた。
仲が良い、と思っていられたのは最初だけだった。
ある日、どうやって移動しているのか見る為に、
私は廊下の四角で二人がどうしているのかを見張った。
しばらくして、ルーデウスが部屋から出てきた。
そしてその後をピッタリとくっついてサラスヴァティがついて行っていた。
どうやらルーデウスが先に歩き回り、
サラスヴァティがその後を着いて行っているようだ。
やはり仲が良い、と、
二人を元の部屋へ戻そうと声をかけようと思った時、
ルーデウスとサラスヴァティがまるで言い争う様に声を発し始めた。
ルーデウスはサラスヴァティを反対方向に体の向きを変えさせ、
普段発している意味のない言葉ではなく、何か言っているように聞こえた。
そしてサラスヴァティが大人しく戻っていくのを見て、またどこかに移動し始めた。
会話していた……?
と、二人が居なくなった廊下でリーリャは呟いた。
一年が過ぎた頃、二人の行動、いやルーデウスの行動は、規則性が出てきた。
ある時から、ルーデウスは二階にあるパウロの書斎に籠る様になった。
書斎の数少ない本を手に取り、ぺらぺらと捲っては、何かをブツブツと呟いていた。
その言葉は少なくとも一般的に使われている言語ではない。
ルーデウスは文字どころか言葉すらまた話せない。
この赤子は本を見て、適当に声を出しているだけだ。
そのはずだ。
そうでなければおかしい。
リーリャはドアの向こうで本を見ているルーデウスから目を離し、
それに比べて、と胸の中で眠るサラスヴァティを見る。
サラスヴァティはここ最近眠ることが極端に多くなった。
それがただ疲れからくる睡眠だったならいい。
だが、半年前よりも眠る時間がだいたい6時間も増えている。
それでも平均的な赤子と比べればそんなに眠る時間に差は無いのだが、
普通は年齢に比例して眠る時間は短くなっていくはずなのである。
リーリャはため息が出そうになるのを堪え、
この色々と規格外の赤子たちを悟った目で見るのだった。