ルディが二足歩行ができるようになった。
私は言葉を話せるようになった。
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この物語の世界を知っている身として、
まず考えなければいけない事を整理した。
最重要なのが人神対策なのだが、
如何せん『無職転生』を読んだのが昔過ぎた。
ここら辺の領地転移事件なんかの大きなポイントは憶えているが、
細かい話は殆ど思い出せていない。
そしてそれ以前に、私はこの話を最後まで読んでいない。
最後に読んだのは今世を合わせなくても十年以上前で、
あれ、何処まで読んだっけ……。
とまあ、一体何処まで読んだのか思い出せないほどだ。
幸いネットを見ていた時に、
色々素敵なネタバレを知ってしまっているので、
問題は無い、と思う。
何故漫画や小説を読まない私がこの小説を知っているのかというと、
前世のルディが引きこもっていたのを何とかしようと、
私も色々ラノベなるものを読んで勉強していた時に、この小説を発見したからだ。
それが想像以上に面白くてつい読み耽ってしまったのだ。
……本懐は遂げられなかったが、それが今役に立っていると思うと、
あの頃の健気な私を誉めてあげたい。
……想像以上にこの物語にのめり込みすぎて、
一時期、休日とか暇な時間に魔術理論まで組み立てていたほどだが。
――そう、組み立てていた。
そして私は今日までその魔術理論をなんとか憶えていた。
いや、魔術理論なんていうたいそうなモノではない。
思春期の男子がなるといわれている中二病の黒歴史と同程度のものだ。
その魔術理論とは、体外に自身の魔力を貯蔵する方法について、だ。
まずこの世界には
・生き物や特定の物質が保有している魔力
・大気中に含まれている無色透明な魔素
……があると仮定して。
生き物は、魔素を呼吸によって吸収すると、
魔力に変換し一定量体にため込むことができる。
無機物には基本的に魔力が宿る事は無いが、
魔石など、生物を介して物質と化したものは、魔力を宿している。
例えばルディが魔術を使い、体内にある魔力を使うとする。
すると魔術は現象を起こした後、無色透明な魔素へ変わる。
魔素が無いとしたら、生き物は何を元に魔力を生成しているのかという、
疑問が発生するので合っているはず。
幼い赤ん坊が魔力を殆ど保有していないのは、
呼吸により魔素を取り込んでいないからだろう。
ここから最低限分かって欲しいのは、
一時的にとはいえ魔力を大気中で維持している事だ。
魔術を発動する時基本使用者の魔力で発動するが、
自身の身体から魔術が噴き出ているわけでは無い。
一時的とはいえ、大気中に体内にあった魔力を放出し、
維持しているのだ。
上記を理解したうえで、
大気中に放出した魔力を拡散しないようにできないかと考えたわけだ。
そうすれば大気中に、ほぼ無限に魔力を貯蔵することができる。
そして体から一々魔力を出す必要は無いので、
常にイメージするだけで魔術が使える状態になる。
まあ言うは易く行うは難しというように、
この技術を体得するのは魔術に高い素質を持っていても難しいだろう。
だが、人神と戦う事になるのならば、それくらいできなければ無駄だ。
それを実際に体得する為に、
魔力増加作業と、魔力を体外に放出する練習をした。
体の中にある魔力を見つけるのに二日掛かり、放出するまでは半日掛かった。
……維持するのは10秒が限界だった。
改めてルディの規格外さが理解できた。
そういえばルディはラプラス因子のお蔭で、
高い魔術素質と魔力を身に宿しているはずだ。
私には握力が強いとか、髪が緑とか、そんなのも何も無いので、
ラプラス因子は宿っていないのかもしれない。
隣で元気よく魔術をぶっ放すルディを見ながら、思う。
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二ヶ月が経った。
毎日延々と魔力を操作し続けた結果、
長時間魔力を体外で維持することができるようになった。
多分赤ん坊だから二ヶ月でここまでこれたのだろう。
成長しきってからこれをやるには少し難易度が高すぎる。
しかしその赤ん坊の私でも、
維持には高度な魔力操作力が必要とされるので、
何かをしながらだと二時間くらいしか持たない。
それを寝ている間にも持続する必要があると考えると頭が痛くなる。
最初に比べたら雲泥の差だが、
常時できるようにしなければ、
貯蔵分が大気中に溶けていってしまうので無意味だ。
因みに放出した魔力を魔術に変換することはまだ一度もしていない。
万が一ルディに私が魔術を使えることがバレたら、転生者だってモロバレルだし。
その分魔術に関しての成長が遅れるかもしれないが、
貯蔵の練習をしているからと割り切っている。
そして最近、魔力の回復が異様に早くなっていることに気づいた。
常に少しずつ魔力を放出して貯蔵する鍛錬をしていたせいか、
試しにと全力で魔力を出しきってみて疲れて突っ伏したときに、
急速に回復する魔力を体内に感じてビビった。
休息後に本当に少しずつ魔力を放出してみると、
減る量よりも魔力の回復速度の方が少しだけ上回っていた。
嬉しさのあまり隠れて魔術教本を呼んでいたルディに特攻した。
ルディは滅茶苦茶焦って本を隠していた。
普通に歩いて来いと、日本語で珍しく強い口調で怒られた。酷い。
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3歳になったある日。
ルディが魔術で壁に大穴を開けた。
――心臓が止まるかと思った。