幼馴染転生 - ルディと一緒に本気だす -   作:文頼

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第四話「対策」

 家にロキシーという家庭教師が来た。

 目が覚めるような水色の髪で、若いわりに魔術師然とした少女だ。

 

 ルディが魔術を使えるという事で、

 ロキシーの監視のもと、サラも使ってみなさいとゼニスに魔術教本を渡された。

 パウロが呆れたようにゼニスを見ている。

 

 ……どうしよう。教えてもいないのに文字が読めるなんておかしい。

 ゼニスやパウロは大丈夫だろうが、

 転生者故に読めるルディには絶対怪しまれる。

 今まで頭の良さを隠してきたのが逆に仇となった。

 

「母さま、文字が読めないわ」

「……まあ、そりゃ教えてないしなぁ。読めるルディがおかしい」

「それじゃあ私の言った言葉を復唱してみて?

 汝の求める所に大いなる水の加護あらん、

 清涼なるせせらぎの流れを今ここに、ウォーターボール」

 

 ……諦めるという選択肢はないのか。

 

 仕方がない。

 魔術が使えると分かっても、よほどの強さでなければ、

 この先の物語には影響は出ない、はず。

 それに貯蔵している魔力を使ってみるには丁度いい機会だ。

 私はそう思い、ゼニスの詠唱を続いて復唱する。

 

 私の体の周りを囲んでいた貯蔵中の魔力の中で、

 手の平の部分を漂っていた魔力が詠唱と共に水弾になる。

 

 ――あ。

 

「――っ!? ……奥様、この子は本当に初めて魔術を使ったんですか?」

「……えぇ、そのはずよ。うちの子だし最初からこのくらいできるわ」

「俺の種ってこんなに優秀だったのかよ……」

 

 私の魔術を見て感嘆している両親とロキシーに、

 ルディは理由が分からないのか、首を傾げている。

 

「僕には普通の水弾に見えましたけど、何か違うんですか?」

「――通常、魔術は魔力を移動する工程が必要になります。

 ですから、詠唱から魔術が生成されるまで、必ず時間差が発生するのです」

「……今のはその時間差が無かった、という事ですか?」

 

 ルディ、正解。

 私の貯蔵魔力の利点は魔力を外部に保管できることの他に、

 ロキシーの言った魔力の移動の工程に掛かる時間が、ゼロになるのだ。

 魔力を移動させなくても、既にその空間に魔力があるのだから当然と言えば当然だ。

 私は今そのことを忘れて丁度いい機会だと、皆の前で使ってしまったんだが……。

 

「もう魔術を崩していただいて結構ですよ」

「あ、はい」

 

 ロキシーに言われて気づいたが、魔術も維持したままだった。

 

 魔術も所詮は魔力。

 ならば魔術を使用した後、大気中に散る前に魔力として維持してしまえばいい。

 

 

 ――あれ、じゃあ魔術の魔力消費ゼロなんだけど?

 

 恐ろしい真理に辿り着いた私を置いて、話は進んでいく。

 

「どうしたら無拍子でこの子が魔術を使えたのかは分かりませんが、

 初めてでこれなら才能は十分あります。

 このままいけば、将来私よりもすごい魔術師になりますよ」

「やっぱり二人共私の子供ね! あなた、ルディもサラも天才だわ!」

「これで剣術の才能があれば完璧だな」

 

 ロキシーの言葉に歓喜したゼニスはルディと私に抱き着いてきた。

 パウロは何を想像しているのかニヤリと笑っている。

 大方私達に剣術を披露して称賛を浴びている自分でも想像しているのだろう。

 

 ルディは私の魔術を見て考え込んでいるが、

 これは流石に教えられない。

 まあ教えてもルディに、あのイカレタ魔力操作の鍛錬が毎日できるとは思えない。

 起きてから寝るまで体外に放出した魔力を維持する鍛錬とか、

 自分でも思うが正気の沙汰じゃない。

 

 それに、私は目立つわけにはいかない。

 人神がいつルディを見つけるかは分からないが、

 その時に必ず私の存在は知られてしまう。

 そしてその時までに対策を練らないと、心を読まれてバッドエンド直行だ。

 できるかどうかは分からないがやるしかない。

 

 ……よし、今日から始めよう。

 ロキシーに魔術を教えてもらえるのは嬉しいが、

 それとこれとは話が別だ。

 これは世界の運命が左右されることなのだから。

 

 

 結果的に家庭教師初心者のロキシーには二人同時は難しいのと、

 そもそも依頼内容がルディの家庭教師となっていたので、

 私はまず文字を読めるようになってからという事で、

 ロキシーからは魔術は習えなかった。

 

 よかった……これで鍛錬に励むことができる。……あれ、よかったのか?

 

 

---

 

 

 一年が過ぎた。

 

 私はベッドの上で座禅を組み深呼吸をして、脳に魔力を送る。

 脳全体に外部からの魔力を遮断する高密度の魔力壁を張り巡らせる。

 失敗すると、ザクロ待ったなしである。

 

「――」

 

 額に汗が流れるのを感じながら、

 慎重に無意識の奥底へと操作を委ねていく。

 

 

---

 

 

「……ふうぅ。何とか間に合ってよかった……」

 

 毎晩、人神の夢を見るのではないかと冷や冷やしながら、

 寝る間も惜しんで鍛錬していたのが実を結んだ。

 今までの鍛錬は決して無駄じゃなかった。

 達成感やら解放感やらでドーパミンがでて、涙がでてきた。

 私は子供用ベッドにダイブすると、狭いベッドの上をゴロゴロと転がる。

 

 人神対策について色々考えた結果、心をどうにかするより、

 脳に高密度の魔力壁を張る事で、

 そもそも人神に干渉されないようにするのはどうかと考えた。

 

 これが非常に大変で、最終的に一年も能力向上に費やす羽目になった。

 

 結果的に無意識に魔力壁の制御を委ねることができるようになり、

 意識の有る無しに関わらず常に張る事ができるようになった。

 

 だが、良い事ばかりではない。

 魔力消費ゼロというバグみたいな私なので魔力の方は全然問題ないのだが、

 常に魔力壁の制御をしている関係で、

 自身の魔力制御の処理速度が鈍くなった。

 これは感覚で分かる。

 やっと12時間魔力貯蔵できるようになったのに、今では6時間も持たないだろう。

 

 ……外部魔力制御、難しすぎです。

 

 これからはまた魔力の制御能力を上げる日々――

 

「……はぁ」

 

 私はため息をつきながら、――シルフィは早く来ないかなぁ。と、考えていたのだった。

 

 

 

 

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