幼馴染転生 - ルディと一緒に本気だす -   作:文頼

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第六話「夢」

 ルディとロキシーが卒業試験をしに家から出て行った。

 私が前世であれだけ頑張っても、ルディを外に出すことができなかったのに、だ。

 

 私は悔しくて身体強化(ブースト)を身に纏って自然溢れる村を疾走した。

 まあ実際は魔術鍛錬の一つを行っているだけなのだが。

 

「……はぁ。こんな(・・・)毎日で、私は満足なの?」

 

 長閑でゆっくりと時間が過ぎていく村を横目に、呟く。

 

 生まれ変わって五年。

 私は未来の為に、家族の為に、そして何より自分の為に頑張ってきた。

 

 今生では誰もを守れるような人でありたいと願い、

 後悔が無いようにひたすら自分を鍛えてきた。

 

 力がなければ奪われるだけだ。

 このブエナ村も、フィットア領さえ転移事件で永遠に奪われてしまう。

 だからこれで、問題はないはずだ。

 

 転移事件が起こった原因は、ナナホシを召喚する際に生じた魔力の強制収奪。

 私が魔力を大量に貯蔵していればしている分だけ、

 消失する範囲が狭くなる。

 転移を完全に止めることはできないが、

 被害を少なくすることはできるはずだ。

 

 間違ってはいない。

 

 そのはずなのに、鬱々とした気分は晴れない。

 前世でもこんなことはなかったのに。

 ルディの外に出るという、一つの成長を間近で見たからだろうか。

 能力ばかり強くなって、私の精神は何も成長できていないような気がする。

 

 

 村をもうすぐ一周というところで、魔術で強化された眼と耳が、

 森の方面から誰かが歩いてくるのを察知する。

 

 はて、こんな真昼間の村の端っこに誰が?

 私は足を止めて強化された眼で来た人物を確認すると、硬直した。

 

 全身泥だらけで歩く少年と見紛う少女、シルフィエットだった。

 

 ……まだ、ルディとシルフィは出会っていない。

 ということはシルフィはまだイジメられていて、

 物語通りにいけば、数日後に二人は出会うのだろう。

 

 ……だからといって、無視するわけにはいかない。

 彼女もまた、助けるべき人の内の一人なのだから。

 

「こんにちはっ、お嬢さん」

「はぇ、え、こん、にちは……」

 

 シルフィは怯えた様子で近づいてくる私から一歩、二歩と下がる。

 

「私はサラスヴァティ。怯えなくても、

 私は貴女を傷つけたりはしないから安心して?」

 

 なるべく優しい口調で、安心させる様に言うと、

 シルフィの脚が止まる。

 

「う、うん。サ、サラスヴァティ、は、ボクをイジメない……?」

 

 彼女の質問に、言葉でなく抱擁で答える。

 

「だ、だめ。ボク…汚れてるから……」

「大丈夫。こんな汚れ、すぐに落ちるわ」

 

 しばらくするとシルフィは落ち着いたのか、

 先ほどまでの怯えた表情は無くなっていた。

 

「貴女の名前を教えてくれる?」

「あ、ごめんなさい。ボクはシルフィエット!」

 

 悲し気な表情もいいが、やはり笑顔の方がシルフィは映える。

 

「シルフィね。改めて、

 私はサラスヴァティよ。気軽にサラって呼んでね」

「うん。サラ……」

 

 恥ずかしがって名前を呼ぶ姿が萌えすぎて、お姉さんキュン死しそうです。

 

「ちょっとそこで立ってて。泥を落としてあげるから」

「ぁ、え、うん」

 

 無詠唱で魔術を使い温かい水を生成し、渦を巻くように操作する。

 シルフィを中心として浮くお湯に渦が発生し、

 全身の汚れを隈なく洗い流していく。

 

 シルフィは何が起こっているのか分からないのか、

 ただあわあわと水にさらされている。

 

 汚れが落ちると、魔術を操作して汚れたお湯を水滴一つ残さず移動させ、足元に捨てる。

 私も同じようにしていると、シルフィはようやく思考が戻ってきたのか、

 きらきらとした眼で見てくる。

 

「すごい……。サラ、それって何?」

「魔術よ。簡単に言えば、便利な道具だわ」

 

 シルフィによく見えるように指を立てて、指先に火と水と土の塊を浮かせる。

 

「今度会ったら教えてあげる」

「ほんとっ!? ありがと!」

 

 ……次会う時は、ルディと一緒かな。

 シルフィには同性の友達がいた方が教育上も良いよね。

 

「私達、今日から友達ね!」

「と、友達! うん。サラが友達……」

 

 ブツブツと嬉しさをかみしめるに呟くシルフィに、

 こんな可愛い子をイジメるようなやつは仕返しをされても仕方がないよね?

 と、密かに考えるのだった。

 

 

---

 

 

 ある日、ブエナ村で不思議なことが起こった。

 

 久し振りに雨が降った翌日、村に住む男子達が、一斉にお漏らしをしたのである。

 その数なんと7人。4歳から10歳までと幅広い男子達が、である。

 村という街に比べて比較的近隣住民と繋がりの深いブエナ村にはそれはもう一瞬で広まった。

 

 その男子達は、大人に温かい目で見られ、

 同年代の女児からは冷たい目で見られ、男子らの肩身が狭くなったという。

 

 何故こんなことが起こったのか、そんな事を一々調べる者は居らず、

 それを影で笑っていた少女には、誰も気づくことはなかった。

 

 

---

 

 

 はぁ~すっきりした。

 

 あのシルフィをイジメていたという子供が布団が濡れていることに気づいて、必死に隠そうとして結局母親にバレたところが特に面白かった。

 

 これで私の溜飲も少し下がったし、このくらいで勘弁しておいてやろう。

 あの子供らの事だから、またシルフィにちょっかい掛けるだろうが、ルディが撃退してくれるので大丈夫だろう。

 

 

---

 

 

 翌日の朝、ロキシーはこの村を去る事になった。

 

 今回の家庭教師をして自身の無力さを知り、魔術を鍛えながら世界中を旅するという。

 両親が止めるが、彼女の意思は固かった。

 

 私とロキシーは、それほど深い付き合いじゃなかった。

 当初は物語のキャラだと色々興奮もしたが、ロキシーは真面目で少しおっちょこちょいの、どこにでもいる普通の少女だった。

 ルディの家庭教師をしている以上、それなりに話す機会はあったが、私が魔術をぶっ放しまくるのを遠目でみていたからだろうか、魔術を教えて貰う事はついぞなかった。

 ミグルド族は甘いお菓子が好きと以前聞いたので、花の蜜を魔術で抽出し、前世の知識を少しだけ使ってクッキーを作って渡した。

 今頃ロアの街へと向かう馬車の中で、そのお菓子の美味しさに涙している事だろう。

 

 彼女を見て、決めた。

 

 私の夢は、魔術を極めることだ。

 そして極めた魔術で勧善懲悪の限りを尽くすのだ。

 

 これまでは皆の為自分の為とか言っていたけど、結局のところ、私は魔術が好きだ。

 前世の陸上よりも何よりも、私は魔術が好きなんだ。

 打てば響くというようにすぐに結果として成長を実感できる魔術が大好きだ。

 

 認めよう。皆を助ける為にも鍛えているが、

 第一は、私が魔術を好きだから、鍛えているんだ。

 そうじゃなきゃ、5年も毎日バカみたいに続けられない。

 

 今思えば、鬱々としていたのは夢がなかったからだ。

 しなければならない事ばかりやっていて、自分を見失っていた。

 私だって前世があるだけで、結局はただの人間だ。

 mustばかりでは心が鬱になるのも当然だ。

 まだまだ魔術は粗だらけで、修正点はいくらでもある。

 才能は5歳までに決まると聞いた事がある、この一年何処まで行けるかが鍵だ。

 行こう、その夢の先に!

 

 

 

 ――転生して5年、ようやく私は夢に向かって歩き始めた。

 

 

 

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