幼馴染転生 - ルディと一緒に本気だす -   作:文頼

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第八話「ターニングポイント」

 6歳になった。

 

 この一年、この世界で誰よりも頑張っていたと思う。

 自分はもしかしたらオルステッドよりも強いのではないかと思ったりもしている。

 今日も庭の定位置に、魔術の鍛錬をしようとやってきた。

 6歳になって鍛錬にひと段落ついたので、今度は実践を想定して鍛錬することにした。

 

 現在行っているのは、

 

 午前中、魔術を駆使した三次元移動の鍛錬。

 午後は、転移魔術の構築。

 

 である。

 

 接近戦の場合、無意識レベルで魔術を行使できるので離れるまでの時間は簡単に稼げると思うが、もしどうしても逃げなければならなくなった時、転移魔術と三次元的な移動手段は必須だ。

 

 魔術を駆使した三次元移動は、元々魔術は使用できたので、動き方を憶えれば後は簡単だった。

 しかし、転移魔術がなかなかイメージできない。

 原因は私だけが転移できても、外部の貯蔵魔力がその場に置いていかれてはしまうからだ。

 貯蔵魔力も自分の一部だと、どうしてもイメージできない。

 

 一度自分だけを転移させてしまったことがある。

 その時は外部の貯蔵魔力が全て制御下から離れ、危うく庭どころかグレイラット家の屋敷がダンジョン化するところだった。

 幸い転移した位置が直ぐ近くだったので事なきを得たが。

 やはり魔法陣を使わなければ難しいのだろうか。

 

 そう思いながら、貯蔵魔力に自分が現れるイメージをして魔術を発動した。

 

 ――発動できてしまった。

 

 

---

 

 

 目の前にはもう一人の自分が私を見て、茫然と立ち尽くしていた。

 

 何が、と思ったら、私の魔術を放つ定位置がずれていることに気づく。

 転移魔術が成功したのかと思ったが、目の前に私のドッペルゲンガーが立っているのでそれも違う。

 

 体に冷たいものが奔る。

 

 私は何か恐ろしい失敗を犯してしまったのかもしれない。

 外部魔力は制御下に置かれたままだ。

 しかし私はその魔力にアクセスすることができない(・・・・)

 

 ――困惑しながらも体に目を落としたとき、全てを察した。

 

 魔術を散々知り尽くしている私は、自分の体を構成しているそれが、純粋な魔力であることを理解した。

 つまり、私は目の前の『私』によって作られた謂わば『再構成された私』で、本体となんら遜色のない思考を持つ『別個体』だという事だ。

 

「……ねえ、あなた。自分が何をしたのか理解できた?」

「え、えぇ。転移魔術が失敗した結果、もう一人の私ができてしまった……」

 

 ショックを受けているみたいだけど、こっちの方が何倍もショックよ。

 

 私は転移魔術を行使した結果生まれた『私』であり、今生まれたばかりの魔力体だ。

 前世の記憶だってあるし、今生で魔術をひたすら磨いてきた記憶もある。

 消えるだけの運命なんて受け止められるはずがない。

 

「……私は、消えたくないわ」

「……分かってる。でも、あなたは此処に居る事は、出来ない」

 

 そう。

 私は本体の『私』ではないのだから、ここで今までの様に、家族と一緒に暮らすことはできない。

 理解はできる。

 そうするほかないのは。

 でもあの温かい家にもう居られないと考えると、心が理解することを拒む。

 

 ……いや、『私』はまだあの温かい家に居られるんだ。

 『再構成された私』は、あの温かい家がいつまでもそうであれるように、知力を尽くそう。

 魔術を行使したら消えてしまう体になってしまったが、それでもやりようはある。

 例えば、消えた時に本体に記憶を譲渡してしまえば、私は『私』に戻ることができる。

 

「私は世界を回って、色々な情報を集めてくる。今の私にできるのは、それくらいよ」

「……ありがとう」

 

 まったく、『私』が先にそんな顔をしたら、私ができないじゃない。

 

 私は、サラという別個体は、夕暮れの村に消えて行った。

 

 

---

 

 

 あぁ、失敗した。

 

 魔術で今まで一度も失敗らしい失敗をしたことが無かった私が、初めて失敗した。

 

(……失敗しかけたことならあるけど)

 

 それも、自分と寸分たがわない、もう一人を生み出すという、倫理に外れた禁忌を。

 

 『私』は平気そうな顔をしていた。

 でも決して感情は平静では無かったのは想像に難くない。

 あの顔の下に、壮絶な葛藤があったのだろう。

 私があっちの『私』だったら、あんな冷静に居られただろうか。

 叫び、絶望し、本体の私に罵声を浴びせなかっただろうか。

 

 あの『私』は、その哀しみを、怒りを全て呑み込んで、分身であることを受け入れてくれた。

 

 私も頑張ろう。

 あの『私』への繋がりは僅かに感じる。

 消えたらすぐにわかるだろう。

 

 『私』が頑張ってくれるのだ。

 私は、それ以上に頑張らなければ、申し訳が立たない。

 まず第一に、転移魔術を完璧に出来る様にしよう。

 

 ――あの尊敬する『私』が帰って来た時、誇れるように。

 




著作:サラスヴァティ・グレイラット『クローン魔術理論』禁書指定
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