ボーカロイドソング二次小説集   作:PlusⅨ

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<そして新境地へ>

 神威夫婦の乱入によりコスプレ死んだフリも行きつくところまで行ったようで、それからしばらくは落ち着いた(?)ものが続いた。

 

 そういえば、いつのまにか「一人ずつ順番に」っていうルールも気が付けば形骸化してきたような気がする。

 

 けれど、あの旦那とちびーず揃って血のりぶちまけたアレも、マンボウ・ナス・マグロが死んでいたことに比べればまだまともだと思う。

 

 リアリティあり過ぎたのが欠点と言えば欠点だが。

 

 だが旦那とちびーずたちは「このままではまたマンネリ化してしまう」と危惧したらしく(つくづくどうでも良い危惧だと思うが)、彼らは死んだフリにさらなる発展を加え始めた(ただし斜め上)。

 

 

 

 あの血のりぶちまけ死んだフリから数日後、帰宅して玄関のドアを開けると、ミクが前衛舞踊の様なポーズで立っていた。

 

 その足元には立て札があって、そこには「消失」の二文字。

 

 なにコレ?

 

 とりあえず「ただいまぁ」と声をかけてみたら、ミクは突然マシンガンのように早口でまくし立て始めた。

 

「ぼくはうまれそてきぃくそせんひのまねごたおひってなおもたいつつくとわのいのちぼーあろいひ――はひっ!?」

 

 どうやらミクの舌に深刻なエラーが発生したようだ。

 

 なるほど、今度はこう来たか。

 

「ひーん、ひたはんだぁ」

 

「よしよし」

 

 小さな舌を出しながら涙目のミクを抱き寄せて撫で撫でしながら、ちびーず達の発想の飛びっぷりに私は苦笑した。

 

 

 

 次の日のリンは、白衣姿で玄関に蒲団を敷いて寝ていた。

 

 胸の上に置かれた手には紙飛行機が握られている。

 

 その他には特に変わったところは見当たらなかった(玄関で寝ているのが変というのは我が家では今さらだ)。

 

 これのどこが死んだフリなんだろうか。

 

 例によって立て札があったのでそれを見てみると、そこには一言「紙飛行機」。

 

 しばらく頭を捻って、ようやく「鏡音三大悲劇シリーズ」のことを思い出した。

 

 しかしよりによってこのネタか。

 

 オチが無いから突っ込みづらいなぁ、と思っていたら、リンの握る紙飛行機に何やら文字らしきものが描かれているのが目に入った。

 

 もしや、これがオチか?

 

 と思って紙飛行機を手にとって開いてみると、そこにはミミズがのたくったような線が書きなぐられているだけだった。

 

 多分、アレだ、元動画の英語の筆記体っぽいのをそのまま真似たに違いない。

 

 文字通りの文字らしきものだ。

 

「………」

 

 取りあえず開いた紙飛行機を折り直して、適当に飛ばしてみた。

 

 ヨレヨレになった紙飛行機は目前でくるりと反転してキリモミ打ちながら足元に落ちて行き、リンのおでこに墜落した。

 

「いったぁい! おねぇちゃんのばかー!」

 

「ごめんごめん」

 

 抱き起こして撫で撫でしたら、泣いてたカラスがもう笑った。

 

 

 

 さて、こうなると次のレンが何を披露してくれるのか、いよいよ予想がつかなくなってくる。

 

 真っ先に思いついたのはやっぱり「三大悲劇」の超有名なアレだけど、さすがに家の玄関で出来るレベルでは無いので、それは無いだろうなぁ……

 

 ……と思っていた私が甘かった。

 

 

 

 その日、いつもよりも早くに帰宅した私がドアを開けて目にしたのは、玄関に鎮座した巨大なギロチンと、そこに首を差し出したドレス姿のリンの姿だった。

 

 今回のタイトルは見るまでも無い。

 

 ………ここはどこの悪の王国だ?

 

 私はここが確かに我が家の玄関であることを確認するために、周囲を見渡した。

 

 すると靴箱の上に置かれた卓上時計が目に入った。

 

 午後三時だった。

 

「あら、おやつの時間だわ」

 

 思わず呟いてしまった瞬間、すぐ傍でギロチンの刃が落ちた。

 

「にぎゃぁぁ!」

 

 ネコが尻尾踏まれた様な悲鳴がしたと思ったら、悲鳴を上げたのはギロチンにかけられたリンだった。

 

 ……と思ったらレンだったよ、これ。

 

 当のリンは男の子の様な恰好をしてギロチンの傍からひょっこり現れ、ドレス姿のレンをギロチンから解放した。

 

 もちろんレンの首は付いたままだ。

 

「リンのばかぁ。なんでギロチンおとすんだよぉ!」

 

「だって、お姉ちゃんがおやつの時間だなんて言うんだもん」

 

 私のせいかよ。

 

「ギロチンおとさないって約束だったじゃないかぁ!」

 

「ダンボールだから平気じゃん」

 

「だからって、当たったらけっこう痛いんだぞー!」

 

「や~い、レンの弱虫~、へたれん~、しょた~、ぬこ~」

 

「うわ~ん、お姉ちゃん、リンがいじめる~」

 

「はいはいよしよし」

 

 オチはいつもの通り抱っこで撫で撫で。

 

 しかしレンの女装は本当に似合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 悪のギロチンネタが大掛かり過ぎたせいか、翌日は特になにも無い普通の出迎えだった。

 

 少し遅く帰ってきたせいもあるのかもしれないけれど、ちびたちも別に飛びついてこないし、なんだか少し寂しい。

 

 実は今日、最近の食欲の低下に付いて思い当たることがあったので、仕事の途中で病院に寄ってきていた。

 

 そこで受けた診察結果に少し考え込んでしまっていた事もあって、何も無い出迎えは却って気分を少し落ち込ませた。

 

 キッチンでは今日も旦那が明日のお弁当の下ごしらえをしていた。

 

「夜食、やっぱりいらない?」

 

「うん」

 

 食欲不振のせいで食べる量も飲む量もほどほどになった。

 

 むしろ食生活的には改善しているのかもしれない。

 

 食欲が低下してからというもの、昼食も最近はもっぱら旦那の手作り弁当だ。

 

 それにここのところ軽い目眩と吐き気も時々起こすようになった私のために、ずいぶんとヘルシーなメニューを用意してくれる。

 

「お風呂、用意できてるから入りなよ」

 

「うん、そうさせてもらうわ」

 

 私はリビングのカレンダーを見ながら、半分上の空で答えた。

 

 入浴を終え、寝室に戻った私を待っていたのは、旦那の抜け殻だった。

 

「………」

 

 正確には、昔、旦那が仕事上の役どころで使っていた中世西洋貴族風の衣装が、床に人が倒れた様な形で起きっ放しになっていた。

 

 そのすぐ目の前には例の立て札で「闇ノ王の終焉」。

 

 ああ、そうか。

 

 今日ちびーずが大人しかったのは旦那の順番だったから気を遣ってくれたのか。

 

 その辺、妙に律儀な子たちだけども、しれっとした顔でちゃんとネタを準備している旦那も旦那だ。

 

 でもこれじゃ本人いないじゃないの。

 

 どうオチを付ける気かしら、と思っていたら当の本人が背後から私を抱きすくめた。

 

「姫よ、お迎えぞ着きました。さぁ、その顔を良く見せておくれ」

 

 耳元で色っぽく囁いてくるものだから、ついつい私もその気になった。

 

「この、痴漢」

 

 闇ノ王~、ド派手に散る~♪

 

 一本背負いの要領でベッドに投げ飛ばしてやった。

 

「もう、ミク達も居ないところでこんな遊びしたってしょうがないじゃない」

 

「たまにはめーちゃんを独占したくてさ」

 

 そう言って、旦那はベッドで、にへら、と笑う。

 

 だったら遊んでやろうじゃないの。

 

 元ネタに従って旦那に襲いかかってみたけれども、闇ノ王をボコボコにするどころか、体勢を入れ替えられてあっさりと押し倒されてしまった。

 

「さぁ、姫。今宵、闇夜に踊りましょうか」

 

 美しき吸血鬼が私の喉に唇を寄せてくる。

 

 どうしよう、抵抗しようにも身体に力が入らない。

 

 だって、ベッドの中じゃ分が悪いもの。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……やっぱり、寂しいのかしら」

 

 お互いの熱を交わしあい、優しさで気持ちを満たしあった後、私は旦那の腕枕に頭を乗せ、ふと呟いた。

 

「何のこと?」

 

 と旦那が静かに訊き返す。

 

「あの子たちのことよ。ちびーず……。昔はいつも遊んであげられたのに、仕事が忙しくなってから全然遊んであげられてないなぁって。だから、死んだフリとかに熱中しちゃったのかなって思ったの」

 

 私がこの家であの子たちのことを構ってあげられる時間はあまり無い。

 

 だから、あの子たちは帰ってきた私に少しでも構ってほしくて、いろんな知恵を絞ってきたのかもしれない。

 

「そうだね」

 

 旦那が頷く。

 

 その肯定に、私は少し胸が痛くなった。

 

 そんな私の肩を旦那は少し強く抱いて、自分の胸へと引き寄せて、彼は「でもね」と続けた。

 

「ミクも、リンも、レンも、そして僕も……いつも頑張っている君のことが、大好きだよ」

 

「………」

 

「僕たちは知ってるよ、ちゃんと見てるよ、頑張っている君のこと」

 

「………」

 

「仕事でたまには会えない日もあるけど……本当は寂しがりやな僕たちだけど……」

 

「………」

 

「家族みんなで君を守ってあげたいから……だから、安心して」

 

「………」

 

 何も言えなかった。

 

 言葉にならなかった。

 

 声に出せなかった。

 

 胸が詰まって、私はただ、彼の胸にすがりついた。

 

 これ以上、家族に甘えてしまってもいいのだろうか。

 

 私があの子たちと過ごしてやる時間は、これからきっとどんどん少なくなる。

 

 仕事だけの話じゃない。

 

 今日の診察結果が頭をよぎった。

 

 これから、私は何度も病院に通わなくちゃいけない。

 

 いずれは入院しなくちゃいけないだろう。

 

 身体の負担もどんどん大きくなるし、彼や、あの子たちにも負担をかけてしまうだろう。

 

 もう今までのようには過ごせない。

 

 変わってしまうこれからに、私は不安を感じていた。

 

「メイコ、大丈夫だよ」

 

 彼が、私を強く抱きしめ、言った。

 

「君は素晴らしいお姉さんで、お母さんだったよ。今までも、これからも、ずっとね」

 

「………っ」

 

 私は、産まれたばかりの子供のように、声をあげて泣いた。

 

 

 

 

 

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