久々に仕事休みをもらった。
多分、私の体調を考慮してくれた結果だと思う。
でも休暇は残念なことに平日のど真ん中で、旦那はともかくちびーず達はみんな学校に行ってしまって、一日中遊んでやれないのが残念だった。
でもまぁ、たまには夫婦水入らずっていうのも悪くないかもしれない。
旦那に病院に付き添ってもらって、久しぶりにデート気分を味わった。
なんだろう、こういうのって、ずいぶんと懐かしい。
「ほら、右手がお留守になってるわよ」
なんて言って、旦那と手をつなぐ。
「はいはい、お姫さま」
おっと危ない、轢かれるよ。車も来てない癖に抱きしめられた。
「ちょっと、人前でやめてよ」
「誰も居ないよ」
二人きりになると、途端に調子づくんだからなぁ、もう。
ついでに買い物も済ませて、家で二人、ちびーず達の帰りを待ちながらキッチンでおやつを作る。
リンにはブリオッシュ。
レンにはいもけんぴ。
ミクには……ネギま?
うんまぁ、あの子の好物だから、まあいいか。
つまみにもなるし。
熱せられた焼き鳥のタレの香ばしい匂いが家じゅうに漂い出した頃、ちびーず達が揃って帰宅した。
「「「ただいまぁ~……うわぁ」」」
最後の「うわぁ」は明らかに二人と一人でテンションが違った。
やたらテンションが高い一人に対して、残りは間違いなく引いていた。
「やったぁ、今日のおやつはネギだネギ~♪」
「「何で!?」」
うん、私も今さらながら何でだろうと思ったよ。
想像以上に家の中に肉とタレと煙が立ち込めてしまった。
う、なんだか気持悪くなってきた。
胸のムカつきが激しくなり、キッチンから洗面所へと走り込んだ。
「え、お姉ちゃん?」
「どうしたの、顔真っ青だよ!?」
「え、え、なんで、なんで…??」
洗面所の酷い有様に、子供たちが狼狽する。
私の突然の急変に、レンなんかは泣きだしそうな顔になっている。
どうしよう。
大丈夫だよって安心させてあげたいのに、でも、駄目、苦しくて声が出ない。
私はまた洗面所に突っ伏した。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!」
「病気? 病気なの? ねえ!?」
「やだ、お姉ちゃん、死なないでぇ!」
涙声のあの子たちが駆け寄ってくる。
汚れてしまうのに、蹲った私の背中をさすってくれる。
心の底から、私のことを心配してくれる。
愛してくれる。
私は胸の苦しみに喘ぎながら、それでもこんな愛しい家族に包まれている事に幸せを感じた。
「大丈夫だよ、みんな。お姉ちゃんは死なないよ」
旦那が水の入ったコップを手に傍にやって来た。
「お姉ちゃん、本当に死なないの?」
「もちろん」
「お姉ちゃん、病気じゃないの?」
「全然」
「じゃあ、お姉ちゃん、どうしたの?」
「焼き鳥の煙で気持ち悪くなっただけ」
ええ~、とちびーず達の拍子抜けした声。
いや、でも“今の私”にはかなり辛い匂いなのよこれ。半分自業自得だけど。
「みんな、落ち着いて聞いてね」
と、旦那が屈みこんで、ミク、リン、レンに視線を合わせて、少しだけ真剣な表情になって、言った。
「お姉ちゃんはね、もうすぐ、お母さんになるんだ」
「え!?」と、ミク。
「へ??」と、リン。
「ふーん」と、レン。
なんだか三人、微妙に反応が違う。
多分、ミクは気がついたんだろうなぁ。
リンはまだ良く分かって無いみたい。
レンは……うん、絶対分かって無い。
「赤ちゃん出来たんだよ。僕と、めーちゃんの子供がね」
「「「ええーっ!!?」」」
今度こそ、三人、ちゃんと理解したようだ。
「弟、弟が出来るの?」と、ミク。
「違うよ、私、妹が良い」と、リン。
「じゃあ僕、双子~」と、レン。
やっぱり微妙に分かって無かった。
「兄妹じゃ無くて、あんた達にとっては甥っ子か姪っ子よ?」
「まぁ、うちじゃあまり変わらないけどね」
と、旦那が笑った。
そう、旦那の言う通り、うちはちょっと変わってるから、あんまり関係ない。
我が家は、甥や姪や、義弟や義妹とかも関係なくて――
家族そろって一緒に死んだフリするおかしな家族で――
誰よりもお互いのことを思い合っている家族だから――
私はもう不安に思う事無く、安心して新しい家族を迎える事が出来る。
そして、さらににぎやかになった私の家族は、家に帰るたびに最高の幸せを分け与えてくれることだろう。
それを期待した未来の私が、今日も玄関のドアを開けている光景が目に浮かんだ。
――了――