このキャッチーにして難解な曲は、某動画の掲示板で地味に解釈論争を引き起こすほど。
そんな曲を無謀にも小説化して見ました。出来栄えはあまり期待しないでください。
あと何故かサムライとGEISYAが追加されていますが、作者の趣味ですので気にしないでください。
三匹の合鍵
「世の中には三つの扉がある……」
酒場のマスターはそう言って、カウンターに三つのグラスを置いた。
「ひとつは押して開ける扉。こいつはまさに王道とも言えるシロモノだ。ドアノブを廻して押してやればいい。それで駄目なら、時には引くことも大切だ。それで大体のカタはつく」
一つ目のグラスにコハク色の液体が注がれていく。
ぬるい水なんかで割るやつがいればその場で撃ち殺したくなるような芳醇な香りのストレートウイスキー。
「二つ目は滑らして開ける扉。例えるなら愛想も悪くとりつくシマも無いように見えて、その実、一度心を掴んでしまえば誰よりも尽くしてくれる……まぁ、ツンデレってやつだな」
二つ目のグラスに深く赤い液体が注がれていく。
その美しさをコルクと気取ったラベルで着飾り、それでいてグラスに注がれた瞬間、恥じらいと共にその魅力が一斉に解放されていく赤ワイン。
「三つ目は持ち上げて開ける扉。一見、滑らせる扉とよく似ているが、そうじゃない。こいつは尽くすようなタイプじゃない。見返りなんか求めず、ただひたすらこっちの手で持ち上げてやらなきゃ駄目なんだ」
三つ目のグラスに透明の液体が注がれていく。
何の変哲も無い、水のような透明感。それはきっと自分からは何も語らない、飲む者が自分でその魅力を見出すしかない深い味わいの清酒。
酒場のカウンターに並んだ三つのグラスを前にして座っていた三人の男女が、それぞれのグラスを手に取った。
「扉に」
ピンク色のロングの髪の女が、グラスを掲げた。
テンガロンハットにヨレヨレのスカーフ、くたびれたジャケット、あちらこちらが破れ白い肌が露わになっているボロボロのジーンズに、いかつい編上げのブーツ。
細くくびれたウエストラインを締め上げているガンホルダーにはゴールドフレームのスケルトンキーが輝いているその女の名は、人呼んで合鍵ガンマン・ルカ。
「扉に」
赤ワインのグラスは緑のツインテールの女。
頭を覆う忍び頭巾は首元に降ろされ、袖なしの胴衣は胸が大きく開けられているものの谷間は浅く、帯から下は太ももの半分までしか覆っていない。
そこから僅かに真白き肌の輝きを残し、膝上から爪先までハイソックスが覆う。彼女の首から、ひもで下げられたシルバーフレームのスケルトンキーが、浅い谷間の間で揺れているその女の名は、人呼んで合鍵忍者・ミク。
「扉に」
清酒のグラスを目の高さに掲げた紫の男。
長い髪は後頭部で一つにまとめ、かけられた羽織は白き生地に藍染の縁、同紋様の袴を穿き、その腰に差すは青銅製のスケルトンキー、その男の名は、人呼んで合鍵侍・がくぽ。
「「「乾杯」」」
三人は一斉にグラスを呷り、空にしたそれをカウンターに叩きつけた。
「マスター、もう一杯」
ルカの据えた声音に、マスターは眉をひそめた。
「祝杯にしては酷い飲み方だ。酒が泣く」
「泣きたいのは私達の方よ。だけど素面で泣けるほど、もう子供じゃないわ」
「扉は開かなかったのか」
「押しても引いても滑らせても持ち上げても脅しても透かしても頑として開かない扉だわ」
「……まるで歯が立たなかったの」
溜息まじりのルカに続いて、ミクが意気消沈した声で呟いた。
「何を仕掛けても動揺した様子さえ見えないの。あれはとても強靭な相手。例えるならそう、まるで――」
「――不動明王の如し」
がくぽの低い声が重々しく続けた。
「我らのあらゆる攻め手を全て受けきって尚、彼奴にはまだ余裕があるように見えたでござる。その姿に拙者、貫禄さえ覚え申した」
「むぅ……」
マスターの喉から感嘆の息が漏れた。
「お前たちのような名うての合鍵をことごとく退けるとはな、そんな恐ろしい扉、恐らく世に二つはあるまい」
「マスター、あんた、あの扉のことを何か知っているの?」
「風の噂に聞いたことがある。この世の中に存在する幻の四つ目の扉」
「幻の……」
「……決して開かない扉だ。押しても引いても滑らせても鍵を差しこんでもどうにもならない。煮ても焼いても食えないやつさ。だがそいつが表に現れることはめったにない。表に出ているのは、そいつよりはるかに格下の、あっさり開く一枚目だ」
「そう。そうよ、まさしく、あいつは二枚目だった」
ルカの、空のグラスを握りしめるその手が震えた。
「二枚目の、扉か……」
マスターは畏敬の念をその呟きに含ませながら、三人のグラスにそれぞれ酒を注いでやった。