ボーカロイドソング二次小説集   作:PlusⅨ

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父上、俺も情けの特攻隊だ。明春早々だ。

正月は基地に上陸出来る予定だ。それ故、俺の一番好きな物を食べたい。

それは餅だ。

今日は特別休養上陸だ。正月には必ず上陸出来る。

しかし面会は不可能。それ故餅を食べて戦友の田中と勇んで死につくのだ。

お父さんも覚悟はもはやついたと思う。では正月一日までに必ず送って下さい。下宿にはおばさん、おぢさん、それに子供さん一人だ。

餅を食うて敵空母叩きのめすぞ、城児とな、アッハッハー。

では最後にお父さんの健康と幸福の多からん事を祈ります。皆様に宜しく。

四ッ谷のおばさん、細野のお母さんにも。

征く、帰らぬ男は俺だ。

さようなら





江田島台風

 式が終わっても、僕たちの緊張は解けることがない。

 

 時刻は1100(午前11時)。

 

 大講堂を出た僕たちは数組に分かれ、整然と列を組むと、

 

「駆け足、すすめっ!」

 

 歩調を合わせ一斉に走り出した。

 

 目指す場所は僕たちの生活の場である学生館と呼ばれる建物だ。

 

 そこへ向かって走る僕たちの顔は皆一様に険しい。

 

 

 

 江田島に台風襲来。

 

 

 

 ここ江田島には入校式の日に必ず台風がやってくる。

 

 その台風は強烈で、

 

 目につくものはすべて滅茶苦茶にされ、

 

 かき回され、

 

 吹き飛ばされ、

 

 ごちゃ混ぜにされ、

 

 その現場を見たものはあまりの惨状に、頭が真っ白になるほどだという。

 

 穏やかに気持ちよく晴れわたった江田島の青空の下。

 

 学生館へと飛び込んだ僕たちは、その居住区の惨状を前にして、確かに頭が真っ白になった。

 

 廊下には全員分の革靴、運動靴が散乱し、私物のバックが放り出され中身をぶちまけられている。

 

 靴を靴箱に戻しながら、私物をかき集めて居住区の扉をくぐると、そこはさらに混沌としていた。

 

 床が見えないほど、下着や着替えの制服がまき散らされていたが、それだけじゃない。

 

 僕たちの部屋は4人部屋なんだけど、その4人分のベッドが残らず解体されていた。

 

「まったく、伝統とはいえよくやるよ」

 

 呆れたように呟いたのは、同室の氷山キヨテルだ。

 

「文句を言っている暇はない、片づけるぞ」

 

 そう言ってすぐに気を取り直したのは、同じく同室の神威がくぽ。

 

 彼はすぐに床にまき散らされた下着を片っ端から拾い始めた。

 

 学生長に任命された本音デルが、てきぱきと指示を下した。

 

「誰の下着かなんて、考えなくてもいい。とにかく片っ端からロッカーに格納しろ。まず足場を確保してそれからベッドの修復だ!」

 

 彼は一度廊下に出て、ほかの全員に聞こえるよう声を張り上げた。

 

「復旧急げっ。昼食の時間が迫っているぞっ!」

 

 昼食の時間は厳格に定められている。

 

 僕たちは、その一分一秒たりとも時間以外に食事をとることは許されない。

 

 そのため、それまでに何としてでも部屋を復旧させなくては食事の時間に間に合わなくなってしまう。

 

 しかし間に合わないからといって、じゃあ食事をとらないという選択肢もあり得ない。

 

 なぜなら、僕たちの生活にかかわる全ての費用は税金から支払われているからだ。

 

 国民の血税を無駄にすることは許されない。

 

 そう、僕たちには「できない」ということは決して許されないのだ。

 

 僕たちは互いに助け合い、物を片付け、ベッドを修復し、その上にシーツを張りなおす。

 

 部屋の片づけも、ただ物を収納すれば良いわけじゃない。

 

 下着や制服は定められた場所に、定められた位置と順番で正しく格納されなければならないし、ベッドまた同じだ。

 

 規定された張り方で、しかもシワひとつ付けることなく張り合わさなくてはならない。

 

 もし、このどれかひとつでも不十分な個所があれば、僕たちの部屋には何度でも台風が襲来する。

 

 これが江田島台風と呼ばれる、幹部候補生学校の名物の一つであり、そして、僕たち幹部候補生に与えられる最初の試練だ。

 

 額に汗を流しながら必死に部屋の復旧をしているうちに昼食の時間は刻一刻と迫ってくる。

 

 1200(正午)。

 

≪休め≫

 

 館内に流れた号令とともに昼休みが始まった。

 

 だけどそれがどうした、という感じだ。

 

 何とか部屋の復旧を終えた僕たちは、式典用の詰襟制服から、略衣と呼ばれる、通常の部隊勤務で使う制服に急いで着替えなおし、食堂へとひた走る。

 

 勤務用とはいえ、純白の詰襟と同じく、上着からズボン、靴に至るまで白一色だ。

 

「急げっ、食事時間は十分しかないぞ!」

 

 食堂に飛び込んだ僕たちは、その白一色の制服で食事をとる。

 

 当然、その際に汚れが着こうものなら、遠目からでもすぐに分かるくらい目立ってしまう。

 

 僕たちは慎重に、しかし急いで食事をとる。

 

 なぜなら、この三十分後に、指導官から集合を命じられているからだ。

 

 三十分後に集合と命じられたならば、その五分前には全員集合し終わっていなくてはならない。

 

 海上自衛隊の基本行動はすべて、予定時刻の五分前を基準としている。

 

 当然、五分前に集合し終わっているということは、それよりさらに五分前に行動を開始していなくては間に合わない。

 

 したがって僕たちに残された時間はあと二十分しかない。

 

 あと二十分で、幹部候補生108人全員が指導官の前に整列しなくてはならない。

 

 ただしその整列にはもう一つ条件がある。

 

 シワひとつない、アイロンの効いた制服(略衣)で整列せよ、だ。

 

 当然、食事で汚すわけにはいかない。

 

 けれど、椅子に座ってしまうとズボンにどうしてもシワが付く。

 

 それをとるためにアイロンをかけなくてはならないが、そのための時間は残り幾ばくも無い。

 

 だから、僕たちは急いで食事をとる。

 

 制服に付くシワを極力減らすため、椅子に浅く腰掛け、背筋を伸ばし、こぼさないよう茶碗を近づけてご飯を口の中にいっぱいに掻き込み、ろくに咀嚼せず味噌汁で喉の奥に流し込む――

 

「おい貴様っ! 食事やめ! その場に立て!!」

 

 食堂一帯に響き渡った怒声に、僕は思わずむせ返る。

 

 口の中のものを吹き出しそうになって、必死に口を手で押さえた。

 

「立てと言ってるのが分からんのか、始音カイト。早く立て!」

 

「っ!?」

 

 怒声の目標は、僕だった。

 

 心臓が跳ね上がる。

 

 背筋が寒くなる。

 

 僕は慌てて立ち上がる。

 

 立ち上がった僕のすぐそばには、オニが居た。

 

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