ボーカロイドソング二次小説集   作:PlusⅨ

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2012年の3月に執筆した最初のボカロ小説

VOCALOIDO音楽と他の方々のボカロ小説に触発されて、思わず書いてしまったものです(^_^;)

KAITO×MEIKOで、「メルト」の歌詞を基本にしていますが、なんか他にも色々と混じってます。

ベタベタな恋愛ものです。こんなの書いたの久々だなぁ。



メルト
二人の距離感


 朝起きると真っ先に思い浮かぶ、君のこと。

 

≪とっとと起きなさい、このバカイトっ!≫

 

 何しろこうやって毎朝、耳元で怒鳴り散らされるのだから、思い浮かばない方がどうかしている。

 

 僕は蒲団にくるまったまま手を伸ばして、ベッドわきの携帯電話を掴んだ。

 

≪とっとと、起きなさい、この――≫

 

「はいはい、起きたよ~」

 

 彼女の声で怒鳴り続ける携帯電話のアラームを停める。

 

 以前、彼女に頼みこんで無理やり吹き込んでもらったものだ。本当はもっと優しくて甘い感じでお願いしたんだけど、顔を真っ赤にして拒否された挙句、こんな調子の台詞ばかり吹き込まれてしまった。

 

 でもあの時の赤くなった彼女が可愛かったから後悔はしていない。だから、どんなにひどい罵声でもこれは僕の宝物だ。

 

 と、言ったら弟妹たちからドン引きされた。

 

「でも良いのさ~ これが僕とめーちゃんの関係なんだから~♪」

 

 口ずさみながらベッドを出て、その足で台所に向かう。

 

 まだ寝静まった朝の家の中、お気に入りの蒼のエプロンを付け、弟妹たちの分も含めた朝食とお弁当の準備をしながら、ラジオの天気予報に耳をすませた。

 

≪本日は一日、気持ちのいい青空が拡がるでしょう≫

 

「よしっ」

 

 思わず小さくガッツポーズ。

 

 最近、不安定な天候が続いていただけに、今日が晴れるかどうかずっと心配していた。

 

 だって、何しろ今日は大事な日。

 

 彼女とのデートなんだから。

 

 とりあえず幸先良さそうな一日の始まりに機嫌が良くなって、今朝は奮発して朝ごはんにデザートをつけた。

 

「だからって、朝からアイスかよ。朝のデザートって言ったらバナナだろ。常識で考えて」

 

「私はミカン、もしくはブリオッシュを要望する!」

 

「デザートなんてどうでも良いからネギだよ、ネギ。味噌汁にも納豆にもネギ入って無いなんてどういうこと!?」

 

 ええい、朝から五月蠅い弟妹たちめ。

 

 お兄ちゃんはそれどころじゃないのだ。

 

 今日はデートなのだぞ。ネギ臭いまま出かけられるかっ!!

 

「大丈夫、みんなのお弁当にバナナもミカンもネギも入れておいたから」

 

「「「わ~い」」」

 

 優しいお兄ちゃんはアフターケアも万全なのである。

 

 弟妹たちを学校に送り出した後、朝食の片付けと部屋の掃除をして、そしてそろそろお昼前。

 

 いよいよ僕自身の出かける準備に取り掛かる。

 

 シャワーを浴びた後、寝ぐせでぼさぼさの髪を整える。今日は思い切って髪形を変えてみようかな。

 

 どうしたの。って、きっと聞いてくるだろう。

 

 印象変わったね、すごくカッコいいよ……惚れなおしたわ。

 

「なんて、言っちゃくれないだろうなぁ」

 

 苦笑しながらいつもの髪形に整える。

 

 彼女が素直じゃないのは分かってる。でも、そこを可愛いと思ってしまうんだから仕方ない。

 

 グレーのジャケットにジーンズ、指には髑髏のシルバーリングでチョイワル風味を演出。

 

 そして首にはお気に入りのマフラー。

 

 最近は気温も上がって温かくなってきたけれど、付けられるものなら付けて行きたい。だって、これは彼女からの初めてのプレゼントだったのだから。

 

 身支度を整え、玄関の姿見の前に立って気合を入れる。

 

「よし」

 

 今日の僕は恰好いいぞ。

 

 彼女とは子供のころからの付き合いだ。

 

 家がお隣同士の幼馴染。よく一緒に遊んだ。

 

 わんぱくで、活発で、近所のガキ大将とその子分とはよく言われてたものだった。

 

 まぁ子分は僕以外にもいっぱいいたけどね。でも一の子分はこの僕だ。

 

 僕たちはいつも一緒にいた。

 

 小学校のときも、中学校のときも。

 

 高校だって同じだった。

 

 家から近いという理由だけで彼女がものすごいハイレベルな学校を選んで、当たり前の様な顔で「これで私たちの通学も楽になるわね」と告げてきた時は色んな意味で泣きそうなった。

 

 あの時ほど死ぬ気で勉強したことは無い。

 

 大人になった今でも、僕たちの関係は変わらずに続いている。

 

 そう、変わらずに。

 

 

 

 

 

 

 僕にとって彼女はいつだって特別な存在だった。

 

 特別な幼馴染で、特別な親友で、そして…

 

 いつのまにか特別な女性になった。

 

 でも、彼女にとって僕はどんな存在なんだろう。

 

 いまでもきっと幼馴染のままなんだろうか。

 

 それとも……子分のままかもしれない。

 

 恋に恋する乙女ちっくな様子なんて微塵も見た記憶は無い。お酒の味を覚えてからは特にそうだ。

 

 バーでしんみり飲むよりも、居酒屋で年輩のおっさんに交じって呑んでいる時の方が活き活きと輝いている。

 

 でも、酒豪の女傑と化したくらいで僕の千年の恋は醒めやしないんだ。

 

 例えこの想いが千年経っても届かない片思いの独奏歌だったとしたって、歌い続けてやるさ。

 

 好きだよ、ってね。

 

 そんな殊勝な覚悟で

 

「めーちゃん、好きだぁ」とか

 

「愛してるよ、めーちゃん」とか

 

「MMM(めーちゃんマジ女神)」とか言ってたら、

 

「ひ、人前でやめてよ、このバカイトぉ」ってぶん殴られた。

 

 そのとき顔が赤かったのは酒のせいだけじゃ無いと思いたい。

 

 でもこれってつまり、人前じゃなきゃ言ってもいいってことだよね。

 

 だったら二人きりの時に思う存分言ってやるさ。

 

 と、思ってたんだけど、なかなか二人きりになる暇が無かった。

 

 家には弟妹どもが居るし(しかも彼女とは隣同士の長い付き合いだから、実の兄弟姉妹同然になついて離れやしない)、仕事場じゃ人望高い彼女の周りには、いつも仲間たちが居て離れてくれない。

 

 ええい、どけどけ。一の子分はこの僕なんだぞ。

 

 ……僕自身がこんな調子だから、彼女との関係が進展しないんだろうなぁ。

 

 だから、一念発起して、ぶん殴られるのも覚悟の上で、仕事場の人が大勢いる前で僕はこう言った。

 

「メイコ。明日平日だけど仕事は休みだろう。だから、僕とデートしてくれ!」

 

「だから人前で言うなっての!」

 

 いつものを頂きました、ありがとうございます。

 

 家に帰って、引っ叩かれた頬をさすりながらボンヤリと彼女の掌の感触を反芻していたら、当の本人から携帯電話にメールが届いた。

 

『なんでいつも人前でああいうこと言うのよ。出かける約束ぐらい、メールで済む話じゃない』

 

『デート、誘って良いの?』

 

『二人で出掛けるぐらいなら、いつものことでしょ。で、どこに飲みに行くの?』

 

 これはつまり、デートしてくれるって事だろうか。

 

 そうだ、そうに違いない。飲みに行く云々はあえて無視するとして、よっしゃぁぁ!!

 

『それじゃ動物園行って水族館行って遊園地行って映画見てライブ見に行ってカラオケ行ってYAMAHAのショップ行こう!!』

 

『一日で行けるかぁっ! 取りあえず二つぐらいに絞りなさいよ』

 

『じゃ、水族館とライブで!』

「やったぁぁ、めーちゃんとデートだぁぁぁっ!!」

 

 嬉しくてその場で思わずガッツポーズ決めて叫んだら、

 

「うるさい、バカイト! 夜中にそんなこと叫ぶな!!」

 

 隣りから窓越しに彼女から怒られた。

 

 っていうか、隣り同士なんだから、メールすらいらないんじゃないかなぁ。

 

 窓を開け、外に半身を乗り出す。

 

「めーちゃん。明日、どこで待ち合わせようか」

 

「え、いつもみたいに玄関で待ち合わせればいいじゃない?」

 

「いつもと違うデートだからだよ」

 

 デートの部分を強調する。

 

 あの憧れの、

 

 ゴメン待ったぁ~?

 いいや、今来たところさ。

 でも手に持ってるアイスがすっかり溶けているのを見られて本当は三十分ぐらい待っていた僕の気遣いを彼女が気がつく、っていう。

 

 そんなシチュエーションをやってみたいのだ。

 

「という訳で、駅前でよろしくお願いします」

 

「え~、面倒くさいなぁ、もう。……まぁ、良いけど」

 

「わ~い。ありがと、めーちゃん」

 

 大好きだよ、って付け加える。

 

「とっとと寝なさいっ!」

 

 彼女の部屋の窓が閉まってカーテンが勢い良く引かれた。

 

「おやすみ、めーちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 デート当日、待ち合わせの駅前広場。

 

 もちろん予定時間の三十分前。手には三段重ねのアイスクリームと準備は万端だ。

 

 ただ気温が思ったよりも高いので、アイスが想像以上に早く溶けてしまいそうなのが誤算だった。

 

 たぶんこのままじゃ三十分どころか五分と持たない。なんてこった。せめてカップアイスにしておけばよかった。

 

 仕方ないのでこれは食べてしまって、あとで新しいのを買い直そうかと思っていたら、なんともう彼女がやってきた。

 

「え、カイト、もう来てたの? …っていうかアンタなにやってんの?」

 

「………」

 

 メルトしかけた三段アイスを落とさないよう、必死にペロペロなめてます。だから返事できなくてゴメン。

 

「ああもう、手も口のまわりもアイスでベトベトじゃないの。ほら、拭いてあげるから動かないで」

 

 グシグシと少し乱暴にハンカチで口の周りを拭かれた。

 

 これはこれで嬉しいんだけど、何かものすごい複雑。

 

 あのシチュエーションやりたかったのになぁ。

 

「ほら、手も吹いて」

 

「うん……めーちゃんのハンカチ、汚してゴメンね」

 

「気にしなくていいわよ。どうせこんなことになるだろうと思って何枚か持ってきたから」

 

 さすが、長い付き合いだけあって子分のことを良く分かってらっしゃる。

 

 あー、自分が情けない。

 

 ちょっと落ち込みつつ改めて彼女を見る。

 

 今日の彼女は珍しく白のブラウスにピンクのスカート姿。それに髪止めには小さな花飾りも。

 

 落ち込みなんか何処かに吹き飛んでしまうくらい、可愛い姿だった。思わず見惚れてしまう。

 

「な、何よ。そんなにジッと見つめて……」

 

 今日の君はとても可愛いよ。って言ったらやっぱり殴られた。

 

 でも赤くなった彼女はやっぱり可愛かった。

 

 

 

 

 昼食を済ませた後、水族館で世にも珍しいタコとマグロのナイトフィーバー的なライブパフォーマンスという前衛表現にも程があるシロモノを鑑賞した。なんじゃこりゃ。

 

 なぜか無性にマグロが食べたくなったので、夕食にはちょっと早いけど近くの回転寿司屋に飛び込んだ。

 

「ここの大トロ、結構高いわね」

 

「全部、こだわりの大間産だってさ」

 

 大トロと焙りエンガワ、イカ、タコ、アナゴでしめて千五百円でした。嗚呼。

 

 

 

 

 店を出ると雲行きがだいぶ怪しくなっていた。

 

 まさか降るのか? 

 

 と思っていたら一気に天候が悪化して、バケツの底が抜けたかのような土砂降りになった。

 

 二人して慌てて近くの屋根の下に非難する。

 

「今朝のラジオじゃ一日張れだって言ってたのになぁ。天気予報の嘘付きめ」

 

 どうしよう、コンビニで傘でも買ってこようかと思っていたら、傍らで彼女が手提げ鞄から折り畳み傘を取り出した。

 

「めーちゃん、用意がいいね」

 

「私、この時期の天気予報って信じないの」

 

 流石です、姐御。

 

 いつまでも子分の身が情けなくて、彼女の隙の無さがちょっと嬉しくない。

 

 真の漢に傘なんていらねぇ。どうしてもっていうならしょうがない、入ってやるぜ……って言えるくらいまで男を上げられたらなぁ。

 

 彼女は折り畳み傘を広げてその大きさを確認した後、僕の方を見て、小さく溜息をついた。

 

「ちょっと小さいけど……しょうがないか。入れてあげるわ」

 

「わ~い」

 

「その子供っぽいところ、全然変わらないわね……」

 

 彼女が手を少し高く上げて、僕の上に傘をかざした。その視線が、じっと僕を見る。

 

「……中身は変わらない癖に、背ばっかり大きくなっちゃってさ」

 

 呆れたように笑うその表情に、ちょっとだけむっとする。

 

「中身だってちゃんと成長したさ」

 

 言いながら、彼女の手から傘を取った。彼女の全身が覆われるように傘を差す。

 

「ちょっと、アンタが濡れるじゃない」

 

「自分で言うのもなんだけど、肩幅、結構広いからね。どっちにしろ入りきらないよ」

 

 彼女がちゃんと傘の下に入るよう、身を寄せる。肩と肩が触れた。

 

 そしたら彼女、少しだけ離れてった。ショック。

 

「これじゃ歩きにくいわよ」

 

 彼女はそう言って、半歩だけ後ろに下がって、僕の傘を持った腕の袖を掴んだ。

 

「これなら二人とも傘に入るでしょ」

 

 さっき以上にお互いが近い。ほとんど腕を組んでいるのと変わらない距離だ。

 

 うわ、顔が熱い。耳まで真っ赤になりそうだ。

 

 二人で雨の下を歩きだした。

 

 雨に沈んだ街のなか、掲げた傘に雨だれが音を立て、僕たちを二人きりの小さな世界に閉じ込めた。

 

 触れた彼女の感触と、ほのかな髪の香りに僕の心拍数は跳ね上がる。

 

 胸の鼓動が、一分間に110回の「好き」を叫んでいる。いいや、違う、「愛している」だ。

 

 重なる足音と、触れ合う腕。いつの間にか僕たちの間には沈黙がおり、雨音だけが二人の耳に届いていた。

 

 だけど気まずいものじゃない。ドキドキは収まらないのに、不思議と居心地が良かった。

 

 

 そう。彼女の隣りが、きっと、僕の居場所なんだ。

 

 

 交差点に差し掛かり、赤信号の横断歩道の前で立ち止まった。

 

 この交差点を超えたらもうすぐ駅だ。そしたら、この相合傘もそれでおしまい。

 

 二人の距離はまた元に戻ってしまう。

 

 近くて遠い、二人の距離。

 

 ちょっと、もったいないな。だからせめて、

 

「めーちゃん、大好きだよ」

 

 ぽつりと呟いてみる。

 

 何十回となく口にした言葉。

 

 雨音に隠されるくらい微かなささやきだったけど、

 

「人前で言わないでよ…」

 

 こつんと脇腹を軽く小突かれた。

 

「雨で誰にも聞こえないよ」

 

「…………………」

 

 またしばらく沈黙が降りた。

 

 あちゃ、また怒らせちゃったかな。

 

 そう思ってたら、

 

「……も…………きよ」

 

「ん? なんか言った」

 

「なんにも言ってない」

 

 首を捻って、肩越しに彼女を見た。

 

 彼女は僕から顔を逸らして信号を見ていた。

 

 車道の信号が、青から黄色、赤に変わる。

 

「ほら、こっち青になるわよ」

 

 彼女は急かすようにそう言って、僕を引っ張って前に出ようとした。

 

「メイコ」

 

 僕はその腕を引っ張って、彼女を抱き寄せる。

 

「え?」

 

 傘を前に下げて車道に向ける。

 

 まだ青に変わりきっていない横断歩道を自動車が勢いよく横切っていった。

 

 雨水が跳ね上がり、盾にした傘を打つ。

 

「危ない、轢かれるよ」

 

「…………………」

 

 お、今の僕は恰好良かったかも。

 

 ついでに、俺の方に惹かれるなよ、ぐらい言ってみようかと思ったけどキャラじゃ無いのでやめた。

 

 抱いていた彼女の肩を離す。本当はこのままずっと抱きしめていたいけれど、人前だしね。

 

 だけど、あれ?

 

 彼女は僕の胸にくっついたまま動こうとしなかった。

 

「めーちゃん?」

 

「――えっ、…あ、な、何!?」

 

「信号、青になったよ?」

 

「そ、そう」

 

 彼女は打って変わって僕の胸から離れると、早足で横断歩道を渡りだした。

 

 僕は傘の下から出てしまった彼女を慌てて追いかける。

 

「め、めーちゃん、待ってよ~」

 

「か、カイトが遅いのよ。早く歩きなさい、このバカイトっ」

 

 何とか後ろから彼女を傘に入れる。

 

 でも早足の彼女はすぐに前に出てしまう。

 

 僕はそれを追いかける。

 

 付かず離れず、でもなかなか追いつけない彼女との距離。

 

 僕らの、距離感。

 

 

 

 でも、

 

 

 

 ……私も……好きよ…

 

 

 

 あのとき聴こえた彼女のささやき。

 

 

 あれはきっと、空耳じゃないよね?

 

 

 

 

――了――

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