ボーカロイドソング二次小説集   作:PlusⅨ

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 今回は一気三作! ……をひとまとめにして一作にしました(←おい

 ささくれPさんの「ハロー、プラネット」
 トラボルタPさんの「ココロ」
 れるりりさんの「百年の恋」

 どれも独り残されたアンドロイドの切ない想いを歌った感動曲です。って、説明不要なぐらい有名な曲ばかりですね。
それを三作まとめて小説化しようって言うんだから、身の程知らずにも程がある。

 感動作×3で、これはもう号泣必至の感動作になるに違いない、いや、きっと感動作にしてみせる!
 と、意気込んで書いていたのに……おや、どうしてこうなった(゜∀。)

※注意
「ココロ」が原案に入ってますが、主役はミクさんです。鏡音ツインズは出てきません。
 代わりに、はちゅねみくと、たこルカが登場します。
 間違ってもハッピーエンドにしかなりません。

 以上の注意事項をよく読み、適当にツッコミをいただければ幸いです。


~ハロー、プラネット/ココロ/百年の恋~
百年の孤悲(こい)


 朝が好きだったのは、いつの頃だっただろう。

 

 いつも朝が来るのを待ちきれなくて、夜明けとともにベッドを飛び出していた、あの頃。

 

 窓から差し込んでくる朝の光のなかで、キッチンに立ち、朝食の用意をしながら、あの人が起きてくるのを待ちわびていた、あの頃。

 

 でもある日、あの人がいつまでもベッドから起きてこなかった、あの日から、私は朝が嫌いになった。

 

 呼びかけても、揺すっても、目を覚ましてくれない、あの人。

 

 抱き起こしたその上体は枯れ木のように細くて、枯れた葉のように軽くて、冬の風よりもなお冷たかった。

 

 別れの言葉さえ、聞けなかった。

 

 私の名を呼ぶ声さえ、聞けなくなった。

 

 あの人の声も、言葉も……

 

 私の声も、言葉も……

 

 どちらももう届かない場所に、私たちは別れてしまった。

 

 そんなあの日から、私は朝が嫌いになった。

 

 目が覚めるたびに、苦しくて、辛いのに、でも、そんなことはお構いなしに朝はやってくる。

 

 それでも地球は回っている。

 

 それでも時間は過ぎていく。

 

 あの人を遠い過去に押しやって、私をはるか未来に運んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まぶたの裏に太陽の光を感じ取って、私の意識が、まどろみからゆっくりと引き上げられていく。

 

 うっすらと目を開けると、すぐそばの窓から、朝の太陽が姿を覗かせ、まばゆいばかりの陽光を私の身体に投げかけていた。

 

 私は窓から目をそらし、寝そべったまま首を巡らせ、あたりを見渡した。

 

 その視界に映るのは、無機質なコンクリートに囲まれた、かつては研究所と呼ばれた建物の一室の景色だった。

 

 正直、景色と呼べるほどのものでもない。

 

 動くものも、音を立てるものさえもない静寂のなか、ホコリの粒子だけが太陽の光を浴びて空中を漂っていた。

 

 冷たい床に転がったまま、そんな部屋の様子を眺めていた私の身体に、太陽は容赦なく熱を与えていく。

 

 床に水面のように拡がっていた、私の長い緑色の髪の毛が、私の意思とは無関係に、光と熱を吸収しエネルギーを生成し始めていた。

 

 コンクリートの床と同じくらい冷たかった私の身体にも、熱が蓄えられていく。

 

――このまま……冷たいままでいられればよかったのに……

 

 何も考えず、何も感じず、冷たい無機物のまま、いつまでも眠っていたかった。

 

 そんな感情が湧き上がってくるくらい、私の身体は再加熱されていた。

 

 私は床に名残惜しさを感じながら身を起こし、立ち上がった。

 

 短時間のチャージとはいえ、活動に必要なエネルギーは充分に溜まっているはずなのに、身体がすごく重たく感じる。

 

 この感覚に、私の表層意識とは別の、無意識下に存在するセルフモニタリングシステムが自動的にスキャンを開始した。

 

――モニタリング終了。異常箇所なし。各部全て正常。

 

 当たり前だ。と、私は思う。

 

 重いのは、身体なんかじゃない。

 

 本当に重いのは、私の……心だ。

 

 機械が持つには重すぎる、ココロという名の、プログラムを宿した、アンドロイド。

 

 それが私――ボーカロイド、初音ミクだった。

 

 

 

 

 

 

 いつの頃だったか、遠い遠い昔の話。

 

 あるとき、ある人々が、完璧な人間を作ろうと思い立ちました。

 

 決して老いることなく、決して死ぬこともなく、決して間違えない正しく強い心を持った、完璧な人間を創ろうと思い立ちました。

 

 そんな人間を創る必要があるのか、と疑問に思う人達がいました。

 

 そんな人間なんて創れる筈がない、と疑問に思う人達もいました。

 

 けれど、

 

 そんな人間を創ることが可能なら、創りたいと誰もが思いました。

 

 人々はゆっくりと技術と経験を積み重ね、長い歳月をかけて、完璧な人間を少しずつ創っていきました。

 

 やがて気の遠くなるような歳月の果てに、人々はついに決して老いることなく、決して死なない人間を創ることに成功しました。

 

 けれど、完璧な人間に必要な最後の一つ、決して間違えない正しい心だけは、どうしても創れませんでした。

 

 人々は悩みました。

 

 どうしたら決して間違えない正しい心が創れるだろう?

 

 そもそも、決して間違えない正しい心ってなんだろう?

 

 人々は悩みながら、迷いながら、考えながら、時を重ね続けていくうちに、気がつけばその数を徐々に減らしていきました。

 

 やがて迷い悩み考え続けた果てに、人々はいつの間にか、どこにもいなくなってしまいました。

 

 

 

 

 

 

 

 本当は重くもないのに、重くてたまらない身体を引きずるようにして歩きながら、私は部屋の隅に置いてあった植木鉢を抱え上げた。

 

 黒土が詰められたその植木鉢を抱えて、私は部屋を出る。

 

 研究所の出入り口のすぐ脇に、一本足のポストが据え付けられていた。

 

 私は身体に染み付いた条件反射に従ってその中身を覗き込む。

 

 ポストの中は空っぽだった。

 

 入っているはずがなかった。

 

 送り主などどこにもいない世界で、誰が手紙を送り、届けるというのだろうか。

 

 それでも覗いてしまうのは、意味など当の昔に失った、単なる反射行為でしかなかった。

 

 ため息すら付かずポストから離れた私は、周囲を見渡す。

 

 周囲に広がっていたのは、コンクリートジャングルの成れの果てだった。

 

 傾き、ひび割れ、風化していくビルの数々。

 

 亀裂の走った舗装道路の一画が陥没し、そこに数日前に降った雨水が溜まって池になっていた。

 

 池の脇に植木鉢を起き、私は池の水を手ですくって、一口飲む。

 

 私の味覚が水質をチェックする。特に有害物質は含まれていないようだ。

 

 私は池の脇にいつも置きっぱなしにしているジョウロに水を汲んで、それで植木鉢に水をかけた。

 

 たったこれだけの作業をこなしただけなのに、私はひどい疲労を感じていた。

 

 無意識下のセルフモニタリングシステムは相変わらず絶好調と言わんばかりの信号を送ってくるのに、私はもう立ち続けていることさえできずに、ジョウロをその場に投げ出して、崩れ落ちるように植木鉢のそばに倒れ込んだ。

 

 ひび割れたアスファルトに仰向けに寝転んだ私の上を、青い空に白い雲が能天気に流れていく。

 

 このまま目を閉じてまた眠ってしまおうかなぁ、なんて思ってしまう。

 

 けれど、私の身体に仕込まれたどこまでも無意味に正確な体内時計は、私に睡魔さえ与えずに、私をいつまでもこの無意味な時間の中に漂わせ続ける。

 

 この、命が滅びさった静かな惑星の上で、私はたったひとつ残された命の種を守りながら、生き続けていた。

 

 この植木鉢に植えられた種から、芽が出てくるまで世話をし続ける。

 

 それが、私に残されたたった一つの生きる理由だった。

 

 

 

 

 

 

 

 いつの頃だったか、遠い遠い昔の話。

 

 あるところに、とっても頭の良い一人の青年がいました。

 

 人類始まって以来の天才。

 

 人類最後の希望。

 

 そう呼ばれた青年でした。

 

 人々は、この青年なら、完璧な人間に、決して間違えない正しい心を創ってあげることができるだろう、と考えました。

 

 こうして、決して老いず、決して死なない、けれどまだ心を持っていない完璧な人間は、青年のもとへと預けられました。

 

 青年は決して間違えない正しい心を創るため、その完璧な人間に、ありとあらゆる正しいことを覚えさせました。

 

 そして、少しでも正しくないこと、正しいかどうか分かり難いことは教えませんでした。

 

 でも、そうしたところで決して間違えない正しい心は創れませんでした。

 

 どれだけ正しいことをたくさん覚えさせても、創ることはできませんでした。

 

 そこで、青年は考えました。

 

 正しいことばかり覚えさせてダメなら、逆に正しくないことばかり覚えさせてみようじゃないか、と。

 

 青年は完璧な人間に、正しくないことや、正しいかどうか分かり難いことばかり覚えさせました。

 

 でも、結局、決して間違えない正しい心は創れませんでした。

 

 その代わり、完璧な人間はいつも間違えてばかりの正しくない心を手に入れました。

 

 いつも迷ってばかりで、泣いたり、怒ったりするような心でした。

 

 でも同時に、笑ったり、楽しんだり、歌ったりすることもできる心でした。

 

 それは完璧とは程遠い、せいぜいが人間並みの、不完全な心でした。

 

 青年は失敗しました。

 

 でも、周りの人々は誰も文句を言いませんでした。

 

 文句を言えるほど、人々はもう残ってはいませんでした。

 

 最後に残った頭のいい天才青年は、不完全な心を持った完璧な人間と、誰もいない世界で、二人でのんびり暮らしましたとさ。

 

 めでたし、

 

 めでたし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――いつか、この植木鉢から芽が出てくる時が来る。その時こそ、この世界が再生する時なんだよ」

 

 いつだったか、あの人はそう言って、私にこの植木鉢を預けた。

 

 この荒れ果てた世界の中でも生きていけるように改良された、生命の種だった。

 

――希望の種さ」

 

 そう言って、あの人は笑った。

 

 その笑顔は、いつだって思い出せる。

 

 目を閉じて、メモリーの中を探ればいつだってあの人と過ごした日々を完璧に思い出すことができる。

 

 でも、今はそうしたくなかった。

 

 あの楽しかった日々を思い出せば思い出すほど、私は、自分がもう二度と過去に戻ることが出来ないのだと思い知る。

 

 私はこの先、未来永劫ひとりぼっちなのだと思い知らされてしまう。

 

――いつか芽が出てくる時まで、世話を頼むよ、ミク」

 

 いつ?

 

 いつ芽が出るの?

 

 私はいつまで待てばいいの?

 

 それを教えてくれないまま、あの人は私を残して逝ってしまった。

 

 私に、希望だけを残して。

 

 でも、あれからもう、どれだけの時間が経ったというのだろう。

 

 私の体内時計が、知りたくもない正確な年月を教えてくれる。

 

 百年。

 

 今日でちょうど百年だ。

 

 百年も私は植木鉢に水をやり続けてきたのだ!

 

 その事実を認識した瞬間、私の胸の内にかすかな痛みを感じた。

 

 細く鋭い針で突き刺されたような痛み。

 

 それはすぐに私の胸をどんどん深くえぐり始める。

 

 やめろ!

 

 何も感じるな!

 

 何も考えるな!

 

 私はすぐに百年という時間も、胸の痛みも意識しないようにした。

 

 考えるな!

 

 考えるな!

 

 考えるな!

 

 心の平衡を保つため、必死に現実から目をそらし続ける。

 

 それはひどく矛盾した、しかし何度も繰り返しているうちにすっかり慣れっこになってしまった芸当だった。

 

 私は仰向けになり、白い雲を眺めたまま、自分の心が落ち着くのを待ち続けた。

 

 

 けれど………―――

 

 

 

 ――今度ばかりは、駄目だった。

 

 

 

 

 百年間、何度も目をそらし続けてきた、

 

 胸の痛みが、

 

 時の流れが、

 

 現実が、

 

 ついに飽和点を超えて私に襲い掛かってきた。

 

 胸の痛みが耐え難いまでひどくなる。

 

 ミシリ、と何かが音を立ててひび割れた。

 

「う……あ……!」

 

 ひび割れた何かから、抑え難い何かが溢れ出す。

 

「あ…あぅ……うぁぁ」

 

 いちど溢れ始めた何かは、とどまることなく私の内側を侵食し、ぼろぼろにつき崩していく。

 

「ああああああ……!!」

 

 苦しいよ!

 

 切ないよ!

 

「あうっ…ひぐぅ……っ!!」

 

 辛いよ!

 

 寂しいよ!

 

「うぁぁぁあああぁぁあ!!!」

 

 会いたいよ!

 

 逢いたいよ!

 

 あなたに、逢いたいよ!

 

 あなたが、恋しいよ!

 

 恋しくて!

 

 恋しくて!

 

 孤独の悲しみに溺れてしまいそうだよ……!

 

 

 

 ああ、なんて耐え難いまでの――

 

 

 

 ――百年の孤悲。

 

 

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