ボーカロイドソング二次小説集   作:PlusⅨ

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 VOCALOIDイメージ小説9作目は、すこっぷPさんの「ドミノ倒シ」を小説化してみました。

 ジャジーな曲調に嫉妬心ドロドロな歌詞が歌いこまれていて、いやぁ、こういう曲って……大好物です。はい(*´∀`*)

……今回の作品、割と実話が基だったりします(;´∀`)


~ドミノ倒シ~
再会


 ガタン、ゴトンと揺れる夕方のラッシュアワー。

 

 ガタン、と電車がひとつ揺れるたびに、車両の中にすし詰めになった乗客たちも揺さぶられ、ゴトンと揺れるたびに、人垣の波に私は肩を押され、となりの少年に身体を押し付けてしまった。

 

「大丈夫?」

 

「う…うん。だって、君が守ってくれたから……」

 

 ってな甘酸っぱいやりとりを交わしているのは、私じゃなく、隣の少年少女のカップルだ。

 

 私はといえば、その少年を背中を押す側になってしまっている。

 

 少年が乗降口そばの少女をかばって、両腕と両足に力を込めて背中を押す私の体重を受け止めている姿が、痛々しくも実に健気だ。

 

 自分のためにここまでやってくれる少年が目の前にいたら、そりゃ惚れるのも無理はないわなぁ。

 

 で、その惚れてると思われる少女が、少年の肩ごしに、その背中を押す私を非難がましい目で見ていた。

 

 もう、そんな目で見ないでよ。私だって好きで押してるわけじゃないんだからね。

 

 またガタンと電車が揺れて、またゴトンと私は人波に流され少年の背中を押した。

 

 ……これじゃあ、私ばっかり悪役だわ。

 

 電車が駅に停車し、乗車口が開く。

 

 私は人波の圧力に抗いきれず、降りたい駅でもないのにホームへと押し流された。

 

 私が再び乗り込もうとするよりも先に新しい乗客がドッと押し寄せ、電車はあっという間に超満員に戻ってしまう。

 

 あ~あ、なんだかなぁ、もう。

 

 私は乗車する気も失せ、走り去っていく電車を見送った。

 

 そのままホームへ目を移すと、さっきの少年少女のカップルが、手をつなぎ合いながら改札へ向かっていくのが見えた。

 

 あ~あ、本当に、なんだかなぁ、もう。

 

 ああいうのを見ると複雑な思いになる。

 

 自分と相手しか見えていない、二人の世界。

 

 あの少女が私に向けた非難がましい視線を「若いっていいわねぇ~」なんて言葉で流せるほど、私は歳食っちゃいないし、かと言って、あの若い二人の恋に特別共感して応援してやるほど、恋に夢見るような歳でもない。

 

 言っとくけど、若いうちの恋なんて長続きしないものなんだからね。

 

 まして初恋なんて、あっという間に破れちゃうんだから。

 

 心うちでカップルの背中に毒づきながら、私も改札を通り抜けた。

 

 本当はここで降りる駅ではないんだけど、今日はなんだかムシャクシャするので、ここら辺で飲んでから帰ろうと決めた。

 

 ホームを出ると、見慣れない街並みの、見慣れない繁華街が広がっていた。

 

 狭い通りに、ごちゃごちゃと店と人間が溢れかえっている。

 

 駅前に伸びる歩道の一部は自転車置き場になっていて、大量の自転車が隙間なくびっちりと並べられていた。

 

 人ごみのせいもあって、自転車に占められた歩道は非常に歩きづらい。

 

 私は何度か自転車に躓きそうになって、むしゃくしゃしているせいもあって思わず自転車を蹴り倒してしまいたくなったけど、ちょうどすぐ近くに交番なんかがあって、そこでお巡りさんが怖い目をして通りを見ているので、私は肩を狭めてこそこそとその前を通りすぎた。

 

 そこからすぐ先に、派手な看板が軒を連ねる通りがあった。

 

 私はそこを覗き込み、大量の看板の中に、ホストクラブらしきものがいくつか並んでいるのを見つけた。

 

「んっふふふ……」

 

 私は友人からよく「淑女の笑い」と言われる笑みを浮かべながら、財布の中身と預金通帳の中身を思い浮かべた。

 

 うん、二~三日ふりかけご飯で我慢するなら、今夜もホストクラブの一件ぐらい回れるわね。

 

 たまには新しい街で、新しい店を開拓するのも悪くないものよ。

 

 私は自転車が並ぶ狭っ苦しい道を、駅に向かって引き返し、そこにあるATMでお金を引き落した。

 

 増えた財布の中身と、減った預金通帳の数字にドキドキしながら、ATMから離れようと振り返る。

 

「え……もしかして、ミク?」

 

「はい?」

 

 私の後ろで順番待ちをしていたらしい女性が、振り返った私を見て、驚きに目を丸くしていた。

 

「え…と、どちらさま――って」

 

 誰だっけ、この女性?

 

 と、少し迷ったけれど、すぐに記憶の歯車が噛み合わさった。

 

「め、メイコ先輩!?」

 

「そうよ。よかった、やっぱりミクだったのね」

 

 そう言って、ショートカットに地味目な服装の彼女は、化粧っけの薄いその顔に笑みを浮かべた。

 

 メイコさんは、私の高校時代の先輩だった。

 

 部活の先輩でもあって、さっぱりした気持ちのいい性格で、面倒見もよくて、それでいて十代の頃から大人っぽくて、みんなから尊敬され、憧れられていた先輩だった。

 

 私だって、一時期は憧れていた。

 

 そう、一時期だけ。

 

 メイコ先輩が部活を引退する二~三ヶ月ぐらい前だったか、ある出来事があって、それ以来、私の中での彼女の評価はだいぶ変わってしまった。

 

 ま、ある出来事と言っても、そんなに大した話でもないけれど。

 

 当時、私には片思いしている相手がいた。

 

 同じ高校の、同じ部活の男の先輩。私は、その先輩に思い切って告白して、そして見事にフラれてしまったっていう、それだけの話。

 

「ごめん。俺、好きな人がいるんだ」

 

 付け入る隙のない断り文句の常套句に一刀両断されて、その日、私はべそべそと泣き続けた。

 

 その時、私に寄り添って励ましてくれたのがメイコ先輩だった。

 

 親しく、親身に、親切に、これでもかって言うくらい、メイコ先輩は私を慰め、励まし、面倒を見てくれた。

 

「元気出しなさいよ、ミク。アイツの他にいい男なんていっぱいいるわよ。っていうか、なんでアイツなの? イケメンなのは認めるけど、ほかに取り柄って言ったらアイスの早食いぐらいしか思いつかないような奴じゃない」

 

「そう言われりゃ、そうですよね~」

 

「でしょう?」

 

 そうやって二人で相手を無理やりこき下ろして、メイコ先輩は、私を失恋の痛手から立ち直らせようとしてくれた。

 

 まぁ、そこまでなら良かったんだろうけど。

 

 後日、例の先輩が好きな人っていうのが、こともあろうかメイコ先輩その人で、んで、私の告白で自分の気持ちに踏ん切りがついちゃったのか、大勢の人間が見ている前で、

 

「めーちゃぁぁん、好きだァッ。付き合ってください!!」

 

 と、実に男らしい告白をしやがった。

 

 その派手な告白と、それにうろたえ真っ赤になりながら、

 

「……は、はい…」

 

 と、小さく頷いたメイコ先輩の可愛さは、いまだに母校で語り草になっているそうな。

 

 けれど、校内一の有名カップルになった先輩たちを見る私の目は、すっかりひねくれてしまった。

 

 そりゃないよ、先輩方。これじゃ私の恋は、まるでピエロじゃないの。

 

 おかげで無理やり捨てようとしていた先輩への恋心はあっさりと消え去り、そしてメイコ先輩への憧れまでも、あっさりと傾いてしまった。

 

 本当にもう、あっさりと。

 

 それはまるで、ドミノ倒しで牌がパタパタと倒れていくみたいに、あっさりとした傾き方だった。

 

 そんでもって、あれから十年近く経った、現在。

 

 

 

 

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