リンの姿を見つけた瞬間、ざわめいていた周囲の音が、急に静まり返ったような気がした。
リンは俺にまだ気がついていない。会場の、花火が上がる方向を見つめている。
その顔が、どことなく不思議な光に照らされているように見えた。
俺は、彼女のそんな横顔に目を奪われながら、その名を呼んだ。
「り――」
――ドンっ!!
という爆発音と、続いて上がった歓声に、俺の声はかき消された。
夜空に、花火が舞っていた。
空に咲いた大輪の花は、地上で喧騒する人々の目を吸い寄せ、静寂になったその顔を色とりどりの光で照らし上げる。
そして一拍おいて、心揺さぶる雷鳴の如き大音響がこの身を震わせた。
――ドンっ!!
「リン」
音にかき消されないよう、一呼吸おいて俺は彼女を呼ぶ。
「レン?」
彼女が、やっと俺の存在に気がつき、嬉しそうに笑った。
「遅かったね、レン。ずっと、待ってたんだよ」
待ってないだろ。と突っ込もうとしたけれど、花火に照らし出された彼女の笑顔が眩しくて、そんなことはどうでも良くなった。
いいさ。
待ってなくても、追いつこうって心に決めていたんだから。
「なぁ、リン」
「なに、レン?」
やっと追いついた。
だから、今度はその横に並ぶために、俺は今度こそはっきり言うよ。
「俺……お前のことが……」
「うん」
夜空に花が開き、地上が虹色に輝く。
そのなかに佇む彼女に、俺は、告げる。
「好きだ」
――ドンっ!
激しく震える空気の波に、俺の声はかき消された。
「レン、もういちど言って」
リンが真顔で聞き返してくる。
やっぱり届いてなかったんだ。
萎えそうになる俺の心を奮い立たせるように、立て続けに空に花火が舞い上がった。
それは夜空を焦がすスターマイン。
「リン、好きだ!」
――ドンっ!
俺は何度だって言う。
届くまで言い続ける。
「好きだ好きだ好きだ好きだ好きだぁー!!」
会場を震わせるスターマインの爆音に負けないように、打ち上がれ、俺の恋花火。
「大好きだァー!!」
「…………」
いつの間にかスターマインは終わって、会場には静けさが戻っていた。その中を、俺の恋花火の残響がわたっていく。
気づけば、みんなが俺を見ていた。
だけど、俺はリンだけを見ていた。
リンも、俺を見ていた。
「…………」
俺を見ているリンの顔は、いままで一度も見たことのない、切なげな表情をしていた。
「………」
なぁ、リン、なんでそんなに泣きそうな顔してるんだ。
俺のこと、迷惑だったのか。
「………」
迷惑だったら、謝るよ。
傷つけたのなら、どんなことをしてでも償うよ。
だけど、どうしてもこの想いだけは、どうしても伝えたかったんだ。
「………」
リンの瞳から涙がこぼれ落ちた。
ああ、泣かせちまった。
俺が泣かせちまった。
でも、リン、どうしてだよ。
どうしてお前は――
「……レン」
――どうして、泣いているのに、笑ってるんだ?
「嬉しいよ、レン……」
夜空に、一筋の光が駆け上がっていく。
高く、高く、どこまでも高く。
その光は不意に夜空の暗闇溶け込み、次の瞬間、音もなく夜空一面を埋め尽くすほどの花が咲いた。
「レン、私も、だいす――」
彼女の言葉が、一際大きな花火の音にかき消された。
だけど、俺にはちゃんと届いた。
ちゃんと聞こえていた。
それなのに、ああ、もういちど聞きたくて堪らない。
「リン、もういちど言ってくれ!」
彼女が目元から涙をこぼしながら、輝くような笑顔を浮かべた。
俺の目の前に、夜空よりも美しい、大輪の恋花火が咲き誇った。
――了――
あとがき
ある日、街で偶然、友達と遊ぶリンちゃんを見かけたけれど、リンちゃんはこっちに気がついているのにぷいっと無視されて、ええっΣ( ̄ロ ̄lll)ってなって寂しく家に帰ったあと、何気なくケータイ見てたらリンちゃんから《今日はごめんね。みんなには君と付き合ってること内緒だったから》ってメールもらって、ひとりニヤニヤしたい――
――っていう夢を最近見ました。
こういうのを専門用語で「どこに出しても恥ずかしい立派なリン廃」というそうです。
……えっと、これなんの曲の小説だったけ?